日本列島旅鴉

風が吹くまま西東、しがない旅鴉の日常を綴ります。

キーテキ一声 2015

2015-10-14 22:31:20 | 旅日記
10月14日といえば、我が国最古の鉄道の開業にちなんだ「鉄道の日」としておなじみです。何の変哲もない平日に重なるのは五年ぶり、開業143年の節目を迎えるにあたり、久々に自らの所感を述べてみたいと思います。

鉄道の退潮傾向は相変わらずとしても、近年とりわけ目に余る現象が二つあります。新幹線に極度なまでに偏重した交通政策と、全国を結んでいた鉄路の分断化です。
北陸新幹線が華々しく開業する影で、かつての北陸本線が見るも無惨な姿に貶められてしまった現実は、その象徴というべきものでした。来春北海道新幹線が開業すれば、それ以上の弊害が続出するということについても、以前から指摘してきた通りです。
そもそも新幹線の出発点とは、限界に達した在来線の輸送力を抜本的に改善することでした。言い換えると、新幹線が本領を発揮するのは、在来線で運びきれないほどの輸送量がある場合に限られるということです。しかしこの事実が蔑ろにされ、今や北海道の片田舎にまで新幹線が通されようとしています。その結果、「経営資源の集中」なる名目の下、生活の足である在来線は存亡の危機に瀕しているわけです。しかも、そこまでして造った新幹線が函館市街を素通りし、空港よりも遠く離れた郊外に停車するという迷走ぶりでは、そもそも何のための新幹線かと呆れるしかありません。
輸送体系が次々分断されて行くにつれ、事業者が自社の都合で利用者に不便を強いるという悪弊も年々顕著になってきました。昨日発表された北海道新幹線の運賃・料金にも、そのような体質が如実に反映されています。わずかばかりの短縮効果と引き替えに、航空運賃に対しておよそ競争力のない価格設定となってしまったのは、従来の料金体系を前提にして、東日本区間と北海道区間の料金を別々に計算した結果に他なりません。九州新幹線、北陸新幹線の開業時と同様、自社は自社、他社は他社という硬直化した発想がこのような結果を招いているわけです。
新幹線の犠牲となった「北斗星」にしても、青函トンネル区間の昇圧により牽引機が使えなくなるのが直接の理由です。ならば貨物の機関車を借りるなりすればよさそうなものを、それもまた「別会社」を理由にして見送られる始末。各社の既得権を守るためには人気列車も切り捨てて憚らないのが、我が国の鉄道事業者の実態です。
新幹線の開業と引き替えに切り捨てられた在来線は、県境でことごとく分断され、その都度乗り換えと別料金を求められるようになりました。それも、県境で輸送量が大きく変わり、長編成から短編成の列車に乗り継ぐというならともかく、どちらも短編成かつ安普請の普通列車が申し訳程度に走るだけです。欧州では国境を越える列車も珍しくないというのに、我が国では県境すら越えられないとは、何とも嘆かわしい話というしかありません。

このように、新幹線偏重の交通政策と輸送体系の分断化を通じ、鉄道という社会の基盤は、修復不能な状態まで毀損されてしまいました。もっとも、以上はこのblogで述べてきたことの繰り返しであり、なおかつ抗うことのできない時代の流れだけに、今更何を言っても始まるものではありません。むしろ問題なのは、これから何を追いかければよいのかということです。
国内の鉄道が新幹線一辺倒となるに至り、これからの鉄道に期待する余地は全くといっていいほどなくなりました。ならば海外に活路を求めるのは当然の成り行きというもので、国内に見切りをつけて海外の鉄道を追っている仲間も実際に存在します。あらゆる情報をWeb上で入手できる現代なら、一昔前に比べて敷居も大きく下がっているでしょう。
しかし自分についていえば、海外に対象を広げることについては消極的です。なぜなら、自分が追いかけてきたのは身近にある日常の足、すなわち新幹線に取って代わられ失われていった存在そのものだからです。もちろん海外にも日常の足としての鉄道はあるでしょう。しかし、ふと思い立ったときにそれらを訪ねることができるでしょうか。相当前から予定を立て、現地の宿と交通手段を手配した上で、往復にあたっては無味乾燥な空路の移動を甘受せざるを得ない以上、頻繁に足を運べるはすがありません。そのようなものに旅情を見出すのは困難です。
結局のところ、自分にとって鉄道とは、MOSと同様懐古趣味の域に入ったと考えています。今後登場するものには何の期待もできず、古きよき時代を今に伝えるものがいつまで残るかの問題だということです。JR線上において、そのような存在は風前の灯火と化し、あと数年の勝負になってきました。そうなると残るは地方私鉄しかなく、これとて存在基盤自体安泰ではありません。遠からぬ将来、趣味対象としての鉄道は博物館の住人となり、その他は単なる移動手段に成り果ててしまうのでしょうか。閉塞感が漂う今日この頃です。
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