ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【ヤマカガシ】難波先生より

2017-08-01 23:00:35 | 難波紘二先生
【ヤマカガシ】
 7/31付各紙が伊丹で小学生がヤマカガシに噛まれたという記事を報じた。ヤマカガシは田舎なら身近にいくらでもいるヘビだ。この辺ではヤマカガシ、シマヘビ、アオダイショウ、マムシならいくらでもいる。20年前にここへ越してきた頃、ジムグリ(ひばかり)という黒と赤のど派手な横縞がある、小さなヘビを目撃したことがあるが、それ以来見かけない。
 ヤマカガシに噛まれて意識不明の重症という話は聞いたことがない。ヤマカガシは広島県では「からすへび」「からすっぽ」ともいい、子供の頃は、大人は誰一人毒ヘビだと教えてくれる者もなく、素手で頭の後(首)を素早くつまみ、ついで尻尾をつかんで、頭を下にぶん廻して遊んだものだ。築山の下に池があり、そこでヤマカガシがカエルを呑みこんでいるのをよく見かけた。
 あれはおとなしい臆病なヘビで、よほどのことがないと噛むことはせず逃げてしまう。7/31新聞報道にはこの点で不審な点が多かったので、一番記事が詳細だった「産経」のものを切り抜いておいた。そしたら翌8/1の同紙に「後追い記事」が載っていた。7/30の兵庫県警伊丹署は入院中の噛まれた子の母親の話をそのまま信じて発表したものだとあった。伊丹署の訂正発表によると、噛まれた場所は市内の公園ではなく、川沿いにある山寺の参道で、午前10時半頃、ヘビを捕らえようとして左手人指し指を噛まれ、間もなく出血が止まらなくなった。そこで下山して市の「若松公園」で出血部を水道で洗った。(初報は「公園で噛まれた」となっていた)
 その後ヘビを捕らえてリュックサックに入れた友人宅に同行し、13:00頃、右手でヘビをつまみ出そうとして、今度は右手首を噛まれたという。
 つまり男の子は左手と右手の両方を同じヘビに噛まれたのだ。もし取材記者が警察発表を鵜呑みにせず、母親の話とリュックサックに入れてヘビを持ち帰った友人の話を照合して記事にしていたら、こんな誤報は生じなかったと思う。但し、他紙は続報を載せていないから、私は「産経」を批難しない。ただ「小学5年生の男児(10歳)の友人」についてなお疑念が残る。年齢も学年も報じられていないからだ。記事からはこの少年があらかじめリュックを用意していたように取れる。つまり初めからヘビ取りが目的だったのでは…と思わせるところがある。
 そのあたりに、同行の友人について詳細が報じられない理由があるのかも、と思う。

 私がヤマカガシに毒腺があると知ったのは、ここへ越してきて両生類・爬虫類の生態図鑑が必要になって買って読んだためだ。比婆科学教育振興会編「広島県の両生類・爬虫類」(中国新聞社)というポケットブックだ。同書に上顎最奥の牙(この牙だけが毒牙)の写真がある。
ヤマカガシの毒牙(「広島県の両生類・爬虫類」から)

 上顎の歯はすべて短く直列しているが、一番奥の太い歯だけは後ろ向きに湾曲している。写真ではよくわからないが、毒牙の後の歯茎は袋状に膨隆しているようにも見える。多分これが毒腺で、この解剖学的な位置関係なら口を開かせた状態で、眼の後を圧迫すれば毒牙から毒液が滴り出るはずだ。
 WIKIを調べていて、ヤマカガシの毒は内因性のものでなく、食ったヒキガエルの毒素ブフォトキシンに由来すると知って驚いた。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A4%E3%83%9E%E3%82%AB%E3%82%AC%E3%82%B7#.E6.AF.92
 ヤマカガシ毒のマウスに対するLD50は静注で5.3μg、マムシでは約21μg、ハブで35μgとあり、本当に驚いた。これは本当に猛毒のヘビではないか。国内での死亡例が過去にたった4例しかない(7/31「産経」)という報道が信じられない。

 私はこれまで蛇毒の本性は溶血毒で、赤血球の膜を破壊し溶血させてしまうところにあると思っていた。(野口英世の先行研究はこのことを示している。)
 今回WIKIとそれに引用されている論文を見て、人の場合に知られている「DIC(播種性血管内凝固)」症候群と同じ機序で、多発性の血小板凝固とそれに続く血液凝固因子の枯渇により全身出血やショックが生じ、死をもたらすと知った。

 もうひとつ気づいたのはフグ毒テトロドトキシンとブフォトキシンの生態学的類似性だ。どちらも外来性の毒で、体内で生合成されたものではない。
 ヤマカガシの毒は食ったガマガエルに由来し、フグの毒は餌に由来する。後者では食物連鎖により毒が次第に濃縮されて、フグの肝や卵巣に主に蓄積する。
 バクテリオファージや大腸菌の遺伝の仕組みがヒトと変わらないのだから、フグ毒やガマ毒がヒトに作用して起きる病気も、基本的には変わらないなと思った。



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