ある男、
一体の仏像を安置し、
日々に香華を絶やさずして、
我が身の富貴を祈ることに拘れど、
その身は日を経るごとに貧しさ募り、
身なりや家財もみすぼらしくなる一方なれば、
ある日、ついに堪忍袋の緒を切らせ、
その怒りのあまりに仏像を取って打ち砕く処に
その体内より金子百両ころがり出でぬ。
その時、男、
「さてもこの仏、愚かなる仏かな、
我、敬い祈る時は黄金を与えずして、
その身を亡ぼす時になりて、
やっと福を見せたりけるよ」と笑いて慶びけり。
そのように、
心狭き者は自らの力で善心に立ち返ること無し。
伊曾保物語にある話。
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【伊曾保物語】
「イソップ物語」をポルトガル語から室町末期の口語に訳し、ローマ字で表記、刊行した本。