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ふぅん

闇閃閑閊 ≡ アノニモス ≒ 楓嵐-風

蒼い月

2010-01-31 12:30:52 | 夜々懐想
昨夜 玄関を出て 見上げれば
東の空に まるい月
ひとつきに2回目の満月を ブルームーンというらしい


ふうん


願いごとはしなかったけれど
太陰暦だったら
存在しなかった 蒼い月





何度目かの食事の時
彼女は 涙を流しはじめて
満月の話をしてくれた


満月の夜は 妹と一緒に
ベランダに出て 食事をするの
そして 弟も一緒に食事をするの


てっきり 二人姉妹だと思っていたのだけれど
彼女には 20代で急逝した 弟さんがいた
病魔に憑かれて 若くして 逝ってしまった


とても美しくて まるで女優さんのような顔なのに
いつも どこか影がかかっていたのは
その弟さんのことだったんだ


ふうん


涙を拭いて 無理して笑って
変な話をして ごめんね と言った
いや僕こそ 何の力にもなれなくて ごめん と言った


僕には なぐさめたり いやしたり
そういう能力がない
だから 言葉も表情も 不器用なままだった


ただ 嬉しかったのは
その次に会った時から
彼女の美しい顔から 影が消えていたこと


満月の夜には 僕らは 会ったことがない
きっと 寒い夜でも ベランダへ出て
兄弟揃って 一緒に食事をするのを 邪魔したくなかったから


でも メールはした
「今夜も満月だね」
『ありがと 明日 会える?』


もう 十年近く前の話


あの人も 昨日の蒼い月を 見上げていただろうか
姉妹それぞれ 結婚してるから
それぞれの場所で それぞれの人と 見上げていただろうか


二楽章の漸近線

2010-01-30 22:17:06 | 夜々懐想
初めて訪れた
その人の部屋で 
静かに流れていた曲


どうやら 自分が好きな曲を集めて
テープに録音したらしい
まるで 音楽のパッチワーク


「2楽章ばかりだね」
『え? クラシック分かるの?』
「いや 聞いたことある曲だけ」
『へえー 見直した! 男性にしては珍しいね』

 



きっと 僕の仕事を聞いたら たまげただろうな
それに 僕も 2楽章ばかり 集めていたことがあるんだ
でも それは 最後まで伝えなかった


『なんで 職業 教えてくれないの?』
「だって いつまで この仕事してるか分からないもん」
『変なの! 人に言えないような仕事なの?』


探るようなまなざしで
でも 少し 悪戯な笑みを浮かべて
あの時は 僕が先に視線を逸らしたんだ


浜名湖の近くの 若者が集まるダイナー
日中 ピアノ製作の修行をしながら
夜になると 僕はそこで 厨房のアルバイトをしていた


二つ年上の その人は
新人だった僕を よく面倒みてくれて
いつからか 時々 仕事の後
真夜中の遠州灘へ ドライブに連れて行ってもらった


僕は いずれ この街を去ることを知っていた
だから 触れないギリギリの距離で 
その人の優しさに 気づかないフリをして


『ケニーが ゴエちゃんは 手先が器用だって 誉めてたよ』
「へぇ そうなんだ なんだか嬉しいな」
『ねえ 実家は どこなの?』
「あ この曲 ラフマニノフとかいう人じゃない?」


その人の部屋には 
アップライトピアノがあって
本棚には いろいろ楽譜があった


でも 僕は ピアノに関心などないフリをして
なんとなく チグハグな会話をして
ちょっとだけ 緊張してるフリをして


『ねぇ なんで ラフマニノフなんか知ってるの?』
「あ 当たった? 昔から 勘だけはいいんだ」
『うそ! 怪しい! 凄く怪しい!』


僕らに 三楽章は訪れなかった
まるで 漸近線のように
静かで緩やかな 二楽章のまま 離れていった


でもね 二楽章だって
ほどけないくらい からまってしまうこともあるんだ
密度はテンポだけで高くなるものじゃないんだ


あの店は まだ あるのかな
あれから 浜松に行っても あの場所へ行けないのは
あの人にだけ 挨拶もせずに 東京へ帰ってきてしまったから


それでも ずっと 気になってることがあって


あの人の弾いてたピアノは
どんな音が してたのだろう
ピアノを造る街で ピアノを弾いていた人


ふうん
 


 



紫の猫

2010-01-29 18:19:08 | 紫々猫想
今日の午後から
僕のケライになった 紫のネコは 
ルームミラーの上に ちょこん


振り返らずに 
後ろが見れる鏡を見る度に
紫のネコと 目が合って


振り返らずに
過去が見れる気がしてきて
そっと 視線を外して


ふうん





名前をつけてやろう


こいつは きっとオス
紫の星から やってきたんだ
子猫に見えるけど 本当は どうだろう


僕は 過去から 何も学ばない
でも 過去を 決して忘れない
一番愚かな生き方をしている


ポラ君


僕は 前に進む為に 
時々 後ろを見るんだ
振り返らずに ミラーでチラっと


進路を変更する時に
時々 後ろを見るんだ
振り返らずに ミラーでチラっと


あとは スピードを出しすぎていて
捕まらないように 後ろを見るんだ
振り返らずに ミラーでチラっと


ポラ色 韓国語で紫
でも ポラッ!と言えば
見ろっ! って意味


ポラ君


僕が見てない時も
後ろを見てておくれ
そして 油断してたら 教えておくれ


僕らは 全く反対を見ているけど
そうしなければ 進めない前というのも
あるんだから


そうだ 四月になったら
ポケットに入れて
韓国に連れていってやろう


「ポラッ!」って言って 
ソウルの友人に会わせてやろう!
それまで 一緒に前に進もう










モニカ

2010-01-28 19:00:29 | 日々随想
コンサートは 
また 出会いの場所でもある


どんな曲も 最初は 出逢い
遠い日の音楽も 生み出されたばかりの音楽も
そして それぞれの心の琴線に 共鳴したり しなかったり





16世紀 ヨーロッパで流行した俗謡
そのメロディーを モチーフにした
ベデッカーの作品を ハープとガンバで聴いた


ふうん


いいメロディーだなー
民謡とか 俗謡とか
いつだってシンプルで 哀愁があって


だから 録音なんかなくても
楽譜なんかなくても
人の 口から口へ 歌い継がれたんだろうな


現代に比べると
情報というものは
あまりに少なかった時代


でも 人間にとって
あ いいな というものは
ちゃんと繋がっていた時代


なんだか いいな


たくさん 子供を産んで
でも たくさん 死んでいって
そうやって 継続されてきた人類


汚染とか 農薬どころじゃなく
動物と さほど変わらないくらい 餓死と戦って
でも その頃の食物は おいしかったと思う


満たされないものを 満たしたものは
素晴らしかったと思う
でも 満たされた時代に 満たせないものは
存在しないのかも知れない


脱皮してゆく響きの中で

2010-01-27 23:34:10 | 日々随想
小さなホールで 
今日もリハーサル
控室に 届く響きに 耳をすませて





本番は 別の会場で
違う楽器で
違う調律師で


それでも リハーサルは
音楽が 少しづつ 平面から
立体へと進化していくから 面白い


そして きっと
本番では 立体から
4次元へ 昇華していくんだろうな


昆虫は 変態を繰り返して 成虫になる
でも 成虫だけが 昆虫でなくって
毛虫の時代も サナギの時代も 昆虫なんだ


遠い日に 残された 2次元の音符から
脱皮を繰り返して 羽化していく音楽
音と時間を 魂で煮詰めた結晶


サナギの形さえ 見ることも出来ずに
幼虫の蠢きに じっと耳をすませて
それもまた 楽しめるひととき


本番 信州の魂の中で
大きく羽を はばたかせて
昇華できますように!