すでに30年も前になるが、現在でも末日聖徒にとって大変参考になる優れた論文(英文)が見つかった。原題は「1949年以降の中国キリスト教界 -- 末日聖徒イエス・キリスト教会はどう受けとめればよいか」(Chinese Christianity since 1949: Implications for the Church of Jesus Christ of Latter-day Saints, 116 pages)で、著者はアジア学部ブルース・J・M・ディーンである。
当時はキンボール大管長が中国への伝道に深い関心を寄せ、教会がそのことに期待を抱いた時期であった。ディーンは1949年以前と以後について中国のキリスト教会が経てきた特異な状況を説明し、安易な期待を戒める。中国の現状に至る経緯を理解し、伝道を望むなら相手の状況に適応して臨むべきであると言う。
アヘン戦争(1840-)に始まる列強の軍事的侵略にキリスト教の宣教師が相前後して深い関わりを持っていたため、嫌悪感を抱かれたこと、1949年中華人民共和国成立以降キリスト教会は共産党政権に抑圧され長い苦難の時代を迎えたことを文献(英文)に依ってたどっている。また、三自運動(牧会、経済、伝道において自立する)が共産党政府の先導によって始まり、キリスト教会が政府に取り込まれ弱まった時期があったことに触れている。現在は持ちこたえた信徒がその三自のもとに今日の盛んなキリスト教会の現況をもたらしている。
昔あった諸宗派の違いを越えて今日一つのプロテスタント教会、一つのカトリック教会となっている中国では、また改めて外国から伝道団が来て宗派の違いが再燃することを嫌っていること、中国で布教する用意をするには中国の現状に通じ、状況に適応した伝道活動を行わなければできない、と観察している。
著者は中国における1981年頃の目覚ましいキリスト教の開花に鑑み、末日聖徒イエスキリスト教会の伝道に大いなる希望があると見るが、「ユダヤ人にはユダヤ人のように・・」(コリI9:10)を引用して、宣教師はできるだけ伝えようとする対象の状態に自らを適応しなければならない、相手の状況が自分たちの好むように変わるのを待つことはできない、政治的・宗教的制約には合わせなければならない、言語面でもメッセージの文化的適応においても、中国の社会主義的環境の多くの要素に適応しなければならない、末日聖徒は中国の人たちが理解できるようにメッセージを提示できる用意ができているだろうか、まだまだ道のりは遠い、と慎重である。
内容は概ね正確に詳述されていると思うが、資料も視点も主としてアメリカのキリスト教界のものによっている。参考文献に中国語のもの、大陸で刊行されたものが皆無である。今日中国のキリスト教界の体制を形成している状況から見れば、異なった視点、表現も出てくるものと思われる。
ブルース氏の論文が次のサイトにおいてPDFファイルで閲覧できる
http://contentdm.lib.byu.edu/cdm4/document.php?CISOROOT=/MTAF&CISOPTR=28418&CISOSHOW=24978
写真はgoogle画像から。沼野が訪れた中国の幾つもの教会も同様な光景。
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