さくらんひめ東文章

指折って駄句をひねって夜が明けて

2006年 夏-20

2009年06月24日 | 京都検定ノススメ -2-
~このお話はばあさんの夢と妄想によるフィクションです。~


たしかに、かの君の言うとおりだった。
いくら空腹とはいえ、その後の展開も考えずに
あまりにもおろかで、非常識な自分が情けなかった。
こんな私に、かの君は気分を害したであろうか?
今頃はホテルに帰るタクシーの中であろうか?
すぐにでもかの君の後を追いかけていきたい想いがこみ上げてきたが、
「だったら覚悟ができているのか?」とたずねられたら
たしかに今もそんな覚悟などはできていない。
お腹はペコペコなのに、胸の中はかの君への想いでいっぱいだった。

しばらくすると、竹籠のバッグの中の携帯が鈍い音をたてて震えた。

「エゴの君へ
あなたはやっぱり子供のようにエゴな人だ(笑)
というより、大人の女性の着ぐるみを着た子供なのかもしれない!
どこにでもしゃがみこんで野の草の写真を撮り始めたり、
その幼さに私は翻弄されてばかり(笑)
でも今の私は、たとえ人妻であっても、
そういうあなたにとても惹かれてしまっていて、
あなたの部屋から帰ってくることがとても辛かった。
あの冬の再会以来、遠い記憶の中に埋もれていた情熱がほとばしり
私の中で溢れだしてしまい、もうコントロールができない状態です。
あなたもこれからの事をもう一度よく考えてみてください。
今日は私にとって、本当に思い出深いいい一日になりました。有難う!
明日は気をつけてお帰りくださいね。
東京に戻ったらこれからのプロジェクトについて一度話し合いましょう。
ではおやすみなさい。」

私は、返信のメールも出来ず、窓のカーテンを開けて
二人で手をつないで歩いた鴨川をみつめ、
どうしたらよいのかわからない自分に混乱していた。

かの君が一緒にこの部屋で食事をしていたら、
そのあとはどうなっていたのだろう?
まるで、若者たちのように、私たちは河原を手をつないで歩いた。
かの君が私の手をとった時、私はそれを拒まなかったしむしろ嬉しかった。
でも、今の私にはまだそれ以上のことが考えられないし、
たぶん受け入れることもできないように思う。

私が人妻だからであろうか?

私を信じてくれている主人を裏切ることができないからであろうか?

しかし、もしかすると、実際は流れに身を任せてしまったかもしれない?
ああ…いや!今の私には本当にそんな勇気があるだろうか?

「東京に戻ったらこれからのプロジェクトについて一度話し合いましょう。」
と言う意味はどういうことなのだろう?

こんな私とは、『京都検定1級攻略!寺社めぐりプロジェクト』を
もう続けたくないということだろうか?

二人で一緒に寺社めぐりをしようとプロジェクトを立ち上げた時、
胸の中にうっすらとした不安がよぎったあの日のことを私は思い出した。

お互いが惹かれあっていくであろう予感だった。

気持ちはかの君の腕の中に抱かれたいと思っているのに、
「不倫」という響きへのおそれが私を制しているのだろうか?

いったいどうすればいいの?

とめどなく涙があふれてくるのを私は抑えることができなかった。

気がつくと、空が白みはじめていた。
携帯を握りしめたまま、窓辺のソファで泣き寝入りをしてしまったようだ。
カーテンを開けはなしたままだったので、朝の光が部屋にも差し込んできて、
切ない夜の胸の痛みが少しだけ薄らいでいた。

五山の送り火が終わると、そろそろ京都にも秋がやってくる。