PINK MOZARTの新作を公開します。
Claude DEBUSSYは43歳の時、妻と離婚し裕福な銀行家婦人であるEmma BARDAC(エンマ・バルダック)夫人と恋におちClaude-Emma(クロード・エンマ)という女の子をもうけます。
えっ、バルダック夫人!? そうです、皆さん、憶えていますか?
先に公開した組曲「ドリー」の作曲者フォーレの友人バルダック家の夫人=DOLLYのお母さん、その人です。
ドビュッシーは娘クロード・エンマをこよなく愛し、その子の為に、この組曲「子供の領分」は作曲され捧げられました。つまり組曲「ドリー」と組曲「子供の領分」は作曲者こそ違え姉妹作品となります。ピアノ連弾組曲「ドリー」とは対照的に「子供の領分」は、かなり難しい技量も要求される2手ピアノ組曲です。
(Durand社原典初版の楽譜の表紙)
第1曲=グラドス・アド・パルナスム博士
Doctor, GRADUS ad PARNASSUM.
原題のラテン語GRADUS ad PARNASSUMは18世紀イタリアの大ピアニストMuzio CLEMENTI(ムツィオ・クレメンティ)の現代では用いられないピアノ練習曲集の題名です。GRADUSはGRADE(グレード)の語源となった段階あるいは階段。adはto、PARNASSUMはギリシャ神話で太陽神アポロンと芸術の神ミューズが住んでいたとされるパルナス山のことです。意訳しますと「パルナス山の遙かなる頂(芸術)に通じる長い階段」でしょうか? そのピアノ練習曲をクロード・エンマが嫌々練習する様子を練習曲集題名にDoctor,(博士号)を冠して無味乾燥な連習曲をドビュッシーの創造力ゆたかな旋律と和声進行でアイロニックに表現した組曲中の白眉です。(と、おもいます)
第2曲=象の子守歌 JIMBO's LULLABY.
クロード・エンマがお気に入りの象さんのぬいぐるみと遊んでいるうちにまどろんでしまいます。それに気づいた象は、「やさしく、やや、ぶきっちょに」一人で踊り始めますが、それに飽きて、象も寝入ってします。
第3曲=人形のセレナーデ SERENADE of THE DOLL.
クロード・エンマがお人形さんと対話している様子を表現した曲です。
第4曲=雪は舞う THE SNOW IS DANCING.
クロード・エンマが窓の外の、いつ、やむかもわからないコンコンと降り続ける雪を不思議そうに見つめています。実はクロード・エンマが誕生した日が雪の日であり、産室の外で待っていたドビュッシー自身の不安な思い出が反映されています。
第5曲=小さな羊飼い THE LITTLE SHEPHERD.
クロード・エンマの好きなイギリス製の紙の牧童人形に因んだと云う説と、絵本に因んだと云う二説が有力です。PINKYは第2曲の象さんを三回、このセレナーデに「友情出演」させているのがニヤリとさせられます。
終曲=ゴリウォグのケークウォーク GOLLIWOGG's CAKE-WALK.
ゴリウォグは縮れ髪の黒人少年を模した人形。この人形の剽軽で軽薄な踊り(ケークウォーク)を表現した曲です。何度も諭して踊りを止めさせようとしますが、ゴリウォグは、そのたびに、けたたましく笑いとばして踊り続けます。その諭しの旋律に使用されているのは一時は熱狂的なワグネリアンあったドビュッシーらしく楽劇「トリスタンとイゾルテ」のパロディーです。ここではPINKYの前作、組曲「マ・メール・ロワ」の「美女と野獣の対話」のラストで、ようやく魔法が解かれ人間の姿を取り戻したはずの王子様が、またも「野獣」の姿に舞い戻って「特別出演」し組曲のフィナーレを陽気に盛り立てています。
クロード・エンマは可哀想にも、わずか13歳でジフテリアで夭折。
ドビュッシーの血筋は完全に途絶えました。
【追記】この曲の公開は終了しました。