鮫川村焼却炉問題連絡会 会長 北村孝至の見学レポートです。
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(環境省及び日立造船の発言は青字)
テント内受付横の折りたたみテーブルの上に小さな焼却炉(回転床)の模型とバグフィルターの布地がサンプルとして置いてあった。直径15センチ程、長さ1メートルほどの筒状、厚さは2~3ミリほどのフィルターを手に取ると環境省職員5~6名が寄って来て「それがバグフィルターでこうして筒状が並んでですね・・・」と説明を始めた。分かりきった内容の説明を遮り「フッ素樹脂はコーティングしているんですか」と聞くと返答に詰まる。日立造船の職員がうろたえた様子で「え~っと、まだしてないと思います」と答えた。回転床の模型を前に「傾斜を固定して回しているだけだとクリンカ※が発生すると思うんですけど」と言うと「えっ~と、発生しないことになってます」と言う。「どうしてそう言えるんですか」にはやはり日立造船の社員が「実績がありますから」「回転床炉は極めて珍しい型ですし、まして傾斜を固定したものなんて使われたことがないでしょう」には無言だった。焼却炉の模型の回転床の底に開いた穴を指差し「詰まったら誰が取るんですか?灰は10万ベクレルもの高濃度ですよ」と聞けば、「え~、10万ベクレルというのは飛灰で、主灰はもっと低いです」
(※クリンカとは、炉壁等に付着する灰やかす。鮫川村の焼却炉の場合、回転床炉のため燃焼物が高温で回転させられた結果塊ができ、中心部が不完全燃焼する可能性がある。)
右側の小さいテントが高濃度汚染物投入口。「東日本大震災により生じた放射性物質により汚染された土壌等を除染するための業務等に係る電離放射線障害防止規則」に基づく1万ベクレル/kg以上の汚染物の取り扱い規定による
説明するのは環境省職員。見学者10人にほぼ同数かそれ以上の「環境省」とロゴの入った作業服を着た人と日立造船の職員がぞろぞろとついてくる。
スタートは100坪ほどのクリーム色のテント式建屋から。ここは焼却物の受け入れヤードで、トラックで運ばれてきた汚染物を下すという。建屋内は減圧になっておりチリやホコリは外に漏れないという説明だが、エアーカーテンもない。トラックが入ってくれば入り口は大きく開放されるわけで、荷台がジャッキアップされて汚染物がどっと落ちたとき、大量に舞い上がるチリやホコリは外部に放出されるだろう。このような密閉性のない建物での減圧が有効かどうかは一目瞭然だ。
当初、炉の焼却物投入口は1つだった。その設計が変更されて2つになった。低濃度と高濃度の汚染物を分けて投入し、焼却灰の放射性物質濃度を10万ベクレル以下に抑えるという。「この場所で高濃度と低濃度の汚染物をどのように測り分けるのですか?」と質問すると、「搬入する前に測り、ここでは低濃度のものだけを受け入れ、高濃度の汚染物は隣の建屋に入れます」との答え。
「高濃度汚染物の受け入れ施設」はたかだか数坪のテントだった。確かに鮫川村で発生する8000ベクレル以上の指定廃棄物は28トン、これを稼動期間内に少しずつ搬入するというのであれば、数坪のテントで充分なのだろう。しかし、この数坪の狭い受け入れ口にトラックが入ってこられるのだろうか。どのように汚染物の荷降ろしをするのかの説明はない。
高濃度汚染物投入口
汚染物を受け入れる建屋の隣は焼却灰の固化施設。灰をコンクリートで固化して施設内に仮置きするというが、実際の内部の見学は許可されず、施設の前に掲示された図面を示し説明。「(図面の)写真は撮っていいですよ」という。
「焼却灰はここに永久に置かれるのではなくて、国の作る最終処分場に持っていくんですよね?」と質問するとぞろぞろとついて来ている環境省職員達がいっせいに「そうです。最終処分場に持って行きます」とか「そういう約束です」とか「ここは仮置きで最終処分場ではありません」とかいった返答が氾濫する。
「最終処分場っていつどこにできるんですか?」と聞くと今度はたった一人が「現在調整中です」と言う。「やり方がおかしいでしょう。最終処分場が決まってから焼却を始めるのが筋ですよね?」と言うと「今回は緊急性があるので、焼却処分と最終処分場の選定と同時進行しています」と別の職員が答えた。「緊急性って、鮫川の場合まったく緊急性はないんですが」と反論すると無言のまま離れていった。
次は焼却炉。どうでもいいような説明にわずか30分と制限された時間を消費されるのはたまらないので、担当者の説明を遮り「回転床の売りは回転床の傾斜が変わることですよね、傾斜を固定してしまったらクリンカが発生するし、灰だけが落ちるわけがないじゃないですか」と言うと「完全焼却しますので、クリンカは発生しません」すかさず「そんなわけないでしょう」と反論すると環境省職員は何も答えず眼鏡をいじくった。
「2次燃焼室はあるんですか?」の問いには日立造船社員が出てきて「あります」という。持参した設計図を見せて「どこにあるんですか?」と聞くと、焼却炉の上部を示して「ここが2次燃焼室です」という。鮫川村焼却炉には採用されていない別の型の回転床炉の設計図(2次燃焼室)を示し「こうしたものを2次燃焼室というんです。これがこの焼却炉に付いているんですか?」この質問には返答がなかった。代わりに「800度で2秒滞留させて、ダイオキシンの発生を抑えるようにはなってます・・」
(今回の計画の「ダイオキシン特措法」の届出申請書を福島県に情報公開した際、届出を受理した福島県に、この焼却炉では800度2秒を確保することができないのではないかと指摘した。福島県の答えは「メーカーができるといっている」というもの。800度2秒は証明されていない)
ここで藤原寿和さんから「2次燃焼室にはバーナーが付いているんですよね」「えっと、はい、付いています」(これはうそ。当初の計画は着火兼昇温バーナー1本のみ。その後着火と昇温バーナーの2本に増設変更しただけで2次燃焼室は設計されておらず、当然バーナーもない)
参考:別のメーカーの回転床炉 (炉の真上にくさび形の二次燃焼室がついている)
比較:鮫川村の回転床炉 (二次燃焼室はついていないので当然バーナーもない)
急速冷却塔に移り「ここでセシウムは100%塩化セシウムになります」「それはうそでしょう。確かに多くは塩化セシウムになりますが、酸化セシウム、炭酸セシウム、水酸化セシウムだって発生するでしょう?」「えっと、そうした炭酸セシウムですとかもですね、えっと、100%除去できますので・・・」「急速冷却塔では水を噴き掛けるわけでしょう、そうした水分子の存在下でセシウムが塩化セシウムとして100%析出するんですか?そんなことありえませんよ。それに、塩化セシウムがすべて消石灰に吸着されるといいますけど、消石灰は水酸化カルシウムですよ、強アルカリで少しずつですけど、水に溶けちゃうし・・」ここで日立造船の社員が出てきて「塩化セシウムの潮解性についてのご質問だと思いますが、当社の調査ではほとんど進行しないと考えておりまして、バグフィルターでセシウムもほぼ完全に取れると・・」
(急速冷却塔では飛灰に直接水が噴霧されるが排水はないという。それでは塩酸や硫酸など濃縮されていくし、多量の煤(すす)の処理も問題になるはず。今まで鮫川村にも質問しているが明確な答えはない。こうした点も聞きたかったのだが)
「え~、時間の都合もありますので、次に・・・」といわれ隣の制御室へ。
6畳ほどのプレハブに机、コンピュータに向かう数名の職員。「万一のときの緊急時にどうやって止めるんですか」と参加者からの質問があり「制御室で全部止めます、あ~いや止めることが出来ると思います~」「焼却炉、冷却塔、フィルター、固化装置そうした各工程で止めるようにできないのですか?」「ここで一括して止めると思います」環境省職員がしどろもどろになると、見かねた日立造船の職員から「各工程でそれぞれ止めることが出来ます」の一声。質問者が「それは緊急停止用ですか」「いや通常の運転の中で動かしたり止めたりすることが出来るようになっているということです」
続いてフィルター部分に移動。バグフィルターとへパフィルターの外観を見るだけ。バグフィルターでセシウムイオンは99.9%除去できますというのが環境省の主張。SOx(硫黄酸化物)、NOx(窒素酸化物)、重金属、水銀の汚染について聞くと、「ソックス、ノックスも取れます」と答えた。
左側がHEPAフィルター、右側がバグフィルター
以上で30分の見学は終わり、受付のテントに戻りアンケートの記入を求められた。この時日立造船の社員たちが来て「先ほどのセシウムが塩素と結合するということですが」と話しかけてきた。「セシウムが塩素と結合し、析出しないということについてですが」「塩化セシウムは水によく溶けますよね。確かに水分子が存在しなければ多くは塩化セシウムになるでしょう。でもそれは水分子が存在しないことを前提にした話でしょう」「セシウムの蒸気圧ということだと思うのですが」「セシウムのボイリングポイント(沸点)は約650度です。200度くらいであれば気化した分子が多数あるということです」「セシウムの蒸気圧は200度で・・・(正確に聞き取れなかった)くらいですので、ごくわずかですよね」「確かにセシウムは137と重いので高くはありません。しかし、あなた方がバグフィルターで99.9%除去できるというためには、まず、飛灰の中のセシウムが100%塩化セシウムとして析出し、その塩化セシウムが100%煤塵と結合し、それが100%バグフィルターに捕捉されなければならなくて、すべてが100%いくわけがないでしょう」「それは違います。バグフィルターで消石灰が目詰まりしておりその目詰まりによって」「消石灰とは水酸化カルシウムですよ、強アルカリです。水があれば徐々にでも水酸イオンは水に溶け出る。残ったカルシウムは1価のプラスイオンでこれはアルカリ金属であるセシウムイオン、プラスイオン同士は絶対にくっつかないからマイナスイオンである塩素イオンが介在しなければとれません」「カルシウムイオンは1価ではなくて2価です」「あっと、そうです2価です(これは単なる言い間違い)」
「え~~、次の会がはじまりますのでえ~」
と不毛な議論は打ち切り。
わずか30分の公開は瞬く間に終わってしまった。目にした焼却炉は余りに小さくあまりにお粗末、6メートルに満たない煙突は見上げるまでもなかった。これが世界で例のない高濃度放射性廃棄物の焼却処分場かと思うと身体中の力が抜けた。しかし、ここでの焼却データ、「指定廃棄物を燃やしても排ガスはNDです」が指標となり今後膨大な量の放射性廃棄物が福島県内外で焼却されることになるのだ。
(回転床炉に関する参考ブログ)
産廃焼却施設(松河戸町)建設を阻止する会 日本科学者会議 愛知支部 株式会社 環境総合研究所 日本科学者会議 愛知支部 常任幹事 小島 伸晃氏のレポート
循環型社会って何! 国の廃棄物政策やごみ処理新技術の危うさを考えるブログ-津川敬
他にもまだまだたくさんあります。お勧めがあれば教えて頂ければ幸いです。
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