一昨日のNHK大河ドラマ「いだてん」を、何回となく思い出しています。というか、忘れられない。
「神回」というやつじゃないでしょうかねえ。鬼気迫る出来栄えでした。
志ん生が戦時中、空襲怖さからか、酒飲みたさからか、満州へ渡って終戦で帰れなくなる。あちらで森繁久彌と会ったり、円生と一緒に行動したりしたのは史実らしい。脚本(宮藤官九郎)がフィクションで付け加えたのは、金栗四三の弟子・小松くんがそこに居たという部分。東京の街を走り回った小松くんの助言で、志ん生は「冨久」の久蔵が浅草から芝まで走ることにしたというエピソードに仕立て上げていました(従来は日本橋までで、距離が短い。長く走る方が切羽詰まった久蔵の気持ちが強く訴えられるように思います)。
で、志ん生の高座に刺激された小松くんが夜の大連を走っているうち、ソ連軍に射殺される。その場面とカットバックさせて、志ん生が久蔵が走りつづけるくだりを語るという、すさまじく緊迫感のある悲劇を生み出していました。
ちなみに、走りながら久蔵が「家へ帰りたいんだよォ」と、小松くんの心中を代弁するかのように吐き出すのは、志ん生を演じている森山未來のアイデアだったとか。
そういえば談志が志ん生の「冨久」について語っているのを読んだことがあったなあ、と思い出し、本棚を漁ってみると、『あなたも落語家になれる』(1985年、三一書房)に次のような一節がありました。
志ん生が引退し、入院しているところへ、談志が見舞いに行ったというのです。その時、志ん生は自分の落語の録音が「ねえんだヨ、俺ン家には」と言う。
それを聞いた談志が、次回、録音テープを持参して――
- 志ん生本人に絶品の『冨久』を聞かせると、例の調子で恥かしそうに、
- 「オレ、うまいネ!」
と言った、と書いてあります。
可愛いですね、志ん生さん。せつなくて涙が出そうになります。
満州で志ん生と苦楽をともにした円生も、私は大好きでした。「ヘヘッ」と目を細めて笑う仕草がなつかしい。
落語はいいなあ。その落語をうまくドラマに取り込む宮藤官九郎も素晴らしい。