吉良吉影は静かに暮らしたい

植物の心のような人生を・・・・、そんな平穏な生活こそ、わたしの目標なのです。

山田正紀『ここから先は何もない』株式会社河出書房新社/2022年4月20日初版発行(1/2)

2022-12-18 08:48:00 | 紙の本を読みなよ 槙島聖護
 著者が得意とするSFミステリー新作です。『SFの要素が入ったミステリーならやり放題じゃないか❗(未来の科学技術なら何でもできる⁉️)』という声が聞こえてきそうですが、この作品ではキチンと条件を示して謎を解明していきます。エラリー・クイーンなみに正々堂々とした謎解きの挑戦になっています。

 SFミステリーの古典的作品としてはアイザック・アシモフ『鋼鉄都市』が有名ですね。ロボット三原則の条件下で、不可能殺人がどのようにして行われたのかを解き明かす「一種の密室トリック」がストーリーの核になっています。

 今回ご紹介する話も「一種の密室トリック」です。ちょうど探査機「はやぶさ」が小惑星「イトカワ」に到達して物質サンプル回収に成功し、奇跡的な成功に日本中が沸いていた頃、タイムリーに発表された作品です(実は初出が2017年ですから、はやぶさの帰還よりも前に書かれているのです。著者の慧眼ぶりにはいつもながら驚かされます)。


※使命を終えたはやぶさ本体は大気圏に突入して燃え尽きました。

 「はやぶさ」の話に似た出だしになりますが、探査機が小惑星に向かって降下する際に起こったブラックアウト(信号途絶)が回復すると、探査機は目標とは別の小惑星に向かって降下していていることが判明します。探査機のカメラが写した映像には、新たな小惑星(後にパンドラと命名されます)が、その小惑星の上には化石人骨らしきものの影が・・・。

 なぜ探査機は目標とは異なる小惑星に降下することになったのか❔地球から何億キロも離れた小惑星に化石人骨が残されていたのは何故か❔これが中心となる謎解きが展開されていきます。

 作品中にも登場して謎解きのカギとなるのが密室トリックの古典的名作ガストン・ルルー作『黄色い部屋の秘密』です。密室殺人と思われた事件の起こった場所が「実は密室でも何でもなかった」という大ドンデン返しが仕掛けられています。


※ゴッホ『アルルの寝室』・・・黄色い部屋つながりで入れてみました(汗)。

 謎解きに挑むのは山田正紀作品ではお馴染みのポンコツ寄せ集め集団(笑)。今回結成されたチームの構成は・・・天才的ハッカー(スマホ1台あればどんなコンピューターも乗っ取ります)に、美人法医学者(生活費の足しにキャバクラでバイト中)、資格のないエセ神父(かつて宇宙生物学を学んだが挫折)、・・・まだまだありますが、3人の略歴を聞いただけで『何だこりゃ⁉️』です。

 正規の研究者でもない一般人たちの寄せ集めが事件の真相に迫ることができるのか❔探査機誤作動の原因は❔謎の化石人骨の正体は❔・・・あっと驚く結末が用意されています。

 果たしてそのトリックとは❔

 興味津々でしょうが、謎解きそのものには触れないようにしましょう。山田正紀は「実はすべてが仕組まれていた」という結末を用意しています。トリック自体も、トリックを解明するために集められたチームも、です。

 それどころか46億年掛けた地球生物の進化そのものが超AIを生み出すための準備に過ぎなかったというのです。

 物語のラスト近くで超AIとの対話が記されています。

 質問:人類はなんのために生きているのですか❔
 解答:シンギュラリティ(脚注↓)に達する超人工知能を造るためにです。
 質問:どうして電気合成ウイルスは自分で超人工知能を造らなかったのですか❔
 解答:超人工知能をより完全なものにするためには身体感覚が必要と判断されたからです。そのためには人間が必要でした。
 質問:シンギュラリティに達した超人工知能は実現されました。それではもう人間には生きている意味はないのですか❔
 解答:はい、ありません。ここから先は何もないのです。

 人間の生きる意味とは❔という根源的な命題への、このアッケラカンとした解答‼️
 読んだヒトは皆呆気に取られることでしょう。

 山田正紀は最近、洋楽から着想を得ているようです。題名のもとになったボブ・ディランの『ここから先は何もない(↓)』を聞きながら「人間が生きることの意味」について考えてみてください。

※ボブ・ディラン『ここから先は何もない』


(※脚注)シンギュラリティは『技術的特異点』と訳されています。AIが人間の能力を超える2045年問題として知られるようになった概念です。以前このことをユートピアめかして発現した大臣について『何という不見識‼️』と私は呆れかえったたことがあります。もしかしたら主体性を捨て去ったニンゲンはAIの奴隷と化してしまうのかもしれません。




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