漫筆日記・「噂と樽」

寝言のような、アクビのような・・・

底辺の幸せ

2013年08月24日 | テレビ 映画 演芸

きのう、歌手の藤圭子さんが亡くなったと云う報道があった。

藤さんは、
幼少期は貧しい暮らしだったようだが、
若くして売れっ子となり、
娘さんまでがヒット連発の大人気歌手となった。

何年か前には、
五千万円と云う大金を所持していて、あやじまれると云う事件もあった。

だから、金に困っていたとは思えない、

それなのに自ら生命を断ったのだから、
幸せとは云いがたい晩年だったのかもしれない。

いつぞや、NHKの「72時間」と云う、
三日間、
同じ場所にカメラを据えて取材を続けると云う番組で、

コインランドリーに出入りする人々を取材していた。

様々な人が出入りする中に、
奥さんが病気か何かで洗濯できないため、

きょうだけ、
コインランドリーに子連れで来たと云う25歳ぐらいの若者が居た。

塗料工場に勤めているとかで、
「今の夢はなんですか」と云うNHKスタッフの質問に、

「そんなものは無くていい、

 毎日が無事に働けて、
 毎月決まったお金が入って、
 家族が健康に暮らせれば、

 それ以上は望むものはない」と、淡々とした表情で語った。

スタッフの、
「そんなにお若いのに夢が無いんですねぇ」と云う

聞きようによっては、
無礼とも取れる質問にも青年は腹を立てることなく、

「僕は母子家庭に育ち、
 毎月のお金が足りなくて食べる物の無い日があったり、
 家賃が払えず、家を追い出されたりして、

 貧乏のつらさは、
 子供の時から骨身に沁みているから、

 安心して住める処があって、
 毎月決まった収入があることのありがたさが、
 どれほど大切か良く分かるんです」

そう云うと彼は、
子供とともに、軽乗用車に乗って帰っていった。

「平凡で、地味な仕事を忍耐強く続け、
 それで獲得する幸せと云うものもある」と云うことを、

立派な家庭に育ち、
いい大学を出て、
今は高給取りのNHK社員と云う環境であれば、ちょっと理解しにくいかもしれない。

「でもね、こういう人たちが日本の底辺を支えているんだよ」と、

その時、私は思ったのであります。







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