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【 走れ!、走れ!、おむすびコロリン 】
自分の足が止まらなくなってしまっている。
こんなに軽やかに走れる経験は初めて、
なにしろ、私の意思とは無関係、両足が勝手に動いて行くのだ。
もう7~8キロは走っているはずだが、全く疲れを感じない、
それどころか、
益々体が軽くなって、どこまででも走れそうだ。
このスピードは凄いぞ、と、自分でも思う、
「飛ぶように駈ける」と云う言葉が大袈裟でなく、体が浮くような感覚なのだ。
そもそも、
こんなことになった元々のきっかけは、家の近くにあるコンビニ、
いつもここで、おにぎりを買ってからジョギングをスタートし、
目的地の公園に着いて休憩、
そこでおにぎりを食べて、
またジョギングで戻って来る、
それが、定年後の私の、
すでに2ヶ月も続いている朝のジョギングコース。
処が、今日は、
いつもの通りコンビニに寄ったら、おにぎりが無かったのだ。
どうも、近くの中学校で、
PTAお別れ会のハイキングがあるとかで、
早朝から役員のオバサンたちが来て、この店のおにぎりを全部買い占めて行ったらしい。
「申しわけありませんが、
菓子パンかサンドイッチなんかで如何でしょうか」と云うのが、
そのコンビニの店長らしき若い男の、
言葉だけは丁寧だが、まるで気持ちのこもってない言い分けだった。
パンは苦手な私が、
どうしたものかと迷っている時に、後から声がした、
「どうです、アタシのおにぎりを買いませんか」、
声の方を振り向くと、
なんだかじめじめした雰囲気、
あの妖怪漫画に出てくる
ねずみ男のような気味悪い人物が立っていて、薄笑いを浮かべている。
思わず後ずさりしながら、
「あ、どうも、でも結構です、
自分のことぐらい自分でナンとでもしますから」と語尾を上げ気味、
宗教の勧誘を断る時のような皮肉を込めて言ったはずだが、
相手の男は、そんなことを気にするようすも無く、
「でもネ、アタシのおにぎりを買うと、早く走れるんですよ」と言って、
こちらの下心を見透かしたかのように、ニタリとした。
早く走れると云う言葉に、
思わず、
「そんなのがあればいいんですがね」と苦笑いすると、
「処がね、ウソじゃないんですよ」と真顔で言ったその男は、
「まぁ、だまされたと思って、一つお買いなさいナ、
あとでもっと買っておけば良かったと思うはずですから」と続けた。
しかし、
その男の言ったことは本当だった。
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退屈しのぎに書いたショートショート、
ボランティア精神で付き合ってやろうと言う方は、明日の後半もお付き合いのほどを。