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ちゅう年マンデーフライデー

ライク・ア・ローリングストーンなブログマガジン「マンフラ」

世界に一つの「若冲」

2006年07月20日 | 絵画
 東京国立博物館でプライスコレクション「若冲と江戸絵画」展を観た。

 伊藤若冲を中心に江戸中期の画家たち、江戸琳派の画家たちの作品100点あまりが展示されている。「若冲と」と銘打っているわりに若冲の作品数は少ないが、巨大にして奇想な「鳥獣花木図屏風」が初見参というあたりが見どころか。巨象をはじめ外来の鳥獣で埋め尽くされた巨大な屏風絵は、86000個の分割された桝で構成されており、タイル画や初期のCGのようにモダンなたたずまいだ。

 若冲といえば極彩色の鶏であり、その超絶的なテクニックには誰もが驚くが、今回の作品の中では水墨の鶴図に感動した。若冲の筆の躍動と技巧とアーチストとしてのセンスが一体となり、江戸と現代を超えたみごとな表現だと思った。
 
 また、円山応挙、長沢芦雪、曽我蕭白なども数点ずつ見られるが、若冲以降の世代である江戸後期の酒井抱一、鈴木其一といった江戸琳派の作品郡がすばらしかった。もちろん光琳、宗達などに見られたエネルギッシュな革新性は薄れてはいるが、色彩と空間処理がスタイリッシュに洗練されていて、とても粋なアートなのだ。西洋とも中国とも違った江戸文化の爛熟ぶりがうかがえて、世界に一つのジャパンアートを感じてしまったのだった。屏風画の展示はライティングが変化するよう工夫されていて、これも楽しかった。それにしても、これだけの作品が海外に流出したとはね。

横たわる女と白い肌の誘惑

2006年04月25日 | 絵画
 仕事で東京都美術館に「プラド美術館展」を観にいく。平日の午後3時、それでもかなり混雑していた。17、18世紀の西洋絵画にこれほど多くの老人たちが興味を持っていたかどうかは定かでないが、新宿コマ劇場と似た風景だった。1時間ほどで素通りしただけだったが、展示点数もそう多くないわりに総花的で、最後に申し訳程度にゴヤが3、4枚。ポスターになっていたティツィアーノ、ルーベンスなど見るべきものもないではないが、「プラド美術館展」というには寂しい内容だった。

 竹橋の国立近代美術館は、金土曜なら夜の8時まで開館している。上階の常設展示場には窓側に休憩室が設けられていてお堀が見渡せるのでなかなかよろしい。
 
 土曜の夜に「藤田嗣治展」を観にいった。こちらは意外に空いていたので観やすかった。国内に所蔵されている作品が中心で100点くらいだったろうか。カンバスに石膏を溶いて塗った乳白色の下地に淡い陰影と面相筆の細い輪郭で描かれた人物画、とりわけ数々の裸婦像は美しい。日本画的手法との融合がよく言われるが、キュビズムなど20世紀初頭の先進的な芸術運動を消化しながら、日本人であることをみつめた結果であり、通俗的な言い方になるけれど日本人にはない白磁のような西洋女の白い肌に魅せられて、これをどうしたら表現できるかと考えての技法なのだと思う。

 金箔や日本画的なスーパーフラットな背景が乳白色の肉感的な白い肌を際立たせている。渡仏後初期の暗くとんがって険しい表情をした女性像に比べ、20年代になってからの乳白色の技法による裸婦像は官能的で、当時のヨーロッパ人たちに絶賛されたというのもよく分かる。誰も女の肌をこんなふうには描いたことがなかったからだ。

 戦争画の大作は絵画としての迫力に圧倒される。よくこれらの絵画を当時の軍部が認めたなと思った。戦争賛歌でも大日本帝国賛美でも鬼畜米英のプロパガンダでもなく、ただそこには人間同士の殺し合い、虐殺としての戦争がむしろ地獄絵のように描かれているだけなのだった。ドラクロワの「民衆を率いる自由の女神」の構図を髣髴させるサイパン島の玉砕を描いた作品も当時の軍国日本はこれをもって一体何をプロパガンダしたかったのだろうか。これを観たら誰もが戦争には行きたくないと思うはずだ。

 晩年の子供をモチーフにした絵や生活具のデザインなどは、居場所を見つけた安堵感のようなものがありながらどこか孤独の影がつきまとっているのだった。

すごいぞ!画狂人北斎

2005年11月15日 | 絵画

 北斎のじじいときたら、ほんとすごいじじいだ。
 画狂人は伊達じゃない。しゃべるように、飯を食うように描きまくる。70年の画狂人人生でいったいどのくらいの数の絵を描いたのだろうか。はやい、うまい。しかも遠近法も写生もしっかりやりながら、そんな近代的な手法からも自由に大胆に繊細に絵筆が走っている。春画以外の北斎500点を展示した東京国立博物館「北斎展」は、必見だよ、ほんとに。

 図録も約1000ページ、重量2キログラム。図録販売のにいちゃんが購入したばあちゃんをいたわりつつ「重いですよ。2キロありますから注意してください」といいながら渡していた。ばあさん図録で腰痛め(あるある探検隊風に)、そんな図録があるだけですごいじゃない。

 ただ、春画が展示されなかったことは不満だ。18歳未満お断りの部屋をつくってでも展示してほしかった。北斎の春画たるや画狂人の真髄がスペルマの如くほとばしっているのだった。