風に吹かれて~撮りある記

身近な自然の撮影
詩・雑文・ペット・簡単料理レシピ等

ゆう1

2019-11-15 07:46:15 | おもひで



ある日父がみかん箱を持ってきた。

ダンボールのその箱には子犬が入っていた。

どうしたのこれ。

母が尋ねた。

秋田犬の子供なんだよ。

子犬を産ませてみんなの学費の足しにするんだ。

大丈夫なの。

ああここに血統書があるんだ。

これがあれば子犬は売れる。

どうやら友達にそそのかされたらしい。

血統書を見せてくれた。

東雲号と書いてあった。

しののめと読むんだよ。

よびづらいな。

なんか考えろ。

新聞紙を敷いて子犬を出した。

子犬はおお喜びで皆に愛想を振りまいた。

生まれてひと月ほどの子犬だった。

茶色の毛並みがとてもかわいかった。

犬小屋がないので玄関で育てることにした。

子犬は父のズボンをかじったり、

母の割烹着を引っ張ったりしていた。

妹たちにもちょっかいを出していた。

徹がかまってあげたらむきになって甘えてきた。

徹、実家に行って牛乳を買ってきてくれ。

これから、 わかったよ。

こんばんは。

実家の台所に行ってみた。

野良仕事を終えたいとこ夫婦がいた。

いとこといっても17歳も年が離れていた。

本家の跡取りだった。

どうした徹。

牛乳を買いに来たんだ。

子犬を飼うことになったんだ。

子供を産ませるんだって。

そうなのか。

持って行った一升瓶に牛乳を詰めてくれた。

この夫婦は優しかった。

それからたびたび牛乳を買いに行った。

ある時祖父が出てきた。

おお徹かどうした。

牛乳を買いに来たんだ。

そうだってな子犬を飼ってるんだって。

祖父は頭に巻いたタオルを外して

コップを取り出して

嫁さんにいった。

一杯飲ませてやりな。

じいちゃんありがとう。

ああいいよいいよ。

それからはいつも牛乳を飲ませてもらった。

子犬は玄関で過ごしていた。

夜は障子を少し開けてダンボールを見ていた。

クンクン泣きながら子犬は落ち着かなかった。

それでもしばらくすると静かになった。

翌朝、なんだなんだ、なんかなめてる。

目を覚ました。

子犬がぺろぺろ顔をなめていた。

こらあ。なんでだ。

ダンボールをひっくり返して飛び出たようだった。

えらいなお前。

あれなんか臭いな。

うんちしてる。

お母さん、うんちしてる。

あれー、早く散歩に連れていきな。

急いで連れて行った。

子犬は、見るものすべて楽しいらしく大騒ぎだった。

こいつの名前を考えなくちゃ。

そのころ英語が流行りだしていた。

私はアイ、私のはマイ、あなたやお前はユウ

これがいいやとみんなに伝えた。

ゆうがいい。優しいという意味にもつながる。

父が賛成した。みんなも異存はなかった。

なかなか犬小屋はできなかった。

子犬は皆に愛想を振りまきながら元気だった。

玄関で寝ることになっていたが、

可哀そうなので布団に入れた。内緒だった。

寂しくて泣くんだもの。

ゆうは書くとしたらどう書くのと妹に聞かれた。

ひらがなでいいよ。

左隣に坂があった。

その下は田んぼと雑木林だった。

大半は実家の田んぼだった。

ゆうは雑木林が気になるらしくそっちに行こうとしていた。

長引きそうなので手前でやめていた。

2か月たったころゆうより大きい犬はここいらにはいなかった。

坂の上から確認して,ゆうを離した。

一目散に雑木林の中に入っていった。

ウサギやイタチを追い出してきた。

捕まえられないのだが必死なのである。

畦で寝ていたヨタカが驚いて飛びさった。

遊ぶのはいいのだが呼ぶと必ずとびかかって来るのだった。

おかげで母にいつも叱られた。

犬小屋がやっとできた。

さみしくて一晩中泣いていた。

かまうな。慣れさすんだよ。

父にそう言われた。

3~4日すると慣れた。

しかし朝は早かった。

好奇心が多いのであちこちに行きたがるのである。

おおきくなってきたので引きずられることもあった。

1年半ほどしたころゆうは子犬を産んだ。

8匹の子犬だった。

うち一頭が死にかけていた。

泣かないのである。

父と友人が必死になって看病した。

明け方子犬は泣き声を上げた。

前足一本だけが白い胡麻毛の犬だった。

ゆうが興奮すると危ないというので

2~3日経ってから見に行った。

チビ達は一斉におっぱいを飲んでいた。

ゆうはお母さんの顔になっていた。

物置の隅にゆうの寝床がしつらえてあった。

散歩は暫く父がしていた。

しばらくしてから短い時間散歩に連れ出した。

ゆう、よかったね。みんな元気だ。

うんよかったよ。

子犬たちの目が開いたころ、

ゆうの寝床の掃除のために子犬たちを庭に出した。

雪の積もった庭においてみた。

性格がわかった。

直ぐどこかに行こうとするやつ、こわがって泣くやつ、

だれかの後についていくやつ、ゆうのもとに帰ろうとするやつ

いろいろだった。

そのころから子犬の販売が始まった。

器量よしの子犬から売れていった。

初回4匹、2回目は3匹だった。

かろうじて生き延びた子犬は残っていた。

気の小さい臆病な男の子だった。

すぐゆうの所に逃げ込むのであった。

皆からいじめられていた。

この子は残るかなと思われた。

たくさんの子犬がいなくなったので

ゆうは落ち込んでいた。

もうこいつだけになったね。

一緒に散歩に連れて行ったのだ。

しかたないけどね、とゆう。

それから数週間したころお寺の住職さんが訪ねてきた。

こんにちは。〇〇寺の住職だけどお父さんはいるかな。

はいちょっと待ってください。

お父さん住職さんだって。

はいこんにちは。

いやあ秋田犬の子犬がいると聞いてな来てみたんだよ。

ああ1匹だけいるはいるけど器量はよくないよ。

まあ見せておくれよ。

ああ前足一本だけ白いのか。

顔は可愛いな。

性格は。

ちと臆病で弱虫かな。

ふーん。

しばらくじゃれていたが、

この子犬もらっていくよ。

残り物に福ありだ。

かわいい顔してるよ。

近頃浮浪者等が多くてな、

物騒なんだよ。

ひとしきりお茶を飲みながら話をして連れていくことになった。

子犬はすこしあばれたが、住職さんは離さなかった。

懐に入れられた子犬はワンワンと吠えた。

ゆうが応じて大きく吠えた。

お母さんさよならだね行ってくるよ。

ああ元気でね、可愛がってもらうんだよ。

ゆうはまた一人になった。

ゆうは落ち込んでいた。


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