『松岡正剛の書棚 松丸本舗の挑戦』
(中央公論新社、2010.7)
『千夜千冊』と「電子図書街」のコンセプトを具現化した「松丸本舗」。この丸善・丸の内本店4階に開店したという書店の棚は、電子書籍が大いに話題を呼ぶ昨今の動向とは裏腹に、かつて「オブジェクト・マガジン」と銘打った雑誌を創刊した編集者らしく、書物というオブジェ(もの)へのフェティシズムに満ちたものとなっているようだ。
「書棚を編集するとは、世界を編集することである。」
こうした松岡正剛の言葉は、もちろん『遊』以来の読書や「編集工学」の方法論に基づいているとはいえ、一方でマラルメ-ボルヘスの世界としての書物という発想とも呼応しながら、その発想の根底には、ウォーバーグ(ヴァールブルク)研究所図書館の存在があるのだろう。
数多の書物は、「遠くからとどく声」、「猫と量子が見ている」、「脳と心の編集学校」などといった、いかにも松岡正剛らしいテーマの棚に、ジャンル横断的に並べられている。隣り合う二冊は、(松岡正剛風にいうと)何らかの「観念の連鎖」によって結びつけられているのだろう。さらにまた、俳諧連句の発想を踏まえて、隣接する三冊で見ていくと、両端の二冊の間には、変化、あるいは観念の飛躍といったものがあるようにも感じられる。今回のMookでも紹介されている、かつての『遊』のブックガイドが俳諧連句に譬えると百韻であるとすれば、今回の「松丸本舗」は矢数俳諧の興行のようなものかも知れない。
いずれにせよ、これらの書棚をめぐることは、松岡正剛という「名編集者」の頭の中にあるミクロコスモスをめぐる旅となるのだろう。この創造的な誤読を恐れない松岡正剛の、ある種の「牽強付会」ぶりを楽しめない人にはカオスでしかないだろうが。
『+81 vol.49 AUTUMN 2010 European Graphic issue』
英仏蘭独四カ国から、cyan、A2/SW/HKをはじめとする20組のグラフィック・デザイナーをピックアップして、彼らへのインタビューと、タイポグラフィ、ポスター、エディトリアル、アイデンティティなどの作品群を紹介する特集。ヨーロッパのグラフィック・デザインの現在を概観する内容だが、いつものようにデザイナーごとにレイアウトを工夫するといった凝った仕掛けが楽しい誌面だし、国別に分類されているので、国ごとのデザインの傾向も大まかに捉えられる。(ただし、インタビュー記事の活字のサイズがさすがにしんどい)
全体として見れば、タイポグラフィック・デザインが多めに紹介されているように感じた。表紙も特集に登場する英国のRishi Sodhaによる、20組のデザイナー名によるタイポグラフィとなっていた。
特集に登場するデザイナー(集団)あれこれ
United Kingdom
A2/SW/HK http://www.a2swhk.co.uk/
Rishi Sodha http://www.rishisodha.co.uk/
The Luxury of Protest http://theluxuryofprotest.com/
France
HEY HO http://www.heyho.fr/
Xavier Encinas Studio http://xavierencinas.com/
Helmo http://www.helmo.fr/
Germany
cyan http://www.cyan.de/
Jung + Wenig http://www.jungundwenig.com/
123buero http://www.123buero.com/
The Netherlands
Mainstudio www.mainstudio.com
almost Modern http://www.almostmodern.com/
それぞれのサイトにも工夫があって面白い。
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