漫筆日記・「噂と樽」

寝言のような、アクビのような・・・

ひょうたん村の太郎作

2013年08月26日 | ものがたり

【ひょうたん村の太郎作】

ひょうたん村の太郎作は、「馬鹿でなまけもの」と評判でした。

ある日、その太郎作におっ父うが言いました。

「これ太郎作、オラは今から町へ買い物に行くが、
 おめぇはオラが留守の間もおっ嬶あの言う事をよく聞くんだぞ」

「うん分かった」、太郎作は、なんどもうなずきます。

処がおっ父うが出てしまうと、
太郎作は囲炉裏のそばへ行って、ごろりと横になったまま動きません。

それを見たおっ嬶あが言います、 
「これ太郎作、そんな所に寝てないで水でも汲んで来ておくれ」

おっ嬶あに言われた太郎作は、
のそのそ起き上がると、桶をぶらさげて川へ水を汲みに行きます。

川へ着いた太郎作が水を汲もうとすると、
その時ニョロリ、桶の中へ真っ赤なナマズが飛び込んで来ました。

太郎作は大喜び、
「これはうまいぐあいだ、今夜はコイツをかば焼きにして食っちまおう」

すると、
「食べないでくれ、命だけは助けてくれ」と桶の中から声がします。

太郎作がのぞきこむと、
「わしを逃がしてくれたら、お前に良いことを教えてやるぞ」と赤いナマズが言ってます。

「ファーッ、ビックリしたあ、ナマズがもの言ってるぞ、
 なに、なんだ、いいこと?

 いいことってナンのことだ」

「逃がしてくれたら、何でもお前の願いをかなえてやるぞ」

「ねがいって、なんだ、それ?」

「だから言ったろ、何でも思う通りにしてやるって」

「それはどうすればいい?」

「ナニ、簡単なことだ、

“ナマズよナマズ、真っ赤なナマズ”と呼びかけて、
 ワシが返事をしたら、願いごとを言えばいい」

「えーと、むつかしいな、
 なになに、“ナマズよナマズ、真っ赤なナマズ”か、

 それで何をたのむかな、そうだ 腹が減ったからな、オニギリよ出ろー」

すると、いつの間にやら太郎作の手に大きなオニギリが乗っています。

「あれまあ、ビックリした、お前の言う通りだ」

「そうだろ、その代わり願いごとはあと三回きりだ、
 三回使ったらそれで終わりだからな、大事に使えよ」

「わかった、わかった」と言いながら太郎作は、赤いナマズを川へ逃がしてやりました。

水を汲んで家へ帰って来ると、
太郎作はまた、囲炉裏のそばへ行ってゴロリと横になります。

それを見たおっ嬶あはまた言いました。
「そんな所へ寝ていないで、山へ行って柴を刈って来ておくれ」

太郎作はまたのそのそと起き上がると、
荷車に鉈(なた)と縄(なわ)を積んで出かけます。

山へつくと太郎作は考えました。

「オラ一人で柴を刈るのはタイヘンだぞ、
 そうだそうだ、あのナマズにたのんでやろう、」

さっそくナマズを呼び出します。
「ナマズよナマズ、真っ赤なナマズ」。

するとどこからか返事がします、
「どーれ誰だ、なんだ太郎作か、何の用だ」

「この荷車を柴でいっぱいにしてほしいんだ」

「なんだ、そんなことか、お安い御用」

太郎作の見ている前で、
ナタは勝手に枝を打ち、長さをそろえ、
ナワがひとりでにスルスルと伸びて、芝を束ね荷車に積んでいきます。

そうして荷車が一杯になると、また太郎作は考えます。

「こんなに柴を積んで家まで帰るのはタイヘンだぞ、
 やっぱりナマズにたのんでしまおう」、さっそく赤いナマズを呼び出します。

「ナマズよナマズ、真っ赤なナマズ」、

するとまた、どこからか返事がします。
「どーれ、なんだ、また太郎作か、今度は何の用だ」

「この荷車を家まで運んでほしいんだ」

「なんだ、またそんなことか、お安い御用」

太郎作が見ている前で、荷車がひとりでにギシギシと動き出します。

「これは楽ちん」と太郎作がをのんびり荷車の後から付いてゆくと、
山道はだんだん下り坂になり、それにあわせて荷車もだんだん速くなります。

坂はどんどん急になり
荷車もどんどん速くなり、ついには猛烈な速さになって走りだしました。

「おーい、待て待てえ!」

後から太郎作が呼びかけても云う事を聞きません、
しまいに荷車は突進する大イノシシのような勢いになって村を目指して走っていきます。

暴走する荷車は、
川で洗濯をしていたお婆さんの尻を跳ね飛ばし、
柴に洗濯物を引っ掛けても、そのままブンブン走り続けます。

道に竹馬をしている子供たちがいても、
その真ん中をめがけて、ブンブン走って行きます。

「わー、荷車だぁ、逃げろッ」

子供たちがあわてて飛びのくと、
荷車は子供たちを蹴散らし、
散らばった竹馬を跳ね上げ、柴の上に乗せたままで、

またブンブンと走って行きます。

「ダレだ、乱暴モノは!」お婆さんが怒鳴っていても、

「わー、田んぼに落ちたぁ!」
子供たちが泣いていても、荷車は知らぬ顔でブンブン走り続けます。

橋の向うから馬に乗った侍が来ましたが、荷車は止まりません。

「ヒヒーン、」驚いた馬が棹立ちになって、侍を振り落としました。

どっぶーん、川に落ちた侍が
「ぶ、無礼者!」と真っ赤になって怒っていますが、

荷車はブンブンとあとも見ずに走って行きます。

「おーい、待てえー」荷車の後から太郎作が追いかけていきます。

「洗濯モンを返せー」
その後からお婆さんが追いかけて行きます。

「竹馬を返せー」
そのまた後から子供たちが追いかけて行きます。

「おのれ、許さんぞ!」、
いちばん後から、ずぶ濡れになった侍が、ビッコを引き引き追いかけて行きます。

けれども、荷車は誰よりも早いので、みんな追いつけません。

荷車はたちまちのうちに村を通り過ぎると、
村はずれで急カーブ、

畑の間の細道を通って、
太郎作の家の前まで来ると、ピタリと止まりました。

「キャアキャアと騒ぎながら子供たちが追いつきました。
「ぜぇぜぇ」と息を切らせながらお婆さんもやって来ました。

そのうちに暴走荷車を見て驚いた村人たちも集まりだし、
太郎作の家の前は人だかりで一杯になりました。

ふうふう言ってた太郎作も、
おおぜいの村人たちに囲まれて、どうしたらいいのか分かりません。

あれ、でも、侍はまだ来てません。

あ、来ました、来ました、
ぴょこたん、ぴょこたんと、ビッコをひきひきやって来ました。

カンカンに怒って、びしょぬれのまま刀を抜きました。

「わしを川に落としたヤツはだれだ!、
 馬をビックリさせて足の骨を折ったヤツはだれだ!」

怒った侍が刀を振り上げたまま、
荷車の前へ回りましたが、だれもいません。

騒ぎにおどろいて家から出て来たおっ嬶あをつかまえ、侍が何か怒鳴りだしました。

「アー、まずいことになったぞ」太郎作は、ほんとうに困ってしまいました。

でもその時気がつきました、

「そうだナマズに頼めばいいんだ」、

さっそく太郎作は赤いナマズを呼びます。

「ナマズよナマズ、真っ赤なナマズ」。

するとまた、どこやらから返事がします。
「どーれ、なんだ、また太郎作か、今度は何の用だ」

「もう荷車を元に戻して欲しいんだ」

「戻すって、荷車をまた動かして山へ戻すのか」

「いいや、そうじゃなくて、
 荷車が動き出す前に戻して欲しいんだ」

「何だ、そんなことか、お安い御用」

赤いナマズの声ががそう云うと、柴をいっぱい積んだ荷車がぱっと消えました。

侍も子供たちもお婆さんの姿も消えました。

騒ぎが消えてしまったので、
集まって来た村人たちも何がなんだか分からないまま帰って行きます。

気が付くと、太郎作は山の中に居ます、
目の前には、柴をいっぱいに積んだ荷車があります。

「やれやれ」、

太郎作は大きな溜め息をつくと、
今度は「ヨイショ、ヨイショ」と荷車をひき始めました。

山道を下っていくと、川のそばでお婆さんが洗濯をしています。

道では子供たちが竹馬で遊んでいます。

太郎作は、お婆さんの後をそろそろと通り過ぎ、
子供たちには「危ないぞ」と声を掛けながらゆっくりと通り過ぎます。

橋の向うから、威張った侍が馬に乗ってやって来ました、
太郎作は荷車を端に寄せ、侍が馬に乗ったまま通れるように道をあけます。

やっと家に着き、柴を下ろしていると、おっ父うが帰って来ました。

おっ嬶あがニコニコしながらおっ父うに言いました。

「きょうの太郎作は偉かったぞ、
 水も汲んだし、柴も山のようにしたんだぞ」

それを聞いておっ父うもニコニコしながら、
みやげに買ってきた大きなあめ玉を出して太郎作にくれました。

それから、おっ父うもおっ嬶あも、
そして太郎作も、みんなニコニコしながら晩ご飯を食べました。

そしてこのはなしは、これでオシマイです。

え、それからの太郎作はどうしたって、?

もう赤いナマズへの願いごとは三回使ってしまって、
効かなくなったので、

それからの太郎作は、
マジメによく働くようになって、家族みんなで幸せに暮らしましたとさ。

え、なんだつまんないって、?

そうだよ、世の中はつまんないぐらいがちょうどいいんだよ。






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