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一太郎と花子の特許権侵害判決について

2005-02-02 23:13:16 | デジタル・インターネット
 東京地方裁判所は、2月1日にジャストシステムの「一太郎」と「花子」が松下電器産業の保有する特許を侵害しているとして、両製品の製造販売の差し止めと両製品の破棄を申し渡した。もちろん、ジャストシステムはこれに対して控訴する予定なので、判決自体は未決定となる。私は、「一太郎」は使っていないが、インストールはしている。もっぱら「Word」を使っているが、IMEはATOKを使用している。東京地方裁判所では、ワープロソフトとして一太郎を使っていたそうで、高部裁判長の判決文は、急遽別のワープロソフトで作成したそうだ。
 松下の訴訟は、ASCII24.comの「どうなる?一太郎&花子――東京地裁、特許権の侵害を認め、一太郎および花子の製造・販売の中止を命じる」によれば、次のようなものである。

松下電器産業が侵害されたと主張する特許とは、同社が1989年に出願、1998年に公開された“情報処理装置及び情報処理方法”(特願平1-283583)。ある種のヘルプ機能についての特許で、“機能説明を指示するアイコン”を、機能を知りたい対象の上にマウスを使ってドラッグ&ドロップすることで、その機能の説明を行なうアプリケーションを起動するというもの。特許公報によれば対象となる利用分野は、“日本語DTPやワープロ等”としている。同社は2002年11月に仮処分申請を行なっていたが、2003年6月に申請を一旦取り下げ、2004年8月に改めて提訴を行なっていた。

 これに対して、ジャストシステムは、「従来から同様の表示はキーボード操作で行なえたので、特許は無効」と主張していた。そして、判決が出ると同時に、「一太郎・花子に関する報道につきまして」という次のようなコメントを自社のHPに掲載した。
 
2月1日、東京地方裁判所において、松下電器産業株式会社が、ジャストシステムの日本語ワードプロセッサ「一太郎」と、統合グラフィックソフト「花子」において、松下電器産業株式会社の特許権を侵害する部分があるとして、販売差し止めなどを求めた訴訟(平成16年(ワ)第16732号特許権侵害差止請求事件)について、判決がなされました。弊社としては今回の東京地裁の判決を不服とし、弊社の見解と大きく異なるため、現在控訴の手続きを進めております。
お客様は、今後も問題なく「一太郎」「花子」をご利用、ご購入いただけます。また、2月10日(木)発売予定の「一太郎2005」、並びに「花子2005」につきましても、予定通り発売いたします。
また、一部報道に「命令」という記載がありますが、仮執行宣言が付されておらず、弊社は控訴の手続き中ですので、判決は確定しておりません。

 一応ジャストシステムとしても、徹底抗戦の構えを取っている。私は、こうした裁判は、徹底的にやった方がいいと思う。松下は、アメリカでの2004年の特許取得数では、IBMに次いでNo2の1934件の特許取得をしている。今回の訴訟も、松下の知的財産権戦略の一貫でもあると思う。もともと、自分のところのワープロ専用機のために取った特許だが、もう既に松下はワープロ専用機はつくっていない。だから、ジャストシステムにロイヤリティーを求めたが、それをジャストシステムは断った。そうである以上は、お互いに自分の主張をし、裁判で争えばいいと思う。

 ただし、特許の法律問題としては、互いに自分の意見を主張し、最終的に裁判所の判断に従うことになるだけであるが、企業の選択としてそれでよかったかどうかはまた別になるだろう。この裁判の波紋について、ITMediaニュースは「『一太郎』判決の衝撃」という記事を書いている。 特許の内容、係争の論点、判決の内容についての解説は、とても分かり易い。ある意味では、松下のやり方はずるいように見えるかも知れないが、それはルールの問題として考えれば正当な要求ではある。

 いったん勝訴というお墨付きを得られれば、後は各社にライセンス契約を申し入れるだけでいい。リスク管理に敏感なメーカーであれば、これを受け入れる可能性は十分にある。普通なら8年で償却され、紙くず同然となる休眠特許が小銭を生み続けてくれる。知財部門のお手柄というわけだ。
 国を挙げてプロ・パテントのかけ声がかかる中、各社は休眠特許の“虫干し”を進めている。同種の訴訟が減ることはなさそうだ。


 松下は松下の価値観で知財保護の戦略を進めているのであり、それに不満を持ったらそれなりに対策を考えると同時に、特許のあり方もまた問題にしていく必要があると思う。私も、松下の主張の正当性は認めるが、ただこの特許については、特許として認めていいのかどうかは問題があると思う。DTPやワープロ以外で普通に使われていると思われる方法が、文字ではなく、絵であるからダメだというのでは、分かりづらい。これでは、新しいソフトを開発しようとしたときには、夥しい数の特許を調査しておく必要が出てくる。そんなことができるのは、たくさんの特許を毎年取得している大企業だけだ。もっとも、松下がロイヤリティーを請求したときそれに応じていれば何の問題もなかったわけだが。

 判決を受け、著名なプログラマーが松下製品の不買を表明するなど、開発者サイドにも波紋が広がっている。ITmedia編集部に意見を寄せたある読者は「知財保護の必要性は認めるが、すでに一般化した技術についても特許出願する例があり、開発者の手足をしばるような状況になることが懸念される。中小零細企業ではソフトの開発に手一杯で、法務にまで十分な人材も手間も資金も回せない。こうした訴訟が相次ぐと、開発意欲を萎縮させかねない」と批判する。


 著作権も特許権も私有財産制度の中で決められた知的財産を保護するためのルールである。ルールはモラルではない。それは、いろいろな立場の人たちの利害を調整した決まりである。従って、それは、変更が可能であり、絶対的なものではない。人間が作り出した知的財産をどのように共有していったらいいか考えて決めればいいのだ。こうした知的財産を作り出せるのは、過去の知的財産(文明や文化)のおかげである。たとえ、一時的に個人的な知的財産もやがて、共有財産に帰って行く。私たちは、ルールを守りながら、ルールを越える方策を考えていかなければならないのかも知れない。
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1 コメント

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Unknown (gara)
2005-02-05 14:03:54
「ルールはモラルではない」という主張について、そもそも、特許というのは、独創的なアイディアに対する対価を要求できるように作った制度であり、ルールとしては、新規性や独創性がなくてはならない。しかし、松下の特許は、この独創性に著しく劣る。つまり、この特許が通った時点で特許庁自らがルール違反をしているのだ。

つまり、モラル以前にルール違反が行われている。あの程度のアイディアで特許が取れるのならば、ちょっとしたアイディアを考えるだけでも特許庁のホームページに行って調べないといけなくなる。また、特許料を取られて考えること自体が有料になってしまう。特許とは普段思いつかないようなものに与えられる特権であり、簡単に考えられるようなものに与えられるものではない。そのルールを守らないと社会全体の思考活動を萎縮させる恐れがある。特許庁は社会の思考活動を萎縮させないように特別なものにしか特権を与えないようにするのが、その存在理由である。

この問題は特許庁の問題が非常に大きい。一番大事な機能を果たしていない。
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