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長島充-工房通信-THE STUDIO DIARY OF Mitsuru NAGASHIMA

画家・版画家、長島充のブログです。日々の創作活動や工房周辺でのできごとなどを中心に更新していきます。

150.ビュランを砥ぐ。

2014-07-04 20:43:30 | 版画

昨年の後半から版画作品の制作を続けている。年末の東京での個展をスタートラインに来年にかけて、地方都市の企画画廊での個展が続く予定となっている。自ら『個展キャラバン』と称している。ブログにアップしようと思うのだが、新作の下絵ができては版を彫り、紙に摺る、その繰り返しなので記事としては単調なものとなってしまう。それから作品は個展会場でリアルで観てもらいたいので、できるだけデジタル画像は載せないようにしている。なので今回は版画の道具の話題である。

版画作品のうち、小品に関して最近は木口木版画を中心に制作している。木口木版画は18世紀のイギリスで生まれた版画技法だが、版を彫る彫刻刀に『ビュラン・Burin』と呼ばれる一般にはあまりなじみの薄い道具を使用する。日本の木版画用の彫刻刀とはデザインが全く異なり、むしろ金工で使用する鏨(たがね)に近い形をしている。それもそのはずこのビュラン、もともとヨーロッパで金銀細工や銅版画の彫刻に使っていたものなのだ。刃先はとても細かく繊細、そして鋭利である。このビュランの砥ぎがなかなか難しい。随分失敗もしてきた。うまく砥ぐには長い間の修練が必要だ。

僕が学生時代、銅版画を習ったH先生は常日頃、学生に「版画というものは半分が画家の仕事で、残りの半分は職人の仕事です」と繰り返し言っていた。このビュランの砥ぎの作業をなどをしていると、この言葉が脳裏に浮かんでくる。まさに職人技そのものである。フランスで1970年代に出版され和訳されたビュランの技法書にも「ビュリニスト(ビュラン作家)は制作に忍耐を要し、その作業は労働であり職人技を必要とする」という意味のことが書かれている。

梅雨の最中、ひさびさにまとめてビュランを砥いだ。長年使い込んだオイルストーンに椿油を塗り、ゆっくりと集中して砥いでいく。いろいろな補助工具も使ってみたが、やはり最も信用がおけるのは、経験と椿油がしみこんだ自分の指先の間隔である。さあ、砥いだビュランも勢揃いしたことだし、新作の彫りに向かうことにしよう。画像はトップがオイルストーンでビュランを砥いでいるところ。下が左からビュランを握る左手、砥ぎの固定用補助工具、道具箱の中の各種ビュラン。

 

      

 

 


136.木口木版画のオーダー制作。

2014-03-12 19:52:06 | 版画

ホーム・ページを開設して8年ほど経った。ときどき思ってもみない仕事が転がり込むことがある。たとえば「八咫烏(ヤタガラス)をモチーフにした版画を女子サッカーの「なでしこジャパン」の番組で使用したい」とか、「ギリシャ神話の女神、アフロディーテを描いた絵画作品を店舗のイメージキャラクターとして使わせてもらえないか」など、開設する以前には想像もしなかった内容のオーダーである。

今回、お引き受けしたのは、広告代理店を通した東京都の観光PRの仕事。メールでの依頼内容は以下のとおり。「ホームページを見せていただきました。伊豆諸島の観光PRの印刷物に使用したいのですが、島の固有生物をモチーフとした木口木版画を1点制作していただけないでしょうか」というもの。はっきりとクレジットを出していただけるものは、ほとんどの場合お引き受けしているので、「前向きに考えます」というお返事をして、広告代理店A社のTさんに工房まで打ち合わせに来ていただいた。お話しを進める中で、僕の作品の中で木口木版画の作品に興味を持ったということ、それから作品の中にいろいろな生物が登場することなどで依頼したとのこと。過疎の島の観光資源を広く宣伝、紹介する印刷物に使用したいと思ったようだ。

Tさんのイメージでは「小さな木口木版画の版面に可能な限り、島の固有生物を彫り込んで一つの○○コスモスと呼べるような小宇宙画面を構成してほしい」という内容だった。…なかなか難しい内容である。「まず、ラフスケッチを一度送ってください。それを役場の担当者に見せて承認を得てからの版画制作となります」制作の資料として固有生物のたくさん掲載されたパンフレットや図鑑類を貸していただいた。

しばらくの間、資料とにらめっこをしつつイメージを膨らませるアイディアスケッチを描き、その中から形になりそうなものを実際に彫る版木の輪郭線をスケッチブックに落とし、その中に下絵を鉛筆で描き直してから画像添付メールでTさんに送った。一週間ほど経ってから、この下絵にTさんが修正ポイントを赤ペンで書き込んだコピーが送信されて来た。これをまた修正し描き直したものを役場担当者に提出。約2週間後に承認が出てから版画制作となった。今回、版木として選んだのはタイ産のツゲの木。掌ほどの小さな版木だが年輪がつまっていて硬く重たい。あとはビュランという鏨に似た鋭い彫刻刀で、彫っては試し摺り、彫っては試し摺りの繰り返しとなる。今回難しいのは木口という小さな画面に対して海鳥やイルカ、ランの花や爬虫類など、モチーフがかなり多いことである。このたくさんのモチーフをいかにバラバラにならず一つの画面に構成していくか。結局、6回ほど試し摺りをとり、完成となった。約束の納期ギリギリだったが、Tさんに送ることができた。はたしてイメージしたような「小宇宙」となっただろうか。

翌日、電話で返事が来た。実際に摺られた版画を手に取って感動したとのこと。想像以上の内容に満足していただけたようだ。発注者に喜んでいただけるのが何より。印刷できれいに出てくれると良いのだが。画像はトップが完成した版木(絵柄が解り易いように彫った線にベビーパウダーを詰めている)。下が赤ペンで修正の入った第一回目のラフスケッチ、島の観光パンフレットから複写したページ2点。紙に摺った木口木版画は個展会場に観に来てください。

 

      

 

 


128. 新年の彫り初め(ほりぞめ)。

2014-01-30 17:26:19 | 版画

平成26年、絵画作品の描き初め(かきぞめ)が水彩画なら、版画の彫り初め(ほりぞめ)は昨年同様、木口木版画となった。昨年末より、いくつかの版画のオーダー作品を制作していて年が明けてからも、それらを継続制作している。

以前にもブログに書いたが、僕の場合、現在版画作品はイメージサイズによって技法を変えている。公募展などの大きな会場に出品するものは板目木版画、中間の大きさは銅版画、小作品、ミニアチュールは木口木版画と意識的に使い分けているのだ。版画家によっていろんな考えがあると思うが、僕自身はそもそも版画技法というものは潜在的にイメージサイズを持っていると思っている。今回、受けた仕事のうち蔵書票が1点含まれる。西洋では蔵書票を木口木版画で彫ることは、ごく一般的なことである。それは、ビュランと呼ばれる細い彫刻刀で彫り上げるこの技法の持つ緻密な線表現が蔵書票のイメージサイズに合っているのだろう。

コレクターからの希望で「モチーフは中国の伝説に登場する馬の幻獣でお願いしたい」と言うことだった。いろいろ迷った挙句「一角獣」に決定した。『一角獣』のイメージはシルクロード文化圏に広く分布している。どうやら大元となるのはオリエント地域のようである。これが西へヨーロッパまで伝わると『ユニコーン』となり、東に中国まで伝わると『ジ(漢字変換ができない)』という一角獣となる。その姿は犀のようなもの、獅子の体を持つもの、有翼のものなど変化に富んでいて、古より多くの図像が残されている。

この2週間ほど、朝から夕方まで集中力を絶やさないように彫版の作業を進めているのだが、ルーペを使った細かい彫りを強いられるので目の疲れからくるのだろう、首や肩をはじめ上半身がアチコチ痛い。五十肩も加わっているようだ。今の所、良いペースで作業が進んでいるので、来月末まで目や肩を労わりながら制作を続けようと思う。画像はトップが木口木版画の蔵書票を彫る手、下が左から一角獣『ジ』の複写図像、各種版木と使用中のビュラン(彫刻刀)。