のそのそ日記

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キャリバンと魔女

2023-11-01 13:34:55 | 読書

「キャリバンと魔女 資本主義に抗する女性の身体」(シルビア・フェデリーチ著・小田原琳・後藤あゆみ訳 以文社刊)読了。

ヨーロッパの魔女裁判の歴史と資本主義が発展していく過程で「女性という種類の人間」がどのように差別に組み込まれてきたか、というテーマ。
大変に重いし残虐な歴史で、権力者同士の闘争の注意深い陰湿さとはまったく別の、権力者から被支配者に対する遠慮ない残酷で苛烈で大規模な攻撃が恐ろしい。
権力者が権力を増大させるというのは単純に地図上の領土を拡大することではなく、働く人民を増やししかしその食い扶持は減らし、反逆を制するために共食いをさせ、不足の場合はほかの地域から人間を攫ってくる(地方の農村に始まり規模が大きくなるにつれ新大陸やアフリカから)という話。
その端緒になったのが「囲い込み地」で、公共の財産だった多くの土地(共有地コモンズ)を資産家の所有地とすることで、そこにすむ農民を都市労働者として貨幣経済を担わせる。地域社会の分断、文化の喪失など、たぶん当事者が感じた以上の社会の損失だったのでは。
学生のころ「ロビンソンクルーソー」を読んだ時に自由の天地であるはずの絶海の孤島でさえロビンソンは囲い込み地を作り、有色人種の遭難者フライデーを下僕としてこき使ってたな…というのを思い出し。
女性嫌悪(ミソジニー)という感覚も、厳しい差別と貧困がある社会に「すべての男の下の地位が女」という設定を15世紀からもう作り始めていたのかと、その歴史の長さに暗澹としてしまった。
最終章に、これらが前近代の問題ではなく1980~2000年までの間でさえ、新自由主義の経済的差別によって女性たちの魔女化・国家社会転覆容疑・大量殺人容疑が生じている(それが遠い国の集団ヒステリーとしてスルーされている)問題。
そういや以前NHKの怪奇娯楽番組で取り上げられていたのを見た…状況の深刻さは伝わってこなかった。たぶん取材報道側から社会問題、貧困差別の原因がまるっと抜けているからかと。

歴史を政治の面だけで追って学んでいると、こういう経済や差別のしがらみ部分は見えてこないんだなと、今まで学んだ世界史を振り返って思う。日本史だと中世の民間宗教や生産流通の段で触れてたけど、戦国以降はあんまり勉強してこなかったな。ちょうどヨーロッパでの魔女裁判全盛期にあたる頃、日本では性差はどんなんだったのか興味あり。
でも手をつけるのはもうちょっと後にしよう…と思うぐらいに残酷で陰惨な話まるけであった。

「基本的人権」がただの言葉だとしても、これ以上に大事なもんはないわ。

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宗教右派とフェミニズム

2023-10-07 23:38:47 | 読書

「宗教右派とフェミニズム」山口智美・斉藤正美著/ポリタスTV編 青弓社刊 読了

しばらく前に買ったものの、日々の時勢があまりに暗澹としていたので、別の畑の本を読んで助走をつけてから一気読みしました。
戦後のフェミニズムの流れからざっくりたどっているけれど、メインは90年代後半から「女性差別の存在が社会に自覚されたことで起こった運動と、それを破砕して差別を固定化しようとする力(バックラッシュ)」の30年について。

タイトルの「宗教右派」は安倍元首相を中心とした統一教会や日本会議などの活動。今までニュースやSNSで「なんと酷い」と怒りまくっていた一つ一つのことが、どういう目的でどんな人たちが進めていたのかがまとめて書かれていてたいへん判りやすかったのだけど、やはり血管きれそうな記憶がいちいち蘇ってきてわりとしんどかったです。

それでもこうしてまとめて読んで思ったのは、攻撃をする側が目的を持ち計画を建てた上で、ひとりひとりの国民の自由なり権利なりを削ぎ落としてきたことに、国民の側からはそもそも何が起きているのか、なぜこんなに動きずらくなっているのか、理解できない齟齬を感じているのかが、判っていなかった状況だったと知ることができました。

いやな話だけど、安倍元首相が殺されて統一教会との関わりをメディアが隠しきれなくなって初めて、この活動の流れの存在を社会が受け止める素地ができたんじゃないかと思います。

本当に残念なことに、私がこの10年の間にたぶん一番みてきたメディア(新聞とTV)でこの問題は触れられてこなかった。
報道を見たり読んだりしても理解できないけど説明が一切ない件も相変わらず多い。
(たとえば望まぬ妊娠をした少女が一人で流産・死産した場合、逮捕される件。産科に相談しても父親がいないと対応してもらえない、戸籍登録される前、生まれる前に死んだ胎児でも殺人相当になるのはなぜか、何ヶ月目から殺人になるのかなど。ニュースの際に何の説明もない)

ジャニーズ問題がいよいよ隠せなくなった時、メディアは「そんな悲惨なことがあったなんて」とおぼこく善良な隣人のような態度をして見せたけれど、実際は隠蔽に加担してきた当事者であったはずです。
同じように、この問題にも「政治主導で差別が進められてきていたなんて」とカマトトぶらないで、きちんと問題提起してあらためてほしいマジで。

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「分断を乗り越えるためのイスラム入門」

2023-10-05 09:14:03 | 読書

「分断を乗り越えるためのイスラム入門」内藤正典著/幻冬舎新書 読了

コロナやロシアウクライナ戦争の時事込みで、イスラム教圏の人たちと主にキリスト教圏(欧米)との関係を説明した本。
前回読んだ岩波発行の「ヨーロッパとイスラーム」はイスラム教の長い歴史とキリスト教圏との関わり、特に第二次大戦後から半世紀強の流れの解説で、欧米の中に定着したムスリム(イスラム教者)移民と各国の対応の違いと関係性がわかりやすかったけれど、今回のは最近の「ー原理主義」「-過激派」で多用されやすい偏見の解説やムスリム内からの視点の説明などが多い、最近の話題に絞って語る感じでした。

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多様性の科学

2022-11-05 09:51:40 | 読書

半年前に図書館で予約していた本が届いたので読みました、「多様性の科学」マシュー・サイド著。とても読みやすくておもしろかった。
ヒトの社会において思ってたより重要な多様性、コミュニケーションが産むものの大切さ、エコーチェンバーから考えるバイアスのつきかたほぐしかた、「平均値」を人間個人に当てはめる不合理、などの問題が、911以前のCIAやWW2のイギリス・ブレッチリーパーク、エベレストの登山家、白人至上主義活動家、ダイエット情報の謎などの具体例などと並べて解きほぐされてます。
日本でも数年前に「忖度」って言葉がはやったけど、あれも不均衡なコミュニケーションが硬質化した異常な環境の問題としてあらわになった点だったね。(あの頃はまだ政治家が、秘書が部下が勝手にやったと言い訳してたから判った事だけど、今は問題が発覚しても「何か不満でも?」と居直って終わりなので忖度すら見えなくなった)

こういう組織論本では当然なんだけど、トップの人間のふるまい、船長の視野で如何に行動するかという話がまとめられてるんだけど、個人的に私は誰かを指南することも意見をとりまとめることもない立場の人間です。「異なるジャンルの優れた能力の人を集める必要」はそのとおりだと思うのだけど、優れた能力をもたない、でも差別や偏見に対してどうふるまうかの意見を探すのは大変なのね。唯一白人至上主義者の大学生に対して友人がとった行動が例になっているけれど、これはお互いの合意の上で動き出した効果だったしな。

それから「多様性を排除した結果の不具合」を語る上で、差別の問題はどうしても避けて通れないものだけど、なんとなく女性差別に対しての熱のなさが目についてしまった。本の中で2箇所、それについて語られているけれど「人類の半分の意見が排除された事は男性社会にとっても損失」とか「政治の現場にいるのが男性なので、公共福祉の対象に女性が含まれなかったのはそもそも見えなかったから」で悪意はなかったと繰り返しているのは、加害者の範囲があまりに広範なため、ちょっとソフトに伝えようって姿勢で残念。本も商売なのはわかってるけど。
ホワイトウォッシュの問題が自覚された後のCIAの変革についても、問題に対して行動したのが少数派の黒人女性とかムスリムのスタッフってあたりも「まだあんまり変わってないんだね…」と思った。
よくドラマや映画では、CIAやFBIの現場にはいろんな人種や性別のキャラが揃ってるけど、あれはかくあるべしってドラマの仕様だから真に受けちゃだめか!と思い起こさせてくれる本でした。

各章が「エピソード・データの取り方見方についての説明・エピソードとそのデータをすり合わせた考察」って構成になっているのがとても飲み込みやすい書き方だなと思いました。

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暴君ーシェイクスピアの政治学

2022-10-01 13:58:07 | 読書

「暴君ーシェイクスピアの政治学」スティーブン・グリーンブラッド著・河合祥一郎訳・岩波新書

専制政治時代のイギリスで、シェイクスピアが物語の中で暴君の数々を描いて首を刎ねられなかったのはなんでか。
話のモトネタより当時の世情的にシビアに寄せて物語を描いていったのはどんなメッセージがあったのか。
時代がすぎて社会が変わっていっても、政治が硬直して暴君が生まれる素地はあちこちにある今現在、とてもリアルな問題点がいっぱいな「芝居の読み方」本でした。
いろんな暴君の話がみんな印象深く解きほぐされてて面白かった。一つ特別印象強かったとこだけメモメモ。

「リア王」ナルシストの独裁者が末娘や部下の誠実さに気づかずに放逐させ、太鼓持ちの2人の娘夫婦に権力を奪われる話。
モトネタ昔話では、末娘コーデーリアが王を助けて裏切り者の姉たちをおっぱらってめでたしめでたしだったそうで、でも作家はそうさせずにコーデーリアを獄中死させる。今迄その意図がいまいちわからなかったし、王があまりにクソ親・ダメ為政者だったので話自体苦手だったんです。でもこのクソでダメな人格の解像度をあげて読むと、いろんな時代のクソでダメな条件や原因(立場が上の者=君主・親)見えてきて大変重い。
中盤、王と末娘を合わせる手引きに協力した貴族を、姉夫婦(リーガン&コーンウォール伯)が捕らえ拷問死させるシーン。
屋敷の兵士も部下も拷問に加担する中で、コーンウォール伯の召使、主に絶対服従するはずの召使がひとり「おやめください」と声をあげる。「子どもの頃からお使え申し上げてきましたが」「今、やめてくださいと申し上げるほどの/ご奉公はないと思います」(第3幕第7場)
激怒した主夫婦に召使は殺され、拷問を受けた貴族も放り出されやがて死ぬ。
ただこの非道を目にした大衆が、王座を取った姉夫婦達に反感を抱き世間の風向きが変わっていく。

召使には名前もなくこのシーンでしか出てこない役だけど、この「登場人物を見守る登場人物」の描き方がすごくよかった。それは御伽噺を現実の問題に引き寄せた、作家の目を持ってるキャラクターなのかもしれない。

あとはちょっとメモ。リチャード三世・ちゃんと「時の娘」以降の視点を踏まえた上でシェイクスピアがリチャードの魅力を描いてる、ピカレスク、正常バイアス。
コリオレイナス・よく悪の定義で「自分は人を殺した斧だけど振り下ろしたのは別の○○」って言い回しがあるけど、コリオレイナスはこれがミサイルみたいな感じで、しかもだんだん操縦できなくなってくみたい。昔読んだ時は「お母さんがとにかく怖い」感想だったけど、怖いのはお母さんという誘導装置がきかなくなってからなのかもしれない。

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