もじもじ猫日記

好きなこといっぱいと、ありふれない日常

「紙屋悦子の青春」

2006-10-15 21:54:52 | 映画
10/9鑑賞

黒木監督の三部作の最終章。

病院の屋上で昔語りをする老夫婦。
二人の出会いは見合いだった。
昭和20年の春、鹿児島。
東京大空襲で居合わせた両親を失い、
兄夫婦と住む紙屋悦子には、密かに心を寄せる男性がいた。
兄の後輩の明石少尉。
しかし、その明石は親友・永与少尉との見合い話を持ち込んでくる。
自分の気持ちを隠して、見合いに望む悦子。
以前に見かけた悦子に一目ぼれをしていた永与は、
不器用だが温かい想いを示す。
明石は特攻に志願することを決めていて、
悦子を永与に託したのだった。
自らの気持ちを隠したままで。

登場人物は5人でシーンのほとんどが紙屋家という、静かな映画だ。
戦闘シーンはひとつも出てこない。
それでも滲んでくる想いは
「反戦」という固い言葉ではなく、
「戦争は嫌だ」というひとりひとりの想い。
らっきょうと赤飯を食べれば爆弾に当たらない、という風聞を聞き
半信半疑で食卓にのせた兄嫁が言う
(負けてもいいから戦争が早く終って)「赤飯は赤飯で食べたか!」の言葉。

他にも、戦時下でも人々は笑い合って生きていたのだというシーンが多く、
ゲラゲラと笑って観ていた。
永与の生真面目さは、悦子にとっても微笑ましいものだったろう。

明石と悦子はお互いに想っていても、
それを伝え合うことの難しい時代だった。
まして、死に行く身であればなおのこと。

「父と暮らせば」もそうだったけれど、
舞台を映画化したということで、
より沢山の人に観てもらえるのは大切なことだと思う。
声高に叫ぶ映画でも、強烈な映画でもないけれど、
戦争が個人から奪ってゆくものを描いている。
コメント
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