中田真秀(なかたまほ)のブログ

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理研基礎特のことと密度行列の決定法について

2010-09-10 09:23:34 | 日記
基礎特のことで検索かけている人ちらほらいますね...私は2007年度から2009年度まで基礎特でした。私のは理論化学のテーマなので、正直通るとは思ってませんでした。

私は、より簡単な量子化学の方法の構築に興味があります。

電子相関理論や手法というのは、摂動論、対角化(変分法)、coupled-cluster、密度汎関数法のヴァリエーションになっていてどれも理論は成熟してます。そして、成熟した割には、大きな電子相関を持つ系に対しては殆ど理論計算は無力です。たとえば、現在は経験的な手法でしか金属は扱えません。

私はそうではなく、縮約密度行列という物理量を使って量子化学、物理を構築しようという試みを研究してます。歴史的に見ても密度行列自体は、古くから(1940年くらいから)存在が知られていましたが、あまり発展せず、中辻-安田の論文のあと、中田が第一著者のJ.Chem.Phys 114 8282(2001)で実際に計算するまで、殆ど計算もできずでした。この論文は、実際に計算手法を構築し、計算して見せ、さらにそれが物理的、化学的に有用だということを示した、ということで、いくつもブレークスルーがありました。

2004年にZhaoらの論文で、さらに条件が精緻化され、我々も2008年に応用計算を行い、良い結果を得ました。非常に期待を寄せているところです。さらに2010年にスパコンを使った計算で、プレスリリースとして発表しました。2010年2月にはSanibel Symposiumという量子化学では非常に有名な学会に講演しました(全員招待講演で、日本からは中辻先生と私のみ講演した)。

私が示した変分法の定式化を、世界的に皆があれこれ応用、改良するという研究が行われています。また、最適化の方たちにもインパクトがありました。まだ、理論的、計算手法には難しいことをたくさん抱えております。いろんなことが解っておらず、数学物理化学と三つのもののみかたで進めるのが良いと思います。基礎的な内容で、化学、物理の理解にたつのではないかと信じています。しかし、日本の量子化学コミュニティにはあまり興味を持っていただけてないのが、とても残念です。

根底から変えるような、夢を持った、チャレンジングな研究をしましょう! 人生は短いし、どうせやるなら、おもしろいことをやりたい。そこに、理研が興味、理解を示してくれた、というのはありがたいと思いました。でも、この先が研究の意味でも、ポストの意味でもものすごく難しいわけですが...そこは要領良くやるべきだったな、と。