limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

life 人生雑記帳 - 17

2019年04月27日 11時36分53秒 | 日記
第3章 ~ 高校白書 2

4月、桜の花と共に3期生が入学して来た。これで3学年全てが揃いやっと“高校生らしい生活″を送る事になった。新設校の良い所は、煩いOBやOGが居ない事だと前にも書いたはずだが、伝統や校風がハッキリしない分、”手探り“で進んで来たのはやむを得なかった。生徒だけでなく教職員も”手探り“なのだから、やる事成す事全てが”手探り“と言うのも正直な話、案外キツかった。その最たるモノが”掃除エリア“が半端なく広大だった事だ。1期生と2期生だけで全校舎の掃除を分担するには”総員総がかり“で実施せざるを得ず、日々の大きな負担となっていた。3期生が来てくれた事で、これらはやっと解消されるはずだった。クラス内は正副委員長には、予定通り竹ちゃんと道子が就任した。そして下部組織として”K査問委員会“が新たに設置された。この組織は、言うまでも無く”菊地孃対策“を目的としたもので、長官を筆頭に伊東、小松、久保田、小川の歴代正副委員長達と竹ちゃんに道子、滝に僕、笠原さんの10名で構成されていた。入学式当日、早速メンバーに召集が掛けられた。「既に知っての通り、来月の連休明けから菊地孃が”復学“する!我々も無関係とは言い切れない事情がある以上、今から対策を立案・実施しなくてはならん。まずは、伊東、原田は何と言っている?」長官が誰何した。「新たな脅威に対して”備え“を取り始めています。特に”諜報網“の整備を急いでいる様です。”新たな地下組織“を整えられる前に叩くつもりです!」「うむ、さすがに早いな。ヤツには秋の”大統領選挙に勝利する“と言う大目標がある。下手な”地下組織“などは絶対に容認するはずがない。”同盟“の件は何か申したか?」「はい、引き続き”同盟関係“を維持しつつ、連携を強化したい意向ですよ。原田にしても菊地は目障りな存在。生徒会会則の改正もちらつかせています」「それは、どう言う意味だ?」久保田が問う。「3期生からの立候補を抑えるためだよ。“1学年からの立候補は認めない“の1文を追加したいのさ」伊東が追加説明を加えた。「小佐野からの”情報“に寄れば、6組の最後尾に”付け出し格“として復帰するらしい。いずれにしても必ず何らかの動きを始めるはず。それを一早く察知しなくてはならない。参謀長、学校側の提示した”条件“の概要は?」「骨子は主に3つ、”政治活動並びに政的言動・活動の禁止“と”結社の禁止“が軸になっています。クラス内グループの形成も”結社活動の1つ“としてみなされます。動くとしたら水面下へ深く潜航するしかありませんね。そして、”我々を上級生として扱い敬意を示し指示に従う事“が盛り込まれています。まあ、当然の話ですが」「彼女の”高すぎるプライド“に反するな。本当に飲んだのか?その条件を?」「飲んだからこその復帰です。1つでも違背すれば”退学“の2文字が伸し掛かります!否応無しに従わざるを得ませんよ!」僕は先生からの情報を伝えた。「参謀長、いささか甘すぎじゃねぇか?」竹ちゃんが噛みついて来る。「ああ、確かに甘い。けれど、これ以上絞め付け過ぎると、返って逆効果になる恐れがあると判断した様だ。学校側の真意は”わざと泳がせてつまずくのを待つ“だから、一定の動きが見られなくては困るんだよ。”伝家の宝刀“退学”を行使するには、尻尾を捕まえないとダメだ!今度こそ“最後”だから、慎重に見極めるつもりだろう」「そうでなくては困るわ。これ以上、彼女に邪魔をされるのはコリゴリ!」「本当に“最後”なの?闇から甦られるのは、いい加減勘弁して欲しいわ!」笠原さんと千秋がため息交じりに言う。「引導を渡すためにも、我々も心を引き締めなくてはならん。伊東は、原田との連携。参謀長は、学校側の動きの把握と連絡。竹内達はクラスを牽引。その他の者もアンテナを張って動きを注視してくれ。ワシは小佐野ルートを使って3期生へ風穴を開ける。決して油断するな!何が起きてもおかしくは無いのだ。必ず前兆を逃さずに捕らえるんだ!」長官は激を飛ばした。最初のK査問委員会はこうして閉じられた。

1学年進級した事で僕等は東校舎から、西校舎へ“引っ越し”をした。僕等の溜まり場である生物準備室とは同じフロア、3階に居を構えることになった。これまでは移動距離もあり、階段も登らなくてはならなかったが、同一のフロアへの移動によりあらゆる意味に措いて“利便性”が向上した。「ワシもお前達を呼ぶのに楽になった!」と中島先生もご満悦で、放送室や現像室へのアクセス性も向上したので、いざと言う場合に素早く動ける点では、有意義な事だった。入学式の翌日の朝「Y、ちょっとごめん」と道子に廊下へ引きずり出された。「どうした?」「中島ちゃんの様子が変なのよ!何か思いつめてるみたいで」教室を覗き込むと彼女は机に突っ伏して、一心不乱に考え込んでいる。「確かに彼女らしくないな。原因は分かる?」「昨日の入学式で、新1年生の男子生徒の顔を見てからよ。表情が強張って“どうしてなのよ”って呟いてからあの通りよ。Y、何か手は無いかな?」「個人的な事には“相互不干渉”で来ているからね。やたらと彼女の心に土足で踏み込む訳にもいくまい。誰かに話してくれれば、解決への道筋は見つけ易くはなるけど、今の状態では僕が動く事は避けなきゃならない。プライベートには踏み込めないよ」「でも、あの状態じゃあ授業にも差し障りがあると思うのよ。Y、思い切って踏み込んでくれない?」道子はかなり心配していた。「うーん、やむを得ないか!危険性はあるが、突っ込んで見る必要ありかい?道子も一緒に聞いてくれるならやって見るか!」僕は決断した。「あたしだけじゃ判断に迷う事もある。Yが乗ってくれるなら声をかけて見ようよ!」僕と道子は早速動いた。「中島ちゃん、ちょっといい?」道子が声をかけると、彼女は虚ろな表情をしたまま廊下に連れ出されて来た。「いつも太陽の様に明るい中島ちゃんが沈んでるなんて、どうした?らしくない原因はなにかな?」僕が優しく言うと「Y、道子、あたしどうしよう?もう、限界だよ・・・」眼から大粒の涙がこぼれ落ちる。「Y、ごめん」彼女は僕に縋り付くと声を殺して肩を震わせる。そーと、背中に腕を回して包み込んでやると「どうしよう?あたしどうしていいか分からない」と言って泣きじゃくる。「苦しかったな。辛かったな。1人で抱え込むなよ。みんな居る。僕も居る。知恵を出し合って道を探せばいい」優しく言うと「うん」と消え入りそうな声が聞こえた。ひとしきり泣くと、少し落ち着いたのか表情に明るさが戻った。「Y、こうしてもらってると怖いのが飛んでく見たい」彼女は背を向けると後ろから包み込まれる姿勢を取り、僕の手を握りしめると自分の胸の上に置いた。道子がハンカチで涙を拭いてやっている。「無理にとは言わないけど、中島ちゃんをここまで追い詰めた原因は何なの?」道子が尋ねた。「石川君って言う1年生。あたしの中学の後輩なんだけど、追いかけて来られたのよ。“まさか!”って感じ。あの子、絶対に“あたしを独占しに来る”と思うんだ。そう考え始めたら、どんどん落ち込んじゃって・・・」「それは、確かに怖いよな。どうやら、石川君とやらは“独占欲”が強いらしいね。でも、安心しな。必ず回避する道はある。1年間、僕等は色々な事に対処して来た。みんなの力を持ってすれば何かしらの答えは見つかるよ。昼休みに検討しよう!」「Y、道子、ありがとう。Yの腕の中に居ると怖くないね。特等席を1人占めしちゃたけど、お陰で不安が小さくなった」中島ちゃんは僕の手を自分の胸に強く押し付けると「ペチャだけど触り心地良かった?」と聞いた。「勿論、じゃあ昼休みに昔何があったか聞かせて。まずは過去を知らないといけないからさ」「うん、長くなるけど説明するね。Y、また抱っこしてよ!怖くなったら逃げ込んでいくからさ!」「ああ、不安になったら必ず来い!」中島ちゃんは少し明るさを取り戻した。「過去に何があったのか?まずはそこからね」道子が厳しい表情で言う。「生半可な事じゃなさそうだ。どうやら“坊や”と直接対峙しなきゃならないだろうな。無論、簡単には引き下がるつもりは無い。彼女を守り切る。そのために何をすればいいのか?考えて見よう!」「Y、手加減は・・・」「そんな失礼な事するか!相手が誰であろうが全力で立ち向かう!それが僕のやり方だ」僕は道子を制して言った。「アンタらしいね。自ら先頭に立って立ち向かう。だから、みんなYに着いて行くのよ!昔はそんな姿勢は見せなかったのに、10数年経って随分と変わったものだわ」道子が肘で僕を突く。その表情穏やかだった。

「あたし、中学の頃は部活でバスケやってたのよ。2年の時に男子の方に入って来たのが石川君なの。眉目秀麗・成績優秀、バスケも結構上手くて直ぐにレギュラー入りしたの。ただ、身体が小さかったから、大柄な相手に対して切り返す方法とか、フェイントの掛け方とかは、あたしも教え込んだの。そのせいかも知れないけど懐かれちゃって“中島先輩は僕の専属トレーナー”なんて吹聴されたりしたの。お陰で彼のクラスの女子からは睨まれるし、部活内でも噂になってね“公認”される関係に強引に彼が持って行ったのよ。3年の最後の大会の直前に、あたしは足首を痛めて公式戦に出られなかったんだけど、彼は献身的に支えてくれた。でもね、あたしはそれが“重荷”だった。辛くて逃げ出したかった。彼にやさしくされればされる程、苦しかったのよ。“あたしじゃ彼と釣り合わない”って思ってしまって。部活を引退して、進路を選ぶ時にまず考えたのは“バスケ部”の無いとこ、そして偏差値が身の丈にあうところ。彼は、バスケ部もあり偏差値の高い公立か私立に進学すると踏んだのよ。そしてここへ来て、Yに出会ってホッとしたの。Yは何よりもまず相手の心を見るし、仲間になったら“とことん付き合ってくれる”でしょう?“あたしの居場所はここにある”って思えたらどれだけ楽になれたか・・・。でも、入学式で石川君を見つけた時は、それこそ“凍り付く”様な感覚に襲われたの。“また、地獄に真っ逆さま”かと思ったら、全身の震えが止まらなかった。彼の特徴は“何事に対しても臆せず立ち向かえること”と“独占欲が強い”こと。一長一短はあるけど、“思い込んだら一直線”なのよ。だから、あたし困ってしまったの」と中島ちゃんは一通りの話を終えた。ダージリンの入ったカップを置くと僕は「彼の辞書に“諦める”と言う文字は無さそうだね。中島ちゃんを追って来たんだから、早晩押し掛けて来るは目に見えて明らかだろう。さて、どうやって跳ね返すか?」僕は思慮に沈んだ。「厄介なヤツに食いつかれたもんだ。参謀長、生半可な事じゃ諦めさせるのは難しくねぇか?」竹ちゃんが指摘する。「竹ちゃんの言う通り簡単な事じゃない。彼にしても、ここへ来た以上“是が非でも手にする”覚悟だろう。だが、僕も“生半可な事で引く”つもりは無い。中島ちゃんは僕等の大切な仲間。後から来て“僕に優先的に付き合う権限があります”なんてセリフで“はい、そうですか”なんて言える訳が無い!」「でもさ、現実的にはそう言って連れ去るつもりじゃないかな?」「有無を言わさず“略奪”されたらどうするのよ?」雪枝と堀ちゃんが懸念を示す。「俺もそんな気がするぜ!中島を“略奪”するのがヤツの目的なんだから、本人の意思や周囲の声に耳を貸すとは思えねぇな!」「それなら教えてやるしか無いな。“思うがままに人は動かせない”って事をさ!」僕がそう言った瞬間、準備室のドアがいきなり開けられた。「中島先輩!」「石川君!」中島ちゃんが凍り付いた。ご本人がやって来たのだ。

「何でここに来たのよ!」中島ちゃんは半狂乱だ。「教室を訪ねたら、ここだと教えられました。先輩、お付き合いして下さい。先輩は僕のモノです!誰にも渡しはしません!」彼は真っ直ぐ中島ちゃんに迫って行く。「おい!坊主!礼儀がなってねぇな!ドアを開ける際はノックして“失礼します”ぐらいは言うもんだぞ!」竹ちゃんが立ちはだかった。「僕は中島先輩に話があるんです。邪魔しないで下さい!」「ここまでは、黙っててやる。だが、礼を欠く様な真似は許さねぇ!上級生に向かってどう言う口を聞けばいいか?少しは考えて喋りな!」竹ちゃんが怒り心頭で喚く。“思い込んだら一直線”。確かにそうだ。だが、それでは社会全般の常識からは外れる。上級生としては、下級生に対して“教育的指導”をする義務がある。僕は中島ちゃんに眼で合図を送り、僕の膝に座る様に促した。彼女は急いで僕の膝に座り込み肩に腕を回した。「貴方は誰です?」石川君が僕を怪訝そうに見て言う。「参謀長に向かって何て口を聞きやがる!礼儀をわきまえろ!」竹ちゃんが1歩前に出た。「竹ちゃん、もういいよ。後は僕が引き受ける。石川君だったね。私は“参謀長”と呼ばれているクラスの中のトップの1人だ。今まで相手をしていたのは、委員長の竹内先輩だよ。ここは、私達のクラスのトップの溜まり場兼作戦会議室だ。つまり、君は我々の領域に“不法に侵入した”侵入者だ。竹ちゃん、久保田達を呼んでくれないか?強制排除したいのでね!」口調は穏やかだが、眼は威嚇するため逸らさずに睨みつけた。石川君が微かに怯んだ。「おう!いけすかねぇヤツだからな!今井を呼んで来るぜ!」竹ちゃんは眼で合図すると教室へ向かう振りをして廊下へ出た。閉じ込めるためだ。石川君は浮足立った。「石川君、失礼な物言いを謝りなさい!それと礼儀を忘れたの?貴方も高校生になったのだから、少しは大人にならないとダメでしょう!」中島ちゃんの通る声が響く。「すっ、すみません。失礼しました。中島先輩、“参謀長さん”とはどう言う・・・」「あたしのパートナーよ!他の4人もそう!君に付け入る隙はもう無いの!」中島ちゃんは必死に言って僕にしがみ付いた。「石川君、さっき君は中島を“僕のモノです”と言ったね?先輩を“モノ”呼ばわりするのが君の主義なのか?人はモノではないぞ!人として見なくてはクラスを掌握して牽引して行くのは無理だ。委員長を辞退しなさい!それと、例え1年と言えども先に生まれた人に対しては、敬意を払うのは当然の事だ。上下関係を学び直して出直して来るがいい!」僕も追い打ちを掛けた。「どうして、僕が委員長になった事を知っているんです?」石川君の顔から血の気が失せた。「我々を侮るな!尻に殻を着けた雛鳥の事など見なくとも容易に推察が付く。人の心や先生の言葉の裏を読めない内は、ここへ立ち入る権利はない直ぐに立ち去るがいい!」僕はダメを押しにかかる。「せっ、せめて先輩の返事だけでも聞かせてはもらえませんか?」彼の足は震えが来ていた。「その必要はない。さあ、帰るんだ!」僕は突き放した。「どっどうしても返事がきっ、聞きたいのです。おっお願いします!」彼は粘り腰を見せた。「どうしてもか。ならば、条件がある。さち、僕のノートとボールペンを取ってくれるかい?」「あいよ、これでいい?」僕の手にノートとペンが押し込まれた。僕は“本日天気晴朗ナレドモ波高シ”と書いてノートを切り取ると彼の方へ投げた。「明治38年5月27日、午前6時。連合艦隊旗艦、三笠艦上から東郷長官が大本営宛てに“敵艦見ユトノ警報ニ接シ、連合艦隊ハ直チニ出動。コレヲ撃滅セントス”と暗号文を打電した際、主席参謀秋山中佐が平文で付け加えた一句がそれだ。“本日天気晴朗ナレドモ波高シ”この一句で秋山中佐が何を言い表したのか?それを3日で解読して来るがいい。それが出来たら、中島本人の口から返事を聞かせようじゃないか!」「えっ!これを解読?どうやってです?」彼は呆然として言った。「それは私の知る所ではない。裏に何が秘められているのか?よーく考えて見る事だ!人は表裏一体。何気ない言葉の裏の裏を見据えなくては委員長は勤まらんはず。中島の真意を知りたければ、与えられた時間で読み解いて来るがいい」僕は粘る彼に課題を出した。解けなければ返事は聞けないのだ。簡単には調べは付かないし、当時の時代背景も考慮しなくてはならない。暗号の解読と言う課題で、彼の秘められた能力を試す。賭けではあったが、石川と言う3期生が“使えるか否か”を僕は試したのだ。「わっ分かりました。解いて見せましょう」彼はフラフラとした足取りで部屋を出て行った。「Y!あんな約束して大丈夫なの?」堀ちゃんが詰め寄って来る。「“海の史劇”を読まれたアウトじゃない!」膝の上の中島ちゃんも言う。彼女はまたしても僕の左手を自身の胸に押し付けている。「“海の史劇”には書かれてないよ!“坂の上の雲”って言う長編小説を読まない限り、答えには辿り着けないさ」僕は空いている右手で中島ちゃんの髪を撫でながら言う。「“坂の上の雲”って、Yの大好物の“暗号文書”でしょう?」道子がニヤニヤしながら言う。「ああ、結構長いよ。読破するのに僕でも丸々1週間はかかるだろう」「Y、そろそろ不純異性交遊を止めな!」さちが睨む。「あっ!Yごめん!つい、調子に乗ってやっちゃった!さち、Yの左手はあたしが勝手に押し付けただけだからさ、不純な動機で触ってる訳じゃないよ!」中島ちゃんは慌てて僕の膝から降りた。「なら宜しい。Y、何を企んでるのよ?」「そうだよ、何を狙ってる?」さちと竹ちゃんが詰め寄って来る。「石川君が“使えるか否か”のテストだよ。彼、頭は切れるし度胸もある。3期生からも“参謀”を加えたいから、適性を見極めたくてさ。勿論、礼儀作法は教えなくちゃならないが、あれだけの逸材を原田に取られるのは癪に障るし!」「まさか、彼を仲間に入れるつもり?」雪枝が驚愕する。「最初は半端なヤツなら、追い返すつもりだった。だが、彼は最後まで諦めなかった。そこを認めてやっての“課題”だ。まず、答えは解けないだろうが、彼がどう“解釈”を展開するか?楽しみに待つとしましょう」「Y、妥協点が“参謀として採用”って事?」「中島ちゃん、彼を恐れる必要は無いよ。僕等は決して揺るがない。昨年度を通して戦った仲間たちが居るんだし、修羅場を潜って来た回数が違う。ポッと出た3期生に何が出来ると思う?彼にはどう映ったか分からないが、足元にも近寄れない存在に怯える必要はない。毅然として対処すればいい!」僕は中島ちゃんの肩を軽く叩いて言った。「そうね、十中八九“仲間に入れてくれ!”って懇願されるのは目に見えている。ならば、引き入れて味方に付けた方が得策。そうでしょ?」道子が聞く。「そうさ、今は周囲が全く見えていない迷える子羊に過ぎない。だが、彼を生かす事が出来れば僕等の力は更に揺ぎ無い物になる。タダの飛車で終わるかそれとも翻って龍となるか?そこを良く見てやらないとな」僕は5月以降を意識していた。“陣形を整えて待つ”石川君の存在は、やがて大きな柱となるのだった。

翌日、今度は堀ちゃんに“お鉢”が回って来た。靴箱に手紙が仕掛けられていたのだ。「Y、どうしよう?物凄く気味が悪いのよ!」教室の前の廊下で堀ちゃんは怯えていた。「差出人に心当たりはあるの?」僕が聞くと「中島ちゃんと同じく、中学の後輩からよ。あたし軟式テニスやってたから。部活の後輩の男の子に間違いないの!」堀ちゃんは身震いする程怯えていた。「何か妙だな?入学式からまだ3日しか経過していないのに、こんな恣意的な事が連発するのはおかしいぞ!竹ちゃん、道子、至急調べて見てくれないか?クラス内、いや学年全体にこうした“攻撃”が仕掛けられていないかどうか?」「それってもしかするとKの仕業を疑っているのか?」竹ちゃんが言う。「まだ、証拠が揃ってないから何とも言えないが、僕等の学年全体に同様の“攻撃”が仕組まれたとすれば、意図的な“撹乱”を疑う必要がある。特に通学区の西側の中学の後輩達が、一斉に仕掛けたとすればKが関与している疑いは濃いね!」「まさかとは思うが、一応調べてみるか!伊東に言って原田を動かして見よう」「あたしは笠原さん達に当たりを付けて見るね!コネクションを通じて他のクラスにも該当者が居ないか探ってみる」2人は直ぐに動き出した。「堀ちゃん、昨日、中島ちゃんにも言ったけど、返事はしなくていい。毅然とした態度で居てくれればそれで充分だ!」「Y、本当にそれで大丈夫なの?」堀ちゃんは僕の左腕にしがみ付いて震えている。そっと彼女を抱き寄せると「どうも、大きな意思を感じるんだよ。僕等を“混乱”させて精神的にダメージを与えようとしているヤツの存在をね。もし、そいつが牙を剥いているとしたら、即刻叩き潰してやる!」「そうじゃないとしたら?」「みんなで追い詰めてハッキリと言ってやればいい。“生半可な気持ちでは、僕等は揺らがない”ってね!」堀ちゃんは僕の胸に顔を埋めて「Y、守ってくれるよね?」と聞く。「ああ、みんな僕の大切な仲間達だから、手は抜かない。キッチリと決着を付けよう!」「うん」堀ちゃんも僕の背中に腕を回す。「しかし、これは明らかに妙だ。誰かが“悪意を持って”やっているとしか思えない。まあ、思い付く犯人に辿り着ければいいが・・・」ひとしきり堀ちゃんとくっ付きながら僕は考えを巡らせた。“悪い予感は往々にして当たる”と言うが、今回も予感は的中してしまうのだった。

その日の昼、緊急の“K査問委員会”が招集された。弁当を持ち寄り、昼食会を兼ての開催だ。「参謀長からの依頼について調査した結果、奇妙な事実が判明しているので報告をする。道子、クラスの女子の方からだ!」竹ちゃんが指名して道子が説明を始める。「クラス内の女の子達の手元に、次々と3期生からの手紙が押し寄せています。何れもO市の中学の後輩からもので、申し合わせたようにここ2~3日の間に寄せられています!」「うーむ、キナ臭い匂いがするな。千里、具体的な内容は?」「交際を迫るモノばかり。これも、申し合わせたように一緒なのよ!」「伊東、原田からの回答は?」「同じ事が学年全体で起こっているらしい。原田の“情報網”と“諜報活動網”も、まだ完全に整備が整ってないから、断定は出来ないが、O市の中学の後輩からと言うのは共通している。ここ2~3日の間にばら撒かれたのも同じ。原田が言うには“組織的に犯行ではないか?”と言っているし、“3期生の間に既に地下組織が形成されている証拠では?”と疑っている。実際、実害もチラホラと聞こえている様で、原田も対応に追われている」伊東の話は一同に衝撃を与えた。「うむ、マズイな。これでは学年全体が動揺してしまう。小佐野からの回答も同じだ。“誰かが意図的に混乱を招く様に仕向けているとしか思えん”とな。いずれも確たる証拠は出ていないし、原田も首謀者に心当たりは浮かんではおらんのだろう?」長官が問う。「ええ、巧妙に元が割れない様に仕向けられている様です。原田も追ってますが、3期生へのルート開拓の途中なので、手が回らない状況です」伊東が悔しそうに言う。「この手の仕掛けをやるとしたら、1人しか居ない。Kじゃないか?」久保田が言い出す。「過去の事案からしても、この手の撹乱作戦をやれるのは彼女ぐらいのはず。断定してもいいんじゃない?」千秋も同調した。「だが、肝心の証拠が無い!どうやってO市の中学の卒業生に指示を出したのか?それすらも掴めていないんだ!限りなく“グレーゾーン”ではあるが、断定するには証拠も出ていないし裏も取れていない。故に止める手立ても無い。推測で決めつければ相手の思う壺じゃないかな?」僕は慎重論を取った。「確かに、参謀長の言う様に、現段階で“決めつけて”しまえば逆に名誉棄損で訴えられるだけだ。相手の狙いはそこにあるのかも知れん。この案件は根深くしかも巧妙に細工がされている。従って、慎重に事に当たらなくては我々が罠に落ちてしまう!伊東、原田のルート開拓はどの程度進行している?」「まだ、始まったばかりですよ。該当者のピックアップを終えた段階です。そこへ今回の揺さぶりですから、ヤツも火消しに躍起になってます!」「小佐野ルートでは、2名の有望な者との接触に成功したばかり。本格的に活動をさせるとしたら、どうしても2週間はかかってしまう。いずれにしても、後半月は持ち堪えなくてはならない。どうしたものか?」長官が思慮に沈んだ。「学校側に“通報”するにしても証拠が無いとしたら、無駄足になります。ここは1つ“しらみ潰し”に1件1件消し止めるしか無いでしょう。我々が揺らがなければこの作戦は成功しません。今は足元を見られていますから、3期生との間に亀裂を生じさせない様にするしか無いのでは?」僕はローラー作戦を提起した。「参謀長、気長に構えている場合か?大火になったら手が付けられん!証拠が無くても“通報”すべきじゃないか?」久保田は積極論を言う。「しかしだ、それでは3期生との間に亀裂を生むだけだ。黒幕の目的は“撹乱”に乗じて“亀裂”を生む事。最終目的は“3期生を意のままに操る事”だとしたら、逆効果になる。手はかかるが、確実に消し止めて証拠を掴むしか勝機は無いよ。まずは、クラス内と学年全体を鎮静化させる事だよ。原田の手も借りてな」僕は久保田に噛んで含める様に返した。「どうやら、それしか無いだろう。まずは、我々が揺るがぬ事が第一。次は証拠を掴む事。第三は野火を確実に消す事。そして最も重要なのは“相手の仕掛けに乗らぬ事”だ。久保田、1期生に繋ぎを付けてくれ。応援を要請するんだ。我々の手に余る事案は1期生の手で消し止めるしかない。伊東、原田からも1期生に応援要請を出させろ!時間を稼いでからルート開拓を急がせるんだ。証拠を掴むにはそれしか無い。滝さんはO市の中学の卒業生ルートを洗ってくれ。Kが接触もしくは当たりを付けた痕跡を探して欲しい。千里と千秋はクラス内の鎮静化を図れ。手紙が来ても単独行動は避けて、集団で解決に当たらせろ。参謀長は、千里と千秋の方に手を貸すと同時に3期生を数名吊り上げる算段を立ててくれ。向こうの事情を探って動向を見ると同時に証拠の入手に当たるんだ。ワシは小佐野と協力して逆情報を流して見る。“学校側が不信感を抱き始めている”とな。少しは鎮静化させられるかも知れん。容易ではないが、攻撃に対して狼狽えるのが最もマズイ。まずは地道に消火活動を展開しよう。反転攻勢への糸口を手にするにはこれしか無い!」長官が皆目して断を下した。「難しいのは百も承知。だが、ここで踏ん張れば勝機はある!みんな、しばらくは耐えてくれ」誰も異論は言わなかった。新年度早々に降って湧いた騒動だが、黒幕は果たしてKなのか?誰にも分からなかった。