電脳くおりあ

Anyone can say anything about anything...by Tim Berners-Lee

トヨタ自動車の躍進の秘密

2005-01-30 23:04:40 | 政治・経済・社会
 トヨタ初の国産大衆車トヨダAA型がデビューしたのは、今からおよそ70年前の1936年だった。やがて国際的な企業として世界的に認知されるようになり、ついに2003年度には、日本企業として初めて連結経常利益が1兆円を超えたトヨタ自動車。もちろん自動車業界としては、純利益世界1である。トヨタ自動車については、いろいろな本が出ている。自動車に興味がある人を除いて、私たちはたいてい、トヨタ自動車がどうしてこんなに発展できたのだろうかというところに興味を持つ。これは、松下電器やソニーやホンダなどについてもそう思っているようだ。そして、いくつかの立志伝的な伝記を読んで、何となく理解した気になる。豊田左吉や豊田喜一郎、松下幸之助や井深悟、本田宗一郎などである。彼らはいずれも創業者であり、今のトヨタ、松下、ソニー、ホンダの基礎を築いた人たちである。
 
 私はこうした企業の創業者の中で、ソニーの井深さんには面談して、トランジスタ・ラジオの開発について話を聞いたことがある。そして、「高度な技術の問題になると誰か一人が一人の力だけで実現したのなどと言うことはあり得ない」ということを教えてもらった。もちろん、彼は、強力なリーダーシップを持って、それを実現したのであるが、それまでこつこつと蓄えてきたソニーの利益と組織的な力が最終的には成功に導いたと言っていた。だから、今回のトヨタ自動車の躍進の秘密が、何か一つの原因があってそれがこうした成功を導いたということはおそらくないと思う。
 
 ところが、トヨタの成功について知りたい人は、何か一つの原因が欲しいらしい。これが、成功の秘密だということを知りたいらしい。そして、それをみんなに知らせ、我が社でもそれができれば成功するということを言いたいらしい。できたら、我が社でやろうとしていることを支持するようなエピソードであって欲しいと思っているようだ。あるいは、関連会社の人たちに、こういうことを是非やらなければならないということを言いたいのだ。私に、ある人からトヨタの成功の秘密を調べて欲しいという依頼があったが、おそらく同じような意図があってのことだと思う。

 トヨタ自動車については、中沢孝夫・赤池学共著の『トヨタを知るということ』(日経ビジネス文庫/2004.11.1)という名著がある。これは、2000年4月に講談社から単行本として出版されたものを文庫化したものだ。文庫化するに当たって、かなりの加筆が加えられている。これと平行して、日本経済新聞社編の『奥田イズムがトヨタを変えた』(日経ビジネス文庫/2004.5.1)という本も参考になる。どちらも、現在のトヨタを奥田・張の社長時代のトヨタを中心に分析したものだが、誰かひとりの力とアイデアがトヨタを作り上げたようには書いていない。見えてくるのは、トヨタという「ものづくり」にかけたきた日本を代表する組織の力である。

 NHKの人気番組に、「プロジェクトX」というのがあるが、トヨタ自動車は、ある意味ではそうしたプロジェクトXがいくつも立ち上がっているようなものだ。大野耐一の指導で「カンバン方式」とか「ジャストインタイム」という言葉で知られるトヨタ式生産システムが整えられていったが、それは現場にたくさんのプロジェクトXをつくることだったと言ってもいい。また、新しい車の開発を任されるCE(チーフエンジニア)というシステムも、プロジェクトリーダーによる強力なリーダーシップが発揮できる制度だと言える。小型車「ヴィッツ」の開発のCEをつとめた市橋保彦さんや新プレミアムセダン「マークX」の開発を統括したCEの山本卓さんなどはそうした人たちだ。

 トヨタ自動車の「アニュアルレポート」を見るとそうした新車開発だけでなく、いろいろなところで新プロジェクトが立ち上がっている。そうした、人材の裾野の広さが現在のトヨタ自動車の強みだと思われる。それは、簡単にマネができるようなものではないことだけは確かのようだと思った。しかし、それでもそれらを研究し、参考にすることは、それはそれで大切なことだと思った。まさにトヨタ自動車のなかに、日本の「ものづくり」の過去と現在と未來が凝縮されているようなのだ。
コメント (1)
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