さだまさしさんの歌に「退職の日」というしみじみとさせる歌があります。
公園のD-51は
退職したあと
ほんのわずかばかりの レールをもらって
もう動かなくなった
の歌詞で始まります。
なぜ引用させてもらったかというと、JR吉松駅の駅舎に向かって右側のSL公園に一輌の蒸気機関車が展示され、この駅を利用するたびにしばし見入ってしまいます。そして、決まってあの「退職の日」の冒頭の詩を思い出すのです。
機関車はD-51ではなく、C-55系のC5552号というのだそうで、昭和12年に製造され、小郡、鳥栖、大分、宮崎、吉松各機関区などで活躍してきました。説明板には「早朝の雲海たなびく吉松盆地に汽笛を響かせ、ドラフト音高く、川内川の鉄橋上を疾走する勇姿は忘れられません」と書いてありました。この公園にはSL会館、資料館などの施設もあります。
吉松駅は肥薩線、吉都線の分岐点にある重要な駅です。吉松駅-人吉駅につながる肥薩線には今「いさぶろう号」「しんぺい号」という観光列車が、吉松駅-鹿児島中央駅間には特急「はやとの風」号が走り、人気があります。
日本3大車窓と呼ばれる眺望抜群の地点があり、ループ線の途中にスイッチバックがある大畑(おこば)駅、鉄道ファンでなくても魅力のある線です。
この吉松―人吉間にある第二山神トンネル内で1945年(昭和20年)8月22日、大きな事故があり、49人とも56人ともいわれる多くの人が死亡しました。終戦後わずか2日、復員兵でいっぱいだったといいます。やっと我が家に帰れると思った矢先の事故、その心を思うと胸が締め付けられるようです。
ほかこの線は重要な幹線として、集団就職の多くの若者を乗せて走ったことでしょうし、乗客一人ひとりの歴史や思いがこもっています。そういうドラマも一緒にこの機関車には塗り込められていて、リアルに迫ってくるようです。
今の何気ない日常だってとても意味があるのです。そんな思いも秋の風に乗せて。
SL公園に展示されているC5552号