旅の途中

にいがた単身赴任時代に綴り始めた旅の備忘録。街道を歩いたり、酒肴をもとめてローカル線に乗ったり、時には単車に跨って。

フクイサウルスと一乗谷遺跡と花垣と 越美北線を完乗!

2023-10-07 | 呑み鉄放浪記

切欠き式の2番ホームに朱色のキハ120形気動車が低くエンジン音を響かせている。
1番線に停車した金沢行きの特急が出てしまうと、朱色の気動車はまた一人ぼっちだ。

どこからか咆哮が聞こえてくる。
駅前広場に出てみると、肉食恐竜のフクイラプトルが、草食のフクイサウルスを威嚇している。
きょうは恐竜たちが跋扈する福井から越美北線に揺られて呑む休日なのだ。

09:08、朱色の気動車は身震いひとつ、たった一人の旅が始まる。
そんな寂しい旅立ちとは裏腹に723Dは軽快なスピードで走り出す。最初の1区間は北陸本線を走るからだ。

止まってしまうのかと思うほどの減速をして、723Dはガタガタと転線する。
W7系の試運転が始まった北陸本線の高架を潜ると越前花堂駅、ここが越美北線の起点になる。

越前花堂駅を出た途端に左右は田園風景に変わる。
刈り入れを待つ黄金色の田圃に混じって、白い蕎麦の花が揺れている。

せっかくボックスシートに掛けたけれど、10分少々で屋根もない小さな駅に途中下車。
ここは一乗谷、朱色の気動車を見送ると、この駅には不釣り合いに近代的な建物に気が付く。
昨秋開館した「一乗谷朝倉氏遺跡博物館」が朝倉氏の栄華を偲んでいる。

博物館の見学は後回しにして、玄関前から無料シャトルに乗車すると10分で復原街並みに案内してくれる。
400年の時をこえて蘇った城下町、色褪せた暖簾がひるがえる商家を冷やかしながら歩く。
大河ドラマに出てくるような町娘が茶を勧めてくれたりして、自分がどこにいるか怪しくなってくる。

かつてこの町並には白戸家のお父さんが帰省してきたり、ウルトラマンが郵便配達をしていたという。

一乗谷の中心部の朝倉館跡、東側後背には山城、他の三方を土塁と濠で囲んでいる。
館跡の唐門は義景の菩提を弔う松雲院の寺門で、豊臣秀吉が寄進したものと伝えられる。

遺跡を貫く一乗谷川の畔に瀟洒なレストラントでブランチ。
竹かごに色鮮やか小鉢を並べた “饗膳KYOZEN” は、福井の野菜や魚介を厳選したメニュー。
福井サーモン、焼きサバ、里芋の煮付け、これは上品なアテになるね。冷たいビールをいただこう。

〆はには当然の “越前そば”、これから訪ねる大野産そば粉というから嬉しい。
おろし汁をぶっかけたら、歯応えのあるそばをズズッとやる。天ぷらを齧りながらね。美味い。

昼過ぎの陽が照りつけるホーム、カンカンと警報機が鳴り始めて、ガタゴトと気動車がやってきた。
朝倉氏の「三つ盛り木瓜」も誇らしげに、黒・赤・金をベースカラーとした「戦国列車」だ。
サイドは乱世を駆け抜けた武将たちのシルエットを描いた豪華なデザインになっている。

一乗谷を出た725Dは直ぐに足羽川を鉄橋で渡って、しばらくはこの水辺とのおつき合いになる。
川原や田圃にはシラサギやアオサギが遊んで、車窓を長閑な風景が流れていく。

上下線が交換する美山駅では多少の乗降客があった。この日はマルシェが開催されているらしい。
小さなピークを越えると725Dは大野盆地へと降り始める。こんもりした亀山(249m)に大野城が見えてきた。

越前大野は名水の町、お殿様の御用水「御清水(おしょうず)」をはじめ、町中には湧水地が点在している。
古くから豊かな水に恵まれた越前大野だから、美味い地酒にも期待しちゃうね。

まずは越前大野城に登ってみる。
亀山に築いた城郭には望楼付き2層3階の大天守と2層2階の天狗櫓、石垣は野面積みだ。
天正3年(1575年)、織田信長の武将金森長近は一向一揆を収束させ大野郡を拝領した。
ほどなく盆地中央の亀山に平山城とその麓に短冊状の城下町を開いたのだ。

天守から天狗櫓越しに越美国境の山々を望む。この山ふところにもう少し越美北線の旅は続く。
近ごろ越前大野城は「天空の城」とプロモーションしている。
展示写真を観ると、なるほど町を包み込む雲海に浮かび上がる天空の城 越前大野城は幻想的で美しい。

城下の南部酒造場は享保18年(1733年)の創業、酒造りは明治の世になってからだとか。
この蔵が醸す「花垣」は呑み人が好きな銘柄の一つでもある。

「戦国列車」が越美北線の旅のラストスパートを担う。終点九頭竜湖までは20キロ、約40分の旅になる。

キハ120形には4つのクロスシートがあって、窓枠の下から大きめのテーブルが張り出している。
それではと遠慮なくショルダーバックからMy猪口を取り出して、キュッと “花垣” の生酒を開ける。

越前大野から終点までは九頭竜川と絡む。柿ヶ島駅を目前に渡る白いトラス橋が第一橋りょうだ。

第二橋りょうから見る九頭竜川の渓谷は深く狭隘になっている。
鉄路で越えられる限界が近づいていることを感じさせられる。

この先の越美北線は、荒島トンネル(5,215m)と下山トンネル(1,915m)と直線的なトンネルで
深く狭隘な谷と勾配を躱わしながら県境へ向かって延びているのだ。

トンネルを抜けた鉄路がR158と並んで左に90度の弧を描くと、行手にXの標識が見えてくる。
ほどなく「戦国列車」はブレーキ音を響かせて、いかにも終着駅らしい単式ホームにたどり着く。

駅舎はリゾートをアピールするかのようなログハウス風で、よく似た「道の駅九頭竜」と並ぶ。
そしてここにも恐竜の親子が時を告げる咆哮を響かせている。

かつて岐阜県と福井県を結ぶ計画だった越美線は、国鉄の赤字が膨らみ繋がることはなかった。
未成区間の九頭竜湖〜北濃(長良川鉄道)は、8kmの徒歩山越えを挟んで2つのデマンドバスで踏破できるが・・・
とりあえず、北に残された越美北線の旅は、恐竜の出迎えを受けてここに終わるのだ。

越美北線 越前花堂〜九頭竜湖 55.1km 完乗!

<40年前に街で流れたJ-POP>
SOMEDAY / 白井貴子 1982



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