農林水産物のブランド展開が進むなかで、知的財産権に対する関心が高まっている。地域独特の生産方法や気象条件が生かされた農産物、固有の形質を持った種苗に知財権が設定されれば、生産者や育成者の利益が保護される。結果、農林水産業および関連産業の発展に結びつく一方、消費者は価値ある物産の購入で満足が得られる―という理解が進んだためだ。
農林水産業従事者から知財に関する知識や取得方法の問い合わせも増えると予想され、情報提供体制の充実が急務となっている。特許庁が各都道府県に置く知的財産総合支援窓口(工業所有権情報・研修館が今年度から所管)では今月から、農林水産省の担当する地理的表示保護(GI)制度や種苗の育成者権についても相談が受けられるようになった。
両省庁の協力で実現したサービスだが、この機会を活用して生産地、育成者の権利取得を進め、特産品ビジネスの拡大につなげてほしい。GIは、日本各地の気候や風土と結びついた伝統的製法によって高い品質が認められてきた農林水産物・食品などを、地域ブランドとして知財で保護し、地域の経済活性化につなげようという制度。
農水省が基準に照らして申請案件を審査し、パスした産品に「GIマーク」の使用を認める。2014年に制定された地理的表示法に基づき運用が始まり、昨年12月に「但馬牛」「夕張メロン」など7産品が初めて選ばれた。現在20産品以上が登録されている。ただ海外には法律の効力が及ばない。
このため国は20カ国・地域に商標を出願した。無断使用を許さぬよう登録まで監視の目を緩めず、出願先国と協力の下、先手を打つことが求められる。農業分野の知財権というと、これまでは種苗の育成者権のみが意識されてきた。ところが従事者の高齢化の進展、高まる省作業ニーズなど農業を取り巻く課題が多層化。
異分野のノウハウや技術を組み合わせれば、有効な対応策に成り得ると分かってきた。その例がICT(情報通信技術)やロボットの活用である。気象条件や熟練者の技、作物特性などをデータ化し、栽培・作業の最適化・省力化、作物の品質安定化、収穫量向上に生かす。これらの仕組みを含め「知財権で守られるビジネス」を目指さねばならない。
地域ブランドや育成者権を海外で普及するには今後、ソフト面を含め複数の知財で構成されるモデルの確立が不可欠。偽装困難な包装技術、簡易測定による鮮度保証なども取り込み、とくに成長有望なアジア市場で優位に立てる高度な保護体制が築かれることを期待したい。