曠野すぐりBLOG 「小説旅日記」

「途中から読んでも内容の分かる連載小説」をいくつか、あと日記を、のんびりと載せていきます。
 

小説・立ち食いそば紀行  小諸の進出(4)

2011年10月08日 | 立ちそば連載小説
 
《主人公の「私」が、各地の立ち食いそば屋を食べ歩く小説です》 
 
 
小諸の進出(4)
 
やはり駅構内の店舗だからか、店内は狭い。小諸は狭い店舗だと椅子とスタンディングの半々にしているところが多いが、ここもそうだった。
 
食券を出して、そばと伝えた。店内は混んでいる。椅子は一つ空いていたが、窮屈そうだったので迷わずスタンディングの方に陣取った。
待っている間にもぞくぞく客がやって来る。さすが小諸、大人気だ。いっぱいだからと帰っていった男がいたが、彼は食券を手にしていた。あれはどうするのだろう。たしか立ち食いそばの食券はどの店も当日限り有効となっているはずだが、彼は本日中に訪れるのだろうか。
「ごまダレそばのお客様ぁ」
呼ばれたので取りにいく。スタンディングの部分は調理場に平行して造られているので狭い。私は最も手前だったからいいが、奥に入ってしまったらそばを運ぶのがひと苦労だ。この辺は改革してほしいが、店舗面積の問題なので改革は不可能だろう。人気店ならではの悩みだ。
 
私はごまダレを頼んだときの決まった手順を追う。テーブルに置いてある陶器の入れ物から小型トングでネギを大量に入れ、そばと一緒に渡されたすりごまの瓶を手に取ってプラスチックのつまみをくるくる回してすりごまをつけ汁に入れる。ネギ入れの横に置いてある梅干し入れから梅干しを二つ取り、そばの盛ってあるザルに置く。最後にゆず七味をつけ汁に入れて、セッティングは完了となる。
 
一口目は少量だ。つけ汁にサッとつけて喉に流し込む。そばのいい香りが口中に広がった。
そばを味わいながらも私は店の観察を忘れない。店員は出来上がるとお客の注文を呼んで知らせるが、ほとんどが冷やしで、温かいそばは少ない。おそらくだが、この時期車内はまだ暖かいので、電車から降りてきた客はすべて冷やしのメニューなのだろう。
 私はものの数分で食べ終えた。ふぅと一服つきたいところだが、混んでいる店内に遠慮してすぐに食器を下げて店を出た。
 
私は改札に向かい、立ち食いそばを食べに入った旨をしっかり伝え、1駅分の運賃をICカードから引いてもらって改札の外に出た。駅員がまったく驚かなかったところをみると、もしかしたらそういった客がけっこういるのかもしれない。
私は1階まで降りて再び「越後そば」を横目に見て、武蔵野線の改札へと向かっていった。
 
 
(小諸の進出・おわり)