風に吹かれて~撮りある記

身近な自然の撮影
詩・雑文・ペット・簡単料理レシピ等

とんび2

2020-09-22 23:10:06 | おもひで


徹は思った。

千秋公園の近くに鷹匠町があった。

秋田藩主の佐竹さんが鷹狩をするときの

鷹匠たちが住んでいた所だった。

トンビも鷹狩りには使えないのかなと調べたが、

ちと無理のようであった。

おなじ猛禽類であっても能力は劣るようだった。

しかしその精悍な顔は迫力十分であった。

夏の間エサ取りに付き合うことになった。

一つまみの塩をもって畑に連れて行って

キュウリやトマトをよく食べたものだった。

そうして僕たちは仲良くなった。

北国の早い秋がきたときにエサ取りは終わった。

ピーちゃんは小屋に入ったのだ。

徹は健ちゃんを連れてきた。

ゆうに会わせたのだ。

その大きさに健ちゃんは腰を抜かした。

かみつかない、大きいね。

大丈夫だよ。

冬の間はゆうと遊んだ。

遅い春が来た頃エサ取りが始まった。

徹はあることを考えていた。

鷹狩りは無理でも、放しても帰ってこないのかなと。

そしたらかっこいいのにな。

そのころ健ちゃんは左腕にタオルを巻いて

ピーちゃんを止まらせるよう訓練をし始めた。

餌をまいてから左腕を伸ばして一度ピ-ちゃんを

腕に止まらせるというのであった。

始めは知らん顔ををしてたピーちゃんもだんだんとなれてきて

止まるようになった。

随分慣れてきたね。

うん俺のこと信用してるんだよ。

徹は考えた。

今は鎖につながれているが鎖がなくてもそうなったらすごいな。

健ちゃんをそそのかした。

鎖を外してもできるといいね。

でもなあ。

徹はしつこくすすめた。

大丈夫じゃない。


でも健ちゃんは慎重だった。

というよりピーちゃんを大空に飛ばしてまた戻ってくるという

ことをあまり素敵なこととは思っていなかった。

徹は口説いた。

しつこく勧めた。

その間ピーちゃんは随分と健ちゃんに慣れた。

左腕にすんなり止まるのである。

徹は自分の気持ちを抑えられなかった、

健ちゃん大空を飛ばしてみようよ、

きっと帰ってくるよピーちゃんは。

でもなあもしも。

お父さん怒るよな。

でも帰ってくればいいんだよ、戻って来ればいいんじゃあない。

そうだよな。

そんな話が4か月ほど続いた。

もうすぐ早い秋が来る。

秋は短い。

徹は必死になって健ちゃんに訴えた。

ピーちゃんが大空を飛ぶのをどうしても見たかったのだ。

そんなある日健ちゃんが言った。

やってみようか。

お父さんが出張で2~3日いないのだ。

大丈夫だよね、やってみようかな。

そうしようよ。

その日は気合を込めて餌をとった。

何時もよりたくさんだった。

ピーちゃんを左腕に泊まらせた。

そして鎖を外して大空に放した。

ピーちゃんは大喜びで気流に乗って舞い上がった。

2~3度旋回をして嬉しそうだった。

僕たちもうれしかった。

かっこいいなあ。

さて餌で呼び戻そう。

餌をまいてバケツをたたき左腕をあげた。

ピーちゃんはそれを見て降りてきた。

やった。そう思った。

しかしピーちゃんは腕に向かって降りてきたものの

どたん場で舞い上がってしまっった。

急いで餌を見せてバケツをたたいたのだが、

上昇していった。

そして東の空に飛んでいった。

僕たちは必死になって追いかけた。

バケツをたたいて徹は追いかけた。

健ちゃんは左腕をあげながら名前を呼んだ。

ピーちゃんは一度その声に反応したが

降りてくることはなかった。

雄物川を超えて海のほうに飛び去ってしまった。

畑の中で健ちゃんは大泣きしていた。

徹は呆然としていた。

もう見えなかった。

泣きわめく健ちゃんを見てなんてことしたんだろうと思った。

徹は健ちゃんごめんねと大声で言ってその場を離れた。

逃げ帰ったのである。

次の日から僕たちはお互いを避けるようになった。

気まずいまま僕たちは小学校を卒業した。

中学校は小学校と反対方向だった。

1学年16クラスもあるマンモス校だった。

そのおかげで僕たちは同じクラスになることはなかった。

徹は忘れようとしていた。

高校受験が始まった。

父の入った秋田高校は徹の学力ではきつかった。

先生が新設の南高校を進めた。

そこに入学した。

健ちゃんのことはすっかり忘れていた。

高校は県内のいろんな所から学生が来る。

下宿するものがたくさんがいた。

その子たちと仲良くなり話をしていた。

地元の話を聞くのは面白かった。

お前のところには高校はないの。

あるけどさ、俺大学へ行きたくてさ。

地元からでもいけるだろ。

だめだよ、水産高校だもの。

水産高校、何するの?

大体は遠洋漁業の漁師だよ。

そうなんだ。

そういえば親父のいとこの息子がそこの水産高校に入ったんだよ。

徹の近くに川尻小学校ってあるだろ。

ああうん。

グランドの近くだよ。健ちゃんていうんだよ。

健ちゃん?あの健ちゃんか。

海が好きだとか漁師になりたいとか言ってなかったのに。

海に行ったのか。

もう会えないな。

時は流れた。

徹は東京にいた。

27でサラリーマンになっていた。

母から手紙が来た上の妹が結婚するから帰っておいで。

休暇をもらい帰郷した。

両親に近況報告をした。

母がそういえば2年ほど前お前を訪ねてきた子がいたよ。

小学校の近くにいて確か健太と言ってたよ。

どうしたの?

どうしたっていったてお前は行方不明だったろう。

居場所はわからないと告げたら帰って行ったよ。

健ちゃん陸にあがったんだ。

しかし旧家はみじっかったので尋ねないで帰った。

その後何度か帰郷した。

そのたびに尋ねようとは思うのだが、

勇気がなかった。

この次、この次と先延ばししてるうちに

かなりの月日が流れた。

もう会いにいこうという気持ちはなくなってしまった。

時が立ち過ぎた。

もう秋田には両親はいない、帰る家もない。

健ちゃんは明るく元気な子だから

きっと幸せに暮らしてるだろう。

ごめんね    健ちゃん。

ほんとに    ごめんね。



























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