中田真秀(なかたまほ)のブログ

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私を泣かせてください、ヘンデルとファリネッリ

2012-02-29 16:51:51 | 日記
先ほどのブログエントリは映画「カストラート」やそれにまつわる本を読んで書いた。

まず邦題が良くないことを指摘しておく。原題は、「Farinelli Il Castrato」イタリア語だ。英題も「Farinelli」
邦題は「カストラート」原題を訳すと「去勢歌手 ファリネッリ」だろう。英でも「ファリネッリ」。邦題に
彼の名前を出さないというのはとても残念だ。「カストラート ファリネッリ」でもよかったのではないか。

ヘンデルは、去勢歌手を嫌っていたのかもしれない。その声の美しさは悪魔のようであり、音域は広く、そして厚みがあり、息も長く続く。去勢はイタリア以外 - もちろん
ドイツ(ヘンデルの出身)やフランス、イギリス(後に帰化)でも眉をひそめられていたから、それに心を奪われてしまうのは
恐怖だったに違いない。ファリネッリは屈辱的な扱いをし、ヘンデルもそうする。ただ、音楽性は二人とも認め合っていたのであろう。
政治的にも - 王のオペラと貴族のオペラの争いに巻き込まれた後も - ファリネッリはヘンデルを擁護する。
ファリネッリを慕っていたアレクサンドラは楽譜を盗んだりもした。

ヘンデルも、音楽の忠実な僕で、オペラを書いてしまう。ファリネッリのために想像力のすべてを奪われてしまった。
その一つがヘンデル「リナルド」であり、その一番有名なアリアは「私を泣かせてください」(Lascia Ch'io Pianga)である。
ファリネッリも随一の作曲家であったヘンデルのアリアは歌いたかったに違いない。二人の間の精神的な葛藤を超え、政治の壁も乗り越えてしまう。

YouTubeでいくつか美しい歌声を聴くことができる。
* Handel - Farinelli - Lascia ch'io pianga
* Maki Mori - Handel - Rinaldo: Lascia Ch'io Pianga

ただ、そのカストラートの為に書いた歌詞自体は皮肉そのものだ。
「Lascia ch'io pianga
mia cruda sorte,

e che sospiri la libertà.
Il duolo infranga queste ritorte
de' miei martiri sol per pietà.」

「私を泣かせてください。
私の残酷な運命のために。

溜息をつかせてください 失われた自由に
私の悲しみの鎖を打ち砕くのは 哀れみだけ」
和訳はここからhttp://www.worldfolksong.com/classical/handel/rinaldo.html

歌がうまいだけで兄に去勢され、皮肉にもスターダムを上り詰めたファリネッリ。
失われた自由はどうあがいても取り戻せない。例えば結婚もできない。嘲笑と哀れみと賞賛の中で生きるカストラート。
これを歌ったファリネッリはどんな気持ちだったのだろうか。

最後に
最終的にはスペイン王家に仕えたり金銭的には裕福に生きたようである。そこはささやかに幸せだったかもしれない。救いだ。
また、映画では兄との葛藤も見逃せない。何時しか弟は兄にさえフランス語を話すようになる。しかもイタリア語なまりの。もちろん
ヨーロッパ中をまわっていた彼らは何語もだいたいははなせただろうが、ささやかな抵抗だったのかもしれない。
ほかにも色々あるのでマニアックにチェックするのもいいかもしれない :-O

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