一月半続けてきた高校野球ネタにもいよいよ仕舞いの時が近付いてきました。完全に時機を逸した感はありますが、長らく中断していた県別ネタの残りを片付けて終わりにします。本日取り上げるのは、有明海と島原湾をはさんで対峙する両県です。
★長崎
西日本の弱小県というと滋賀、鳥取、島根、佐賀などが相場であり、これらは県の存在自体が希薄という点でも共通しています。これに対して、華々しい印象とは裏腹に、高校野球に関する限り全く振るわないのが長崎です。昨季まで選手権に58回出場して36勝59敗勝率.379という戦績は、勝数では歴代38位、勝率では36位となっており、ともに九州・沖縄勢では最下位。4強が最高で決勝戦に進んだ経験がないのも、47都道府県の中では岩手、山梨、福井、鳥取、島根を含む6県だけであり、それ以下は8強が最高の山形と富山しかありません。
長崎の特徴として、九州の中ではいち早く私立が台頭してきた点が挙げられます。昭和30年代の海星が嚆矢となり、平成初頭からは佐世保実と長崎日大の二強がこれに取って代わったというのがおおよその流れです。昭和30年代から私立が優勢になった地方といえば、都市部を除くと宮城だけです。しかし、その私立勢もめざましい戦績を挙げたわけではなく、長崎に春夏通じて初めての優勝旗を持ち帰ったのは県立の清峰でした。このような歴史があるだけに、高校野球界で一時代を築いた古豪がなく、かような観点からは今一つ見所に欠けるのが長崎大会なのです。
そのような中で、長崎大会最大の見所を挙げるとすれば、何といっても離島勢でしょう。これまで北海道、東京、新潟、島根、香川、愛媛といった地域の離島勢を紹介してきましたが、出場校の数と分布の広さにかけては長崎、鹿児島、沖縄の各県が格段に上です。長崎の場合は壱岐、対馬、五島の三地域から壱岐、壱岐商、北松西、上五島、五島、五島海陽、対馬、上対馬の各校が出場しており、橋で地続きの平戸島を含めれば10校となります。他県と違って上位に進出するようなチームはなく、一夏に一勝できれば御の字といった程度の戦績ではあるものの、これだけ数が揃えば俄然見応えが出てくるというものでしょう。移動の負担を考慮して、離島勢の試合を週末に集中させるのも長崎の特徴であり、その日全試合に離島勢が居並ぶのは長崎大会の風物詩です。離島同士の直接対決が毎年のように見られるのも、長崎と鹿児島だけの特徴といえます。
お約束の伝統校として筆頭に上がるのが大村です。寛文年間創立の藩校を発祥とする344年の歴史はもちろん九州最古であり、全国的に見ても岡山朝日、和気閑谷などと並ぶ最古の部類に属します。それに次ぐ歴史を有するのは、意外にも平戸島にある猶興館で、こちらの起源は旧平戸藩主が明治13年に創立した私塾です。県都の双璧長崎東と長崎西も、安政年間創立の「長崎英語伝習所」を発祥としますが、戦後の学制改革で旧制中学2校、高等女学校2校の計4校が統合されて、現在の2校に分割されるという歴史により、伝統が損なわれてしまったのは惜しまれます。県下第二の都市佐世保でも、同様に統合と分割が組み合わされており、これによって発足したのが現在の佐世保北と佐世保南です。県別ネタを中断している間に、前者で猟奇的な事件が起きたのは、何とも皮肉な巡り合わせでした。
★熊本
ごく一部の都市部を除けば、高校野球の草創期から君臨してきたのは旧制中学か商業学校のどちらかというのが相場であり、工業学校が優勢だった福岡の歴史は特異だと前回申しました。その福岡と並ぶ数少ない例外が熊本です。
甲子園一番乗りこそ熊本商に譲ったものの、熊本県勢として昭和最初の出場校となった年にいきなり4強入りを果たし、戦前だけで2度の準優勝を果たした熊本工は、その後も一貫して県内の高校野球界を牽引し続け、九州勢として最多となる春夏各20回の甲子園出場を積み重ねてきました。選手権に20回以上出場した15校のうち、商業系が7校あるのに対して工業系は1校しかなく、それどころか歴代50傑に広げても同校だけです。3度進出した決勝でいずれも涙を呑み、勝率と優勝回数こそ甲子園無敗伝説を持つ三池工に譲るものの、熊本工が高校野球史上最強の工業学校であることは疑いの余地がありません。岡山と並び、決して弱くはないのに影が薄い熊本県勢ですが、少なくとも熊本工の功績だけは九州でも屈指です。
同校に次ぐ7回の出場を誇るのが済々黌です。藩校の流れを汲む歴史はもちろんのこと、一度聞いたら忘れられない、しかし何度聞いても漢字で書けない独特の校名がまことに秀逸。伝統校が数ある中で、校名からして格式高いところといえば米沢興譲館に修猷館、高校野球の戦績ならば秋田、静岡、桐蔭、鳥取西といったところが代表格ですが、校名と戦績で総合点というものをつけるとすれば、ここが盛岡一と並ぶ双璧ではないでしょうか。
熊本でもう一校注目するのは熊本高専熊本です。間の抜けたチーム名は近年行われた高専の再編により生じたもので、現在熊本高専八代を名乗る八代高専と統合されるまでは、仙台、詫間、熊本と全国に3校しかない電波高専の一つでした。4校がそれぞれ異なる歴史を有する商船高専に対し、旧電波高専はいずれも戦時中に設立された逓信省所管の「無線電信講習所」を発祥とし、文部省への移管、高専への改組、他校との統廃合の全てにおいて運命を共にしました。高校野球界において全く無名という点でも共通しており、同校も今季は初戦敗退に終わっています。
★長崎
西日本の弱小県というと滋賀、鳥取、島根、佐賀などが相場であり、これらは県の存在自体が希薄という点でも共通しています。これに対して、華々しい印象とは裏腹に、高校野球に関する限り全く振るわないのが長崎です。昨季まで選手権に58回出場して36勝59敗勝率.379という戦績は、勝数では歴代38位、勝率では36位となっており、ともに九州・沖縄勢では最下位。4強が最高で決勝戦に進んだ経験がないのも、47都道府県の中では岩手、山梨、福井、鳥取、島根を含む6県だけであり、それ以下は8強が最高の山形と富山しかありません。
長崎の特徴として、九州の中ではいち早く私立が台頭してきた点が挙げられます。昭和30年代の海星が嚆矢となり、平成初頭からは佐世保実と長崎日大の二強がこれに取って代わったというのがおおよその流れです。昭和30年代から私立が優勢になった地方といえば、都市部を除くと宮城だけです。しかし、その私立勢もめざましい戦績を挙げたわけではなく、長崎に春夏通じて初めての優勝旗を持ち帰ったのは県立の清峰でした。このような歴史があるだけに、高校野球界で一時代を築いた古豪がなく、かような観点からは今一つ見所に欠けるのが長崎大会なのです。
そのような中で、長崎大会最大の見所を挙げるとすれば、何といっても離島勢でしょう。これまで北海道、東京、新潟、島根、香川、愛媛といった地域の離島勢を紹介してきましたが、出場校の数と分布の広さにかけては長崎、鹿児島、沖縄の各県が格段に上です。長崎の場合は壱岐、対馬、五島の三地域から壱岐、壱岐商、北松西、上五島、五島、五島海陽、対馬、上対馬の各校が出場しており、橋で地続きの平戸島を含めれば10校となります。他県と違って上位に進出するようなチームはなく、一夏に一勝できれば御の字といった程度の戦績ではあるものの、これだけ数が揃えば俄然見応えが出てくるというものでしょう。移動の負担を考慮して、離島勢の試合を週末に集中させるのも長崎の特徴であり、その日全試合に離島勢が居並ぶのは長崎大会の風物詩です。離島同士の直接対決が毎年のように見られるのも、長崎と鹿児島だけの特徴といえます。
お約束の伝統校として筆頭に上がるのが大村です。寛文年間創立の藩校を発祥とする344年の歴史はもちろん九州最古であり、全国的に見ても岡山朝日、和気閑谷などと並ぶ最古の部類に属します。それに次ぐ歴史を有するのは、意外にも平戸島にある猶興館で、こちらの起源は旧平戸藩主が明治13年に創立した私塾です。県都の双璧長崎東と長崎西も、安政年間創立の「長崎英語伝習所」を発祥としますが、戦後の学制改革で旧制中学2校、高等女学校2校の計4校が統合されて、現在の2校に分割されるという歴史により、伝統が損なわれてしまったのは惜しまれます。県下第二の都市佐世保でも、同様に統合と分割が組み合わされており、これによって発足したのが現在の佐世保北と佐世保南です。県別ネタを中断している間に、前者で猟奇的な事件が起きたのは、何とも皮肉な巡り合わせでした。
★熊本
ごく一部の都市部を除けば、高校野球の草創期から君臨してきたのは旧制中学か商業学校のどちらかというのが相場であり、工業学校が優勢だった福岡の歴史は特異だと前回申しました。その福岡と並ぶ数少ない例外が熊本です。
甲子園一番乗りこそ熊本商に譲ったものの、熊本県勢として昭和最初の出場校となった年にいきなり4強入りを果たし、戦前だけで2度の準優勝を果たした熊本工は、その後も一貫して県内の高校野球界を牽引し続け、九州勢として最多となる春夏各20回の甲子園出場を積み重ねてきました。選手権に20回以上出場した15校のうち、商業系が7校あるのに対して工業系は1校しかなく、それどころか歴代50傑に広げても同校だけです。3度進出した決勝でいずれも涙を呑み、勝率と優勝回数こそ甲子園無敗伝説を持つ三池工に譲るものの、熊本工が高校野球史上最強の工業学校であることは疑いの余地がありません。岡山と並び、決して弱くはないのに影が薄い熊本県勢ですが、少なくとも熊本工の功績だけは九州でも屈指です。
同校に次ぐ7回の出場を誇るのが済々黌です。藩校の流れを汲む歴史はもちろんのこと、一度聞いたら忘れられない、しかし何度聞いても漢字で書けない独特の校名がまことに秀逸。伝統校が数ある中で、校名からして格式高いところといえば米沢興譲館に修猷館、高校野球の戦績ならば秋田、静岡、桐蔭、鳥取西といったところが代表格ですが、校名と戦績で総合点というものをつけるとすれば、ここが盛岡一と並ぶ双璧ではないでしょうか。
熊本でもう一校注目するのは熊本高専熊本です。間の抜けたチーム名は近年行われた高専の再編により生じたもので、現在熊本高専八代を名乗る八代高専と統合されるまでは、仙台、詫間、熊本と全国に3校しかない電波高専の一つでした。4校がそれぞれ異なる歴史を有する商船高専に対し、旧電波高専はいずれも戦時中に設立された逓信省所管の「無線電信講習所」を発祥とし、文部省への移管、高専への改組、他校との統廃合の全てにおいて運命を共にしました。高校野球界において全く無名という点でも共通しており、同校も今季は初戦敗退に終わっています。