limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

life 人生雑記帳 - 19

2019年04月29日 18時13分29秒 | 日記
翌日の朝のホームルーム後、「うぬ!またしてもか!しかも、西岡を“脅迫”して引き込むとは!アイツの性根はとことん腐り切っておるらしいな!Y、どこで気付いた?」中島先生の顔が見る間に憤怒の表情に変わる。「有賀から手紙を見せられた時です。筆跡で気付きました。そこから推理を組み立てて、辿り着いた次第です!」僕はあくまでも冷静に言った。「それで、ばら撒かれた手紙はどの程度回収した?」「全部で26通です。本来、倍はあった推察しますが、当事者が処分した分は推計出来ませんので、正確な数量の把握は出来ませんでした」「西岡は誰が説得した?」「笠原と小川の両名です。“罪状は問わない”と言って聞き出しました。黒幕からの手紙もその際に押収した物です」「女子に聞かせて、しかも“罪状は問わない”との殺し文句か!Y、策を考えたのはお前だな?危ない橋を渡りおって!だが、そのお陰で事実が白日の下に曝された。3期生を利用して“撹乱”を仕掛け、その隙を縫って勢力を拡大させる戦術か。万が一の場合は、西岡が一身に背負う構図だったのだろう。どこまでも抜け目の無い策を組んだつもりが、お前に看破されるとは菊地も考えてはおらんだろう。西岡の件を知っているのは、山岡と笠原と小川にお前だけだな?」「はい、概要はまだ秘してあります。大枠を知り得ているのは、私を含む15名程に過ぎません」「相変わらず手回しがいい。水面下で動いて大半の連中は知り得ていない。そちらは及第点だな。少し待て」と言うと先生は受話器を手に内線で話始めた。「はい、ではこれから」と言って内線を切ると先生は「Y、これから校長室へ同行しろ!事の次第をお前からも聴取したいそうだ!」「えっ!しかし、授業が始まりますが・・・」と言うと「心配は無用だ。校長が自らお前を指名したんだ!他に文句は言わせん。では、これから向かうぞ!付いて来い!」どう言う風の吹き回しか?は分からないが、僕は校長室へと連行される事になった。宮澤校長の前に立つのはこれが初めてである。しかも校長室で直接の接見だ。校長が何を意図しているのか?それはどう考えても思いつかなかった。校長室へ入ると、宮沢校長はデスクの前に進み出る様に手招きをして、中島先生から事の次第を聞き始めた。時折僕が補足説明をして、大枠の説明は終わった。校長は手紙に眼を落としながら終始頷いていた。「Y君、君は今回の処分をどうすべきだと思うかね?遠慮はいらん。君が思う通りに言いたまえ」と処分の中身をいきなり問われた。腹案は考えていたが、果たして通るのか?一か八かの賭けにでるしか無かった。「では、遠慮なく言わせていただきます。菊地は“無期限の停学”に。西岡は“始末書”の提出と1週間の自宅謹慎を執行猶予で」僕は思うところを言った。「何故“執行猶予”を付ける?」校長は切り返して来る。「菊地の“思惑”を外すためです。彼女は恐らく西岡にも重い処分がなされると読んでいるはずです。そこへ接近して“徒党”を組む事を画策するでしょう。相手の意図が見え隠れする以上、そこへ乗るのは得策ではありません。それに、西岡もある意味“被害者”でもあります。情状酌量の余地は認めるべきだと私は考えます」僕は臆する事なく言い切った。「中島先生、君の意見は?」校長は先生にも意見を求めた。「私個人としては、今、Yが言った意見に賛成です。しかし、一職員としては“執行猶予”は認めるべきでは無いと考えます」先生は職員としての見解も示した。「ふむ、どちらも一理あるな。Y君、君は生まれてくるのが遅すぎた。もう10年早く生まれていれば、3期生の担任を任せられたかも知れないな。君の内申書を見た時の衝撃は今でも忘れられない。記入欄から続く事5ページ。添付文書にびっしりと君の“業績”が記載されていた。あれだけの記入は、過去にも私が知る限り例が無い。そして今日、君から直接意見を聴取して改めて思ったよ。“最高の秘書官”と言う表現に偽りはなかった。処分については職員会議にもかけなくてはならんが、大筋で君の意見を尊重しようと思う。中島先生、彼の見識は高いし間違ってはおらんな。だから、今回の件も看破したのだろう。唯一残念なのは“生徒”である事だ。私の秘書官にしたいくらいだよ。Y君、中島先生とクラス並びに2期生を頼む。2期生が礎を更に確かなものに出来るように努力しなさい!」「はい!確かにお引き受けしました!」僕は深々と礼をした。「下がって宜しい。これを教科担任に渡しなさい。授業に遅れても咎めは受けなくて済む」校長は“遅延理由書”と書かれた紙を手渡してくれた。「失礼しました!」と言って校長室を出るとドッと疲れが襲い掛かって来た。中島先生と校長はまだ何かを協議している様だった。僕はとにかく教室へと戻った。授業には半分遅れでの到着となったが、先生からの咎めは無かった。

1時間目の授業は半ば分からずに終わった。「さち、悪いけどいの授業のノート写させて!」「それはいいけど、Y、授業さぼって何処に行ってたのよ?」と聞かれる。「後で説明するよ。とにかく何をやったのか全く分からない。写しておかなくては差し障りがデカイ」僕は必死にノートを写しにかかった。「参謀長、忙しいのは分かるが、首尾はどうだったのだ?」長官と千里と千秋が押し掛けて来る。「職員会議の結果待ちですよ。こちらの思惑は伝えてありますから、校長が乗るか否かですね」と顔を上げずに言う。こっちはそれどころでは無かった。「まさかとは思うが、校長と“直接交渉”に及んだと言うのか?」長官が期待を込めて言って来る。「ええ、やるだけはやって来ました。腹の内は読めませんが、恐らく悪い方向には行かないでしょう」「だとすると、昼若しくは放課後には結果が出るのだな?“執行猶予”の有無は?」尚も長官は切り込んで来る。「長官、気になるのは分かりますが、ノートを取らせて下さい!こっちも大事なんですよ!」僕は憤然と言い返した。「ああ、済まない。どうしても結果が気になって仕方が無いのだ。千里も千秋も同じだ。後1つだけ答えてくれ。“執行猶予”の件は提起したのか?」「無論、言ってありますよ!すみませんがノートを取らせて下さい!」僕は3人を追い出しにかかる。「長官、お邪魔するは止めましょう。参謀長の学ぶ権利を奪う事は出来ないでしょう?」千里が僕の剣幕を見て引きにかかる。「大変済まぬが、もう1つだけ答えてくれ。黒幕の処分はどう進言した?」長官は尚も粘ろうとする。「長官!ノートを取らせて下さい!!僕にも学習する権利はあるはずですよね?!」さすがに僕も切れた。「長官!もういいでしょう?最善の策は取ってくれたんです。ひとまず引き上げましょうよ。参謀長だって学生なんですから」と千秋が粘る長官を連行して行った。「やれやれ、こっちにだって授業を受ける権利はあるんだ!あれやこれやとほじくり返すのは後にしろってんだ!」僕はむかっ腹を立てていた。「あれは無いでしょ?!如何に気になるからって言っても学習の邪魔をするのは“本分を忘れた”としか思えないわ!」と堀ちゃんも憤然として言う。「Y、落ち着け。次は地理の時間。遅れを取り返す余裕はある!」さちがみんなのノートを差し出しながら言う。「ありがとう。ならば、最初から順を追って見返すとするか!」さちの言葉でようやく僕は我に返れた。

昼休みに入ると、僕は弁当箱を持って生物準備室へ逃げ込んだ。「Y君どうしたのよ?」明美先生が何事かと聞いて来る。「煩い連中にたかられてましてね。緊急避難ってとこですよ」思わずボヤキが口を突いて出る。「山岡と笠原と小川か?確かに煩い連中だな。Y、校長が押し切ったぞ!公式発表は明日になるが、大筋でお前の言い分が通った。“執行猶予”も含めてな!校長は“生徒にして置くのが実に惜しい”と言っておった。安心しろ!後始末は我々の領域だ。お前達も個々に始末にかかればいい!」中島先生が緊急職員会議の内容を話してくれた。「そうですか。まさか僕の言い分が通るとは意外です」「意外では無いぞ!妥当な線だ。西岡を救済する手はワシも思案していた。処分は免れんが“執行猶予”を付けて反省を促すとは“傷を付けずに矛を収めさせる”には最善の策だろう。お前の真骨頂が実を結んだ訳だからな。ワシも面目を保てたし、西岡も後ろ暗い事を気にせずに済む。Y、西岡の今後の身の振り方を頼んだぞ!既に策は浮かんでいるはずだろう?」「はい、大きな手術にはなりますが、傷を残さずに片付けるつもりです」僕はある程度の目算を立てていた。ドアがノックされ長官が押し掛けて来た。「山岡、ノーコメントだ!明日の公式発表を待て!」先生が釘を刺す。「そこを何とかしていただけませんか?クラスにとっても一大事。今後の策も勘案せねばなりません!」長官は粘り出した。「これは、校長の判断だ。Yも本件の処分決定の関係者であるから“箝口令”を申し渡してある。済まんが明日まで待ってくれ」と言われて長官は肩を落とした。「参謀長、どうしてもダメなのか?」「校長の命ですからね。違背は許されません。明日まで待って下さい」僕は諭す様に返した。「具体的な事が分からねば今後の道筋も付けられん。頼む!口外は控えるから少しだけ聞かせてくれぬか?」「山岡、ノーコメントだ!泣き落としには乗らんぞ!」先生が追い打ちを掛ける。「事は校長の手の内に乗った。お前達の手の内には既にない。1つだけ言って置くが、お前達なりに始末にかかれ!3期生との融和の促進。2期生内の動揺の終息。これだけでも結構な仕事だ。今から至急手を回せ。菊地と西岡の件は、明日になれば公表するし、見解も示す。その前にすべき仕事にかかれ!」長官の表情が少し変わった。「分かりました。そちらはお任せ下さい。参謀長、明日は“事情聴取”に応じてくれよ!」と言うと長官は引き上げた。「確かに煩いな。アイツらを巻くのは容易ではない」先生もゲンナリとしていた。僕はアールグレーを飲み干した。

翌朝、昇降口近くの掲示板に、予告通り関係者の処分内容と学校側の“見解”が貼りだされていた。
“1年6組 菊地美夏。右の者、無期限の停学処分を科す。”“5月より復学予定であったが、学生の本分を見失い過ちを繰り返したため、再度の無期限停学処分を科すものである。学生の本分は勉学に励み、友情と団結を育み、有意義な学生生活を送る事にある。右の物は、これら全てに違背したため今回の処分を科すものである。学校長 宮沢〇〇”
西岡さんの件は、貼り出されていなかった。どうやら、本人に直接通知して公にはせず、反省を促し後顧の憂いを拡散させない判断らしかった。「Y、また“無期限停学”だけどさ、どうして“退学”にしないのよ?」道子が聞いて来た。「“退学”にしない理由か?“学籍”を残すためさ。迂闊に“退学”にでもすれば、街宣活動に手を染めかねないし、こちらから文句も言えなくなる。その点、“無期限停学”なら籍は残っているから、学校側としても文句も言えるし活動を制限する事も出来る。前にも言ったけど“無期限”だから下手な話5年でも10年でも“停学”のまま。自分から言い出さない限りは、“退学”にせずに閉じ込める。真綿で首を絞める様にジワジワと効いて来るから、返ってダメージは大きくなる」「そう言う話か。3期生としての“復学”の芽も消えたのかな?」「多分、そうだろうな。今度ばかりは“付け焼刃”で誤魔化せないし、何を言っても学校側が折れる要素は無くなった。4期生としての“復学”の芽も消えただろうよ」「参謀長、西岡さんの件はどうなったのだ?!何も公表されておらん!約定を違えるつもりか!」長官が憤怒の表情を露わにしていた。「公にしない理由を考えて下さい!何のための“執行猶予”です?ここで公にすれば、彼女は常に後ろ暗い生活を送るハメになるじゃありませんか!校長の配慮ですよ。“反省を促して今後の学生生活に影響が及ばぬ様に配慮する”彼女もある意味に措いては“犠牲者”なんですから、傷口に塩を塗り込む様な真似をするはずがありません!」「うぬ、そこまで読んでの判断か!昨日、校長とやり取りしたのはそれか?」「2人の処分内容を直接問われましたよ。菊地はご覧通り“無期限停学”ですが、西岡さんについては、“始末書の提出と執行猶予付きの1~2週間の自宅謹慎”と答えてあります。大筋で校長も合意しましたから、西岡さんについては担任からの通知に留める方向でしょう。そうしないと、残りの時間を全て失いかねませんから」「うむ、上出来だ!これで後顧の憂いは無くなったな。菊地が戻る道は崩落したも同然。我々が去っても彼女は影響力を行使できないばかりか閉門同然の身だ。我々は安心して元の生活に戻れる。参謀長、ご苦労だったな。校長とのやり取りは厳しかったろう?だが、何とか乗り切った。K査問委員会でもいい報告が上げられそうだ!」長官が握手を求めた。僕等は固く手を握り合った。「長官、今後の方策ですが、旧菊地グループに対する風当たりを弱めるためにも、“完全解体”を進めなくてなりません。特に西岡さんをどう遇するか?目下の課題はそこにありませんか?」「それが最も頭の痛いところじゃ。参謀長、腹案は?」「西岡さんは今井さんのグループに転属させましょう。他の人員もバラバラにして所属先を変えて分散させれば、目立たなくなりますし、風当たりも弱まると思いますが、大手術になるのが課題です。誰に“執刀”させます?」「この手の手術の執刀医は千秋しかおらん。確かに難しい術だが、成功すれば我々は更に揺るがぬ体制を手に出来る。参謀長が西岡さんを引き取ってくれるなら、千秋も存分に腕を振るえるだろう。方向性はその線で決まりだな。西岡さんの任務は“K情報”だろう?」「ええ、対外的な総合情報担当として任に当たらせるつもりです。特に左側、原田の懐を探るには格好の人材かと」「他の旧メンバーにもその任に付かせようじゃないか!我々の最も弱い部分を補強しつつ体制を改めるにはそれしかない」「では、本件もK査問委員会に提案しますよ。今日は忙しくなりそうですね!」「嵐は過ぎ去った。後片づけも容易ではないが、今まで以上に我々も強くなるだろう」こうして、年初の大問題は幕を閉じた。菊地嬢は“閉門同然”となり、完全に封じ込められたのだ。

それから2週間後、久しぶりに“大根坂”の登頂に成功した僕は、昇降口の水道で顔を洗い直していた。「今年度の初登頂に成功か。まずは幸先がいい」と息を整えるべく座り込んだ。「Y-、ご苦労、そしておはようー!」中島ちゃん達7名がやって来た。「参謀長、ポカリです」石川がボトルを差し出す。「済まん。どうやら馴染んできた様だな」他の6名がニヤける。石川も加わった事で朝と夕方の登下校風景も変わって来た。中島ちゃんが最も変わった1人だろう。あれ程怖がっていた石川と、肩を並べて歩く姿が自然になっていた。徐々にではあるが、2人の距離は縮まりつつある。これは好ましい傾向だった。僕達2期生が年初の“大事件”をどうにか乗り切って、3期生とも徐々に交流を深める事に成功したのは、ここ1週間くらいからである。石川も中島ちゃんと堀ちゃんの“護衛”を買って出るほどだった。僕等は彼に信頼を置く様になっていた。昇降口で左右に別れると「昼までのお別れだね!」と堀ちゃんが中島ちゃんに言う。「アイツ、ちゃんとやってるのかな?」彼女は何度も東校舎を振返る。「ブルブル震えてたのはもう昔か?」と僕が問うと「うん、何か自分が恥ずかしい。アイツ、段々とYに似て来た気がする」と返して来る。「僕はまだまだ追い越された意識は無いが、いずれ彼も追いついて来るだろう。簡単には抜かされるつもりは無いけどさ」と教室の机に鞄を置くと窓辺に立つ。「そりゃそうよ。Yの境地に立つとしたら10年は早いよ!」と言うと中島ちゃんは背中から僕の胸元へ滑り込んで来る。「あー、また取られた!1分後に交代だよ!」と堀ちゃんがむくれる。さちは僕のネックレスを外すと新たなペンダントを付け加える。「あたしの鈴をこれからも増やすぞ!」と言ってネックレスを戻した。小さなペンダントは3つになった。「さち、チェーンが切れそうだよ!そろそろ買い替えなきゃならない」とぼやくと「もっとしっかりとしたヤツを買え!ダブルにすればなお宜しい」と言ってチェーンを増やせとせがむ。「絡まったら始末に負えん。太めのロングを探すのが大変だが考えて置くか?」と言うと「あたしが探して見るよ。ちょっと長さを測らせて!」と言うと雪枝が目の前にやって来る。「雪枝!今度はあたしの番だよ!早くして!」と堀ちゃんが眼を吊り上げる。「はい、はい、ちょっと待ってねー」と雪枝がネックレスを外しにかかる。「相変わらず良く続くものだわ。Yを好き放題にして遊んでられる時間がこのまま続けばいいけど」と道子が少し離れた場所から見つつ言う。「今度こそ、平和が訪れるぜ!それは間違いねぇ!」竹ちゃんが確信を込めて言う。クラスの女子の“再編手術”は千秋が大ナタを振るって断行した。今は旧菊地グループについてあれこれと言う者も居なくなった。「中島先輩!」石川が息を切らせてやって来る。「アンタどうしたのよ?」中島ちゃんが廊下に出た。2人はノートを見ながら何やら言い合っている。「Y、ちょっとお願い」僕に中島ちゃんが声をかける。堀ちゃんとくっ付いたまま廊下へ出ると「平城京と平安京の間にあった都の跡はどこだっけ?」と言うので「長岡京だよ。最も完成前に遺棄されてるが」と答えると「これより前は、藤原京ですよね?もっと前は転々と変わってますが」と石川が言うので「藤原京以前は、あっちこっちに移転ばかりだったからな。年代を追って覚えてくしか無いぞ。要所を押さえて置けばテストで失点しなくて済む」とアドバイスをしてやる。「Y、真理ちゃんが呼んでるよー!」雪枝が飛んでくる。「おー、直ぐに行く。石川、悪いが後は堀ちゃん達に聞いてくれ」と言うと教室の教壇前へ急ぐ。真理子さんからも世界史の質問が飛んで来た。西岡さんも居る。「フビライの日本遠征の第一陣は、高麗に造船を命じた船が主力ですよ。第二陣は旧南宋と高麗の部隊の混成軍。いずれも失敗してますが、フビライは後に第三陣の派遣も検討はしてますね」と説明にかかる。「Yがこう言う忙しさの中に居るとホッとする。本来はこう言う場面でこそアイツの真骨頂は出る。あたし達の役目は“Yを戦いの場へ送らない事”かもね」道子がしみじみと言う。「そうだな、この雰囲気を壊さねぇようにしなくちゃ!参謀長としての任務は“お預け”にしてやらねぇと」竹ちゃんが道子に返す。間もなくホームルームの時間だ。時がゆっくりと流れているかのようだった。

その日の放課後、僕の元へ石川が尋ねて来た。表情がキリリと引き締まっていて、重大な決意を持って来たのは間違いないと即座に察しがついた。僕はさちに声をかけて「生物準備室に居る」と告げて彼を招き入れた。「参謀長!是が非でもお願いしたい事があります!」石川が決死の形相で訴えに来た。大体の想像は察しが付いたが「どうした?」とトボケて見る。「僕は、やはり中島先輩と付き合いたいです!何卒ご許可をお願いします!」と言うと頭を下げた。「竹内と同じ事を言うな。それは、中島本人に言うべきセリフだろう?何故、私に許可を求める?」僕はトボケ続けた。「竹内先輩から聞きました。¨まず、参謀長の許可を取れ!¨と。中島先輩の¨保護者¨である参謀長の許可が無ければダメだとお聞きました。そうでなくては、¨かっさらってはならん!¨と。どうかご許可をお願いします!」「うーん、竹ちゃんも余計な事を教えるな。まず、言って置くが、当人同士が認め合うなら、私は基本的に¨干渉はしない¨し任務さえ認めるなら許可云々も無い。恋愛に関しては、私は口出ししない事にしている。中島が¨線を引いたら¨それを踏み越える真似はしないよ。だが、石川よ。中島の気持ちをどうするつもりだ?そして、お前さんの心は揺るがないのか?中島の心の内は複雑だぞ!」「それは分かっています。簡単な事では無い事も。でも、僕は中島先輩しか考えられません!共に歩んで行きたいんです!」石川の心は定まった様だった。「石川、昨年の内に彼女は¨大きく変わった¨新たに羽化した蝶の様にな。彼女のノートを見て何を感じた?」僕は相変わらずトボケまくる。「文字が変わりました。それにノートの取り方も独特に変化してます。参謀長、先輩に何があったんです?」「中島は、僕のノートを見て¨文字の書き方¨を大きく変えた。今では¨自己のスタイル¨を確立した。取り方はみんなのやり方を参考に変化させた。約10ヶ月かけて地道な努力を積み重ねたのだよ。外見は変わらないが、内面は180度の大転換を成し遂げた。昔の中島はもう居ないのだ。彼女は言っていた。¨あたしと石川では釣り合わない¨とな。クラスの中にも3期生全体からも¨声がかかる¨程の眉目秀麗なお前さんが何故彼女を選んだ?」僕は逆に聞き返した。「先輩はシャイで人見知りもありますが、誰より負けない¨努力¨を積み重ねて居ました。“努力は人を裏切らない”。僕が常々中島先輩から言われた言葉です。どんな逆境にあっても常に前を見て、人一倍の努力を積み重ねる。そんな人柄に僕は惹かれました。外見は関係ありません!要は“人として尊敬できるか”じゃありませんか?参謀長もそうですよね?先の“事件”での筆跡鑑定の結果を“何の迷いもなく中島先輩に任せて、結果についても一切疑いを持たなかった”。中島先輩を心から信頼している何よりの証拠ですよね?」と石川は切り返して来た。やはり、タダ者では無い。「そうだ。あらゆる文字や下足跡(ゲソこん)の鑑定に措いて、彼女の右に出る者は居ない。だから、私も全幅の信頼を置いている。お前さんの言う通り、彼女の努力が結実した結果“誰も届かない境地”に立ったのだ。中島は自らの居場所を見いだし、生きがいを得たのだよ。外見は関係無い。心から信頼が置けるか?人としての思いやりがあるか?それを私も判断基準としている。そして、石川、お前さんもそうだが“心から信を置けるか?”“思いやりの心はあるか?”の判断基準は満たしておる。まだ、成長の余地はあるが、中島を思う気持ちに揺るぎは無いだろう?どんなに見た目が綺麗でも“中身が無ければただの飾り”にしかならない。中島を選んだお前さんなら、これ以上話さなくても分かるだろう?ただ、本人の意思を尊重する事だけは忘れんでくれ!」僕は“許可する”とは敢えて言わなかった。石川の気持ちに揺らぎが無いならば、僕は干渉するのは避けたかったし、中島ちゃんの“意向”を尊重したかった。多分、返事は決まっているはず。それならば、当人達に委ねるのが筋だった。「では、参謀長、僕は中島先輩に聞きに行きます!ただし、先輩の意思は尊重します。宜しいですか?」「宜しいも何も、本人から聞け!まずはお前さんの正直な気持ちをぶつけてな!」僕は石川の背を思いっ切り叩いた。“行け!男らしく颯爽と!”眼で合図すると、石川は軽く頷いて部屋を出て行った。しばらくの沈黙の後に「やれやれ、手のかかる連中だ」と呟きながら部屋を出ようとすると、中島ちゃんが飛び込んで来た。顔が赤らんでいる。「Y-、どうしよう。石川が、あたしと付き合いたいって言うのよ。どうすればいい?」道子の時と全く同じだった。「それで、中島ちゃんとしては、どうしたい訳かな?」僕は優しく聞き返した。「石川は、眉目秀麗で人気のある子よ。彼にはもっと相応しい相手が居ると思うのよ。だから・・・」「まさか“あたしとは釣り合わない”って言うのかな?」僕がセリフを引き取ると黙して彼女は頷いた。「アイツには別の“中島好美”が見えてるんだろうな。さっきアイツ何て言ったと思う?“外見ではなく心だ”って言ったよ。人を見る目は間違ってない。中島ちゃんはどう思う?」「あたし怖いの。石川と肩を並べて歩くのが。だから・・・、」と言うと彼女は後ろ向きになって僕の胸元へ潜り込んだ。「Y、助けて!あたしはYにだけ甘えて居たいの!他は嫌なの!」彼女は震えながら訴えて来た。

life 人生雑記帳 - 18

2019年04月29日 13時26分03秒 | 日記
入学式から5日、本日は石川君へ出した“課題”の回答日である。中島ちゃんは朝から落ち着けないでいた。「どうしよう、どうしよう、Y!大丈夫だよね?」教室前の廊下で僕に貼り付いて離れようとしない。ブレザーの袖を掴んで振り回したり、背中から僕の胸元へ入り込んで左手を掴むと自分の胸元へ強く押し付けたりして、何とか落ち着こうと必死になった。「Y-、不純異性交遊してると、さちに捕まって廊下の端まで飛ばされるよ!」と堀ちゃんが言うが、彼女も中島ちゃんと同じ行動を取り始める。2人して代わる代わる僕に貼り付こうと画策するのだ。堀ちゃんの方が中島ちゃんより若干背が高いので、顎の辺りに頭が来る。右に左にと避けながら髪のセットを乱さない様に気を付けねばならない。「大丈夫だ!2人共落ち着け!」「だって、怖いんだもん!」2人してジタバタとして甘えて来る。「Y-、さちに捕まって廊下の端まで飛ばされるよ!」と雪枝が言いに来る。「雪枝、だったら2人を何とかしてくれ!僕の意思でやってる訳じゃない!」と助けを求めるが「面白そうだからあたしも混ぜてよ!」と雪枝まで同じ行動を取り始める。これじゃあ“保育園児”と大差ない。保母さん達の苦労が身に染みて分かった様な気分になる。やたらとデカイ“保育園児”達と格闘していると「Y-、廊下の端まで飛ばされるよ!」と今度は道子が警告に来る。「警告は真摯に受け止めますが、僕本人の意思は無視されているので、この3人を何とかして!」と言うが「まあ、無理だね。廊下の端まで飛ばされる覚悟を持ちなさい」と軽く流される。ホームルームの始まる直前まで僕は3人のおもちゃにされたままだった。やっと思いで席に付くと、今度は背中を突かれる。有賀だ。恐る恐る振り返ると、妙に深刻な顔をしている。「どうした?」と聞くと「Y、これが靴箱に入ってたのよ!どうすればいい?」と水色の封筒を差し出して来る。「中身を見てもいいのか?」と聞くと「うん、縁もゆかりも無い相手なのよ!」と言った。僕は素早く文面に眼を通す。だが、突然凍り付いたかの様な感覚に襲われた。“この文字には見覚えがある!”しかも良い記憶ではなく悪い方だった。「有賀、これ預かってもいいか?」と尋ねると「いいよ、適当に処分してくれれば、あたしも助かるし」と言った。「とにかく、有賀は知らぬ存ぜぬで居てくれ!絡まれたら僕に通報してくれれば対処する」「OK、任せるわよ」と言うと有賀は少し明るさを取り戻した。ホームルームが終わると、僕は急いで長官と堀ちゃんと中島ちゃんを集めた。「堀ちゃん、例の手紙を出して。中島ちゃん、これと堀ちゃんの手紙の筆跡を比べて!」「どう言う事だ?」長官が首を傾げる。「見覚えがありませんか?この筆跡に!」僕は封筒の宛名書きを見せた。瞬時に長官の顔から血の気が引く。「これは・・・、まさか・・・」「その“まさか”に間違いなさそうよ!この2通の筆跡は同一人物のモノと見て間違いないわ!」中島ちゃんはハッキリと断定した。「途轍もなく手間のかかる事を仕掛けて来たな!だが、これで1歩前進した事になる。Kの仕業に間違いなさそうだ。だが、照合するべき本人の真筆が無い。そこをどうする?」僕はポケットからキャビネットの鍵を取り出した。「万が一の事を考えて、関係ファイルを見られる様に先生に許可を取り付けてありますよ。コピーですが、真筆は見られます!」「よし、昼休みに照合して見てくれ!ワシは出来る限り届いた手紙を集めて見よう。差出人の出身校を調べられれば、手掛かりになる!」長官は急いで小佐野の元へ向かった。「堀ちゃん、道子に届いた手紙を集める様に言ってくれ!中島ちゃんは筆跡の鑑定を!恐らく“アイツの真筆と一致する”だろうよ」「Y、物凄く手の込んだ仕掛けだけど何を企んでの事なの?」「さあ、まだ真実は掴めていないから、何とも言えないが僕等を“混乱”させて、3期生との間に“亀裂”を入れるためだろうな。隙を突いて“3期生を掌握”するつもりなのかも知れない」「だとしたら、大変な事に・・・」中島ちゃんが絶句する。「だが、そんな事はさせない!今度こそ地獄を堪能してもらおうじゃないか!多分、休み時間になれば手紙が集まるだろう。筆跡鑑定をして見て。恐らく結果は同じだと思う」「OK、あたしの眼は誤魔化せないよ!」「Y、道子が5通預かってるって言ってた」堀ちゃんが報告に来た。「よし、次の休み時間に中島ちゃんに渡して筆跡鑑定だ。どうやら影が薄っすらと見えて来たらしいな!」僕はフッと笑った。これが最初の手掛かりだった。

昼休みに入ると、僕は生物準備室のキャビネットの鍵を開けて“菊地関係”のファイルを取り出して書類をめくった。「Y、勝手にそんな事していいの?」さちが言うが「先生に許可はもらってるよ。だから鍵を預かってるんじゃないか」と言って安心させる。「中島ちゃん、これだ。菊地嬢の真筆。集まった手紙と照合して見てくれる?」集まった手紙は7通あった。「OK、少し時間を頂戴するわね」彼女は照合作業を始めた。「参謀長、良く見抜いたな!これが一致すれば大きな証拠になるって訳か!」竹ちゃんがカップを片手に言う。「そう言う事!ただ、まだ分からない点も多々あるんだ。差出人をどうやって選んだのか?とかがね」僕もカップを持ち直して言う。その時、ドアをノックする音がした。「失礼します。参謀長さん、答えを持って来ました!」僕の前で一礼したのは、先日押し掛けて来た3期生の石川君だった。「まあ、座って」と僕は応接セットに石川君を座らせると、道子に頼んで紅茶を運ばせる。「熱いから気を付けて。まず、言って置くが私の事は“参謀長”と呼んで構わない。先輩達には“○○さんか先輩”だが、勝手な肩書がある以上は肩書でいい。さて、“課題”の答えを聞かせてもらおうか。秋山真之は何を言いたかったのかな?」僕は静かに問うた。「それが・・・、全く分かりませんでした。参謀長、“本日天気晴朗ナレドモ波高シ”この裏に何が隠されているのですか?教えてください!」彼は真剣な眼差しで訴えて来た。「明治38年5月27日、午前6時。連合艦隊旗艦、三笠艦上から東郷長官が大本営宛てに“敵艦見ユトノ警報ニ接シ、連合艦隊ハ直チニ出動。コレヲ撃滅セントス”と暗号文を打電した際、主席参謀秋山真之が平文で付け加えた一句、“本日天気晴朗ナレドモ波高シ”。私が何故、明治と言った意味は分かるかな?飛行機もレーダーもましてや人工衛星もない時代に、バルチック艦隊を発見するのは人の肉眼と双眼鏡が頼りだからだ。“天気晴朗”とは、視界が遠くまで届き撃ち漏らしは少ないという事を、また“波高シ”と言う物理的条件はバルチック艦隊に大いに不利をもたらす。敵味方の艦船が波で動揺する際、射撃は訓練の充分な日本側に利し、バルチック艦隊に不利をもたらす。“極めて我が方に有利である”と真之はこの一句で濃厚に暗示して象徴して見せたのさ。実際、日本側の艦船の損害は比較的軽微で、バルチック艦隊の大半は撃沈されている。教科書にはこの事は書かれていないし、調べても出て来なかったはずだ。教科書はあくまでも基本でしかない。表面だけを見るんじゃなくて裏の裏まで掘り下げる事も学習では必要だ。人も同じだよ。表面だけを見るんじゃなくて、心を見てやるんだ。君もクラスを牽引していく立場なら、発言の真意を、頷いた心の内を汲み取ってやらなくてはならない。私達のクラスは本当に苦労して1つにまとまった。私達も含めて大勢のクラスメイトが走り回り、意見を戦わせ、智謀の限りを尽くして作り上げた。同じ苦労をしろとは言わないが、初代の委員長は何かと苦労が絶えないものだ。だからこそ、自身を殺してもクラスのみんなをまとめなくてはならない訳だが、同時に1期生の先輩や我々2期生が切り開いた道を、君達が整備して次の世代へ繋いで行ってもらわなくてはならない。“校風”と“伝統”は1期生と私達2期生と君達3期生が築き上げ繋げる責任があるんだ。だから、私は敢えて君を試した。中島に相応しい男かどうか?私達の後の世代を託せる男かどうか?私の出した“課題”にマニュアルは無い。マニュアルにばかりに頼って居たら真の答えには辿り着けない。自らを磨き、教えを請い、新たな時代を開く。私達に課せられた使命は重い。だから、1期生も2期生も風通しのいい関係を作って来た。君達にもそう言う関係を続けて欲しいし、遠慮なく言い合いもしたい。礼儀と上下関係は最低限の事を守ればいいし、恋愛も自由だ。けれど、中島には中島の気持ちと考えがある。彼女の意思を尊重してやって欲しい。私達と出会って彼女も変わったし、私も彼女に随分と助けられた。男女の枠を超えて私達は付き合っている。さて、中島ちゃん!返事はどうする?答えてもいいし答えない選択もあるよ。あなたの返事を彼は待っている。さあ、どうする?」筆跡鑑定を終えた中島ちゃんは、じっと僕と石川君の話を聞いていた。そして何かを言いたそうだった。「うん、直接言ってもいい?」彼女は立ち上がって僕の傍らに来た。「席を替わろう」僕は石川君の正面を中島ちゃんに明け渡した。「中島先輩、返事、聞かせてもらえますか?」石川君は前を向いて聞いた。「石川君、あたしはYの元を離れる事が出来ないの。正直に言うね。あたし、朝からずっと怖かった。貴方の真っ直ぐな眼を見るのが怖くてたまらなかった。だから、Yに貼り付いて怖さを紛らわせてた。こんな風に」というと中島ちゃんは、立ち上がって背中から僕の胸元へ入り込んで左手を掴むと自分の胸元へ強く押し付けた。「普通の男の子なら慌てて逃げようとするでしょう?こんな事されたら。でも、Yは絶対に逃げたりしないの。全部受け止めてくれるのよ。貴方にこんな事出来る?立ち向かえる?あたしの知る限りYだけよ。こんな事まで“とことん付き合ってくれる”男の子は。この人は優しいのよ。みんなに優しいのよ。だから、自分の事は全部後回しにして、いつでも“最優先”であたし達の事を気にかけてくれているの。だから、あたしはYに付いて行くって決めたの。今、あたし達は、ある“事件”を追っているけど、その指揮を執っているのはYよ。鋭い閃きと的確な判断を瞬時に下して物事を解決に導く。だから“参謀長”って言われてる。先生方の信頼も厚くて、先生からの依頼もある程よ。こんな男の子に貴方はなれるの?まずは、Yの下で実際に働いて見るといいわ。如何に凄いか直ぐに分かるから。だから、あたしは貴方と付き合えないの。どうしても付き合いたいなら、Yの下で勉強して腕を磨きなさい!そしてYに認められる1人前の男の子になって見せなさい!付き合う云々はそれからよ!Y、石川君を“試験採用”してくれない?今度の一件は彼の協力も必要になるから」中島ちゃんは臆する事無く言い切った。「石川君、私は君を“参謀”として迎えたい。ここのメンバーになる気はあるかね?」僕は静かに問うた。「お願いします!一員に加えて下さい!中島先輩に認められる男になりたいんです!」彼は必死に懇願して来た。「そう言うと思ったよ。今から君は私達の一員として、活動に加わってくれ!ここは、休憩室兼作戦会議室だが、立ち入りも許可する。さて、中島ちゃんもういいかな?」「あっ!Yごめん!またやっちゃった」と中島ちゃんは名残惜しそうに離れた。「筆跡鑑定の結果はどうだった?」僕が言うと「完全に一致したわ。菊地さんの筆跡に間違いないわ!」と言って中島ちゃんは手紙と“真筆”を差し出す。「うーん、そうなると何でこんな面倒くさい事をやったんだよ?」竹ちゃんが首を捻る。「恐らく、足が付かない様にしたんだろうな。露見しても3期生の差出人の責任にして“トカゲの尻尾切り”で逃げられると踏んだんだろう。石川君、この7名の差出人と面識はあるかい?」僕は封筒の束を差し出す。「4人は同じ中学の同級生。3人は別の中学の出身です。しかし、お互いに面識はあるはずです!」「どう言う事だ?」竹ちゃんが身を乗り出す。「部活繋がりですよ。練習試合とかで交流はありますから」石川君がハッキリと言う。「バレー、バスケ、サッカー、野球、卓球、吹奏楽、この6つなら何かしらの繋がりはあるはずです。練習や大会で顔を合わせる機会はありますし、自主トレを組んでいる連中もいるはずです」彼は淀みなく言った。「6つの部活なら、誰かどうか宛てはあるな!各クラス10通前後としても約60通か。“協力者”が2~3人居れば配れる数だし、かさ張るモノじゃない。運ぶにしても比較的楽に持ち込める。今のところは内のクラス分だけだが、他にも約40通ぐらいは仕込んだだろう。書く方にしても“時間だけ”はあったはずだから、手間を惜しまなければ1人で書けるだろう」僕が推測を述べる。「で、これからどうする?参謀長?」竹ちゃんが尋ねている。「黒幕の正体は割れた。でも、現状で“通報”しても“トカゲの尻尾切り”で逃げられるから、意味が薄れる。確たる査証を揃えなくては!」「具体的には?」「“依頼”をかけた葉書・手紙・FAXの類が残っていれば最高なんだが、電話で済ませられていたら何も残ってはいないだろう。とくかく“協力者”を割り出して原田に手を回してもらう以外に無い!だが、3期生に対するツテが少ないから、当面は手紙の回収と筆跡鑑定を進めて、証拠を固めるしか無い。石川君、この7名の差出人にそれと無く聞いて見てくれないか?手紙を誰からもらったかを」「分かりました、探りを入れて見ましょう」「ただし、深入りはしない事!馬鹿話のついでにそれとなく聞くんだ!ここのメンバーである事は悟られてはならない。あくまでも、同級生として“しれっと”聞き出すんだ!」「石川君、初仕事よ。危ない橋を渡る様な真似はしないで!」中島ちゃんが釘を打つ。「承知しました!」彼は果然張り切り出す。その時、ドアをノックする音が響いた。ゆっくりと長官が入って来る。背後に2名を連れている。「参謀長、どうだね?鑑定の結果は?」「7通、全て“真筆”と一致しましたよ。黒幕は菊地嬢に間違いありません!」僕は報告を行った。「やはりそうか。そうすると、厄介だな。“協力者”の目星は付いているのか?」「いえ、皆目見当も付きませんよ。ですから、現時点では“通報”出来ませんね。“トカゲの尻尾切り”で逃げられるのがオチです」「やはりそうか、向こうも用心してかかっている。簡単に尻尾は出さないだろう。3期生に対する手は?」「彼、石川君ですが、新たに私達のメンバーに加わってもらいます。彼に7名の差出人との接触を依頼しました。誰からこれらの手紙を配布されたのか?まずはそこから手を付けようと思います!」「うむ、ワシも小佐野からこの2名、山本君と脇坂君を借り受けて来た。彼らには“未発信”の手紙の存在の有無と“地下組織”について探索を命じた。しばらくは地道に捜査を進めるしかあるまい。ところでこれを渡して置こう。他のクラスにばら撒かれた手紙14通だ!筆跡は同じだろうが、鑑定をして置いてくれ」「了解です。中島ちゃん、また見てくれる?」「OK、石川、筆跡鑑定するからよーく見て置きな!」彼女は石川君と共に鑑定を始める。「参謀長、中々の人材を“釣り上げた”な。彼は確か2組の委員長だろう?どうやって餌を撒いた?」長官が誰何した。「話すと長くなるので後で説明しますよ。それより、何か嫌な予感がしませんか?入学したばかりの3期生に、これだけの仕掛けを取らせることが出来る人物が居るとは考えにくいのですが・・・」「ああ、ワシもそこに引っかかる点がある!もしかすると、我々は何か重大な事を見落としているのかも知れんな!」「それは何だい?」竹ちゃんが聞いて来る。「わずか数日の間にこれだけの仕掛けを施すとしたら、3期生単独では無理があると思わないか?事前に準備して来たとしても、我々の内情を知り過ぎてるし、こうも細かな細工が出来るとは到底考えられない!影は1人だけでは無いのかも知れないって事だよ!」「まさか、2期生の誰かが1枚噛んでるって事か?」竹ちゃんが驚いて言う。「そう考えれば辻褄が合うのだ。菊地が黒幕で“協力者”が彼女に近しい人物。実行部隊が3期生とすれば、一応筋は通るからな!」長官が推理を話す。「Y!別の筆跡が見つかったよ!この封筒の宛名書きだけど、まったく別の人物が書いてるのよ!」「なに!間違いないか?」僕と長官は顔色を変えた。「ほら、良く見て。第三者の筆跡でしょう?」中島ちゃんの言う通り、菊地嬢以外の筆跡が確認された。「参謀長、これは看脚下(あしもと)に埋もれている誰かが居る証拠に間違いなさそうじゃ!しかし、誰なんだ?」新たな証拠は僕等を再び闇へと引きずり込んだ。

翌週の月曜日、石川参謀と山本・脇坂からの報告が出揃った。いずれも決め手には欠ける結果であった。「僕は7名の差出人を当たりましたが、個別に配布された訳ではなく、クラスの代表者から渡された模様です。その代表者にしても“先輩の女性”からまとめて配布されたとしか言っていません。6組ありますから、6名の代表者が居るのですが、その6名に共通している部活や接点もバラバラで、特定出来ませんでした」石川が言うと「“未発信”の手紙の存在も確認できませんでした。既にそれぞれの方法でばら撒かれているものと思われます」「“地下組織”について探索してみましたが、クラスとしてのまとまりがまだ完全ではありませんので、存在そのものは確認不可能です」と山本、脇坂両名も報告を行った。「手掛かり無しか。しかし、裏を返せば3期生は“機械的にばら撒きを指示された”だけだとも取れますね。むしろ手紙を届けた“先輩の女性”が誰なのか?そっち方が気になりませんか?」僕は長官に水を向けた。「そうだな。女性が何者なのか?そちらが焦点になりそうだ!しかし、誰がそんな真似をする?」長官は思慮に沈む。あれから、新たに5通の手紙が出たが、筆跡は菊地嬢のものと断定されていた。合計26通。破棄されたと思われる分を推計すると30~40通がばら撒かれた事になるのだ。差出人は、菊地嬢の出身中学を中心に3校に絞られた。共通しているのは、石川参謀の推測通り“部活繋がり”だった。代表者6名は菊地嬢の出身中学の後輩と判明していた。「点は見えてるが、これを線で結ぶ何かが欠けている。キーになるは“先輩の女性”だが、一体誰なんだ?」竹ちゃんも首を捻る。「長官、今まで確証の無いまま手を付けるのをためらって来ましたが、どうやら“旧菊地グループ”のメンバーを調べて見る必要があるのではありませんか?」僕は思い切って切り出した。「うん、ワシもそれを考えていた。出来れば身内に疑いを掛けたくは無いが、どうやら他に道は無さそうだ。千里と千秋に耳打ちをして密かに動くか!」「ええ、正し条件があります。“表立って訴追しないから”と言う条件でやるんです。これは推測でしかありませんが、“旧菊地グループ”のメンバーが当事者だとすれば、何らかの“脅迫”を受けている恐れが高い。“罪には問わない”事を明言した上で“取引”するのはどうでしょう?」「楽にさせる訳か?いいだろう。彼女達の口は固いはず。そのくらいの譲歩はやむを得ないな。ワシから千里と千秋に言って置く。これで釣れるなら安い買い物だろう。万が一の際の“弁護”は参謀長、お前さんに依頼する。では、早速手配にかかろう!」長官は腰を上げた。「参謀長、これは賭けになる。お互いに腹は括って置こう」「はい、何があっても驚きはしませんよ」長官は2人を連れて部屋を出た。「参謀長、甘すぎじゃありませんか?同期生だからと言って“罪には問わない”では通用しないのではありませんか?」石川が突っ込んで来る。「そうだ。完全に“無罪放免”とは行かない。菊地と言う“巨悪の犯罪の片棒を担いだ”のだからな。だが、このままでは、完全に手詰まりで何も解決しない。関わった者の証言が必要だし、証拠も不可欠だ。日本では導入されていないが、アメリカでは“司法取引”が盛んに使われている。故に僕等は警察ではないから“取引”を使っても問題は無いし、糸口を掴むには他に何がある?このまま時間だけが経過して行ったら、3期生と1・2期生との間に“亀裂”を生じさせてしまう。苦肉の策だが、今はこれが“最善手”だと信じて行動するしか無いんだよ」僕は静かに答えた。「でも、万が一の際の“弁護”まで引き受けてしまって、割りに合わないではありませんか?!」尚も彼は噛みついて来る。「損得勘定などしていたら何も前には進まない。まず、“巨悪の犯罪”を暴くのが先だ。結果は後から付いて来る。叩ける内に叩き潰さねば君らの未来も危ういのだ。個々人の事は別にして、全体を見ていないと判断を誤る元になるのだ。石川、広い世界を見なさい。常に全体を考えなさい。その上で自分の立ち位置を見るがいい。そうすれば、誤る確率は随分と下がるものだ」「石川、Yの境地に達するには、物凄い“見識”が無くは無理。Yは常にアンテナを高くしてあらゆる状況を見てるのよ。貴方には半分も理解出来ないと思うけど、この男がどれだけの努力を積み重ねて、智謀の限りを尽くしているかを良く見ときなさい!貴方は“後継者”に指名された。生きている“教科書”が何をするのか?を心に刻み込んで置きなさい」中島ちゃんが石川を諭す。「恐らくは西岡さん。彼女が何を握られているか?彼女の闇とは何か?答えはそこにあるのかも知れん」僕はカップを持って推測を巡らせた。

その日の放課後、“協力者”が判明した。予想は当たりだった。「西岡さんが“自供”してくれたわ」「彼女、中学時代の“カンニングと異性関係”をネタに菊地から揺すられてたそうよ!」千里と千秋の報告を聞いた僕は暗澹たる気持ちになった。「これで担任への“通報”が出来るな。証拠の手紙も押収してある。問題は話の持って行き方だ。参謀長、彼女の罪を出来る限り軽くする方向へ持って行って欲しいのだ!」長官も苦しそうに言う。「そうですね。“無罪”とは行きませんが、執行猶予へ持ち込めるように努力は尽くして見ましょう!しかし、身内に“協力者”が居たとは・・・、やり切れませんね」「ああ、ワシも残念だ。だが、西岡さんもある意味“被害者”でもある。そこを利用して折衝に当たってくれ!」「あたし達からもお願いするわ。彼女は“仕方なく協力させられた”のよ。そこを汲んであげて下さい!」千里と千秋も唇を噛んで言う。「出来る限りの努力はしましょう。しかし、保証は出来ません。何せ“黒幕が菊地”ですからね。学校側がどう判断するか?予測できません!」「無理を承知でお前さんに託す。可能な限り穏便に片付けてくれ!」長官からの依頼は難題だった。しかし、一刻も早く“通報”する義務はあるのだ。年初に起こった“悪質な事件”だけに素早い解決も求められている。「さて、どうやって切り抜けるか?」僕は思慮に沈んだ。越えるべきハードルは途轍もなく高い。しかし、求められているのは、それらをクリアする事だった。「乏しい証拠だけで、どこまで戦える?」廊下の窓からは、下校していく生徒達が見えた。何気ないありふれた光景。これを守るのが僕等の使命なのだ。「真正面から行くしかあるまい。相手の意図を外して完膚なきまでに叩き潰す。難題だがやって見るか!」僕は1人で呟いていた。「Y、帰ろうよ」中島ちゃんと堀ちゃんが呼んでいる。「おう、帰るとするか!」僕は支度を始めた。“明日の朝、ホームルームが終わった直後に乗り込むか!”生物準備室は静まり返っている。だが、明日は熱気を帯びて白熱するだろう。“正面を突破して背後を脅かす。これしか無い”僕はゆっくりと教室を出た。