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ふぅん

闇閃閑閊 ≡ アノニモス ≒ 楓嵐-風

琥珀のピアノ

2010-01-13 17:25:21 | 夜々懐想
冷たくて 乾いた風が 強く 吹いていた
でも 学校の窓から 飛び込んできた夕陽が
僕らを 最後に ひとつにしてくれた


今日のような 冬の日だった





僕が行っていた専門学校は
みんな ピアノが弾けた
勿論 僕を除いてなんだけれどね


2年生の この季節は
卒業試験の為に
誰もが 必死に 夜まで調律の練習をしていた


ある日 僕は ふと練習部屋を抜け出して
新校舎の前の芝生まで ボールを蹴りに行った
狭い部屋で 長時間 音を聞いてると ボールが蹴りたくなった


外に出ると 風が強くて 凄く寒くて
それでも ボールを探していると
ピアノ教室の部屋から 珍しい曲が聞こえてきた


それは 金曜ロードショーという
テレビの番組の 冒頭にかかっている曲だった


僕は 新校舎に入り ピアノ教室を覗いてみた
すると そこには 彼女が一人で
グランドピアノを 弾いていた


僕は そっと扉を開け
トランペットのメロディーの部分を
デタラメな歌詞をつけて 大声で歌いだした


彼女は 一瞬 びっくりしたけど
そのままピアノを 弾き続けて
だんだん 笑顔になっていった


「楽譜無いのに よく弾けるね」
『この曲 高校の文化祭で 耳コピして弾いたんだ』
「ふうん」
『ペットは せいちゃんが吹いたんだよ』


ふうん


せいちゃんは 彼女の元彼
ブラバン部で トランペットを吹いていたらしい
春になれば 彼女は地元に戻るから
また せいちゃんと 会うのかな


卒業後 僕らは 凄く遠く離れてしまう
そして 試験も近いし
なんだか 二人は ギシギシしていた


その時


西を向いた窓から
突然 黄昏が部屋中に充満した
ピアノと 僕ら二人は 琥珀の中で 固まってしまった


「すげー」
『うん』


彼女は ようやく呼吸を再開すると
また フライデーナイトファンタジーを
弾き始めた


僕も その黄昏を歌詞にして 歌った
サビは高すぎるから 時々 オクターブを下げて
その日は 久しぶりに駅まで 一緒に帰った記憶がある


僕らが 最後に 同じ方向を 見つめられたのは
あの 琥珀のピアノの部屋だった
一瞬だけ 太陽のいたずらのおかげで
僕らは 同じ方向を 見ることができたんだ


ただお互いを 見つめ合っても
違う方向を 見つめてしまっても
人と人は むつかしい


共通の敵とか 共通の感動とか
そういうものが 時々 同じ方向を向かせてくれるけど
共通の淋しさや悲しさなんて ないほうがいい


今はもう
彼女も あの校舎も この世に存在しない


あるのはただ
少し変わった自分と 
何も変わらない太陽と
それから あの曲と