ボタンインコのフー太郎を飼い始めてもう7年余になる。この種の鳥の寿命は、平均10年程度だそうなので、彼は既にもう老鳥なのだろう。
しかし、これまで一度も体調異変等もなく、極めて元気である。老鳥なのに籠の中で静かにしているのが大嫌いなようで、とても遊び好き、悪戯好きである。
時々鳥籠に近ずくと、身体を左右に何度も動かして、籠から出して呉とせがむような動作を繰り返す。そんな懇願振りに負けて、一日に何度か籠の蓋を開けると嬉しいのか、甲高い鳴き声を出しながら一旦籠の枠にとまり、暫し周りの様子をじっと観ている。
直ぐには飛び出さない。野鳥本来の警戒心があるからだろう。蓋を開けた状態で傍に立っていると、決まって肩や頭の上に飛んで来て止まる。体調の15倍位の高さの所迄、瞬時にかつ垂直に飛び上がってくる。その垂直離籠の芸当は、実に見事である。
手を差出すと警戒もせず、その手に乗り移って来て暫くじっとしている。足の指は長短前後に2本ずつあり、血の気が少ないためか意外に冷たい。冷たいが故に、温もりのない所でも平気に止まれる反面、温もりのある所に止まる好みもあるようだ。
人を恐れず、手や腕・肩・頭等によく止まるのは、暖かい所を好む原産地・南アフリカ産の習性に由来しているのだろうか。
一旦放鳥(籠からだす)すると、よほどの空腹状態でない限り、自分で籠に帰ることは殆どない。放っておけば何時間でも、あちこち我がもの顔で時々飛び移り、諸所で遊んでいる。止まっている際に、身体を低くして、お尻をやや上げる姿勢をしている時は要注意で、こんな時は必ず、白い糞を落とすのでその度に後始末を強いられる。
テーブルやパソコンの周辺に白い紙類がある場合の鳥の行動には特に要注意だ、得意の噛み・喰いちぎりが始まるからだ。噛み切った紙片を口に銜えて上下左右に動かし乍遊んでいる時が、フー太郎にとっては自慢の見せ場であり、得意ホーズのひと時である。
時折、籠の上に戻りガラス越しに外を眺めている時もある。外の世界が恋しいのか、それとも籠の中の餌にありつきたいのか、老鳥なりに思案しているのかも知れない。
残念ながら、このフー太郎は、物まねは全く出来ない。でも音には敏感で、朝ベランダ側のカーテンを開けると元気な声で必ず2・3度は鳴く。その声は、鳥籠に夜間用として懸けている毛布を、早く取って呉れとの鳴き声のようにも聞こえる。毛布を取らないと同じ声で何度も鳴くのがいじらしい。日中でもフー太郎と呼ぶと、顔を上に向けながら、ピーと甲高い一声で応えたりもする。もの云わぬフー太郎と老夫婦との繋がりが、いつまで続くのか先のことは解らない。解っていることは、このフー太郎が、とても遊び好きでかつ放浪癖のある老鳥だが、老生や毎日立ち寄る娘夫婦や孫達にとっては、愛想の良い大切なペットであることだ。 (完)