習作の貯蔵庫としての

自分の楽しみのために書き散らかした愚作を保管しておくための自己満足的格納庫ですが、もし感想をいただけたら嬉しく存じます。

トランピスト修道院

2020-12-22 17:52:46 | 政治・経済・社会・時事
 いやはや、奇妙というか、何というか。
 アメリカ本国だけじゃなくて、日本の右翼の一部の人が、異常なまでにトランプ狂信なのには、はなはだ驚かされ、あきれさせられるね(※1)。
 一体、何が彼らをこんなによその国の選挙に熱くさせるのだろう?

 まあ、それは実は容易に想像がつくのだが。
 要するに彼ら(いわゆるネトウヨの人たち)は、トランプが中国に対し強硬的な発言をしてくれているのに「胸がすく」から、そんな正義の味方が選挙で負けるなんてことはあり得ない、あってはいけない、と、まあ、そんな動機づけでトランプに声援を送って、そして、負けてもいつまでもあきらめないんだろう。たぶん(※2)。

 でも、彼らの妄言というのは、哀れを通り越して滑稽なぐらいに、小学生でも論破できそうな稚拙な、というより支離滅裂な物言いだからなあ。・・・


 いわく、「今回のアメリカ大統領選挙(※3)の、90%なんていう投票率はあり得ない。日本を含む他の先進国の国政選挙投票率と比べても、高すぎる。バイデン側が不正をしていたからだ!」

 それは、全有権者に対しての90%ではなくて、投票者登録をした人の数に対しての90%でしょ。別に今回に限らず、いつもそんなもんなんじゃないの(※4)。


 いわく、「今回の選挙では、場所によっては、一時的に投票率が100%以上になったそうだ。これぞ、バイデン陣営が不正を行なっていた動かぬ証拠だ!」

 ああ、それは郵便投票の開票と有権者登録のタイムラグで一時的にそうなっただけね。未払い未収とその消し込みの順番がテレコになって一時的に残高がおかしくなったようなもん(←経理の人にしかわからないたとえをするな!)。


 いわく、「バイデン陣営の大統領選挙不正の『動かぬ証拠』が次々と出てきている。ドミニオン(投票用紙振り分け機)の異常など、既にユーチューブやSNSでいっぱい伝えられている。なのに、なぜCNNなどのオールドメディアは報じないのだ!?オールドメディアは、中共に闇で支配されているから報道しないに違いない。だから奴らは嘘ばかりつくのだ。信頼できる情報によれば、トランプは実は圧勝している。いずれ真実は明らかになるだろう!」

 中国に支配されているから報道しないんじゃなくて、事実である可能性が極めて低いから報道しないだけでしょ(笑)。東スポや夕刊フジなら読者の「願望」というか需要に合わせて誤報を流しても世間は許すけど、三大紙が誤報したら世間が許さないみたいなもので、ちゃんとしたメディアなら、情報の真偽判断に慎重になるのは当然のこと。
 だいたい民主党が大規模な不正なんてできるんなら、議会選挙のほうも民主党が圧勝してるだろ(笑)。もともと、一般的に言って、選挙に細工しやすいのは古今東西、政権党のほうであって、野党が大規模な不正をやって成功したなんてのは聞いたことない。

 それと、オールドメディアが嘘ばかりつくとか、真実を伝えるメディアは別にあるとかってのは、何が根拠なのだ?CNNが誤報を流しているとか、ニューヨークタイムズがフェイクニュースを流しているとか、あるいはどこぞのユーチューブの流す情報こそが真実だとか、そんなこと判定できる能力があんたらにあるのか(笑)?もしあるんだとしたら、凄いぞ(笑)。ネットで吠えてないで、アメリカに乗り込んで証明したらどうなの?キチンとした証拠が出せるのならね(※5)。



 ・・・まあ、こんなふうにおバカな人たちを揶揄していても全然生産的ではないので、これぐらいにするが、いずれにしても、アメリカの有権者は日本の憎中右翼の溜飲を下げさせるために自分たちの大統領を選んでいるわけではないからね。
 たとえ日本の一部の人が「中国に対して強硬なことを言ってくれる!うれしい!気持ちいい!胸がすく!黄門様!カッコイイ!」と、シビレていたとしても、アメリカ人は、日本のネトウヨの都合で自分たちの大統領を選んでいるわけではない(※6)。
 現実問題、嘘つき(※7)で差別主義者の下品な人物をいつまでも国の顔にしているわけにはいかないと、ごく当たり前のことを考える人が多かったという、至って当然の結果になっただけだろう(※8)。


 でも、一応言っておくと、2016年の大統領選において、内政のスタンスとしてトランプのような主義主張をする野党候補が出てきて、そして一定数がそれを支持したということは、ある意味でまっとうなことだとも思う。それは、人種差別発言をしてもいいという意味ではなく、反グローバリズムで自国優先、とくに雇用の視点から生産拠点の海外流出に反対し保護貿易を主張するというのは、現実にどこまで可能かは別として、野党ならそう主張して当たり前・・・と言っては語弊があるが、でも、まあ当たり前のことだと思う。ある意味、それこそ「愛国心」なのだから、そういう意味で日本の社民党や共産党なんか、トランプ的な日本ファーストを(もっと上品に)訴えたっていいと思う(※9)。

 そんなわけで、トランプが人品卑しいデマゴーグであるとかいうこととは別に、「自国ファースト」、イコール「グローバル企業の儲けより自国の労働者の雇用ファースト」というスローガンには、実は個人的には共鳴したいところもなくはない。
 それが偽らざる私の本音だったりもするのだ。

 そして、トランプが嘘つきであったこと、品がなかったこと、それゆえ大国アメリカの「国父」にふさわしくなかったことは否定しがたくとも、しかし、イランにて―結果として成功判断と見るか否かは別として―戦争しようと思えばできる状況下でそれを踏みとどまった、アメリカ史上まれに見る最高指揮官であったことは記憶されていいし、いつの日か再評価されてしかるべきだと思うのだ(※10)。



(※1)
ちなみに、日本の右翼は、民主党が親中で、ならば一方の共和党が反中の同志でいてくれようと、そんな動機でトランプを応援していたようだが、実は伝統的一般的傾向としては、民主党政権のほうが、「他国の人権問題を憂えて『民主主義の輸出』をしたがる」というお節介体質から、中国に対して声高にあげつらう傾向が強い。
さらに余談の余談として。上記の通り、民主党政権はその「お節介体質」ゆえに、アメリカ企業のための「売り込み」に官民一体で協力する、みたいな日本の財界にとっては迷惑な性癖もあり、それゆえ、日本の政財界は、押しつけがましい民主党政権よりレッセフェールな共和党政権のほうを歓迎する傾向にある。理念的なことではなしに。


(※2)
「右翼っぽい」というだけで、トランプを安倍晋三に似ていると捉える人もいたかもしれないが、あまり適切ではない。安倍は、「バカな世襲政治家」という共通点から、トランプよりむしろジョージ・W・ブッシュに近い。そして、トランプは「品性下劣な政界アウトサイダーのレイシスト」という共通点で、安倍より橋下徹に近い。
そう考えると、トランプがブッシュ親子のような保守本流ではなく、異端だったのだということも理解しやすいか。何しろ、副大統領も上院議員も下院議員も州知事も経験せず、職業軍人だったこともない大統領というのは、200年以上に及ぶアメリカ大統領史上、トランプが唯一のはずである。


(※3)
アメリカ大統領選の、「州ごとの選挙人総取りを競う間接選挙」という陣取り合戦的なややこしいシステムについては、選挙速報報道で日本でもおなじみになったが、「普通の選挙ルールだったら勝っていたはずの人が負けて、普通の選挙ルールだったら負けていたはずの人が勝っちゃう」という奇っ怪な現象が起こるのが特徴である。
実際の選挙人方式の本選挙だと、ビル・クリントン以降の、1992年から2016年までの大統領選は民主党4勝、共和党3勝だが、もし普通のルールだったらと仮定してみると、何と民主党6勝、共和党1勝となるのだ。まあ、そういう意味でマイケル・ムーアが憤慨するのもわかるし、現に理不尽な負け方をしたアル・ゴアやヒラリー・クリントンにとっては終生納得はいくまい。
この、一般投票の得票数と獲得した選挙人の数のねじれというのは、歴史をひもとくと、19世紀にも例のあったことだが、なぜかその時も必ず得するのが共和党、損するのが民主党だったというのがおもしろい。
ということは、民主党側から見れば、僅差ではダメで、大差をつけないと本当には勝てないということになるし、共和党から見れば55対45なら勝てるのは当然として、45対55でも実は勝てるハンデ戦ということになる。次の注で触れる有権者登録制度の運用とともに、こういう一種のアファーマティブアクション的な下駄によってアメリカの二大政党制は維持されている(そうしないと民主党だけが勝ち続けて、そのうちヒスパニックばかりが大統領になってしまう?)ということも、ふまえておいて損はなかろう。
なお、余談の余談になるが、オリンピックイヤーの11月に州ごとの選挙人選出という方式で選ばれるアメリカの大統領選挙というシステム、それを含めたアメリカ中央政治の基本システムは、18世紀後半の建国以来、全く変わっていない。日本で言うなら、田沼意次や松平定信、平賀源内や本居宣長の生きていた時代から全く変わっていないのだ。
アメリカ合衆国といえば、「新しい国」というイメージがあるが、政体の連続性という視点でみると、日本よりはるかに「古い」国である。中国より韓国よりロシアよりはるかに「古い」国である。フランスよりドイツよりはるかに「古い」国である。意外と見落としがちな部分であるが、本当にそうなのである(これは岩波新書のアメリカ史の本からのイタダキ)。
改めて考えると、ジョージ・ワシントンという人は、やっぱり偉大だったんだね。当時の常識からすれば、国と言ったらイコール君主国なのだから、周りもみんなワシントン王朝ができるのかとばっかり思ってたら、選挙で選ぶ大統領という、当時ほとんど誰も知らない制度を創始(だから、「アメリカ独立『革命』」と呼ばれる)。しかも、スターリンや蒋介石のように「死ぬまで権力を手放さない」ではなく、潔く2期8年で引退して、院政も敷かず、もって後世の前例となし、もちろん北朝鮮やシリアのように「共和国のはずなのに世襲国家」などというアホなことも一切なく・・・と、その先見の明と無私の潔さには本当に頭が下がる。


(※4)
ちなみに、アメリカの場合、本音と建て前の使い分けというか、日本みたいに18歳になれば誰でも自動的に投票用紙が自宅に送られてくるので選挙に行きたきゃ行ける、ではなくて、投票者登録みたいなのを自分でしないといけないわけね。
で、この登録は、白人は簡単に受け付けてもらえるけど、黒人や移民には登録まで屋外で何時間も行列させたり、面倒な手続きを課したりして、「もういいや、めんどくさいからやめた!」と仕向けるようにできているんだそうな。
あらゆる「チート」な手段を使ってでも有色人種を投票に行かせまいとする、先進国とは思えないようなあさましい現実が横行するアメリカと、制度上は思想信条にも階級にも関係なく誰でも投票に行けるけど、実際は誰も選挙に行かないから、ぶっちゃけたとえ内閣支持率1%でもたぶん政権交代は起こらない、だから与党は実は何の心配もしていない、という日本と、民主主義国としてどっちがまともなのか、わからないな。


(※5)
それにしても、その「いずれ真実が明らかになり、トランプが勝利する」の「いずれ」ってのは、いったいいつのことなのかね。
11月の選挙直後には、「もうまもなく正義の司直判断が下される」で、12月半ばの選挙人投票の時期には、「選挙人投票のときにひっくり返るのだ」で、たぶん、今は「1月20日の就任式までには真実が明らかになりバイデンは逮捕されるのだ」で、そしたら、就任式以降はどう言うつもりなのかな(苦笑)?


(※6)
そもそも―今さら当たり前すぎるぐらい当たり前のことだが―外交は、アメリカ大統領の仕事の一部でしかない。
FDRもトルーマンもJFKもLBJもニクソンもクリントンも、本国での歴史的評価は、まずは景気や雇用、社会政策等の内政面での評価がありきで、その次に戦争を含めた外交政策の評価という順番になろう(現にわれわれ日本人が日本の歴代首相をそう評価しているように)。
当然のことであるにもかかわらず、日本人はここのところを意外と見落としている。
とかくわれわれは、FDR=パールハーバー、トルーマン=原爆、LBJ=ベトナム、ニクソン=電撃訪中、と、外交・戦争の面ばかりを見て評価したがり、ともすれば、彼らに国内向けの仕事があることを意識すらしなかったりする。
そして、そんな彼らの内政面の業績をちゃんと視野に入れなければ、なぜ日本の歴史修正主義者にとっての「永遠の悪者」FDRの評価が米国内で高いのか、なぜ60年代の日本の反戦全共闘世代にとって評判が悪かったLBJの評価が米国内で高いのか、わからないだろう。


(※7)
誠実とは言いがたいニクソンやレーガンであっても、品行方正とは言いがたいビル・クリントンであっても、理知的とは言いがたいブッシュ・ジュニアであっても、紳士的とは言いがたいリンドン・ジョンソンであっても、トランプのように前の大統領に対して、「アメリカ生まれではない。大統領の資格がなかったのだ」などと、デッチアゲの言いがかりをつけたりはもちろん一度もせず、ちゃんと前任の国家元首に対する最低限の礼節は守っていたはずだ。


(※8)
ただし、バイデン氏が未曽有の得票数で圧勝したからと言って、大統領として今後ずっと安泰なわけでは決してなかろうというのは、誰でも簡単に予測できてしまうところである。
周知の通り、バイデン氏は自身が政治家として積極的に支持されたというより、「とにかくトランプじゃなければ誰でもいいんだから!」という良識派の総出の投票で大統領になったという、ある意味でタイミングに恵まれたラッキーな当選者なのだから。
それゆえ、4年後に、トランプかあるいはそのポジションに近い誰かに再びやられる可能性は十分にあるだろう。積極的支持でない勝利がいかに脆いかは、われわれ日本人も国政・地方政治で幾度も味わいつくしているはずである。だから、アメリカの良識派市民の皆さんもくれぐれも気をつけないと本当に危ういで!


(※9)
いや、しているのかもしれないが。マスコミに大きく取り上げてもらえてないだけで。


(※10)
なお、過去におけるアメリカ大統領のこのような稀有な英断としては、1956年に起こったスエズ動乱(第二次中東戦争)に、あえて介入しなかった例がある。
時の大統領はノルマンディー上陸作戦で有名な元陸軍元帥のアイゼンハワー。やはり戦争の何たるかを熟知する軍人あがりだからこそ、安易な軍事介入を避けるという冷静な判断ができたのだろうか(小ブッシュに爪の垢を煎じて飲ませたかった!)。この時、他ならぬアメリカ大統領が「侵略者」・「ならず者国家」たるイスラエルに対し、毅然とした、適切な対応をしたという事実は、後世の歴史を知る者には涙が出るほど感動的な、今では信じられないような話である。
アイゼンハワーといえば、Dデイの英雄として語り継がれる一方、大統領としては、FDR、トルーマン、ケネディ、LBJ、ニクソンらと比較して、「何もしなかった人」だと思われがちだが、スエズにて安易な武力行使をせず、冷戦時代にあっても軍事費増強をあまりせず、むしろ例の退任演説時には軍産複合体の肥大化に警鐘を鳴らした、ものすごくまっとうで、ものすごく良識的な大統領だったとして、もっともっと再評価されてもいいのではないか。
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