limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

life 人生雑記帳 - 10

2019年04月09日 16時04分27秒 | 日記
「赤坂が狂った?あのクソ真面目がマジか?!」伊東が唖然とする。「そのクソ真面目が災いした様だよ。何が原因かは不明だがね」僕は小声で言う。「自力での浮上の見込みは?」長官も心配そうに言う。「まず、不可能。担任もそう言ってます。とにかく、初動としては、原因を突き止めなくてはなりませんが、事が事だけに話を拡大させるのは、慎重に行わなくてはなりません。先生からも釘を刺されています」僕は事の経過を簡単に説明した。「白紙答案か。重症だな!」伊東も深刻な表情に変わる。「彼が陥った穴は、相当深いと見た方がいいだろう。それで、参謀長よ、有賀が“引き金”となった形跡は見られるのか?」長官の表情も深刻だ。「それとなく有賀に探りを入れて見ましたが、その線は薄いですね。有賀が原因とは言い切れませんよ」僕は否定的な見解を述べた。「そうなると、厄介だな!我々3名では、通学経路がかけ離れ過ぎて眼が行き届かない!校外で何かあるとすれば、探査そのものが不可能だ!」伊東が唇を噛む。「それに彼に何があったのか?をどうやって突き止める?多少乱暴な事をやるとしても、どこから手を付けて何を探る?」長官が核心を突く。「良くも悪くも真面目ですからね。躓くとしたら“女性関係”から洗って行くしかありますまい。蛇の道は蛇。ウチのレディ達に手伝ってもらうのが順当ですな」僕は漠然と手を考え始めた。「それでも手薄なのは仕方ないとしてだな、赤坂の持ち物を調べるのはどうだ?手っ取り早く手掛かりを掴むとしたら、危ない橋も渡るしかないぞ!」伊東も思案しながら言う。「だが、伊東、誰がやる?スパイ大作戦の真似ごとを?」長官が懸念を示す。「参謀長しか居ないですよ!赤坂の牽制は、こっちで何とかします。参謀長やれるか?」「嫌だと言ってもやらなきゃならないんだろう?どの道、最短で手掛かりを掴むにはそれしか無いんだから!彼の鞄に痕跡があればいいんですが、長官!ラテックスの手袋は手に入りますかね?」「小佐野に言って手に入れよう。2セットあればいいな?」「ラテックスの手袋ってなんだ?」伊東が怪訝そうに言う。「手術用の手袋だよ。指紋を残す訳にはいかんだろう?」僕は疑問に答える。「普通、そこまでやるか?」「“証拠は残すな”が金科玉条だろう?ああ見えて彼は結構神経質だ。轍を踏まないのは当然さ!それで、伊東、いつ決行するつもりだ?」僕は作戦決行日を尋ねた。「終業式まで残り10日しかない。4時限目の体育の時間に決行しよう!ジーさんや野郎達には、俺から適当な理由を言って置く。その間に洗って見てくれ!」「やるしか無いが、気は進まんな」僕がぼやくと「ワシは小佐野に手を回して置く。ひょっとすると“根深い案件”になるやも知れん。参謀長、抜かるなよ!」長官の口調は嫌な予感を呼び起こした。しかし、これが見事に当たってしまうのだった。

4時限目、僕はまず生物準備室へ潜り込むと、明美先生を捕まえた。「ゼロックスの使用許可をお願いします。中島先生からの依頼案件で使いたいのですが」と言うと「いいわよ。先生からも“Y君には全面的に協力してくれ”って言われてるしね。それよりもさ、アイスティーだけど、出来たわよ!味見していく?」「じゃあ、1杯だけ」ティーカップに紅茶が注がれる。「うん、いけますね!どうやって作ったんです?」「この耐熱ガラスのポットに氷を入れて、別のポットで作ったホットの紅茶を注ぐの。これなら、香りも風味も変化なし!どう?あたしも結構やるでしょ?」明美先生が得意げに言う。「昼休みが楽しくなりそうですよ。おっと!Missionのお時間だ!直ぐに戻りますから」と言うと「うん、待ってるね」と明美先生が微笑む。急いで教室へ舞い戻ると、ラテックスの手袋を装着してから、赤坂君の鞄に手を入れる。「生真面目な性格だとすれば、証拠は恐らく残っているはす。メモでもいいから出てくれよなー」と呟きながら物色を開始する。すると、鞄のファスナー付内ポケットから大量の手紙が出て来た。「ラブレター、それも1期生からか。差出人は2人。どうやら“元凶”はコイツの様だな!」一旦、鞄を戻すとラブレターだけを抱えて、生物準備室へ駆け込む。「あら、早かったわね。それなに?」明美先生が聞いて来る。「“元凶”とおぼしきラブレターですよ。先生これを」僕はラテックスの手袋を差し出す。「片っ端からコピーを取って下さい。中身の精査はその後で!」「分かったわ!1期生の子だわね。それも2人からか。Y君、内容を後で読んでもいい?」「先生に見てもらって“女性としての見解”をお聞きしたいのですが?」「いいわよ!しかと申し伝えて進ぜよう!」明美先生も乗っている。2人で作業をした結果、意外に早くコピーが手に入った。僕はもう1度教室へ舞い戻ると、今度は慎重にラブレターの束を鞄へ戻す。「えーと、順番を揃えてあったところへ寸分違わずに戻すか。やっぱり、この手の作戦は苦手だなー。おっと!手帳の中身を見て無かったぜ!」パラパラとめくると、そこかしこにメモと印が付いている。僕は素早く日付とメモ書きを写した。アドレス帳には2軒の電話番号が記されていた。ラブレターの差出人の番号なので、これも素早く書き取った。無事に全てを鞄へ納めると、またまた生物準備室へ戻る。明美先生は手紙に見入っていた。「ご苦労様。Missionはクリアしたみたいね。Y君、これ相当ヤバイよ!1人は真剣に赤坂君との交際を望んでるんだけど、もう1人がクセ者なのよ!後押しと言うか“脅迫まがい”の事に手を出してるの。手紙と電話の二重攻撃を仕掛けてるわ!」僕は急いで手紙に眼を通した。明美先生の言う通りだった。「交際を望んでる子は、赤坂君の中学の先輩。これはありがちな事だけど、もう1人は、縁もゆかりも無いとこ。恐らく友達だね。でも、質は相当に悪い!」明美先生は生徒名簿を指して言う。確かに同じクラスで出身中学は別だった。「女性としてどう感じます?」僕は見解を尋ねた。「それぞれの手紙を時系列に沿って読んだ限りでは、現在も一方通行なんだけど、片方がさっきも言った様に質が悪いから、ズルズルと引き込まれてるって感じ。1期生としては“何が何でも落とす”って燃え上がってるわね。肝心の赤坂君は、曖昧な返事に終始してるらしいから、余計に付け込まれてるのよ。彼の性格を踏まえて考えるとどう感じる?」逆に明美先生が突っ込んで来る。「赤坂君の性格を考えれば、この手の事は苦手なはずです。彼の場合“白黒を付けられる”のは勉強しかありません。女性問題は想定の範囲外でしょう。想定を超えた場合の彼の行動は、フリーズするしかないでしょうね。勿論、他人に相談するのも自分からは積極的には動けないし、相談相手も居ないでしょう。結果として底なし沼へズブズブと沈んで行ったと見るべきですか?」「正解!これは非常に難しくて微妙な事よ。下手な手出しは炎上しかねないわ。そこを踏まえて対策を練りなさい!少なくとも1期生は本気よ!そこをどうやって収めるか?“参謀長の手腕”を見せて頂戴!」「うーん、頭が痛い!」僕は呻くしか無かった。「Y君、夏期講習はどうするの?」明美先生が聞いて来る。「全日程、出ますが?」「じゃあ、ここの鍵とあたしの机の鍵預けとくわ。紅茶作れないと困るでしょう?」「そうですね。貸して頂けるならキチント管理しますよ」「ついでに、布巾とかの消毒も忘れないでね。分からなかったら、電話して!番号をデスクマットの下に挟んで置くからさ。コピーした手紙はあたしのデスクの引出しに入れとくといいわ。証拠物件ぶら下げて帰るのはヤバイから」「了解です」僕はコピーの束をまとめると、明美先生に預けて教室へ舞い戻った。

「おい!出たか?」伊東が何気に聞いて来る。「ああ、出た何てもんじゃない!底なし沼を覗いちまった気分だよ」僕はゲンナリと言った。「参謀長の口ぶりからすると、相当に厄介なモノが出た様じゃな!さて、どうする?」長官が聞いて来る。「ウチのレディ達に竹ちゃんも加えて、まずは前振りと結果報告から。その後に善後策の検討へ」「分かった。証拠は?」「生物準備室に秘匿してありますよ。とても持ち歩ける代物じゃあありません!」「じゃあ、それぞれバラバラに出よう。一斉に出ると怪しまれる」伊東の提案で僕等は三々五々に生物準備室に顔を揃えた。「参謀長、説明とMissionの結果を報告してくれ!」長官の要請で僕は事の経緯からMissionの結果までを子細に説明した。手紙のコピーも公開してみんなが眼を通した。「以上が、これまでに判明している事実です。長官、これは一筋縄では行きませんね。解決するにしても、微妙な線を辿る事になりそうですよ」僕は一通り話終えると長官に言った。「うむ、思っていた以上に根深い。さて、負の連鎖をどう断ち切る?」長官も思案に沈んだ。「相手が悪いだけでなく、思った以上に進行してるな。引き戻すにしても、ギリギリだぞ!」伊東も歯切れが悪い。「まず、1期生の女がどんなもんか?探りを入れる事だな!それからじゃねぇと手の打ちようが無ねぇ!背後関係も含めて、そこからじゃねぇか?」竹ちゃんが基本路線を示す。「そっちは、竹ちゃんと道子にお願いするよ。1期生の正体を明らかにしてくれるかい?」僕が言うと「任せときな!直ぐに手を打ってみる!道子、先輩に繋ぎを付けてくれるか?」と竹ちゃんが言う。「OK、明日には結果を出せると思う。Y、時間が差し迫ってるけど少し待ってね」「ああ、焦らなくてもいいから、確実に化けの皮を剥がしてくれ!」と僕は返した。「参謀長、滝さんに聞いてもらいたい事がある。どうもこの2人の女、キナ臭い匂いがする様に感じるのだが・・・」長官も必死に記憶を呼び覚まそうとしている。「分かりました。実は僕も引っかかっている節があるんですが、思い出せないんですよ!2年前、確かその辺ですが・・・」「そうだ。時間的にはその近辺だ。益々嫌な予感がするな?!」長官も歯切れが悪い。「赤坂君を追跡しようにも、あたし達とは帰宅方向が違うから、それも限界はあるね」「でも、1期生の顔が分かれば、駅で捕まえるのは可能。尾行出来る範囲は限られるけれどね」中島ちゃんと堀ちゃんが言う。「今は、そこまでしなくてもいいよ。不確定要素が多過ぎる。ある程度の青写真が出揃うのを待ってからにしよう」僕は2人を止めた。危険な行動はさせられない。「ねえ、Y、この手紙の筆跡だけど、最初のヤツと最近のヤツで微妙に違わないかな?」さちがコピーを見比べて言う。「何だって!どこが違う?」僕は驚いてさちの見ていたコピーをひったくる。「むむ、コイツは・・・、中島ちゃん。どう思う?」僕はコピーを差し出した。「どれどれ?」彼女は左右の文字を見比べる。「参謀長、どう言う事だ?」長官も驚いて覗きに来る。「か、め、ね、む、な、ち、などの書き方に僅かですがクセがあるんですよ。勿論、我々も警察の鑑識並みの眼力がある訳じゃありません。ただ、個々人のクセはどうやっても偽れない特徴を持ってます。中島ちゃんは、僕のノートを見て自身の字を修正してますから、もしかすると違いに気付けるのではと思いましてね」「そうだとしたら、目的は何だ?」伊東もコピーを見比べ始める。「Y、分かったよ!さちの言う通り、別人が書いてるんじゃないかな?微妙に曲線や角の描き方に違いがあるよ!」中島ちゃんが断定した。「さっきYが言ったけど、あたしも字を見て真似てるんだけどさ、どうしてもあたしのクセを消し去るのは無理なのよ。Yは、あたしの“個性を消さないで、生かす事も大事だ”って言ってくれたけど、この2通については、書いた人は別だと思うよ。漢字にしても、ひらがな、カタカナにしてもよーく見ると完全に同一とは言えないよ!」彼女は微妙な違いを看破した様だ。「うぬ、僅かだが違うな!似せてはいるが今の見解に間違いはないだろう!」長官も看破したらしい。「参謀長、内線で滝さんを呼んでくれ!彼は開発中で放送室だろう?」「はい、どうやら嫌な予感は当たりましたかね?」僕は内線をかけながら言った。「滝、俺だ。長官に換わるぞ!長官!」「滝さん、今から言う女について知っている情報があれば教えて欲しい!1期生で・・・」長官は名前を告げた。見る間に長官の顔から血の気が引いた。「やはりな。そうか、ありがとう」長官は内線を切ると「女は左側通行だ!菊地グループと懇意だそうだ!」と言った。「何だって!じゃあ、これは・・・」伊東も絶句する。「菊地グループの反撃が始まったのだ。ターゲットはクラスの男子全員!最初に血祭に挙げられたのが赤坂君じゃ!」長官の言葉は一同を凍り付かせるのに充分な威力を持っていた。

翌日の昼休みも、僕等は生物準備室に集まり協議を続けた。「参謀長、“真筆”は手に入ったか?」長官が問う。「担任に依頼して、学級日誌のコピーを手に入れましたよ。今、さちと中島ちゃんが持っているのがそうです。間違いが無いか分析中です」「2人の女に関する情報は?」長官は直ぐに話題を切り替える。「有賀と佐藤の“凸凹コンビ”そっくりだ。もっも、女の子としては向こうの方が若干綺麗だが、有賀役の方は相当なワルで有名だよ!佐藤役の方が赤坂に言い寄ってる振りをしてるが、噂じゃあ付き合ってる“お相手”が既に居てな、名前だけを“レンタル”してるって話だ!」「1通目の手紙は、本人が書いたのは間違いなさそうよ。以降の分は“コピー”らしいわ!電話をかけてるのは現在も不明。あたしの見た限りでは、下級生に指触を伸ばすとは考えにくいのよ!」竹ちゃんと道子が報告を上げる。「つまりは、完全なる“フェイク”と言う事か!菊地嬢も芝居の鍛錬を積んでいると言う事だな。どうですかな?真偽の程は?」長官がさちと中島ちゃんに聞く。「間違いはないね。1通目と日誌の筆跡に相違はない」「つまり、2通目からは“コピー”されたモノと断定していいと思う」2人は分析結果を答えた。「随分と手の込んだ仕掛けを施したもんだ。水面下でひたひたと真綿で首を絞めるか?」伊東が呆れて言う。「でも、それが“通用する”と踏んだからこそ実行したんだ。真面目な赤坂君なら“真に受けてくれるだろう”と言う確信があったんだろうな。地雷を踏ませるにも“格好のターゲット”として映ったんだろう!だが、困ったな。長官、証拠がありません!現在まで我々の手にある情報では、菊地グループを叩けませんよ!」僕は問題を示した。「そうだ。“木の葉を隠すなら木の葉の中”と決まっておる。向こうさんだって簡単に尻尾は出さんだろう」「じゃあ、どうやって核心に迫ります?目ぼしい物証が無くては手も足も出ませんよ!」伊東が力む。「恐らくは、それが菊地嬢の狙いに違いない。被害を拡大させる上で、証拠を握らせない様に細心の注意を払っているのだろう。隙さえ見つければ手が無くは無いのだが・・・」長官が思慮に沈む。士気が上がらぬ事が問題解決への糸口を見つけられずに居た。「Y、菊地グループに“コピー”が作れたなら、あたし達にも作れないかな?」雪枝が言った。「そりゃ出来るだろうよ。でも、それをどうする?“作戦中止”でも指示してから、混乱に乗じて尻尾を掴むのか?スパイ大作戦をもう1度やるのかい?」僕が言うと「それしかあるまい。今1度、危ない橋を渡るしか活路は開けん!参謀長、その話に賭けよう!」長官が言い出した。「本気ですか?女子の荷物を掻き回すのは、赤坂君以上に危険ですよ!」僕は諫めにかかる。「チャンスを掴むにはそれしか無い。慎重に見極めた上で実行すれば、全てを白日の下に曝せる。逆転の芽はそこにしか無いぞ!」長官は本気だった。「それならば、相応の手を考えねばなりません。赤坂の次のターゲットは誰か?菊地嬢の情報ルートの確認。1期生との遮断工作。最低でもこの3つはクリアしなくては動けませんよ!」僕は具体的に指摘した。「そうだ。どれも容易ではないが、やらねばならない。それも、菊地嬢に気付かれない様にしなくてはならない。難関だが、ここを突破しなくては展望は望めん!」「どこから手を付けます?」竹ちゃんが聞いた。「まずは、赤坂君を落ち着かせる事だ。今後、何があっても揺るがぬようにな。他言無用と言って本人に言い含めるしかあるまい。彼が揺るがなければ、菊地嬢はターゲットを換えるしか無くなる。その時がチャンスだ!」「浮上しますか?水面下で動くのも限界はありますからね。条件的には違背しますが、やむを得ない選択ですな」僕も腹を括った。「伊東と俺から赤坂に伝えよう。“有賀にしがみ付いて離れるな!”って言っときゃヤツも冷静になるだろう。伊東、やるぞ!」竹ちゃんが言うと伊東も頷いた。「次は、菊地嬢のターゲットリストの入手だ。ヤツの事だ、当然次の狙いも明確にしているはず。これは、スパイ大作戦で手にするしか無い。参謀長、やれるか?」「やるしかありませんね。でも、どこを探ります?」「Y、菊地さんはパステル柄の手帳を大事に持ってるよ。多分、リストはその中にあるよ!」堀ちゃんが教えてくれる。「なるほど、極秘の記載はそこか!後は、いつ決行するかだが・・・」「終業式をさぼれ!理由はあたし達で考えてやる!チャンスは1度きり。しっかりと働け!」さちが笑って言う。「うむ、最善手だな。ガラ空きの状態を待つとすれば、狙いとしては悪くない。参謀長、必ず成功させろ!側面援護は我々が引き受ける。次は1期生とのルートの遮断だ!」「道子、“コピー”を作ってくれ!菊地嬢へ投げ込むヤツを。1期生の動きは俺が見張る様に手配する。2人とも“夏期講習”には出て来ないのは確認してあるから、菊地嬢の尻に火だけ着けときゃ何とか持つだろう。消火に手間取れば隙だらけになるし!」竹ちゃんが言うと「ワシも小佐野ルートで撹乱を計る。二重に障壁を築けば、突破するのに手間取るはずだ!」長官も手を繰り出す。「竹ちゃん、手紙の内容は?」道子が確認を取る。「“赤坂は諦めた。別の男を紹介しろ。女関係はどうなってる?”の3点セットでいい。第2段は反応をみて決めりゃあいい」「OK、少し時間を頂戴。練習してから書き上げるからさ」「終業式までに間に合えばいいぜ!その日の帰りに頃合いを見計らって投げ込むからな!」竹ちゃんが豪快に言う。「火中の栗を拾うぞ!危険は大きいが、得られるものは尚大きい!各自細心の注意を払って行動してくれ!」長官が断を下した。こうしてまたまた、スパイ大作戦をやるハメになったのだった。

終業式当日のスパイ大作戦は、あっけなく成功した。あらかじめレディ達の鞄の中を“下見”させてもらったのが大きかった。「男子はどうか分からないけど、女子は割と理路整然とノートや教科書を入れてるのよ。彼女も多分そうだと思う。探るならファスナー付内ポケットが狙い目」「手帳の大きさは、A5サイズの大判よ。後ろのページから探って行けば見つかりやすいと思う」さちと堀ちゃんがレクチャーしてくれて、その通りにすると割合早く見つけられた。コピーを取ると明美先生のデスクに秘匿して、大急ぎで手帳を戻す。式に出られない理由は“微熱があり、頭が痛い”と言って朝から保健室へ送り込まれた。僕は“大げさだ”と言ってゴネたが「“大事の前の小事”でしょう?」と堀ちゃんに押し切られ、彼女の手で保健室へ連行された。保健室に着くまで堀ちゃんは僕と手を繋いで離さなかった。「Y、我慢しなよ。後で様子見に来るから」と言ってベッドへ寝かされた。頃合いを見計らっての行動は、誰にも見咎められずに済んだ。終業式が終わると、堀ちゃんが迎えに来た。また、手を繋いでのお帰りである。「Y、どうだった?」「上手く行ったよ。だが、バレないか不安だな。チェックが厳しそうだし」と言うと「今の所、気配なし。気付いてないよ」と教えてくれた。怒涛の1学期は終わった。“夏期講習”はあるが、一応は夏休みに突入するのだ。帰り際に長官に「例のヤツ、手に入りました!」と小声で言って細かく折りたたんだ紙を渡す。「ご苦労。明日、検討しよう。場所はいつもの部屋でいいか?」僕は黙して頷いた。菊地嬢は何の疑いも抱いてはいなかった。僕はため息を付くと帰り支度を始めた。「Y-、明日の朝は何時になりそう?」さちが聞いて来る。「いつもと同じだよ。早く来る分には問題は無いだろう?」と言うと「そうだね。じゃあ、いつも通りで待っててよ!」さちが念を押す。「あたしだって、手を繋いで歩きたいな!」とちょっとムクれた。「焼きもちかい?」と言うと「うん、盛大なる焼きもち。Y―、ネクタイ貸して!」と言うと、さちは自分の首に巻いた。「明日までの人質じゃ!」と言って笑う。「忘れるなよ!」「忘れたら、また翌日まで留め置く。ワラワの言う事も聞くがいい」と無邪気に言う。「参謀長、帰るぜー!」竹ちゃんと道子が呼んでいる。「さち、行こう」僕は堀ちゃんや雪枝、中島ちゃんも連れて昇降口へ出た。「さーて、菊地嬢への“爆弾”だ!盛大に爆発してくれよな!」竹ちゃんが祈りを込めて仕掛けを施す。僕等は“大根坂”を下り始めた。再び巻き起こった菊地嬢との決戦。情報戦に勝利するのはどちらなのか?今はまだ何も分からなかった。