日本列島旅鴉

風が吹くまま西東、しがない旅鴉の日常を綴ります。

花見の旅 2010番外編

2010-06-01 23:02:58 | 旅日記
桜を追って日本列島を北上した四月と五月が終わり、季節は初夏に入りました。ウェザーニュースの「さくらCh.」によれば、全国660ヶ所の観測地点のうち、今日の時点で桜が残っているのは釧路の他には滝上の芝桜のみになりました。二ヶ所とはいえまだ桜が咲いているとは驚きですが、こちらは内地の気候にもようやく慣れ、ほんの一週間前まで花見をしていたのが今となっては不思議に感じられるようになりました。旅の記憶が次第に薄れ、日常の中へ巻き込まれる切なさを感じる頃が、過ぎし日々を振り返るには遠からず近からずほどよい時期でもあります。北海道の果てで桜の季節が終わりを迎えようとしている今、遅ればせながら花見の長旅を振り返ってみたいと思います。

四月中旬の信州から五月下旬の北海道まで、一ヶ月半という異例のロングランとなった花見の旅ですが、最後の最後は小雨に降られ、時間との熾烈な闘いに燃え尽きて、余韻を感じる間もない呆気ない幕切れでした。結果としては、その前の週で切り上げていれば終わり方としては最高だったわけで、目先のことで夢中になって潮時を見失ったという点では、いつもと同じ失敗を繰り返したということになります。とはいえ、仮に道央で切り上げていれば、その気になれば行けたはずの道東へ行かなかったことを後悔したことでしょう。その時点においてとるべき行動をとったという点では一片の悔いもありません。五月の下旬まで桜を追って旅ができたのですから、これぞ旅人冥利に尽きるというものです。

桜とともに日本列島を北上するという、これまで漠然と憧れながらも毎年のように挫折してきたプランを今年の目玉に据えたのは昨秋のことでしたが、それがここまで見事に実現するとは、その時点では思いもしないことでした。その原因はどこにあったかを考えると、大きく分けて三点に集約できるのではないかと思います。一つは開花のペースが遅かったこと、もう一つは大型連休の日取りがよかったこと、最後は天候に恵まれたことです。
例年ならば、四月の初めに関東を離れた桜前線が、翌週に甲信越、その翌週に南東北へ到達するあたりまではよいものの、大型連休前には北東北へ到達してしまいます。しかし、北東北へ行くには連休前の土日を使った一泊二日の行程では厳しく、だからといって連休を待っていてはせいぜい青森の一部でしか花見ができず、逆に日程をもてあましてしまうため、結局花見とは関係なく西日本へ行ってしまうところでした。それが今年は、関東の開花の時期は例年とほとんど変わらなかった一方で、まずは関東に二週間、次は信州に二週間といったように、その後の歩みが観測史上最も遅いといわれるほどのスローペースで、連休が始まった時点でも南東北で花見ができる状態でした。よって、大型連休を躊躇することなく花見にあてることができました。
遅い開花と連休の日取りが絶妙な具合で重なったというのも幸運でした。例年の大型連休では、昭和の日を含む前半と憲法記念日から始まる後半の間にある程度の日数の平日があり、前半と後半にそれぞれ休暇を組み合わせることで二回に分けて長旅をするというのが常套手段です。ところが今年は、前半と後半の間の平日が一日しかなく、前半と後半の区分が事実上ありませんでした。つまり、これまで二回に分けていた旅を一回に集約しなければならないのですから、考えようによっては損をしたことになるのですが、今年の開花状況からすると、これが結果として好都合でした。大型連休を二回に分けようとした場合、前半が最長三、四日、後半も最長で一週間程度となるのに対して、今年は一回に集中させたことによって九日間という日程を確保でき、かつその時点で桜前線が東北では最南端の福島にありました。そのため、東北地方を縦断して桜前線とともに海峡を渡るという絵に描いたようなプランが実現することになりました。
そして何より、天候に恵まれたということです。最後の二日間こそ芳しくない天候で終わりましたが、それ以外は雨に降られることもほとんどなく、全ての日で一定以上の時間は晴天が望めました。休日がこれほど天候に恵まれることは、実はそれほど多くはないものです。

以上要するに、様々な幸運が重なって今日の結末を迎えたということです。これらの条件が全て揃う年はそう滅多に訪れるものではなく、同じ旅が毎年できるとは思いませんし、それで十分だと思います。とはいえ、来年もこれらの奇蹟が重なったとすれば、「そこに山があるから」といわんばかりに追えるところまで追ってしまうのでしょう。来年どうなるのかはいつもと同様風まかせになります。
厄介なのは、ここまで花見の旅を重ねたにもかかわらず、花見に飽きるどころか来年以降のプランまで山積みになってしまったことです。弘前を始めとして、毎年でも訪ねたいと思う名所がいくつもできました。安曇野や北海道など、いつか桜の季節に再訪したいと思う印象深い土地もありました。今年はついに見られなかった日本海側の桜も来年は訪ねたいところです。一月半にわたって旅を続けたにもかかわらず、回れた場所は予定の半分にもなりません。全国津々浦々の桜を訪ねようとするなら、文字通りのライフワークになるでしょう。来春の彼岸が過ぎれば、天気予報と開花情報を突き合わせながら週末の予定を考える日々が再び始まります。そのときまでしばしの別れです。
花見の旅は一期一会の連続です。日ごとに花が咲いては散り、かつ天候や光の加減で様々に表情を変える桜は、一瞬たりとも同じ姿にとどまることがありません。花と光と風とが織りなす一瞬の表情をいとおしむ、それが花見の真髄だと自分は思います。来年もそんな刹那の出会いを求めて、日本列島をさすらい歩くことになりそうです。

それにしても、一ヶ月半にもわたった旅をたった一晩で振り返るのは容易なことではありません。今回を含め、「番外編」と称して何回かに分けて綴っていきたいと思います。果たしてどこまでネタが続くでしょうか(ニヤリ)
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