碧田直の いいじゃないか。

演劇ユニット、ミルクディッパー主宰の碧田直が、日々を過ごして、あれこれ思ったことを、自由気ままに綴ります。

無題そのひゃくさんじゅうよん

2016-08-30 12:58:34 | 日々
大型台風は、どうやら関東をかすめて行ったらしい。家を出る時は、かなりの雨に見舞われていたが、いまは晴れ間も見えている。直撃を受ける東北の方々は、これからが正念場となるので、くれぐれも気を付けてほしい。

小さい頃、台風が接近すると、決まって張り切るのは父親だった。
といっても、子供のようにはしゃぐわけではない。強風で雨戸が飛んでいってしまわないように、その強化に駆けずり回るのだ。
現在の新築一戸建ては、たいていシャッターだと思うが、俺が小さい頃は、雨戸が一般的だった。夕方になると、たいてい俺が雨戸を閉めにいかされ、あちらこちらの雨戸を閉めていたのだが、ひとたび台風ともなると、父親が出て来て、ひと仕事はじめるのだ。

強化とはどういうことか。雨戸には内側に落とし込む錠がついていて、それを雨戸の通り道にあらかじめ開けられている穴に押し込むと鍵がかかり、外的圧力だと、ちょっとやそっとでは開かなくなる。たいていの家はこれで済ませていたのではと思うが、根が慎重で用心深い父親は、これではあきたらず、その横に長釘を二本ばかり深々と打ち込んで、二重三重の備えをするのである。

当然うるさいし、母親が『もういいのでは』などと言っても、頑固な父親は聞く耳も持たず、家中の雨戸という雨戸を、家ごと飛ばされない限り大丈夫なくらいに固定してしまうのだ。そして、満足げにこう言う。
『これで、どんな台風でもびくともしない』

父親の言う通り、雨戸に関して、例え観測史上最大の台風が直撃しても、家はびくともしなかった。おかげで、夜中に台風が直撃したような時でも、不安にさいなまれることなく、ぐっすり眠って朝を迎えられた。その点については感謝している。

ただ、どんな台風がきてもびくともしないほど打ち込んだ釘は、母親や子供の俺が、どれほど力を込めて抜こうとしても抜けずに、父親が朝早く出勤してしまった日には、台風一過の雲ひとつない晴天のもと、雨戸をすべて閉めっぱなしで過ごすはめになってしまったが。

とにもかくにも、台風被害は最小限に留めて、もう去っていきかけている夏の晴れ間を、あと少しの間、楽しんでいたいと思う。
コメント
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