碧田直の いいじゃないか。

演劇ユニット、ミルクディッパー主宰の碧田直が、日々を過ごして、あれこれ思ったことを、自由気ままに綴ります。

無題そのひゃくじゅうろく

2016-08-12 13:44:58 | 日々
最近、妻と二人、アオイホノオというドラマにハマっている。

このアオイホノオ、もとは二年前にテレ東で放送していた深夜ドラマだが、現在また再放送していて、それをネット配信で観ているわけだが、これがまあ面白い。
話の筋としては、大阪芸大に入学した、自信だけは超一流の主人公焔モユルが、後に新世紀ヱヴァンゲリオンなどを作る庵野ヒデアキの才能に打ちのめされながら、何とか庵野に勝とうと、己の可能性を求めて七転八倒するというもの。

このドラマには原作があって、島本和彦という漫画家の自伝的作品である。つまり焔モユルは島本和彦自身であり、登場人物には全員モデルがいるそうなのだが、売れない映画でよく使う『これは、すべて実話』みたいな背景など、どうでもよくなるくらい、ドラマは抜群に面白い。面白さが飛び抜けている。

島本和彦の漫画は、『炎の転校生』から読んでいるが、過剰な熱さがウリだ。登場人物たちは、あくまでクソ真面目に、不必要なまでに『熱い』のだが、沸点をはるかに超えた熱さに触れたこちらは、まず爆笑し、ちょっとだけ清々しい気分になる。
このいわば『超熱血』をアオイホノオは見事に再現している。焔モユルは、とにかく舞い上がり、とにかく暴走し、とにかく落ち込み、とにかく驚愕する。それがいちいち過剰なのだ。モユルを演じる柳楽優弥は、その過剰さを、これ以上はないというくらいに的確に演じてみせている。彼の最高傑作かもしれない。

脇役も力が入っている。挙げればキリがないが、特筆すべきは庵野ヒデアキを演じた安田顕だろう。当時四十歳の安田が、十九歳の庵野を演じているのだが、まるで違和感がない。天才にして奇人の庵野を、本人もきっとこうなのではないか、と思わせるリアリティをたたえながら、やっていることは奇人そのものなので、ケレンたっぷりな、いや、ケレンしかないような演技を見せる。そこが素晴らしい。
また、庵野の周りには、すでに後のガイナックスの重鎮になる面々が揃っている。日本アニメ史に残る会社であるガイナックスの前史としても興味深い。

アオイホノオは、青春の恥ずかしさや恥ずかしさや恥ずかしさを、これでもかと過剰に熱く表現したドラマだ。その過剰さに腹を抱えて笑いながら、ふとしたときに懐かしさも感じる。大なり小なり、若さには過剰な部分が含まれているのを知っているからだろう。紛れもなく傑作である。
コメント
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