ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【糖質の代謝】難波先生より

2013-03-11 12:04:42 | 難波紘二先生
【糖質の代謝】これは「山口論文」に対する3回目の論評にあたる。
 糖質は最終的にはグルコース(ブドウ糖)となって、酸素の介入なしにピルビン酸に分解される。この過程で生命の「エネルギー通貨」であるATPが2分子消費され、4分子生産される。ネットで2分子の増加である。短距離走とか水中のスイミングのように、呼吸をしない運動ではこの「解糖系」によりエネルギーが供給される。筋肉の解糖系反応では乳酸が生産される。マッコウクジラなど、1時間も水中に潜っている哺乳類もいる。そのエネルギーは解糖系によりえている。これは酸素のいらない、「嫌気性反応」である。


 他方、ピルビン酸は「TCAサイクル」(クエン酸回路)に入ると、アミノ酸や脂肪酸の分解と同じ経路に入り、酸素の存在下にTCAサイクル内で2分子のATPを、それに続く「電子伝達系」で34分子のATPを生じる。
 つまりグルコースは38分子のATP新生を行うことになる。これは呼吸による酸素がないと進行しない反応であり、「好気性反応」だ。


 この反応は、「解糖系反応」は細胞質内で、「TCAサイクル」反応はミトコンドリアの内部にある「基質(マトリックス)」内で、「電子伝達系」反応はミトコンドリア二重膜の内側膜(内膜)の表面で行われる。細胞内小器官であるミトコンドリアが、「エネルギー通貨」産生の最大の器官であり、これはまあ「造幣局」に相当する。(添付1)


 ところでグルコースがピルビン酸を生産するまでに起こる反応は「嫌気的」であり、発酵のプロセスと同じである。糖の分解過程は発酵の種類にかかわらず共通で、それ以後の最終生成物により「アルコール発酵」とか「乳酸発酵」が分かれるにすぎない。(添付2)


 そうすると細胞の内部では「嫌気性反応」がまず起こり、ついで酸化的な分解が起こっていることになる。この二つの生化学反応はまったく異なる化学反応である。どうして細胞質内とミトコンドリア内に分かれて、この異質の二つの反応が存在し、しかもうまくカップリングしているのであろうか?
 ここは「糖質の代謝」を考える上で最大の謎であり、謎が解けないので、先に進めなかった。「無意識による解決」にまかせて、しばらく問題を放って置いた。今日、ニック・レーン「ミトコンドリアが進化を決めた」(みすず書房)を読んでいて、答えが見つかった。


 ミトコンドリアが「細胞内寄生体」の名残であることは、そのDNAが核DNAと大きく異なることから確定している。しかし元の寄生体が真核細胞なのか、原核細胞なのか、あるいはもっと原始的な「古細菌」なのか不明である。
 生命の誕生は37億年前だが、当初の生命体は「還元微生物」で水素を消費し、酸素を環境中に放出していた。つまり老廃物が酸素だった。酸素は有害なので環境中に排出したのである。
 20億年前に、地球が酸素で充ち満ちてきた。これを加速したのが「スノボール・アース」つまり「全地球凍結」である。


 これが終わった後に、生命進化の爆発が起こった。この時に生じたのが、「メタン発酵バクテリア」の細胞質内への「ミトコンドリア型微生物」の寄生現象である。これが累代続くうちに、ミトコンドリアのDNAの一部が核DNAに転移し、嫌気性のメタン発酵菌が好気性環境下でも生きられるような、新型の微生物(真核細胞)へと進化した。


 この過程でグルコース代謝は前半が嫌気的な「解糖系」で、後半が好気的なTCAサイクルにつながったのである。これは「ピルビン酸」という中間生成物が両者に共通していたから可能となった。このドッキングが起こったのが20億年前なのである。


 TCAサイクルは、グルコースだけでなく、アミノ酸と脂肪酸が分解される際にも入らなければいけない分解回路であり、生体がエネルギーをえる最大の回路である。もちろんこの後にくる「電子伝達系」の反応が、ATPを得る反応としてはもっとも効率的である。ここで酸化が行われる。


 われわれはこの20億年前の真核細胞の子孫である多細胞生物であり、その中の脊椎動物、哺乳類、霊長類、ヒト科に属するが、その代謝様式は20億年前と変わっていない。つまり、グルコースを前半は発酵により分解し、後半はミトコンドリアにより好気的に分解しているのである。すべてのATPはこの二つの反応からえている。重要なことは、脂肪酸もアミノ酸もピルビン酸にまで分解されれば、1分子辺りのATP生産量はグルコースと変わらないという点である。つまり、糖質ゼロでも必要なカロリーは摂取できるということである。(脂肪酸は2分子のピルビン酸を生じる)


 引用した図は「新しい高校生物学」(講談社ブルーバックス, 2006)からのものだが、残念なことに細胞内小器官の構造と細胞内で起こる生化学的反応とが、関連付けられていないし、上記のような「進化の過程による生化学反応のドッキング」というような理解がまったくない。


 グルコースという一つの物質に対して、その代謝が前半は還元であり、後半は酸化であるというような不思議な反応がなぜ起こるのか、きちんと説明した本はない。従ってこれは私の独自見解だが、1)進化論的説明、2)細胞内における反応が別部位になっていることの説明、3)ピルビン酸を介した二つの反応のドッキング、と矛盾なく説明できたつもりである。


 山口論文の弱点は、すべてを「化学反応」で説明しようとしている点で、上記のような進化論的な視点や構造と機能のドッキングという視点がない。人体のような循環機能も神経系も内分泌系も免疫系もあるような、高次動物に生じる反応を論じる場合には、いきなり二次元的な化学反応に還元して議論するには、注意が必要だと思う。
 次回は、「酸素の関与なしで体内で起こる反応は想定外」とする山口論文の中心命題について触れたい。
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