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「大家さん、とけましておめでとうございます。」
「なんだい熊さん、ヘンな挨拶だね、
そりゃ、明けましての間違いだろう」
「ところがね、そうじゃねぇんで、
なにしろ聞いた処によると、
大家さんチのおせち料理はデパートからの配達だってぇ言うじゃありませんか」
「ああ、毎とし婆さんがタイヘンだから、今年はデパートの御せちを注文した。」
「デパートの御せちはありゃ、冷凍でしょ、
だから、溶けましてオメデトウ」 (笑)
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このごろ、連日のように入る
「おせち料理予約承ります」のチラシ、
豪華な写真で綺麗だとは思うんですが、
値段もかなりキレイ、(笑)
ケッコウな値段だと思うんですが、それでも売れてるんだそうですね。
もちろんアレ、
大晦日ににいっぺんに作れる分けはないからみんなレイトウ、
でもこのごろは隠さなくなりました、
ちゃんとチラシに「冷凍」と書いてある、
以前は「知る人ぞ知る」だったんですけれどね。
それだけ冷凍の技術も上がり、世間の信用も増したと云うことなのでしょう。
今から二十年以上も前かな、
若い女子社員が一流ホテルのパーティーに行った話をしていた。
当時の一流ホテルは、行くだけでステータス、
料理も町のレストランには無い特別の価値があると思われていた時代です。
興奮しながら料理の話をしている女子社員が、
あんまりうれしそうだったから、つい口を出してしまった。
「アレ、みんな冷凍の肉だよ」
楽しそうに話してた女の子がムッとして、
「○○ホテルが冷凍の肉なんか使うはず無いですよ!」、とこっちをにらんだ。
でも私は知ってたんですよ、
ホテルに食材料を納入してる業者から、
「どこのホテルだって冷凍なしでパーティーなんか開けない」と聞いていたから。
あのころはまだ、
一般世間では「冷凍」に偏見があったんですが、
実際には、一流ホテルが使うほどに冷凍技術は進歩してたんですね。
でも、喜んでいる女の子に「ホントのこと」を云ったのはマチガイでした、
以後、二・三ヶ月ほど、かなり対応が悪くなりましたからね。 (笑)
その知り合いが云うには、
「一流ホテルのパーティーともなれば、千人分のステーキを焼くこともザラ、
均質でサイズの揃った肉をそろえようと思ったら冷凍を使うのが一番、
その冷凍肉をおいしく提供するのがシェフたちの腕だ」と云う分けです。
確かにごく初期の冷凍食品の品質はほめられたモノではなかった、
処が、その初めイメージがイツまでも残って、冷凍の良さは中々理解されなかった。
でも最初にその便利さに気付いたのは料理のプロたちだったのです。
もう半世紀も前のことになる、東京オリンピックのとき、
選手村の食堂を預かった帝国ホテルの村上シェフが、
何千人もの大食いの選手たちを相手にするには、
これしかないと、
冷凍の肉を使おうとしたのですが、
「日本の面目を掛けて開く、
初めてのオリンピックなのに、
外国選手にまずい冷凍肉など出したら国家の恥だ」と、周囲のエライ人たちが猛反対した。
村上さん、困ったけれど、
技術の進歩により、
いまや、
冷凍肉がナマの肉に劣らないことを知っているから、
試食会の時に冷凍肉を使い、そうとは云わずに料理を出した。
その料理を食べたエライ人が、
村上さんに近寄り、悪手を求めて来て、
「やっぱりナマの肉はうまいね、さすがに帝国ホテルのシェフ、」と誉めてくれた。
村上さん、ちょっと困ってしまったが、
相手にホントの事を打ち明けると、
さすがに相手ても、
国政をあずかるだけの人物、驚きながらも納得してくれた。
アレから五十年近く、
いまでは、おせち料理までが、
「溶けましてオメデトウ」と云う時代になったんですねェ。