エレクトロニックス(electronics)は電子(electron)にicsを加えた言葉であるが、電子という粒子の動きを制御する科学技術の1分野を意味する。同様に、フォートニックス(photonics)では、フォートン(photon)と呼ばれる粒子の動きを制御する。
以前述べたように(9/27参照)、量子力学で扱う小さな粒子は、すべて粒子としての性質と波としての性質を兼ね備えている(*脚注参照)。フォートンとは光の粒子である。フォートニックスには、光の発生、放出、伝搬、変調、信号処理、信号記憶、増幅、検出など光の技術的処理すべてが含まれる。
フォートニックスという言葉が使われはじめたのは1960年代である。エレクトロニクスが材料中の電子の移動に依存するのに比べると、光ははるかに速く移動する。したがって、信号処理の時間を短縮出来る。すでに光ファイバーは光信号の伝搬に広く利用されている。また、方向性を持つ強い光信号の発生にはレーザーが用いられている。フォートニック結晶と呼ばれるものは、ナノ粒子を周期的に並べたものである。粒子の間隔を光の波長と同程度にしておくと、特定の波長の光を通さなくすることが可能である。
さて、ナノテクノロジー集積回路ではナノサイズ素子間を光信号で連結することが好ましい。しかしながら、現在光信号の伝搬に使われている光ファイバーは、太すぎてこの目的には適応しない。光信号の伝搬に使えると考えられるのがプラズモニックスである。プラズモニックスという言葉は、約10年ほど前から使われ始めている。
昨日、固体のプラズマ振動は固体中を伝搬する波であると述べた。伝搬するプラズマ振動は同時に粒子の性質を持っていて、プラズモン(plasmon)と呼ばれる。プラズモニックス(plasmonics)は、プラズモンの発生、伝搬などを扱う。ナノサイズ素子間をナノワイヤーで連結し、その間の信号伝達をナノワイヤー表面を走るプラズモン(表面プラズモン)で達成出来るものと期待されている。
*量子力学では、粒子が存在する場所を決めることが出来ない。決めることが出来るのは、ある場所に存在する確率のみである。この存在確率が波としての性質を保有していると考えても良い。