limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

life 人生雑記帳 - 11

2019年04月11日 16時36分02秒 | 日記
翌朝、いつもの時間に“大根坂”の中腹当たりで立ち止まって、後ろを振り返ると、1人登って来る女の子が見えた。「Y-、おはよー!」「さち!みんなはどうした?」さちが1人で追いついて来た。「分からないのよ。でも、いいの。Y、一緒に行こう!」と言うと、さちは自ら僕と手を繋いだ。「まあ、いいか。初めてだな。こうして2人で歩くのはさ」「うん、あたしもYと2人で歩いて見たかったから」僕等は黙々と坂を登る。近道の小道を避けて、正門から昇降口へ向かう。「Y、はい、ポカリだよ」さちがボトルを差し出した。「さち、昨日、堀ちゃんに保健室へ連行されるの見てたろう?」「うん、だから今日はあたしの番。本当は昨日もあたしが連れて行きたかった。堀ちゃんに負けたくないし、取られたくはないの。Y、あたしを置いてくな!」と言うと、さちは僕の首にネクタイを巻いてくれた。「これ、さちのヤツじゃないか?いいのか?」「あたしの分身を付けてて。あたし達は常に共に居られる。その証を渡して置きたかったの」そう言うと、さちは僕のネクタイを巻いた。ネクタイの裏には刺繍で苗字がアルファベットで縫い付けられている。ちょっとした事だが、さちにとっては“大事な事”なのだ。僕等は教室へと入った。机に鞄を投げると、窓を開けて窓辺に2人で並んだ。「さち、襲うぞ!」と言うと僕はさちを強く抱きしめた。殴るか暴れるか何かしらの反応があるとは覚悟していたが、さちも僕の背中に腕を回している。「襲われたの初めて。あたしでいいのか?」さちが嬉しそうに聞く。「さちでないとダメだ。だからこうして襲ってるんじゃないか!誰にも渡さないぞ!」「その言葉を聞きたかった!Y、あたしも誰にも渡したくない!絶対に!」さちは涙声になった。「だったら離れるな。もう、泣かなくていいから。さちを置いてったりはしないよ」さちの髪をそっと撫でると彼女は何度も頷いてしっかりと抱き付いて来た。

ひとしきりの抱擁を終えると、さちはノートと参考書を持って黒板の前に僕を引っ張って行った。「Y、答えてくれる?明の時代から“一帝一元制”になったのは分かるんだけど、洪武帝が“太祖”なのに、永楽帝が“成祖”と書かれているのは何故?」さちが小首を傾げて聞いている。「それには、永楽帝が“どうやって即位したか”が関係してる。“靖難の変”としか書かれていないが、4年間の内乱の末に“力づく”で帝位に着いたから“ほぼ新王朝を創始したに等しい”と見なされたからだよ。“祖”の字が廟号として使われるのは、王朝の創始者か“同等の地位にある”と見なされた皇帝だけ。永楽帝は明王朝の性格を根本から作り変えた人物だから、“祖”の字が廟号として付いたのさ!実は、洪武帝と永楽帝の間には1人、別の皇帝が埋もれて居るんだよ!」「それって、どこにも記述が無いよ!どう言う事?」「長くなるが、順を追って説明するよ。洪武帝には、当然皇太子が居たんだけど、生前に亡くなってしまったんだ。そこで皇太子の子“皇太孫”を立てて帝位を継がせた。“建文”と言う元号を定めたから、建文帝と呼ばれる皇帝が立ったんだ。ここまではいいかな?」「うん」「建文帝が即位した当時、洪武帝の息子たち、つまりは叔父さん達が各地に王として赴任していた。建文帝としては、叔父さん達に反乱を起こされて帝位を追われるのを恐れた。だから、あれこれと理由を付けて叔父さん達を追い出しにかかった。その中に燕王、後の永楽帝も含まれていた。建文帝がもっとも怖がっていたのが、燕王だったんだが、追い出す理由が中々見つからなかった。燕王としても“いずれは自分も追い出される!”って確信が芽生えた。そうなれば、追い出される前に先手を打って置くのは道理だよね?だから、燕王は軍隊を集めて反旗を翻した。4年に渡る内乱“靖難の変”はこうして始まった。ここまではどう?」「続けて」「内乱は、一進一退を繰り返して続いた。燕王にして見れば“大義名分”が無いから、必ずしも優位に立てたとは言えない。建文帝も優柔不断で決断に欠けた。“叔父さんを殺めたと言う悪名を背負わすな”って言ってるんだよ。詔でね。こんな事言われたら、軍隊も勇んで戦うのは無理だ。結果的に燕王が大逆転で首都を陥落させて、内乱は終わった。建文帝は死んだのか逃げたのか最後まで分からなかったけど。勝った燕王は即位して“永楽”と改元して永楽帝と呼ばれる皇帝になった。そして、歴史の“改ざん”をやった。つまり、洪武帝が死んだあとも“洪武”の元号を続けて、“建文”2文字を抹消したんだ。つまり、洪武帝から永楽帝に帝位は継がれて、4年間は皇帝が居ない“空位”だったと改めたのさ。建文帝の存在そのものを消し去ったんだよ。そして、首都を南京から北京へ移した。明王朝の性格も“民族主義型”から“世界帝国”へと変貌した。鄭和の艦隊の航海で、明の威信を広めたのは載ってるよね?」「確かに。それで“成祖”なのかー。でも、消された“建文帝の存在”はどうなった訳?今も消えてるけどさ」「完全に“抹消”されてる訳じゃないよ。“靖難の変”から193年後の万暦帝の時代になって、“建文”と言う元号が存在した事は認められてる。建文帝の即位が認められたのは、明が滅びて92年後の清の乾隆帝の時代。建文帝の死後330年後に次の王朝から承認されてる。明史“恭閔帝本紀”にもちゃんと書かれてるよ。ただ、これだけ“ややこしい話”だから、教科書からは省かれてるけどね」「Yはこの“ややこしい話”を何故知ってるのよ?」「調べたのさ。僕も、さちと同じく“成祖”の廟号に疑問を感じてね。掘り下げたら、こう言う裏があった訳」「あー!何か難しい授業してる!さち!ズルイよ!Yを“独占”して!」道子達が遅れてやって来た。「俺には理解不能な案件だが、何の話だよ?」竹ちゃんが頭を掻きながら言う。「“成祖”永楽帝の誕生秘話。教科書に載ってない案件さ」僕は肩を竦めて言う。竹ちゃんは板書を見て「こう言うヤツはサッパリ分からねぇ!参謀長、どうやって調べてるんだよ?」「関係するモノを読み漁って調べるのさ。裏を取る作業と同じだよ」「菊地嬢の動きは掴んだのかよ?」「ああ、次のターゲットは伊東だ!面白くなりそうだよ!」「何がどうなるってんだ?伊東を落とす以前の問題があるだろうに!」竹ちゃんが指摘するが「伊東は落ちない。菊地嬢はとんでもない“見落とし”をしてるんだよ!」「赤坂とはタイプは違うが、伊東も相当な堅物だぜ!女に手を出すはずが無いだろう?」「そこが意外に穴なんだよ。長官に聞けば分かるが、伊東には既に“意中の相手”が居る!」「マジか?!誰だよ?伊東のお相手は?」「後で話すよ。竹ちゃん、1期生はどうなってる?」「今回の講習には参加しないのは分かってる。俺の方でも遮断する手筈を取って見た。効果は分からねぇが、ある程度は誤魔化せるぜ!」「長官と伊東が来たら、スパイ大作戦の結果を打ち合わせる。ともかく、今日からの動き次第で結果は変わるよ。隙を縫って打ち合わせが続くけど、協力を宜しくな!」「任せな!着いて行くからよ!」不敵な笑みが浮かんだ。さちは、僕の話を4人に聞かせていた。聞いている4人も熱心にメモをしつつ聞き入って居た。

「参謀長、菊地嬢の作成した“クラス男女相関図”だが、良く出来ているが“落ち”もかなり見られるな。伊東について見誤るとは、彼女もまだまだ甘い」長官はノートを見ながら言う。自分なりに整理したモノと対比している。「そうですね。見当違いな見方をしてくれている分、我々にも付け入る隙が随所に見受けられます」僕もノートに整理したモノを見ながら返す。「へー、長官と参謀長と俺は対象外にしてやがる。だが、久保田についても間違えてるぜ!アイツは1期生の女に眼を付けられてるし、本人も乗り気だ。そこが見えてねぇとはお笑いだ!」竹ちゃんは僕のノートを一緒に見て言う。伊東は長官のノートを見ている。「次のターゲットは伊東、お前さんだが、逃げ切れるかなー?」竹ちゃんが笑って言う。「そこは心配無用だろう。伊東なら揺るがないのは知ってるよ。何せお相手が“半端なく険悪”だからな!」僕が言うと「確かに。下手な手出しは怪我の元。菊地嬢とてタダで済まんからのう」「参謀長、伊東、相手は誰なんだ?」「竹ちゃん、笑うなよ!お相手は小川千秋だ!」僕が名を告げると「まっ、マジ!ニトロより険悪だって言う千秋かよ・・・」竹ちゃんが絶句した。“ニトロより険悪”と言うのは男子が付けた通称だが、クラスの女子の中でも千秋は、性格がキツクて、とにかく手厳しい事で有名だった。勿論、男子が気軽に声をかけられる存在でも無い。話が通じるのは、僕と長官と伊東だけだった。「伊東、ゲテ物が好みだとは盲点だった」竹ちゃんがしみじみと言う。「そうでもないぞ!彼女は鎧を着てるだけだ。内心は結構さみしがり屋だよ」と伊東が言う。彼女のそう言う1面を看破しただけでも、伊東の眼は確かだと改めて思った。「まあ、それはいい。お前さん達の事だからな。だが、菊地嬢はまったく眼中に無いのが躓きの元になる。いよいよ、時が来たな!」長官が穏やかに言う。「ええ、裏を取るには絶好の機会到来ですよ。それで、何から手を付けます?」「赤坂君へのケアはどうなっておる?」「竹内と俺とで話は付けてあります。初めは動揺しましたが、今度手紙が来ても気にしない様に言い含めてやったら安心しましたよ」伊東が言うと長官は僕を見た。「有賀にもそれとなく“赤坂君を手助けしろ”と言ってあります。今も見てもらえば分かりますが、有賀と佐藤が貼り付いてますから、彼に対する手は問題ないでしょう」僕は指を指した。有賀と佐藤が赤坂にベッタリ貼り付いている。ガードとしては完璧だった。「ならば、伊東、久保田の順にターゲットを換える事になるな。しかし、いずれも揺るがぬ。菊地嬢はターゲットに迷う事になるな。1期生との“契約”では“ターゲットを滞りなく紹介する”事になっている。違背すればペナルティとして“学習支援の打ち切り”と“違約金”が発生するはず。そこまで持ち込むのが筋だろう」長官は静かに言った。「その間に出来るだけの証拠を挙げて担任に通報する。裁きは一任で」僕はセリフを引き取って言う。「更に1期生との間に不信感を植え付ける。竹ちゃん、手は回ってるのか?」「昨日、菊地嬢宛てに“爆弾”を放り込んである。今は反応待ちだよ」「手は尽くしてある。舞台は整った。後は、演目を見ていればいいか?」僕が言うと「そうだな、我々が動くのは現状ではここまでだ。落穂拾いはやらねばならんが、しばらく優雅に過ごして居られるだろう。参謀長、その間に“製作”を頼む!“あれ”が完成すれば俄然有利に事を片付けられる」「はい、この休み中にメドをつけましょう。難題ですが、1つづつ問題はクリアしてます」「済まんが任せる!必要なモノがあれば言ってくれ。こちらも何とか手を貸そう」「滝に言って置きますよ。では、解散しますか」僕等は打ち合わせを終えると三々五々講座へ散って行った。

講座の間を縫って放送室へ潜り込むと、滝が黙々と基板と電子部品に向き合って居た。「どうだい?メドは付きそうか?」僕が言うと「ああ、大分小型化に持って行けそうだよ。マイクの設置のメドも付いた。まさかACアダプターを流用するとはな!俺には思いつかなかった事だよ」滝もにやけて言う。「例えばだが、各教室のスピーカー内へ押し込む事は出来そうか?」「ケースを省けば行けるだろうな。ただ、コンセントをどうする?」「天井板を数枚剥がせば、上にあるコンセントへのアクセスは出来るだろうよ。ブレーカーさえ遮断すれば、裏から直結で取れないか?」「悪知恵も働くねー。そうすれば、配線も隠せるな!」滝も乗って来た。「欠品は無いか?長官が“調達”に動いてくれるらしい」「今のところOKだ。ここに転がってるガラクタから必要な部品を拝借してるが、何とか間に合うだろう。試験が出来るまでにするには、来週まで待ってもらうけどな」「慎重に進めてくれ。今回を逃すと冬休みになっちまう。あまり“待たせる”のも本意ではないからな」「そうだな。今が一番楽に“工事”がやれる時期だ。細心の注意を払ってやるとするか!」「休みながらでいい。確実に行こうぜ!」「了解だ。おい、そろそろ講座の時間だぞ!間に合う様に行けよ」「おっと!ヤバイな。じゃあまた後で」「急げよ!塩ちゃんは煩いぞ!」僕は放送室から抜け出すと講座へと急いだ。

塩ちゃん講座が終わり、一息入れていた時の事だ。「参謀長、あれ、ヤバくねぇか?」と竹ちゃんが指を指した。有賀・佐藤と談笑する赤坂を菊地嬢が見ているのだが、その表情は憎悪に満ち溢れていた。拳を握りしめてワナワナと震えている。「竹ちゃん、赤坂のカバーを頼む!僕は有賀を捕まえる!」「おう!」僕等は素早く決断して動いた。2人共何気なく声をかけて気取られない様にする。「有賀!悪いけどちょっといいかな?赤坂君、悪いけどちょっと借りるよ」竹ちゃんと話していた赤坂にも、さりげなく声かけをした。彼は黙して頷いた。竹ちゃんは巧みに赤坂をガードしつつ、廊下へ連れ出した。「Y、どうしたの?」有賀はキョトンとして言う。菊地嬢は僕等の行動によって腰を折られたのか、席に座って視線を逸らした。「これなんだけどさ、有賀にも葉書届いてるだろう?」「ああ、これねー!先生、ついにロスの日本人学校へ赴任するんでしょ!」「追伸欄を見て見ろよ!」「えーと、“ハンバーガーに飽きた頃にカップ麺を送れ!”って、これマジ?」「先生がわざわざ書いたところを見るとだな、本気で言ってるとしか思えん!冗談キツイぜ!ご丁寧に“住所”まで書いてあるしな!」「本当だ!それでどうするの?」「有賀、午前中で上がりだろう?悪いけどモッちゃんの店へ行って、いつ頃荷物を送るか聞いて置いてくれないか?多分、敏恵が“看板娘”をやってるはずだからさ!」「それはいいけど、敏恵とモッちゃんって未だに続いてるの?!」有賀の表情が緩む。「それが、意外にも“継続中”でね。高校が違うにも関わらず、2人の距離は縮まってるらしいよ!敏恵も今更ながらだけど、店を手伝ってるくらいだからその気はあるんじゃないかな?」「へー、あの2人がねー!盲点だったなー。Yが直接・・・とは行かないか!5人のレディ達を引き連れて行ったら、絶対に誤解されるもんね!」「それなんだよ!向こうも見て知ってるからさ、逆に行きづらいんだよ!悪いけど頼めるか?」「OK!あたしも興味が湧いて来たからさ、探りを入れて見る!何か伝言とかある?」「差し控える。多分、敏恵から突っ込んで来るだろうから“見たまんまだ”って答えて置いてくれ。下手に言い訳しても通用するは思えん!」「分かった。Y、助かった。菊地さんに因縁付けられそうだったから。何かあたし悪いことしたの?」有賀が小声で聞いて来る。「してないよ。気にするな。赤坂君を助けてやってくれ!まず、あり得ないけど“横恋慕”かもな。有賀の方が美人だし」「上手い事言うね。Yだって5人も抱えて大変な状況のくせにさ」「お互い様だろう?とにかくモッちゃん達に宜しくな!」「任せときな!あたし次の講座が明後日になるけど、結果はその日でいい?」「そっちの都合でいいよ。あまりからかって来るなよ!適当な線で引き揚げろ!」「あーい!Y、サンキュー!」有賀もホッとしたのか笑顔で僕の依頼を受けてくれた。竹ちゃんも引き上げて来た。「ふー、危なかったな!赤坂には“男なら女を守るのは当然だから、てめーも本気見せろ!”って発破かけといた。参謀長、そっちは?」「“因縁付けられそうだった”って有賀も察知してたよ。菊地嬢より“有賀の方が美人だ”って持ち上げて落ち着かせた。しかし、ヤバかったな。あり得ないとは思うが、菊地嬢は“赤坂狙い”だけでなく、個人的に“略奪する魂胆”だったのかも知れないな」「参謀長も、そう見えたのか?俺も同じくだよ。でも、本気で赤坂を落とすなら、有賀ぐらいの“ノー天気”でなけりゃ無理だ!菊地嬢は午後一で上がりだろう?」「ああ、それまで踏ん張れば、後は楽になる」「参謀長、午後はどうするんだ?」「さちと雪枝から世界史と日本史を見てくれって言われてるんだよ。そっちをやりながら竹ちゃんの補習授業が終わるのを待ってるつもり」「至れり尽くせりで申し訳ねぇ!じゃあメシは準備室か?」「鍵は借りてある。お茶を飲みながら優雅にいきましょう!」「手抜き無し。準備も万端か。午後はそっちで待っててくれるんだろう?」「ああ、終わったら来てくれ。場合によっては、放送室へ行くかも知れないけど」「了解だ!道子も預けるから宜しくな!」そう言うと僕等は次の講座に向かった。

昼休み、僕等は生物準備室で食卓を囲んだ。菊地嬢に気兼ねする事なく、自由にモノが言える点でもこの部屋が使える意味は大きかった。「参謀長、今回のこの一件のケリはどうするんだ?」竹ちゃんが聞いて来る。「僕等の手で始末を付けるには“事が大き過ぎる”から担任へ一任するしか無いと思うよ。確たる証拠は揃いつつある。後は、職員会議にお任せだよ!」「本当の話、首をねじ切ってやりたい気分なんだが、確実に事を収めるにはそれしかねぇな!」「本来の目的は“赤坂の成績急落の原因を突き止めろ”だから、半ば目的は達成してるんだけど、どうせなら“退学”を目指して追い込んで置くのもありだと思ってね。どちらにせよ、菊地嬢にとっては“大打撃”になるからね」「報告はどうする?」「来週の半ばには“中間報告”をやるつもり。2学期が始まる頃には、白黒付けてもらわないと。“次は無い”はずだから、そこをどう判断するか?校長以下、職員がどう出るかね?」「微妙だな。“退学”スレスレか、首の皮1枚で繋がっちまうか?バッサリ切られるか?」「どっちに転んでも厳しい現実を思い知るだろうな。グループも空中分解に持って行きたいし」僕はカップに紅茶を注いで言った。ちなみに、オレンジペコが本日のお茶だ。その時、内線が鳴った。僕がここに居るのを知っているのは滝だった。「どうした?」「ちょっと、放送室へ来てくれないか?面白いモノを録音した!」「分かった。直ぐに行く」受話器を置くと「放送室から呼び出しだ。さち、ここの鍵を預かって」とさちに鍵を託して、急いで放送室へ出向いた。「滝、何を掴んだ?」僕が言うと「ヘッドフォンを付けろ。耳を澄ましてよーく聞き取れ!」と言われた。ヘッドフォンを付けるとテープが再生された。こもった声だったが、女性の喋る声が聞こえた。内容は僕を凍り付かせるモノだった!「滝、どうやってこれを?」僕は唖然としつつ問うた。「実はな、各教室に設置されているスピーカーの予備を見つけたんだ。それで、中にどれくらいのスペースがあるか?と思って分解している途中に閃いたんだ!“回線をいじれば録音が出来るんじゃないか?”ってね。それで、ちょいといじって見たら、ビンゴだったのさ!」「発想の転換か?それでさっきの声が録れた。そう言う事か?」「ああ、勿論、聞きやすい様にイコライザーである程度調整してあるが、面白かっただろう?」「背筋が凍ったぜ!まさか“原田の上納金が勝手に流用されて、菊地嬢の懐へ流れている”とはな!長官は知ってるのか?」「そっちへ言う前に報告してある。“参謀長に言って、至急菊地嬢の身辺を洗え”って言ってたぜ!」「そうか、1期生のKってヤツだが何者だ?」「ウチの高校の左側を抑えてる元締めさ。原田の“上司”に当たるヤツだよ。そこから黙って金を引き出しているが、ワルの方の1期生の女さ。菊地嬢はそれを承知して黙認してはいたが、手持ちの資金が枯渇しかかってるから焦ってるって事よ」滝は平然と言った。「確か、初期投資で3万とか言ってたな。追加分で2万。合計5万もの金が良くあったもんだ!」「1年12ヶ月、毎月上納金を集めてるんだ。そのくらいは貯まるよ。だが、“無断で流用した”事に意味がある。もし、原田に漏れればどうなると思う?」「タダで済む話じゃない!ヤツだって毎月必死で集めてるんだ。運が良くても“倍返し”か、悪ければ身ぐるみ剥がれて“退学”だろう。所詮は自業自得だがマズイな!今、原田に食いつかれるとややこしくなる。こっちの“見込み”が狂う。Kと原田に吊るされるのは避けなきゃならんぞ!せめて来週まで伏せられないか?」「それは分からん。Kが金勘定をすれば、直ぐにもバレるぜ。そうでなくても菊地嬢は“金欠病”なんだ。1期生に泣き付かれたら“芋づる式”に発覚してもおかしく無い。どうやら、破滅への道が扉を開けて待ってると見て間違いないだろう」滝の言葉は地獄からの招待状の様に響いた。「帳簿がどうこう言ってたが、どこに隠してある?恐らくは身辺に秘匿しているだろうが、それを処分される前にコピーを手に入れなきゃならん。クソ!何処だ?」「そこまでは言ってなかったよな。ただ、手掛かりはあるぜ!菊地嬢のロッカーさ!長官もそう言ってた」「となると、8桁の暗証番号が必要だ!待てよ・・・、そうか!生年月日か!」「当たり。彼女のヤツはこれだ。運が良ければ帳簿はその中にあるだろう」滝はメモを差し出す。「この事を知っているのは、長官と俺達だけか?」「ああ、本人達も加えれば多少は増えるがね」「滝、しばらくこの事は伏せて置いてくれ!長官には明日、テープを聞いてもらわなくてはならんが、最小限の人員で管理しなくちゃならないし、菊地嬢にも悟られたくは無い」「分かった。コイツの存在は俺の方で秘匿する。放送室から出さなければ知られる恐れはない」「済まんが、管理を頼む。僕は中島先生への繋ぎと菊地嬢のロッカーを探りにかかる。とにかく急がないと何もかもが後手に回っちまう!」「そうだ。とにかく急げ!証拠が消される前に動いて、一刻も早く担任を引っ張り出せ!」「了解だ!」僕は放送室を飛び出すと、教室前の廊下にある個人ロッカーへ向かった。幸い、人気は無い。菊地嬢は既に上がっているので、心置きなくロッカーと向き合う。こじ開けに成功すると、急いで中身を改める。「これだ!」A5サイズの帳簿は直ぐに見つかった。中にはキチント入出金が書かれている。ロッカーを一旦閉じると準備室へ戻り、コピーを取る。そして、明美先生のところへ電話を入れた。「中島先生は何処です?」「えっとね、静岡へ行ってるの。明後日にならないと戻らないわよ。Y君、どうしたの?」「大至急、先生に話さなくてはならない案件があるんです!重要でしかも時間が無いんですよ!」「どうやら、赤坂君の件が炎上したみたいね。それも、かなり状況が差し迫ってるって事ね。分かったわ!今晩、あたしからホテルに連絡を入れて、明後日の何時に帰るか聞いて見るわ!Y君の自宅の電話へ直接連絡する!」「お願いします!もう、僕等の手には負えません!緊急事態ですよ!」「落ち着いて。必ず連絡するから。ともかく、順序立ててキチント話せるように整理して置きなさい!証拠があるなら、確実にコピーを取って置きなさい!大丈夫。きっと間に合うから!深呼吸して、心を落ち着けたら行動開始!じゃあ、今晩連絡するから」明美先生は電話を切った。急転直下の展開に僕も慌てた。しかし、今、最も必要なのは“スピード”だ。「間に合えばいいが・・・」一抹の不安はどうしても消せなかった。僕は、菊地嬢の帳簿を元に戻すと、外を見た。真夏の日差しが降り注いでいる。だが、僕は風景すらも見ている余裕が無かった。「落ち着け・・・、ともかく焦るな。間に合う」自身にそう言い聞かせると、僕は準備室の片付けに戻った。何かしていないと焦燥感に襲われそうだった。