[「看」は手を目にかざしている図から]
言語学を学び、英語の教師を長年務めてきた私は、言葉(英単語)の語源を調べる習慣が身についた。多くの語がギリシャ語やラテン語に遡り、語源を知ると便利であった。例えば、「博愛・慈善」を英語で言えば、philanthropy であるが、これは ギリシャ語 philein, [to love] 「愛する」と anthropos, [man] 「人」の合成語である。このことが分かると言葉の成分や素性が分かって楽しく、その語が身近に感じられる。
しかし、日本に、あるいは広く言えばアジアに住む者として、私たちを取り巻いている言語の語源、あるいは文字の意味を知るべきではないかと思うようになった。具体的には漢字語圏に住む我々にとって漢字語が多くの語彙の基いとなっている。しかし、私は間もなく漢字やその扁、旁の元の意味を知ることが簡単でないことを知った。というのは、字義の起源に関して強力なあい反する説があって、インド・ヨーロッパ語族のように共通した語源に相当するものが容易には確定できないことを知ったからである。
簡単に言えば、形が先にあって意味が生じてきた、しかも草創期の漢字の成り立ちに於いて、呪術的・巫術的なものが背景にあったと主張した白川静が片方にあり、今日書店でも図書館でもこの著者の本が断然多い。他方、藤堂明保が中国語学、言語学の面から強く白川説を批判した。言葉は本来、音から始まるものであって、文字はその後副次的に道具として図示するために登場したものである、と言うのである。
白川の説は多分に呪術と結びつける傾向があって、私は藤堂の批判で正しい視点が得られたのではないかと思っていた。ところが次世代の落合敦思が藤堂を鋭く批判しているのを読んで、新しく関心を持ち始めたばかりの私はよほど腰を据えてかからないと頭の整理がつかない難問であることを知った。それで漢字の部首(扁、旁)について説得力を感じる範囲で知識を広げていけるのではないかと考えた次第である。例えば、示扁は神・祭りなどに関する文字を作ることを知れば、「祈、社、祷、福、祝、・・・」などがその仲間であることが納得できる。
参考文献
白川静「漢字 生い立ちとその背景」岩波新書 1970年4月
藤堂明保「書評:白川静「漢字」」、「文学」1970年7月号
田畑暁生「白川静ブームとその問題点」神戸大学大学院人間科学発達環境学研究科 研究紀要 第6巻第1号 2012 この論文がしっかり分析している。
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/repository/81004269.pdf
杉村博文「漢字を創る 中国語学から見た白川静博士の字源学」、「鵬翼」13号(2013)
落合敦思「漢字の成り立ち 「説文解字」から最先端の研究まで」筑摩書房 2014年。
役立ちそうな辞典:
円満字二郎「漢字ときあかし辞典」研究社、2012年 (大変易しい。読み物風、入門編。)
上田萬年他編「大字典」東京株式會社啓成社蔵版、昭和新版 (大変古く感じられる。分厚く役立ちそう。)
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そんなに深い説明はありませんでした
「偏は意味を表し、旁は韻を表す」と言われ、
同じ仲間の漢字を集めてくるように宿題が出ました
私も興味があったのでとても面白かったです
民主主義って、本当に見える人がいない、皆、目くらましを受けている・・・・
seer/聖見者はあらまほしきでしょうか・・・・
あったった・・・・
「漢字の起源 」
http://www1.ocn.ne.jp/~matsuo3/books/kanjinokigen.htm
民 眠る 目 藤堂明保
http://search.yahoo.co.jp/search?p=%E6%B0%91+%E7%9C%A0%E3%82%8B+%E7%9B%AE%E3%80%80%E3%80%80%E8%97%A4%E5%A0%82%E6%98%8E%E4%BF%9D&aq=-1&oq=&ei=UTF-8&fr=top_ga1_sa&x=wrt
民 眠る 目
http://search.yahoo.co.jp/search?p=%E6%B0%91+%E7%9C%A0%E3%82%8B+%E7%9B%AE+&aq=-1&oq=&ei=UTF-8&fr=top_ga1_sa&x=wrt
中国の研究者がどう語っているかにも注目したいと思っています。できれば、学説でどんな構図になっているのかおおよそでも知りたいという気持ちがしています。
まだまだ勉強したいことが・・・