雛祭りに控えめに参加してみた。
女の子が集まった部屋の片隅に、入り口付近に、乳児でもわかるような典型的な下座に僕は佇んでいた。
だって今日は女の子のお祭り。主役は女の子。組合の人は脇役。
控えめに、という条件付きで参加させてもらっているのだから、参加させてもらえるだけで感謝しなければならないのだ。
参加交渉するのにどれだけの年月を費やしてきたのか。志したのが右も左も茉奈も佳奈もわからないような年頃だったのが、今ではもう、晩御飯を食したのかどうかもわからないような年頃になってしまった。
この度の『男性の雛祭り参加』というのは歴史的快挙であり、女性が土俵に上がることくらい、小学生がフグ刺しを『もういらない』と言って残すことくらい、軽い気持ちで48都道府県目に行くこと以上に御法度とされてきたことでもある。
僕は空気のような存在であろうと心がけた。周りの害にならないようにと。
もっとも、彼女たちは僕のことを窒素か一酸化炭素のような存在として認識しているのだろうけど。
しかしながら、僕のところだけ人口密度が低いのは気に入らない。それに比べてあっち側のそれは高い。
単純に皆、雛人形に群がっているだけなのだが。
女子は楽しそう。お花畑みたいだね。
ひとりでおとそをちびちび飲むのにも、カーペットにコロコロをかけるのにも飽きた僕は、少しずつ少しずつ女子陣内に近づいてみた。
その時点で女子&準女子一同から激しいブーイング。
それに臆することなく僕は言った。ガラスのハートのくせに。
『雛人形は早く片付けないとお嫁に行けないんだよ』
瞬間、雛人形を投げつけられた。次々と。
速い。160キロ出ていたかもしれない。こんなスピードで飛ぶ雛人形は初めて見た。君たちキウイ・パパイヤ・マンゴーだね!・・・じゃなくって、メジャーに行けるんじゃない?
それらを全てキャッチした僕も褒めてほしい。
見ると、女子たちが投げたのはお内裏様とか五人囃子とかだ。
雛壇にはお雛様だけが残っている。ちゃっかりしてやがる。
人形を戻そうと雛壇に寄ろうとしたところ、2メートル近くあるお姉マンに刺す股で取り押さえられた。
そのまま、僕は部屋を追い出された。人形を抱えたまま。
あれから半世紀が過ぎた。
今、目の前の雛壇には雛人形が並べられている。お雛様を除いて。本来お雛様のいるべき場所は、ここ数十年、空席のままだ。
言うまでもなく、これらはあの日女子たちに投げつけられ、持ち帰ってきた雛人形である。
孫娘に毎年必ず聞かれる。
『ねえねえ、おじいちゃん。なんでうちにはお雛様がいないの?』
今更、あんな昔話はしたくない。
だから、毎年僕はこう言う。
『それはね、お前のためにわざと空けてあるのさ。お前がお雛様になればいいじゃん』
それを聞いた孫娘は苦笑いをして背を向ける。2、3年前までは大変喜んでくれていたのに。『やった~、私がお雛様だ~!』ってね。
去っていく孫娘に向かって僕は語りかける。これも毎年欠かさず言うセリフである。
『雛人形は早く片付けないと』
『お嫁に行けないんだよ、でしょ?』
孫娘は肩越しにそう言うと、部屋から出ていった。
ひとり残された僕。
『・・・わかっているならよろしい』
女の子が集まった部屋の片隅に、入り口付近に、乳児でもわかるような典型的な下座に僕は佇んでいた。
だって今日は女の子のお祭り。主役は女の子。組合の人は脇役。
控えめに、という条件付きで参加させてもらっているのだから、参加させてもらえるだけで感謝しなければならないのだ。
参加交渉するのにどれだけの年月を費やしてきたのか。志したのが右も左も茉奈も佳奈もわからないような年頃だったのが、今ではもう、晩御飯を食したのかどうかもわからないような年頃になってしまった。
この度の『男性の雛祭り参加』というのは歴史的快挙であり、女性が土俵に上がることくらい、小学生がフグ刺しを『もういらない』と言って残すことくらい、軽い気持ちで48都道府県目に行くこと以上に御法度とされてきたことでもある。
僕は空気のような存在であろうと心がけた。周りの害にならないようにと。
もっとも、彼女たちは僕のことを窒素か一酸化炭素のような存在として認識しているのだろうけど。
しかしながら、僕のところだけ人口密度が低いのは気に入らない。それに比べてあっち側のそれは高い。
単純に皆、雛人形に群がっているだけなのだが。
女子は楽しそう。お花畑みたいだね。
ひとりでおとそをちびちび飲むのにも、カーペットにコロコロをかけるのにも飽きた僕は、少しずつ少しずつ女子陣内に近づいてみた。
その時点で女子&準女子一同から激しいブーイング。
それに臆することなく僕は言った。ガラスのハートのくせに。
『雛人形は早く片付けないとお嫁に行けないんだよ』
瞬間、雛人形を投げつけられた。次々と。
速い。160キロ出ていたかもしれない。こんなスピードで飛ぶ雛人形は初めて見た。君たちキウイ・パパイヤ・マンゴーだね!・・・じゃなくって、メジャーに行けるんじゃない?
それらを全てキャッチした僕も褒めてほしい。
見ると、女子たちが投げたのはお内裏様とか五人囃子とかだ。
雛壇にはお雛様だけが残っている。ちゃっかりしてやがる。
人形を戻そうと雛壇に寄ろうとしたところ、2メートル近くあるお姉マンに刺す股で取り押さえられた。
そのまま、僕は部屋を追い出された。人形を抱えたまま。
あれから半世紀が過ぎた。
今、目の前の雛壇には雛人形が並べられている。お雛様を除いて。本来お雛様のいるべき場所は、ここ数十年、空席のままだ。
言うまでもなく、これらはあの日女子たちに投げつけられ、持ち帰ってきた雛人形である。
孫娘に毎年必ず聞かれる。
『ねえねえ、おじいちゃん。なんでうちにはお雛様がいないの?』
今更、あんな昔話はしたくない。
だから、毎年僕はこう言う。
『それはね、お前のためにわざと空けてあるのさ。お前がお雛様になればいいじゃん』
それを聞いた孫娘は苦笑いをして背を向ける。2、3年前までは大変喜んでくれていたのに。『やった~、私がお雛様だ~!』ってね。
去っていく孫娘に向かって僕は語りかける。これも毎年欠かさず言うセリフである。
『雛人形は早く片付けないと』
『お嫁に行けないんだよ、でしょ?』
孫娘は肩越しにそう言うと、部屋から出ていった。
ひとり残された僕。
『・・・わかっているならよろしい』