それでもしばらくするとゆうは元気になった。
すこし大人びたゆうと私はよく話をするようになった。
俺さあ東京に行きたいんだ。
なんで?
こんなとこ嫌だよ。
親戚ばっかり多くてさ、風習とか煩わしいし。
東京にいって一人で生きてみたいんだ。
何もそんなことしなくてもここにいたらいいのに。
幸せにおなれるよ。
嫌なんだ、何とかして東京に行くんだ。
どうやって?
うん秋田以外の大学に行くんだ。
そこから東京へ就職するんだ。
大変じゃないの。
平気だよ。
両親の悪口を言ったり、女の子のことを話したり。
ゆうは黙って聞いてくれた。
春の終わりのある日、ゆうが吠えた。
あれ誰か来た。
はいこんにちは。
住職さんだった。
あの子犬を連れてきた。
おおきくなったなあ。
子犬は徹のことを覚えていた。
一生懸命じゃれついてきた。
ほれお母さんのところに行っておいで。
子犬は走っていった。
ゆうに甘えていた。
天気がいいからね散歩がてら来てみたんだよ。
お父さんはいるかい。
ええどうぞ。
お父さん住職さんだよ。
ところで名前は?
ああ名前はゴンだよ。
なんで?
玄関の戸にぶつかってゴン。
そんなんでいいの。
名前なんてのは覚えやすくて呼びやすいほうがいいんだよ。
そういいながら家に上がろうとした住職さんの懐から
こづちが落ちた。
これどうしたんですか。
ああこれか。
隣のお寺にも秋田犬がいるんだ。
もう成犬でね。
こいつがねゴンを見るといじめにくるんだ。
かみつきはしないけどゴンが弱虫で小さいのをいいことに
威嚇するんだよ。
怯えて震えるんだよ。
そこでこいつで頭をポカリ。
おどろいて逃げるんだ。
それからは持ち歩いているんだ。
吠えて寄ってくるけど4~5回ポカリとやったので
これを見せると逃げていくよ。
大丈夫なの。
いいのいいの。
ひとしきり父と話をして帰ることになった。
ゴン帰るぞ。
ゴンはゆうから離れて住職さんの所に戻った。
ゆうがワンワンと吠えた。
またおいで元気でいるんだよ。
ゴンが答えた。
うんお母さんも元気でね、又来るよ。
1年ほどしてゆうはまた子犬を産んだ。
9匹の子犬だった。
あっという間に売れてしまった。
ゆうはまたも落ち込んでいた。
うまくゆうを慰めることができずにいた。
子犬は一万円ほどで売っていた。
しかし利益はさほどではなかった。
お産前後の食費、種付け料などを考慮すると
たいした儲けにはならなかった。
そのことを母に指摘されて父はうなっていた。
ひと月に一度ゆうの小屋の大掃除をしていた。
敷きわらを取り換え、床板の掃除をするのだ。
板の隙間にはいろんなものが入っていた。
私のズックだ、俺のサンダルだ。
お父さんのげただ、お母さんのスリッパだ。。
たいがいは片割れ。
みんなでゆうを責めた。
お前なんで持ってきたんだよ。
なくしたといって怒られたんだぞ。
ゆうはみんなに背を向けて寝たふり。
いつの間に。
何か物がなくなるとゆうの小屋を見に行くようになった。
妹たちにスキーをはかせてゆうの綱を持たせ、
ゆうの前を走った。
面白がってスピードを上げたら泣き声。
早すぎてこけたのだ。
父に怒られたのは言うまでもない。
ゆうの体を枕にすると気持ちがよかった。
春の陽だまりの中でよくうたたねをした。
坂の下には菜の花畑があった。
そこの畦でよく休んだ。
寝過ごして何度も怒られた。
高校生になった頃、私は受験勉強の準備に入った。
私立は無理だから、国立しかないな。
学力との相談なのだが、なかなかうまくはいかなかった。
それでも2年生になった頃目標の大学をきめはじめていた。
ゆうにも話をしていた。
無理しなくてもいいのに。
ここでも幸せになれるよ。
嫌だ外に出るんだ。頑張るぞ。
ゆうは8歳になっていた。
歩きが少しのろくなった。疲れも目立つようになった。
もう雑木林を目指さなくなった。
ゆう大丈夫か。
ああ大丈夫だよ。
大きな体はよろけていた。
さほどの心配はしていなかった。
ある日受験勉強を終えて寝ようとしたとき、
ゆうが二度ほど遠吠えをした。
あれ珍しいな、遠吠えなんて。
窓を開けてみた、雪が舞っていた。
気にはなったが雪を見て躊躇した。
明日の朝早く見に行こうか。
翌朝、ゆうおはよう。
何時もなら起きてきて体を震わせるのだが、
起きてこない。
寝てるのかな、降り積もった雪を払ってみた。
動いてない。ゆう、ゆうさすってみた。
それでももう動かない。息をしていない。
おとうさん、おとうさん。
どうした。
ゆうが死んでる。
なに。
父は飛んできた。
死んでいるのを確認した。
昨夜遠吠えをしたろ。
うん。
あれってサヨナラだったの?
たぶんそうだろうな。
涙が止まらなかった。
兄弟がなくなったみたいな気分になった。
父は友人のところにこれからのことを相談しに行った。
友人が来て確認した。
あとで聞いたのだが老衰だそうだ。
今と違ってそのころは粗食だった。
ドッグフードなんかなかった。
犬の寿命も今より短かった。
遺体をどうしたかはわからない。
父は何も言わなかった。
しばらく父は犬を飼わなかった。
犬小屋が撤去されるとますます悲しくなった。
坂の上で雑木林を見ていた。
ゆうが出てきそうな気がした。
それから赤毛の秋田犬を見るたび
ゆうのことを思い出すのだった。
ゆう、ゆう帰ってこないのか。
ゆうを撫でてる感触が今でも残っている。
その後徹は秋田犬を見ると思い出すのだった。
今でも俺のこと見ていてくれるかな。
ゆう、ゆう。
すこし大人びたゆうと私はよく話をするようになった。
俺さあ東京に行きたいんだ。
なんで?
こんなとこ嫌だよ。
親戚ばっかり多くてさ、風習とか煩わしいし。
東京にいって一人で生きてみたいんだ。
何もそんなことしなくてもここにいたらいいのに。
幸せにおなれるよ。
嫌なんだ、何とかして東京に行くんだ。
どうやって?
うん秋田以外の大学に行くんだ。
そこから東京へ就職するんだ。
大変じゃないの。
平気だよ。
両親の悪口を言ったり、女の子のことを話したり。
ゆうは黙って聞いてくれた。
春の終わりのある日、ゆうが吠えた。
あれ誰か来た。
はいこんにちは。
住職さんだった。
あの子犬を連れてきた。
おおきくなったなあ。
子犬は徹のことを覚えていた。
一生懸命じゃれついてきた。
ほれお母さんのところに行っておいで。
子犬は走っていった。
ゆうに甘えていた。
天気がいいからね散歩がてら来てみたんだよ。
お父さんはいるかい。
ええどうぞ。
お父さん住職さんだよ。
ところで名前は?
ああ名前はゴンだよ。
なんで?
玄関の戸にぶつかってゴン。
そんなんでいいの。
名前なんてのは覚えやすくて呼びやすいほうがいいんだよ。
そういいながら家に上がろうとした住職さんの懐から
こづちが落ちた。
これどうしたんですか。
ああこれか。
隣のお寺にも秋田犬がいるんだ。
もう成犬でね。
こいつがねゴンを見るといじめにくるんだ。
かみつきはしないけどゴンが弱虫で小さいのをいいことに
威嚇するんだよ。
怯えて震えるんだよ。
そこでこいつで頭をポカリ。
おどろいて逃げるんだ。
それからは持ち歩いているんだ。
吠えて寄ってくるけど4~5回ポカリとやったので
これを見せると逃げていくよ。
大丈夫なの。
いいのいいの。
ひとしきり父と話をして帰ることになった。
ゴン帰るぞ。
ゴンはゆうから離れて住職さんの所に戻った。
ゆうがワンワンと吠えた。
またおいで元気でいるんだよ。
ゴンが答えた。
うんお母さんも元気でね、又来るよ。
1年ほどしてゆうはまた子犬を産んだ。
9匹の子犬だった。
あっという間に売れてしまった。
ゆうはまたも落ち込んでいた。
うまくゆうを慰めることができずにいた。
子犬は一万円ほどで売っていた。
しかし利益はさほどではなかった。
お産前後の食費、種付け料などを考慮すると
たいした儲けにはならなかった。
そのことを母に指摘されて父はうなっていた。
ひと月に一度ゆうの小屋の大掃除をしていた。
敷きわらを取り換え、床板の掃除をするのだ。
板の隙間にはいろんなものが入っていた。
私のズックだ、俺のサンダルだ。
お父さんのげただ、お母さんのスリッパだ。。
たいがいは片割れ。
みんなでゆうを責めた。
お前なんで持ってきたんだよ。
なくしたといって怒られたんだぞ。
ゆうはみんなに背を向けて寝たふり。
いつの間に。
何か物がなくなるとゆうの小屋を見に行くようになった。
妹たちにスキーをはかせてゆうの綱を持たせ、
ゆうの前を走った。
面白がってスピードを上げたら泣き声。
早すぎてこけたのだ。
父に怒られたのは言うまでもない。
ゆうの体を枕にすると気持ちがよかった。
春の陽だまりの中でよくうたたねをした。
坂の下には菜の花畑があった。
そこの畦でよく休んだ。
寝過ごして何度も怒られた。
高校生になった頃、私は受験勉強の準備に入った。
私立は無理だから、国立しかないな。
学力との相談なのだが、なかなかうまくはいかなかった。
それでも2年生になった頃目標の大学をきめはじめていた。
ゆうにも話をしていた。
無理しなくてもいいのに。
ここでも幸せになれるよ。
嫌だ外に出るんだ。頑張るぞ。
ゆうは8歳になっていた。
歩きが少しのろくなった。疲れも目立つようになった。
もう雑木林を目指さなくなった。
ゆう大丈夫か。
ああ大丈夫だよ。
大きな体はよろけていた。
さほどの心配はしていなかった。
ある日受験勉強を終えて寝ようとしたとき、
ゆうが二度ほど遠吠えをした。
あれ珍しいな、遠吠えなんて。
窓を開けてみた、雪が舞っていた。
気にはなったが雪を見て躊躇した。
明日の朝早く見に行こうか。
翌朝、ゆうおはよう。
何時もなら起きてきて体を震わせるのだが、
起きてこない。
寝てるのかな、降り積もった雪を払ってみた。
動いてない。ゆう、ゆうさすってみた。
それでももう動かない。息をしていない。
おとうさん、おとうさん。
どうした。
ゆうが死んでる。
なに。
父は飛んできた。
死んでいるのを確認した。
昨夜遠吠えをしたろ。
うん。
あれってサヨナラだったの?
たぶんそうだろうな。
涙が止まらなかった。
兄弟がなくなったみたいな気分になった。
父は友人のところにこれからのことを相談しに行った。
友人が来て確認した。
あとで聞いたのだが老衰だそうだ。
今と違ってそのころは粗食だった。
ドッグフードなんかなかった。
犬の寿命も今より短かった。
遺体をどうしたかはわからない。
父は何も言わなかった。
しばらく父は犬を飼わなかった。
犬小屋が撤去されるとますます悲しくなった。
坂の上で雑木林を見ていた。
ゆうが出てきそうな気がした。
それから赤毛の秋田犬を見るたび
ゆうのことを思い出すのだった。
ゆう、ゆう帰ってこないのか。
ゆうを撫でてる感触が今でも残っている。
その後徹は秋田犬を見ると思い出すのだった。
今でも俺のこと見ていてくれるかな。
ゆう、ゆう。
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