きのう、歌手の藤圭子さんが亡くなったと云う報道があった。
藤さんは、
幼少期は貧しい暮らしだったようだが、
若くして売れっ子となり、
娘さんまでがヒット連発の大人気歌手となった。
何年か前には、
五千万円と云う大金を所持していて、あやじまれると云う事件もあった。
だから、金に困っていたとは思えない、
それなのに自ら生命を断ったのだから、
幸せとは云いがたい晩年だったのかもしれない。
いつぞや、NHKの「72時間」と云う、
三日間、
同じ場所にカメラを据えて取材を続けると云う番組で、
コインランドリーに出入りする人々を取材していた。
様々な人が出入りする中に、
奥さんが病気か何かで洗濯できないため、
きょうだけ、
コインランドリーに子連れで来たと云う25歳ぐらいの若者が居た。
塗料工場に勤めているとかで、
「今の夢はなんですか」と云うNHKスタッフの質問に、
「そんなものは無くていい、
毎日が無事に働けて、
毎月決まったお金が入って、
家族が健康に暮らせれば、
それ以上は望むものはない」と、淡々とした表情で語った。
スタッフの、
「そんなにお若いのに夢が無いんですねぇ」と云う
聞きようによっては、
無礼とも取れる質問にも青年は腹を立てることなく、
「僕は母子家庭に育ち、
毎月のお金が足りなくて食べる物の無い日があったり、
家賃が払えず、家を追い出されたりして、
貧乏のつらさは、
子供の時から骨身に沁みているから、
安心して住める処があって、
毎月決まった収入があることのありがたさが、
どれほど大切か良く分かるんです」
そう云うと彼は、
子供とともに、軽乗用車に乗って帰っていった。
「平凡で、地味な仕事を忍耐強く続け、
それで獲得する幸せと云うものもある」と云うことを、
立派な家庭に育ち、
いい大学を出て、
今は高給取りのNHK社員と云う環境であれば、ちょっと理解しにくいかもしれない。
「でもね、こういう人たちが日本の底辺を支えているんだよ」と、
その時、私は思ったのであります。