ちゅう年マンデーフライデー

ライク・ア・ローリングストーンなブログマガジン「マンフラ」

青春ジャズ娘などと侮ってはいけない新倉美子の歌声にしびれっぱなしの夜

2024年03月10日 | 音楽
 
「青春ジャズ娘」(松林宗恵監督)という70年前の新東宝製作のジャズ映画がある。大学のジャズバンド合戦が物語の中心になっていて、キャストはフランキー堺、高島忠夫、片山明彦、トニー谷、プロ歌手として江利チエミやナンシー梅木、さらにジョージ川口とビッグ4など当時のトップクラスのジャズマンが演奏している、まあ珍品の映画ではある。ちなみにこのDVDは7,8年前に500円で買って1回見たきりだった。
 
この映画の中でトランぺッターの片山明彦の恋人でジャズシンガーをめざし、対抗戦でクリス・コナーばりの歌唱力と美貌を発揮しているのが新倉美子。彼女自身ジャズシンガーで「ALL OF ME」というたった1枚のアルバムを出している。
 
たまたまこのアルバムをYouTubeで聴いて、70年前、そう私が生まれた頃に、こんなにクールなジャズシンガーがいたのかと感激しきりだったのだが、そういえば買ったはずだと「青春ジャズ娘」を引っ張り出してきた次第。DVDカヴァーの右側の女性が新倉さん。「しんくら」と読みます。アルバムのメンツは、
トランペット:Bill Berry、テナー・サックス:尾田悟
ピアノ:秋満義孝、ベース:青木喬嗣、ドラムス:バイソン片山
演奏も素晴らしい。ぜひ聴いてみてください。
さらに、新倉さんはあの新国劇の名優辰巳柳太郎の長女なのだそうで、そういえば、国定忠治をTVで初めて見たのは辰巳の忠治だったなあ、とめぐりめぐる縁を思いつつ、「ALL OF ME」を聴いている夜なのであるよ。
 
 
 
 
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エヴァ・キャシディ、しみるなあ

2022年04月13日 | 音楽
YouTubeでWhat A Wonderful Worldを検索していたら、エヴァ・キャシディの歌に遭遇した。1996年、33歳で亡くなってからブレイクしたシンガー。ジャズ、ゴスペル、ブルース、ポップス、カントリー、フォークなど幅広いジャンルの楽曲を独自の解釈で歌い、その優しくてソウルフルな歌いっぷりが心を打つ。皮膚癌で余命宣告され、亡くなる10カ月前に行ったワシントンDCのジャズクラブ、ブルース・アレイでの2日間のライヴを収めた「ナイトバード」、CD2枚、DVD1枚でライヴの全容を堪能できる。
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春愁

2022年04月07日 | 音楽

先週のジャズライヴで僕の好きな2曲を演奏してくれた。司会でドラムの平野さんが、春愁という季語を引用して紹介したSpring can really hang you up the most とチャーリー・パーカーをはじめ名演数多のSrar eyes。 Spring can〜は曲名が長くて面倒なので、とりあえず「春が来たのに」としておこう。この曲はジャズマンが好んで取り上げるバラードで、ノラ・ジョーンズがオーディション用に送った中の一曲らしい(これはいいぞ)。重症の失恋の歌で、春愁より歌詞の内容は深刻だ。そんなわけで、舌足らずなちょっと少女っぽい歌い方をしているリッキー・リー・ジョーンズの「POP POP」(1991)のカヴァーが気に入っている。ロベン・フォード、チャーリー・ヘイデン、ジョー・ヘンダーソンなどがバックを固めていて、ジャジーなカヴァーアルバムになっている。Star eyes は、インストならビル・エヴァンスの「A simple matter of conviction 」(1966)の中の演奏が好き。だいたいラテン風のイントロで始まるけれど、エヴァンスはイントロなしでテーマに入るところがいい。エディ・ゴメス、シェリー・マンとのトリオはこれが唯一。ゴメスとも初めてだが、スコット・ラファロばりのプレーで、以来エヴァンスのよき相棒になる。

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「ジャスミン」を聴いてチャーリー・ヘイデンはきっといい人だと思った。

2010年06月14日 | 音楽
 キース・ジャレットとチャーリー・ヘイデンによるデュオ・アルバム「ジャスミン」がいい。バッハのゴールドベルクだとかクラシックの楽曲に挑戦したりする姿勢があまり好きではなく、「ケルンコンサート」とマイルスに捧げたデジョネット、ピーコックとのトリオの演奏くらいしか聴いていないから、どちらかといえば好きではないミュージシャンのひとりだったキース・ジャレット。でも、このアルバムのキース・ジャレットは、もっぱらチャーリー・ヘイデンのおかげなのだろう、「さあ、俺の音楽を聴け」みたいな思いあがりが消えて、月並みだけれど実はこんなシンプルなフレーズでバラードが弾きたかったんだよ、といっているようなのだ。いつもと違うじゃないと、キース嫌いを聴く気にさせたのは、チャーリー・ヘイデンの人徳じゃないだろうか。ただし、キース本人がながながとライナーノーツを書き、「愛する人と二人で聴いてね」みたいなことを言っているのは大きなお世話だ。

 チャーリー・ヘイデンという人は、きっと相手の心を和ませるとか素直にさせる名人、たとえると香炉みたいな人なのだろう。その人の前にいくと落ち着く、普段いえないこともいえちゃうような人なのだ。決して多くの言葉を語るわけではないが、ぼそぼそと穏やかに語ることばに温かみや深みがあるというか、そんな人に違いない。パット・メセニーとのデュオも懐かしさと憧れが美しく同居していたけれど、「ジャスミン」も来し方とこれからの人生への憧憬がシンプルに溶け合っている。齢と共に演奏する側の音楽だって変わっていく。昔のようにはできないから違う方法論が必要だ。聴く方も歳をとり、違う音を求める。そこがシンクロすると音楽と幸福な出会いをすることになる。「ジャスミン」もそんな音楽だ。

 それにしても、昔やんちゃをやっていたミュージシャンが、みんないい人風になるのはどうかと思う。エコとか低成長時代のミュージシャンのひとつの姿なのだろうか。ジャズの進化を担ってきた世代が、どうジャズと共に人生を終えたらいいかそれぞれが回答を求めているように思える。死ぬまで音楽のやんちゃだったマイルスは、やっぱりスゴイ!

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J.マーサーのスタンダードもDr.ジョンが歌うとファンクになる

2009年11月16日 | 音楽
 前々から気になっていたのがドクター・ジョンの「シングス・スタンダード」。休日に聴く一枚に選んで購入。原題は「MERCERNARY」。傭兵の意味だそうで、スタジオミュージシャンとしても活躍するジョンが、「おれたちゃ傭兵みたいなもんさ」というわけでこのタイトルになったとかならないとか。もちろんこれはこじつけで、このアルバムがジョニー・マーサーの楽曲で編まれたマーサーへのトリビュート・アルバムなので、こんな言葉遊びのタイトルになったというわけだ。

 原題のほうがはるかにしゃれているが、いくらマーサーがアメリカン・スタンダードの大御所とはいえ、「シングス・スタンダード」とは安易ではないか。でも中身は、ゴリゴリのニューオリンズR&Bで、「ドリーム」とか「ムーン・リヴァー」なんかがみごとにドクター・ジョンのブルースに変身しているのだった。

 ジョンは、10年ほど前に、ジャズ畑以外のシンガーにジャズを歌わせるのがお得意のプロデューサー、トニー・リピューマとブルー・ノートで「インナ・センチメンタルムード」というアルバムをつくり、ジャズ・スタンダードを歌っている。エリントンのタイトル曲や「メイキン・フーピー」、ジョニー・マーサーの「キャンディ」といった粋な選曲で、この「キャンディ」がなかなかよい。男っぽくてせつない。だから、このアルバムがほしかったのだが、廃盤らしい。このリピューマとのアルバムがきっかけになったのかジョンは、その後エリントンの曲を集めた「デューク・エレガント」を出している。そして、今度はジョニー・マーサー。これは3匹目のドジョウなのかしらん。このアルバムはジョン65歳の作品だが、ニューオリンズ生まれの、来年70歳のじいさんは、益々渋く元気なのだった。
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富樫如来に導かれたジャズジャイアンツの慈愛溢れる「マイ・ワンダフル・ライフ」

2009年10月29日 | 音楽
「マイ・ワンダフル・ライフ-富樫雅彦バラード・コレクション」は、2年前に亡くなった天才ドラマー富樫雅彦の作曲したバラードを集め、佐藤允彦、渡辺貞夫、峰厚介、日野皓正、山下洋輔ら富樫にゆかりあるジャズメンがソロやデュオで競演した日本のジャズジャイアンツによる追悼(競演が正しいかも)アルバムだ。これだけのメンバーを引き寄せてしまうところが富樫のすごさといえばすごさなのだが、このアルバムは不在であることの存在感が美しいとしかいいようのない叙情を奏でている。

 タワレコで試聴し、1曲目ナベサダが演奏する標題曲「マイ・ワンダフル・ライフ」を聴きながら目頭が熱くなってきてしまった。1曲目でこのアルバムの意図が分かる。富樫さんは、類稀なバラードの作曲者であったのだ。しかも、ここに集結した日本のジャズジャイアンツが不在の富樫さんと一緒にインプロヴィゼーションしていることの喜びが音になって溢れ出ている。亡くなってすぐの追悼アルバムではこうはいかなかった。確かな不在を確認しながら、しかし傍らには見えない富樫がいる。5人のプレイヤーは富樫の音を聴きながら演奏しているのだ。だからこんなにも美しく慈しみのある演奏ができるのだろう。ボーナストラックとして収録されている山下による標題曲のピアノ・ソロもやさしい。皆が富樫如来に導かれてプレイしているとしか思えないそんなアルバムなのだった。
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秋の夜はJ・ヒックスのソロピアノと「OL’SCHOOL JAZZ」のデュオで深く豊かに過ぎ行く。

2009年09月28日 | 音楽
 ソイル・アンド・ピンプ・セッションズの新しいアルバム「6」を買おうとタワレコへ行った。アルバムに収録されている「ストールン・モーメンツ」がカーラジオから流れているのを聞いたのが動機。ソイルやるなと。この曲のオリジナルはオリバー・ネルソンの「ブルースの真実」に収録されていて、とりわけ僕にとって、コルトレーンがラッパを吹いているようだと形容されたフレディ・ハバートの名演と相まって擦り切れるほど聞いたレコードなのだ。なぜ、ソイルがと思ったのだが、この曲はクラブ・クラシックスの名曲といわれているのだそうで、ソイルの演奏もすばらしい。でも、日常このアルバムを頻繁に聞くだろうかと思い、結局購入しなかった。CDを聞くのは仕事から帰った夜か、休日。どうしても癒しを求めてしまう今日この頃なのだ。

 そこで試聴して即購入をきめたのが、ジョン・ヒックスのソロ・ピアノによるライヴアルバム「アイ・リメンバー・ユー」。亡くなった2006年に残したペンシルベニア州ニューホープでの録音。この人のアルバムは初めてだが、コルトレーンのフェヴァリット・ソング「アイ・ウォント・トゥー・トーク・アバウト・ユー」が入っているのがまず気に入った。そしてピアノの一音一音が心にしみる。タワレコの惹句に、深夜2時ぶらりと立ち寄ったジャズクラブでヒックスの演奏に遭遇した気分とあった。こんなすばらしいアルバムを残してくれたヒックスに感謝しつつ、その夜は、ひさびさにハーパーをすすったのだった。

 この日は、ピアノとベースのデュオ・アルバム、熊谷ヤスマサ&川村竜 「OL’SCHOOL JAZZ」、ニーナ・シモン「ヒア・カム・ザ・サン」、ブルーノートの1100円シリーズでフレディ・ハバート「ゴーイン・アップ」、リー・モーガン「コーン・ブレッド」を購入した。ニーナ・シモンのアルバムは、昔、前田武彦が朝のTV番組で、このアルバム収録の「ミスター・ボージャングル」を絶賛していて、それでLPを買って僕も好きになった一枚だ。当時は、「ミスター・ボージャングル」がすっかり気にいって他の曲は余り聴かなかったのだが、改めて聴くと全部いい。「OL’SCHOOL JAZZ」は、初めて聴く若手ジャズマンのアルバムだが、とてもセンスがいい。オールド・スクール・ジャズのタイトルどおりスタンダード中心で、ジョン・ヒックスとこの2枚で、秋の夜はバーボンとともに深く豊かに過ぎていくのだった。

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落陽の荒野で頬をなでる風を感じるジャズ、W・ネルソンの「アメリカン・クラシック」

2009年09月15日 | 音楽
 ウィリー・ネルソンの「アメリカン・クラシック」がいい。トミー・リピューマのプロデュースによるスタンダード集で、ネルソン単独では初のブルーノート盤。ジャズとは異なったジャンルのアーティストにジャズを歌わせたり、いわゆるジャジィといった分野の開拓に熱心なトニー・リピューマらしいアルバムだ。

 ダイアナ・クラール、ノラ・ジョーンズが競演、バックもジョー・サンプル、クリスチャン・マクブライド、ジェフ・ハミルトンなど強力だ。カントリー歌手がジャズを歌うという趣向のアルバムなのだが、ジャズやアメリカのスタンダード・ソングに敬意を払いつつもジャズなど歌おうとしていないネルソンの歌の力に聞き惚れてしまう。カントリーといえばこの声というほどの独特の鼻にかかった声で、「ニアネス・オブ・ユー」「フライ・トゥー・ザ・ムーン」「アイ・ミス・ユー・ソー」「エンジェル・アイズ」などをしみじみと歌う。でも、夜の音楽にはならない。テキサスの青空とか荒野に沈む夕日とか、そんな風景のなかで頬をなでる風を感じているような気分になれるのだ。スタイルはジャズだけれど、そういう体裁やジャンルを超えたネルソン節になっているところがすばらしい。ストリングスは邪魔だけれど、それさえネルソンの歌の前では鳥の鳴き声程度にしか聞こえない。
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恋する誰かさんの愚かなる心に降るアメリカはジェントルレイン

2009年07月08日 | 音楽
 南博・著『鍵盤上のU.S.A. -ジャズピアニスト・エレジー アメリカ編』を図書館で借りて読む。銀座のクラブのピアノ弾きで貯めた資金でボストンのバークリー音楽院に留学した海外ジャズ武者修行記。本の惹句では「ジャズ青年のビルドゥンクス・ロマン」とされているが、ジャズピアニスト・ボストン格闘編といったほうがいい。三十路前(アラサー)の留学、若造の視点とは異なったアメリカ観、アメリカ人観が展開されておもしろい。アメリカ人のスーパーフィシャルな笑顔、ボストンの素顔、バークリー音楽院の実態、ポーランド人サックス奏者のパワー、スティーヴ・キューンとの出会いなどジャズマンならではの体験と視点にノンストップ一気読みだ。ロバート・B・パーカーのボストンや大学の街という知的な都会のイメージとは違う田舎な都会としてのボストンの素顔は意外だったが。快作である。この人の音楽は信頼できる。

 そんなわけで、早速タワレコで南博トリオの「Like Someone in Love」を購入(昨年リリースされた時、ジャケットが?だったのと、あの靖国オジンが推薦していたので敬遠したが)。これも傑作。「My Foolish Heart」の一音目。これはビル・エヴァンスへのオマージュであり、たぶんこの単音でいきたかったのだということが、この本を読むと分かる。そして繊細だけれども男気と粋が感じられるアルバムなのだった。

 一緒に武田和命(ts)「ジェントル・ノヴェンバー」が高音質で再発売されていたので購入。フラスコ・レーベルのレコードが出たのはもう30年前か。社会人として駆け出しの頃でもう擦り切れるくらい聴いた。武田のテナーに山下洋輔トリオ〈国仲(b)・森山(dr)〉。1曲目「ソウル・トレイン」で胸がキュンとなる。あの頃好きだった女の子を思い出しつつセンチメンタルな旅だ。ジャズにおける「歌う」ことの真髄が聴けるアルバムだ。

 さらにアン・サリーの1stアルバム「Voyage」が、ジャケットをリデザインして1,000円だったので、これも購入。この1stが歌手としての力量を一番発揮しているのではないかと思うくらい声も歌もいい。「小舟」「酒バラ」「スマイル」「青春の光と影」など選曲もよく、伸びのある声とときどきのファルセットで聴く者の胸に歌が入り込んでくる。ついでにミッシェル・カミロの1988年のアルバム「ミッシェル・カミロ」も1,000円だったので買ってみる。で、4枚買って、その日のタワレコはボーナスポイントがつく日だったので、3倍もポイントがついたのだった。そこでジャズ短歌一首。

  恋する誰かさんの愚かなる心に降るアメリカはジェントルレイン


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雨の日は「バラード&バートン」でバン・バン

2009年05月25日 | 音楽
 昼休みに本屋で文庫本を渉猟しているとBGMで「バン・バン(BANG BANG)」が聞こえてきた。まるで、小林秀雄の「モーツァルト」のイントロではないか。交響曲40番ではなく「BANG BANG」だ。哀愁漂う懐かしいメロディ。シェールが歌い、その後ナンシー・シナトラがカヴァーしてヒット、さらに最近はタランティーノ監督の「キルビル」でテーマ曲のごとく挿入されていた。だが、歌っているのはシェールでもナンシーでもない。ピアノ・トリオをバックにしたジャズ・シンガーだ。聴いたことがある声。調べてみればこれも懐かしいアン・バートン。アルバム「バートン&バラード」に収録されていた。即購入。

 デビューアルバム「ブルー・バートン」(1967年)が話題になり、これは1969年の2作目。70年代始めに日本でも人気者になった。いまでも、CDショップのジャズボーカル・コーナーでは、ブームの白人系女性ジャズボーカリストのさきがけみたいな感じで紹介されている。ジャズを聴き始めた頃は、ジャズは黒くなければいけないと思っていたので、ヨーロッパ系白人ボーカルには血が騒がなかった。頭で聴いていたからかもしれない。これが、いいと思えるのはやはり齢を重ねてからだ。

「BANG BANG」もいいけれど、1曲目「A LOVELY WAY TO SPEND AN EVENING」のささやかな宵の幸福感の歌い方、最後の「HERE THAT RAINY DAY」では、自嘲気味な失恋の歌詞の雰囲気をバートンの声が重くなく、軽くなくブルーに響かせる。雨の季節にぴったりな1曲だ。アン・バートンのいいところは、ドラマチックに歌わないところだ。誰もが声を張り上げて歌いたくなるさびの部分を、その期待を軽くいなしながら、その声には豊かに情感が込められている。で、すっかり気に入ってしまって、最近はこのCDを毎日聴いている。バックもルイス・ヴァン・ダイク・トリオですばらしい。
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