「…これは、驚きですな。魂魄が "声" を発するとは。」
やっと "影" がそう言うことで、ようやくその場の沈黙が途切れた。
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「…うむ。めずらかなことよ。
よほど… "心" の叫びが聞き捨てるには及ばなかったのだろう…。」
淵明もつぶやく。
心、まだ陶然としている。
その心に向けて淵明は声を励まして言った。
「しかと聴いたかよ!?心!」
「!! … 」
「 …… き、聴きました!
彼らは "無限の虚" から抜け出すために地に降ったとー 。
確かに… そう言った。
はっきりと聴こえ申した。
だが … その真意は?」
ゆっくりと、盃を干し、そして ー 淵明がその問いに答える。
その瞳は "心" をじっと、慈しむ様に見つめ続けている。
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「 "力" とは虚しいモノでな… 。
それに反発すべき質を違える "力" が無ければ存在出来ぬモノでな。
遥かなる昔…。気が遠くなる程の昔々…。」
" ー 有ル無キモノハ、間 (すきま) 無キニ入ル。
ココヲ以ッテ無為ノ益アルコトヲ知ル。
不言ノ教 (おしえ) 、無為ノ益ハ、天下コレニ及ブモノ希ナリ。"
淵明の話に相和すようにして、"記憶" が朗々と何事かを賦し、かつ詠ずる。
それは異なる内容について言っているようでもあったが、不思議なほどに調和している。
その場の誰もが違和感なく聞き、両者の "声" に耳を澄ませている。
「 … 無から "有" が生まれた時 ー "有" とは "力" の事だが ー それは一つの方向性しか持たない、言わば存在しているのに存在していない様な状況だった。
その問題を解決する為に違う角度の "力" が生まれた… 。」
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" ー 物有リ混成シ、天地ニ先ンジテ生ズ。
寂 (せき) タリ寞 (ばく) タリ、独立シテ改 (かわ) ラズ、周行シテ殆 (とど) マラズ。
以ッテ天下ノ母ト為スベシ。
吾レソノ名ヲ知ラズ、コレニ字 (あざな) シテ道ト曰 (い) フ。
強イテコレガ名ヲ為シテ大ト曰フ。"
「太上老君か…。地に在ってかほどに真理を観通した "人間" は空前にして、後もなお稀…。」
"記憶" の声について淵明はそれだけを言って、あと再び自らの話に戻った。
「 … 無から "力" は生まれた。それを太上老君はあえて名付けるならば "道" だと… 、或いは強いていえば "大" と呼ぼう、そう言われた。
それはやがて一を生み、一は二を生み、二は三を生じて、三から万物が生じた…。」
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