My Life After MIT Sloan

組織と個人のグローバル化から、イノベーション、起業家育成、技術経営まで。

小学校から大学教育まで英語で学習できる授業動画サイト Khan Academy

2011-12-11 13:21:46 | 6. 英語論・英語学習

今日は米国で最近話題のオンラインの教育動画サイト Khan Academy をご紹介します。留学が出来ない環境の人でも、無料で、英語で小学校の算数から大学教育レベルのファイナンス、化学、生物、歴史、美術、GMAT対策まで、ありとあらゆる分野の教育を受けることが出来る優れたサイトである。

こんなサイトが、留学したくても家庭の事情で出来なかった高校生や大学生のときにあったら良かったのに、と本当に思った。もちろん留学で得られるのは英語で勉強することだけではなく、実際に多国籍の人々と触れ合って文化の違いを学び、そこでリーダーシップをとったり何かを成し遂げる大変さを学ぶこともあるが、近づくことは出来る。しかも無料で。これからグローバルに働こう、なんて思ってる高校生は、数学、化学、生物、世界史など世界共通の教科については、日本語に加えて英語でも、こういうサイトを補助教材として使って勉強するのが良いと思う。私は大学4年生で初めて海外に出たときから、それまで自分が習ってきたことが日本語であるために、全て理解していても通じず、苦労したことか。今の私が高校生に戻れるなら、このサイトで勉強したと思う。

英語で教育を受けたいと思っている人、または留学を目指している人もその対策に非常に使えるサイトだと思う。ファイナンスや経済学だけなら、MBA1年目で習う内容すら、全てカバーされている。TOEFLやTOEICのリスニングで扱うような学術的内容が多いから、そのままリスニング対策にも使えそうだ。

Khan Academyには、オンラインのドリルや学習状況を把握するためのソフトウェアなどがあり、実際の学校教育で補助教材として使うことを目的とした、サポートツールもいろいろある。高校や大学における授業でこれらを補助教材として活用したい、教育者の皆様にも非常にお薦めだ。

まずはこちらをご覧ください。最近は日本でも話題のTEDにて、Khan Adademy主催者のSalmon Khanが講演した映像で、このサイトの概要を解説している。

 

 

日本語字幕がついているTEDの映像はこちら→サルマン・カーン「ビデオによる教育の再発明」

バングラデッシュからの移民でシングルマザーの母を持ち、MIT、ハーバードMBAを卒業したKhan氏。ボストンのヘッジファンドでアナリストをしていたときに、従兄弟たちに家庭教師をすることになり、その補助教材として作った動画をYoutubeにアップし始めたのがKhan Academyの出発点だという。いまや米国では36もの学校が、この教材を公式に授業に取り入れて使っている。米国中が注目する教育NPOであり、GoogleやBill Gates財団などから合計1650万ドル(約13億円)もの寄付を受けている。

Online Learning, Personalized - New York Times (2011/12/4)

黒い画面に、Khan氏がいろんな色のペンを使って、授業をする。英語は比較的聞き取りやすく、説明が明快で非常に分かりやすい。もともとKhan氏が家庭教師の補助教材として始めただけあって、「優しいお兄ちゃんが教えてくれてる」感じがまた良い。

Khan氏のバックグラウンドから、数学、化学、生物、物理、統計学、コンピュータサイエンスなどの理系分野、ファイナンス、経済学などが非常に充実している。加えて、SAT(米国のセンター試験的なもの)やGMAT(MBA受験者必須)の対策などもある。最近は、外部の専門家を雇って、美術史などの新たな分野を次々に増やしているようだ。

とりあえず、私が見ていていくつかお勧めの動画をご紹介。どの授業も面白くてお薦めなので、実際に自分でサイトを訪れて選んでほしい

Khan Academyのサイト: http://www.khanacademy.org/
Youtubeの専用サイト: http://www.youtube.com/user/khanacademy

追記:Khan Academyのホームページ上の動画では字幕をつけることが出来ます。動画の左下でSubtilteを選びます。ものによっては日本語字幕もあります。

Finance (ファイナンス理論)

Introduction to Present Value (現在価値入門)

ファイナンスで最初にやる概念である「現在価値」の解説。MBAのファイナンスで最初の日にやる授業と内容が同じだ。今日100ドルもらうのと、1年後に110ドルもらうのと、どっちがいい?というファイナンスの根本的な問いから解説が始まる。もしドルが不安定な通貨で、来年には価値を失ってしまうようなものなら、絶対に今日100ドルもらうほうが得だろう、とか、安定して年金が入る生活をしていて投資は全く興味ないし、という人は今日100ドルもらっても使い道がなく、1年後に110ドルもらうほうが得だ、と思うだろう。このように、その人が感じるリスクによって、現在価値というものは違ってしまうのだが、それを分かりやすく英語で解説してくれている

このIntroduction to Present Valueをパート4まで見ると、Discounted Cash Flow法という、企業価値を計算するときに使われる一般的な手法まで理解できるようになっている。

追記: 英語字幕のあるバージョンはこちら。動画左下でSubtitleを選べます。→http://www.khanacademy.org/video/introduction-to-present-value?playlist=Finance

Renting vs. Buying a Home (家を借りるのと買うのはどちらが得か)

世の中には、ローンを組んで家を買うほうが得だ、という人が多い。しかし、ファイナンス理論をやったことがある人は常にこういう。
「どんな場合でも、家は買うより借りるほうが得である」。
何故、借りるほうが得なのか、をファイナンスのリスクの考え方を活用しつつ分かりやすく解説する10分間のビデオ。

まあ、実際には家を買うのは、持ち家を持って安心したいとか、所有欲とか、そういうのにDriveされるわけで、ファイナンスの理論だけじゃ常に語れないんだけどね。

追記: 英語字幕のあるバージョンはこちら。動画左下でSubtitleを選べます。→http://www.khanacademy.org/video/renting-vs--buying-a-home?playlist=Finance

 

Current Economics (現代経済学)

Economics of Cupcake Factory (カップケーキ工場の経済学)

ミクロ経済学の基本的な概念を、カップケーキ工場のケースを使って理解するもの。3回コース。MBAのミクロ経済学の授業もこのくらいのレベルから始まる。もちろんMBAなどでは、授業中に学生が生の面白い事例を紹介したりして、それらについて考えるから面白くなるのであって、全然違うけれども、そこに至るまでのミクロ経済学の基礎を勉強するなら、この教材は最適だと思う。

追記: 英語字幕バージョンはこちら。動画左下でSubtitleを選べます。→http://www.khanacademy.org/video/economics-of-a-cupcake-factory?playlist=Current+Economics

Inflation and Deflation 3: Obama Stimulus Plan (インフレとデフレ3: オバマの経済高揚策)

2009年にオバマ大統領が就任した際に行われた、Stimulus Planはどのような効果をもたらすのかをマクロ経済学を活用して解説している

追記: 英語字幕バージョンはこちら。動画左下でSubtitleを選べます。→http://www.khanacademy.org/video/inflation---deflation-3--obama-stimulus-plan?playlist=Current+Economics

 

Venture Capital and Capital Market(ベンチャーキャピタルと資本市場)

Raising Money for Start-up(スタートアップのための資金調達)

こんなの、MBAでも履修しなければやらないだろう。米国でベンチャーをやりたいと思っている人たちのために、資金調達の仕方の基本を解説する。このシリーズには、IPOの仕方、ベンチャーキャピタルの投資の考え方、そして倒産の仕方まで解説がある。企業に興味がある人にはお薦め。

http://www.khanacademy.org/video/raising-money-for-a-startup?playlist=Venture+Capital+and+Capital+Markets

 

Biology (生物)

Parts of a Cell (細胞の組織)

たしか、私は高校の生物の最初の授業で、細胞の組織の名前をやったのを覚えている。教科書に、細胞の拡大図が載っていて、ゴルジ体とか、リボソームとか、何をやっているんだか良くわからない組織の名前を覚えさせられたものだ。

このビデオでは、細胞膜(Cellular Membrane)から始まり、細胞膜の中にDNAが出来て、その周りに核(Nucleus)が出来て・・・と生物の進化に合わせて説明してくれる。そして、DNAの周りに核があるのは真核生物(Eukariyotes)で、ないのは原核生物(Prokariyotes)だよ、と教えてくれる。ゴルジ体やリボソームなんかが、細胞の中でどんな役割を果たしてるのかも説明してくれる。こんな授業、高校一年のときに受けたかった。米国だと、大学1,2年レベル。約20分間の授業。

追記: 英語字幕が選べるバージョン。左下でSubtitleを選択→http://www.khanacademy.org/video/parts-of-a-cell?playlist=Biology

DNA

DNAの解説。DNAの化学的性質、どうやってたんぱく質に転写されるか、たんぱく質が作られることで遺伝子が発現することなどを約30分の授業でカバーしてしまう。米国でも日本でも大学3年くらいのレベルだと思われる。
これ見てると、日本語でチミン、シトシンなどと習ってたDNAの塩基が、米語ではダイミン、サイドジン、などと発音するのが正しいんだと分かり、ちょっとショック。

追記: 英語字幕が選べるバージョン。左下でSubtitleを選択→http://www.khanacademy.org/video/dna?playlist=Biology

 

Chemistry (化学)

Introduction to the Atom (原子入門)

化学の授業の最初にやる、原子とは何か、という話。そもそも原子とはどういうもので、どのような仕組みになっていて、どんな種類の原子があるのかを解説する授業。日本なら高校1年レベル、米国なら大学1年レベルでもやる。

追記: 英語字幕が選べるバージョン。左下でSubtitleを選択。何故か韓国語、中国語があるのに、日本語がない!→http://www.khanacademy.org/video/introduction-to-the-atom?playlist=Chemistry

 

Cosmology and Astronomy (宇宙論)

Big Bang Introduction (ビッグバン理論入門)

宇宙がひとつの特異点が不安定になり、爆発することで始まったという、ビッグバン理論の解説。数学出身のKhan氏だけあって、解説がやたら数学よりだ。Newtonみたいな科学雑誌のビジュアルから、ビッグバン理論に入った私から見ると、ああそういう解説の仕方もあるんだとちょっと感心したので紹介。

追記: 英語字幕が選べるバージョン。左下でSubtitleを選択。→ http://www.khanacademy.org/video/big-bang-introduction?playlist=Cosmology+and+Astronomy

Hubble Image of Galaxy(銀河のハッブル望遠鏡像)

おそらく、Khan氏がNASAのハッブル望遠鏡の像をみて、相当感動して作ったんじゃないかと思われる動画。写真の細かいところを拡大しても、たくさん銀河系があり、いったいこの宇宙にはどのくらい大量の銀河系が存在するんだろうと気が遠くなる。

追記: 英語字幕が選べるバージョン。左下でSubtitleを選択→http://www.khanacademy.org/video/hubble-image-of-galaxies?playlist=Cosmology+and+Astronomy

 

History (歴史)

US History Overview 1: Jamestown and Civil War(アメリカ史1:ジェームズタウンから南北戦争)

私は歴史が好きで、高校では理系なのに世界史も勉強していたほどだったが、海外に行くようになって、外人と歴史の話をしたくても、単語が分からないから話せない、というつらい思いをたくさんしてきた。前にも書いたが、エカテリーナ女帝とかエンリケ王子とかが普通に通じなくて悲しい思いをしたこともある。だから、米国に留学したときから、何とか歴史の授業を履修しようとしていて、結局いい授業がなくて出来なかったのだが、こういう教材があれば、別に授業を受ける必要もなさそうだ。非常に面白い。

追記: 英語字幕が選べるバージョン。左下でSubtitleを選択→http://www.khanacademy.org/video/us-history-overview-1--jamestown-to-the-civil-war?playlist=History

 

Khan Academyのビデオ教材は、2011年12月現在で2,700本もある。だから実際にサイトを訪れて、自分が興味のある授業を選んで勉強するのが非常に良いと思う。どなたかもTwitterでつぶやいてくださったが、あくまでも英語は、何か新しいことを勉強するための手段に過ぎない。手段として英語を活用しているうちに、本当に英語力というものがついてくるようになるものだと思う。


英語力のためにフォローしたい、ビジネス英語ニュースTwitterアカウント8選

2011-12-03 21:26:25 | 6. 英語論・英語学習

最近、仕事で英語のドキュメントを書くことが増え、英語力の落ちを痛感しているLilacです。2年間米国留学して、毎日あれだけの英語にさらされていても、やはり20代以降に覚えた言葉は、読んでいないと単語や表現をどんどん忘れるし、ワードチョイスの正しい感覚も薄れる。しかし忙しいビジネスマンだと、なかなか英語の文章を意識的に読む時間が取れないもの。そこで、最近は英語ニュースをTwitterでフォローし、仕事の合間などに面白そうなのを拾って読む、面白かったら簡単な日本語をつけてRTする、というのを開始した。今まで英字新聞を購読、iPadでエコノミスト購読、などいろいろやってたけど、Twitterでフォローして読むほうが断然面白くてはまっており、順調に英語ニュースを読む時間を取れているところ。おすすめです。

何故Twitterの方がはまるのか、というと、複数ソースから読みたいものを選んで読めるのが一番のメリットだと思う。英字新聞を購読したり、ネットのアプリでも、読めるのはその新聞の情報だけ。Twitterで複数をフォローしていれば、全体像も把握しつつ、いろいろなニュースソースから本当に読みたい記事を読める。それからオンラインのニュースサイトやiPad・iPhoneのアプリって、自分から開こうと思わないといちいち開かない。でもTwitterだと、PCでも携帯でもどこでもTwitterを開けばニュースが流れてくるので、自然と読むようになるしね。

というわけで、はがれかけている英語力を強化したい、と思ってる人のために、フォローをお勧めする英語ニュースアカウント8選。
私が経済・ビジネス系が好きなので、そちらに偏りがちだけど、参考にしてください。

米国系ビジネス紙

1. New York Times (@nytimes)

いわずと知れた米国の総合紙、New York TimesのTwitterアカウント。時差に関係なく一日中Tweetが流れてくる。一時間に2-5本のTweetで一日のTweet数は50-60。内容は米国の政治、経済、社会ニュースが満遍なく。nyti.ms/で始まる短縮リンクをクリックすると記事へ。

NYTimesのお勧めなのは、分からない単語を選択すると出てくる?マークをクリックすると、英英辞書のサイトをポップアップしてくれること。社会系ニュースだと結構難しい単語が出てくることもあるので、参考になる。

2. Wall Street Journal (@WSJ)

米国の代表的な経済紙、Wall Street JournalのTwitterアカウント。一日のTweet数は少なく、10-20くらい。もうすこしTweetしてくれれば良いのにと思うけれど、会員限定記事はTweetしない方針なのだと思う。内容は米国経済が中心。EconomistやFTと比べて、国際的な記事よりもやたら米国の国内企業の記事が多かったりなので、これ読んでると、米国って結構内向きなんだな、と思う。

余談だが、WSJはiPadで購読でき、その電子新聞の質がすばらしいので、iPad持ってる人は是非一度試してみてください。米国版、欧州版、Asia版の三種類から好きな紙面を選ぶことが出来、記事の内容や配置や優先順位がそれぞれ異なっているのが面白い。

3. USAToday(@USAToday)

かつては米国で最も購読者が多い新聞(それでも200万部とかなんだが)だが、最近はWSJに抜かされて全米2位になってるらしい一般大衆紙のTwitterアカウント。一日のTweet数は20くらいだろうか。日本で言うと読売新聞の位置づけに近いかも。NYTやWSJなどに比べて英単語や英文法が難しくないのだが、米国事情を知ってないと話題についていくのが難しいこともある。NYTやWSJにくらべ、スポーツや芸能の話題も満遍なくカバーしてるので、読む記事を選べるTwitterではもってこいな感じ。

4.Krugman's blog on NY Times (@Krugman_blog)

新聞ではないけれど、ノーベル経済学賞受賞者で、いくつものベストセラーでも知られるKrugmanがNew York Times上で一日に1,2回更新しているブログのTwitterアカウント。一応NYTimesってことで御紹介。最新の経済ネタに対して、彼独特の非常に分かりやすい解説と彼個人の主張を織り交ぜており、非常に面白い。

#米国系では、Time (@Time) もFollowしても良いかもしれない。ただ開くと、広告の方が多い紙面が出てきたりして読みにくく、最初の頃フォローしていたのだが結局やめてしまった。

#WSJよりアクセス数が多いインターネット新聞、Huffingtonpost(@Huffingtonpost)は、本当にTLを英語だらけにしたいとか、米国文化にどっぷりつかりたいという人にはオススメ。ただし、一日のTweet数が200とかなので、その量の多さを覚悟すべき。私はTwitterを始めた頃フォローしてましたが、そのTweet数のあまりの多さにUnfollowしました・・・。記事は非常に良いのですが。

#ちなみにWashington Post (@washingtonpost)は同じく一日のTweet数が100を超える多さで多すぎるし、日によってばらばら、しかもすぐに読まないと記事へのリンクが消えてしまう特性があり、個人的にはあまりお勧めしない。

イギリス系ビジネス紙

5. Financial Times (@FT)

米国がWall Street Journalなら、イギリスはFinancial Timesが経済紙の代表。個人的にはFTのほうが扱う話題がグローバルで広範囲にわたるので面白い。同じ話題に対して、WSJとは異なる立場で書いていることが多く、両方読むと面白い。Tweetは一日に20くらい。会員登録しないと記事が全文読めないことがあるので、会員登録してから読む。

経済学や金融について前提とする基礎知識が、日経新聞よりも多いことも特徴。だから最初は難しいと思うかもしれない。

6. Economist(@TheEconomist)

イギリスの経済週刊誌。国際政治、経済のほかにも科学など広範な話題を取り上げる。売り上げの半分を北米が占めるだけあって、北米視点の記事も多く、また日本も含めてアジア各国も取り上げられることが多い。Tweet数は一日20くらい。

#イギリスだと、通信社のReutersがやはり外せないのでは、と言う声もあるかと思うので一応御紹介しておきます。
Reuters Top News (@reuters)

私も一応購読はしてますが、一日のTweet数は30-60。New York Timesよりは少な目。ただ、配信されるのがトップニュースだけで、かつリアルタイム性がない。これは彼らはそもそも新聞社にニュースを配信する通信社であってB2Bのビジネスが主だから、B2Cで読者に直接Twitterでニュースを配信すると言うことには熱心ではないからじゃないかと勝手に推察。英字系の新聞を上の量だけ読んでれば、必要ないかな、という気がしないでもない。

#あとTwitterによるとBBCが好きな方が多いようですが、政治、国際、経済系のニュースって意味では重要性を感じないため、私もFollowをやめており、今回は紹介しませんでした・・・。イギリス社会の状況を理解するって意味では面白いんだけどね。

その他

7. Der SPIEGEL 英語版 (@SPIEGEL_English)

最近、面白くて個人的に非常にはまってるのがこれ。ドイツを代表する雑誌DER SPIEGELの英語版。一日のTweet数は10くらい。

何が面白いかというと、上に挙げてきたような英字紙は、米国的な視点、またはグローバルな視点でものを語り、経済や国際の問題を取り上げているのに対し、SPIEGELは、ドイツの視点で、ドイツの問題を取り上げているということ。その視点が非常に日本人の感覚と似通ったことがあり、普通の英字誌よりも共感が持て、面白いと思うことが多い。ローカル紙を英語で読んでるわけだから、当然と言えば当然なのだが、新鮮な感じ。

たとえば最近だと、ユーロ崩壊の危険性に対して、ドイツ国民がどう捕らえているかを描いた記事が面白かった。ドイツの多くの一般市民は、ユーロが崩壊しても生活には特に支障がないだろうと考えていて、あまり興味がないのだと言う。現在、メルケル首相の支持率は6割近いのだが、これはメルケルがドイツ主導でのユーロ危機解決に大きなリーダーシップを発揮しているかのように国民には見えるから、という。国際的な見方と国内的な見方はこのように違うのだな、と言うところが面白い。また、ドイツではドイツマルクに戻ったらどうか、と言う議論も行われているが、日本と同じ技術輸出国であるドイツは、ドイツマルク高になると苦しいので、今のユーロの方が良いと思ってる人が経済界には多いなど、国際的な経済紙ではあまり論じられない話題であり、非常に新鮮。

Germans Remain Unflappable During Euro Crisis - Der SPIEGEL

米国的な視点、イギリス的な視点とはまた異なる見方が分かるニュースとして非常にお勧め。本当はフランスの経済紙Les Echos(レゼコー)なども読めれば面白いんだけど、Twitterの英語アカウントはまだない様子。残念。

8. Tech Crunch (@TechCrunch)

これだけビジネス系じゃないんだけど、技術系のニュースで、一個だけ選択せよ、と言われたら、迷わずTech Crunchを選ぶのでノミネート。Webサービス、携帯電話、通信業界、家電など、テクノロジー系のニュースを、企業の買収合併から新製品紹介、ちょっとした小ネタにいたるまでさまざまにカバー。一日のTweet数はNYTimes並みに多く、40-80件。

 

以上。英語ニュースを読む時間を増やし、習慣をつけるためのTwitterアカウント8つ、ご紹介してみました。今回は、新聞や雑誌など「読む」のが中心になるメディアを御紹介したんだけど、これ以外にも、CNNとかアルジャジーラとか、映像系でお勧めしたいところも他にもあります。
これ以外にも、お勧めな英語ニュースTwitterアカウントがあれば、是非コメント欄で教えてください。

私がTwitterでフォローしている英語ニュースは、私のアカウント @Lilaclogのリスト、Lilac-newsを参照。
それから、私が読んだ英字記事でお勧めのものは、私のアカウントから日本語の短い解説付きでRTするので、興味がある方は是非@Lilaclog もフォローしてみてくださいね。

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「グローバルネイティブ」たちがやってくる

2011-11-27 13:44:49 | 1. グローバル化論

前記事「最近の若者は内向きだ」仮説の誤謬-My Life After MIT Sloan では、最近の若者が「内向き」、つまり海外留学や海外赴任などの「お外」に出たがらないとマスコミなどが言っているのに対し、そんなのはデータの読み方からして誤り、という反論をした。それどころか私は「最近の若者の方がずっとグローバル化している」と考えている。もちろん世代内の二極化は進んでいるし、昔の人に比べるとハングリーさは減っているかもしれない。しかし「外向き」側にいる今の若者は、昔の「外向き」の若者に比べたら、圧倒的にグローバル化している。「内向き」側にいる若者だって、昔の「内向き」若者に比べたら、圧倒的な量のグローバルな情報にいつのまにか接し、慣れている。むしろそういう情報に接して、苦労しているからこそ「俺は海外は嫌だ」とか明確に意思表示ができる「内向き」層が出てきているかもしれない。

最近私は、物心ついたときから、グローバルな情報をリアルタイムで共有するのが当たり前で、ネットなどででグローバルに交流ができる環境にある世代、その結果、何の抵抗も感じずに最初から自然と世界に発信したり、活躍出来る人もいる世代を「グローバルネイティブ」と呼ぶことにしている。物心ついたときから、携帯電話やインターネットなどのITに触れて、何の抵抗もなく使える世代を「デジタルネイティブ」と呼ぶのをもじったわけである。グローバルネイティブは、帰国子女である必要はない。小さなころから、情報といえば世界中の話が耳に入ってくるのが当たり前、さらにはYoutubeやTwitterなども活用して、世界中の人々と情報をリアルタイムで共有するのが当たり前、という世代だ(たとえ日本語であっても。Google Translateなども使って)。そしてインターネットなど各種メディアを通じて世界に発信をしたり、SkypeやSNSで世界中の国の人たちと交流できる世代である。

どちらかといえば「内向き」という若者だって、上の世代に比べたら圧倒的な量のグローバルな量に日々接している。やはりインターネットの力は大きい。新聞なんか読まなくても、英語のWebニュースやそれを日本語に訳したものが毎日たくさん流れてくる。高い値段で衛星放送を契約しなくてもYoutubeや、最近流行のTEDなどで海外の映像を見ることも気軽に出来る。語学が分からなくても、誰かがすぐに訳してネットに流してくれたりするだろう。Facebook、TwitterなどグローバルなSNSプラットフォームが日本でメジャーになったことで、どこかの国で面白い画像や情報が出てくれば、数日のうちにグローバルに同じ情報が共有される。iPhoneやアンドロイドのアプリだって、いいものは一日のうちに世界中に浸透する。このように、今の若い世代は、50代、60代以上の人たちには考えられないほど、インターネットを通じて自然とグローバルな情報に接しているのである。

グローバル化してるのはインターネット上だけではない。たとえばスポーツ。今の50代、60代が若いころは日本のスポーツを見るのが普通だったと思うが、今の10代、20代にとっては物心ついたころからスポーツはグローバルだ。野球ならアメリカのメジャーリーガーの名前をたくさん知ってるし、バスケならアメリカNBA、サッカーならイギリスのプレミアリーグやスペインのリーガ・エスパニョーラを見ている若者も多いだろう。その結果、観客が選手のプレーにどう反応するのかを見て文化を知ったり、あるいはNBAでストライキが起こって、バスケのシーズンが始まらないなんてことがあるなど(スト、昨日漸く終わりましたね!)各国の社会問題を知ったりして、自然に各国への理解が深まるわけである。「自分は海外なんか出るつもりはない」と何故か固く決意しちゃってる10代の若者だって、これらの情報にいつのまにか、自然と接しているから、上の世代よりはよっぽどグローバル慣れしているわけである。

そして、グローバルネイティブ世代の「外向き」層は本当にすごい。今の10代、20代の「外向き」層には、帰国子女でもなんでもないのに、最初から世界を目指して発信したり、世界で活躍できる人たちがいるのだ。それこそきっと、何の抵抗も感じず、普通に日本でやるのと同じ感覚で、最初から世界にいけてしまうのだろう。これは私を含めて30代や、それ以上の世代の人たちには少し隔世の感があるのではないだろうか。

と、先日発表された、ワールド・エコノミック・フォーラムの今年の日本人若手リーダー30人のプロファイル(PDF)を見て思ったのだった。選ばれた30人は、全員が30歳以下の若手リーダーだが、全員がグローバルというわけではない。しかし中には、大学で留学した後に最初から海外で起業する人がいたり、海外でNPOを作ってみる大学生がいたり、震災後に最初から海外に向けて発信している高校生がいたりする。それぞれに、30代以上の世代にはあまり見られない、面白いことをやっている人が多くいる。

そう、この若い世代は、外向きになろうと思ったら、もう私たち30代以上の世代とは比較にならないほど、いくらでも外に行けるのだ。インターネットなどのメディアを使って、最初から世界に発信し、SNSやEメールで世界中の人とつながって、世界をまたにかけて活躍できる。ここに選ばれた30人以外にも、今の高校生や大学生で、最初から世界に発信したり、他の国で活躍したり、ということをやっている人はたくさんいるだろう。そういうグローバルが当たり前、という若者がたくさんいるのが、グローバルネイティブ世代なのだ。

上の世代は、現在グローバルに活躍している人でも、そこにいたるまでは苦労して、それなりの壁を越えてきた人が多いのではないか。英語ひとつとっても苦労して身につけ、また文化的違いにも慣れるのに苦労して、何とかグローバルの土台に上がってきた。もっとも、私も含めた今の30代前半の世代が、その上の世代よりグローバルな経験を若いうちにしているのは確かだ。たとえば私なんかも、留学先のMITで、日本人は出来ないと言われたティーチングアシスタントを二期務めたり、米国でインターンをやったりしたが、これらは昔の日本人MBAには珍しいことだったようだ。でも同じ30代前半のMBA生には、インターンのみならず、在米企業にそのまま就職したり、MBA全体の総長に就任したりする人もいた。その他、MBAに限らず海外で仕事をしている同世代もたくさんいる。そんな30代前半の私たちは「いやー、今の若手はほんとグローバルに活躍するね~」と上の世代の先輩方に言われて育ってきた。そこに至るまでの努力だって、それなりに必死でやってきた結果だ。

しかし、今の10代、20代の「外向き」層は、そんなレベルじゃない。もっと若い時期から、もっとグローバルだ。最初から、当たり前にグローバルに行こうと思っているし、実際に行けてしまう。英語力ひとつとっても、今の10代、20代の「外向き」層は、私のような30代の「外向き」層よりはるかに能力が高いと、実際に接していて感じる。中学生、高校生などの最も好奇心旺盛で記憶力がある時期に、インターネットがあり、Youtubeがあり、Skypeで世界中の人と安く英会話できるサービスがある世代は、同じくらいの努力をしている人でもやはり違うのだと感じる。発信力も違う。私が30代になって、漸くBlogやTwitterで発信し始めているようなことを、彼らは20代のうちからやっている。しかも最初から世界に向けて。

あと20年たって、彼らのような日本人のグローバルネイティブたちが、40-50代になり、リーダー的な役割を果たすようになったら、世界における日本の位置は大きく変わるだろう、と思う。日本人から、グローバルなリーダーになる人は今より増えるだろうし、世界各国のリーダーと対等に戦えるようになるだろう。デジタルネイティブにしても、物心ついたときからインターネットや携帯電話に慣れ親しんだ子供たちが、製品やサービスを作る側にたったら、きっと世界が変わるだろう、といわれている。グローバルネイティブもそれと同じである。

これからの日本には、物心ついたときから、情報は世界中で共有され、世界に発信するのが当たり前だと思っているグローバルネイティブが、どんどん生まれてくるだろう。いや、最近の新興国のグローバル化のスピードを見ていたら、もっとグローバルネイティブが生まれてきてくれないと困るのだ。そういうグローバルネイティブたちが、社会の中でリーダー的な役割を果たすようになったら、日本は普通にもっとグローバル化し、世界における日本の位置づけもはるかに良くなるのではないか、と私は淡い期待を抱いている。その世代がリーダーになる間のつなぎとして、30代の私も出来るだけ頑張りたい。


「最近の若者は内向きだ」仮説の誤謬

2011-11-23 14:55:28 | 1. グローバル化論

最近の若者は、海外などに興味が無い「内向き」志向になっていると、ことあるごとに取り上げられるが、これは本当だろうか?もっとも私は学校などで定点観測をしているわけではないので、全体の傾向は分からないが、マスコミなどで「昔より若者が内向き」の根拠としていることには非常に違和感を感じる。二極化はしているが、感覚的にも論理的にも、今の20代、30代のほうが平均的にずっとグローバル化に柔軟に対応しているように思える。

マスコミでよく「昔より若者が内向き」の根拠として挙げられる次の三つ。

-最近の若者は安定就職を目指すから、留学などの冒険をしない
-日本から海外に留学する人が減っている
-最近の若者は、海外赴任をしたがらない

せっかくなので、一つ一つについて、私なりに誤謬を指摘してみようかと思う。

1)「最近の若者は安定就職を目指すから、留学などの冒険をしない」のではなく「企業の採用活動が余りに硬直化しているから、留学できない」

近年は大学生の就職活動が早期化しており、製薬業界やマスコミなど早い業界では大学三年生の10月ころから活動が始まるし、メーカーなどでも1月ころから応募が始まるところも多いらしい。だから「大学三年生など、留学に最も適した時期に留学すると、就職活動の時期に間に合うように帰ってこられないので、留学をしない」という学生が増えている、ということは以前から言われていた。これに対して、就職活動が留学などの機会を奪っているのは問題ということで、2011年の1月には、日本経団連で就職協定(倫理憲章)が見直しされ、4年生/修士2年生の4月1日を学生の選考の開始日と位置づけることになった。

日本経団連:新卒者の採用選考活動のあり方について(2011-01-12)

経団連で、このように学生の現実をよく見た意思決定が行われたのは流石と思う。残念ながらマスコミには、留学より就職活動を優先させる学生を批判したり、簡単に「内向き」と言ってしまう記事が今でも多い。例えば最近では、11月から始まった寺澤芳雄氏の「私の履歴書」では、最初の日にこんな文章があった。

最近、日本の若者は留学よりも就活を選ぶといわれる。というより就活に大変で、「留学どころではない」という。4年前にアメリカの母校ペンシルベニア大学を訪ね、久しぶりに目の輝いた東洋人の学生を多数見かけ、てっきり日本人かと思ったら、7割が中国人、3割が韓国人だった。彼らは間違いなくアメリカのビジネスマンと互角に渡り合うだろう。内向きの日本の若者とこの国の将来がやはり気になる。(2011/11/01 日本経済新聞「私の履歴書」

世界をまたに駆けて活躍し、苦労しながら米国での日本企業の地位を築いてきた寺澤氏から見れば、今の若者は物足りなく感じるのだろう。この感想自体はそんな寺澤氏の率直なものなのだと思う。しかし、今の若者が留学を断念して就職活動を行っているのは、留学より就職を優先しているとか「内向き」だからではなく、単に企業の人材採用が硬直化しているだけではないか。特に大企業と呼ばれる企業ほど、学生が飛び込みで採用してもらえるなんてことはありえない。留学したいと思っても、日本の大企業に就職しようと思ったら、時期を外すのは難しい、と感じる学生の気持ちが私は痛いほど分かる。そしてそれは半分以上正しいと思う。自分にも経験があるからだ。

かなり私事で恐縮だが、以前「私が人生の進路変更をした本当の理由-My Life After MIT Sloan」で書いたように、私は家庭の事情もろもろもあり、博士課程を中退して就職をしている。その際、最初は日本のメーカーへの就職を考えたので、各社の人事課に電話をし、自分の学歴を簡単に紹介した上で、博士課程中退で来年4月から就職をしたいが可能か、を問い合わせた。電話をした企業の多くで「通常の就職活動プロセスに乗らない形では採用しません」「修士卒業から1年経ってからの就職はちょっと難しいです。博士を卒業してください」などとお断りされた。予想はしていたものの、現実を思い知らされたときは結構凹んだものである。学歴の問題とは思えなかったし、電話での話し方が問題とも思えなかった。単純に採用プロセスに乗らない形での採用は、多くの日本の大企業では行わないためであると思われた。

結果として、そういう採用プロセスにこだわらない外資系の企業だけを受けて、その中のひとつに就職したのだった。蓋を開けてみたら、私の東大物理の同期のうち、10名程度が博士を中退して就職等したが、数名が国家公務員試験を受けて役人へ、数名が外資系とベンチャー企業への就職、残りは医学部や法化大学院の再入学だった。

恐らく、私や同期たちのように博士課程まで行ってから就職するなんていう冒険をする方が世間知らずだろう。東大を出ても、博士中退とか企業の採用時期と異なるタイミングで就職活動しようと考えたら、外資やベンチャー、または資格を取るしかないわけだから。今の若者はかつての若者よりも、ずっと世の中の道理が分かっていて、世渡りがうまいのではないか、と思う。それを「内向き」とだけ言い切って切り捨ててしまうのは無理がある。

むしろ硬直化しているのは企業の採用活動の方ではないか。もっとも硬直化された選考活動をうまく乗り切ること自体が、採用基準に合致している企業であれば、今のプロセスを変える必要は全く無い。銀行や製造業の一部など、大組織のなかで、組織力として皆が調和された動きが出来ることを重視する企業もあるだろう。

もし企業がそういう人材ではなく、ちょっと世間知らずでも、リスクを冒して変な生き方をしている学生を採用したいなら、採用コストはかかるかもしれないが、企業で柔軟な採用プロセスも同時に行うのが良いのではないか。学生のほうも安心して留学などの冒険が出来るし、結果として多様な人材を採用できるのではないかと思う。こういう企業が増えると、留学によるリスクは減るので、もう少し多くの学生が留学などの多様な冒険を考えるようになるかもしれない。今後「グローバル人材を採用したい」と考えているのであれば、なおのこと現在の人事の仕組みを変えてでも、柔軟なプロセスがより必要になってくるだろう。

 

ちなみに、実際に私が外資系の企業に入ってみたら、起業していて卒業が数年遅れたとか、留学で遅れたとか、ポスドクをしていた、という経歴で、非常に優秀な人がたくさんいた。日本企業の硬直化した採用プロセスでは、こういう面白い経歴を持つ優秀な人材は取りこぼしているのかもしれないと思った。

2) 「日本から留学生が減っている」は間違え。実は20年で4倍に増えている

米国への留学生はこの10年で4割減った、と言われている。データを見てもそれは事実であり、それだけを以って「留学生が減った」「最近の若者は内向きだ」とする人もいる。これに対して、ちょうど一年前の記事だが、この誤謬を非常に的確に指摘している記事があったので、紹介したい。

リクルートエージェント 「キャリアに関するデータの真相 その1」 (2010/11/18)

要するに、減ったのは米国への留学生だけであり、アジアも含む全世界に留学する学生の数は、20年間で4倍近くまで増えているということだ。これは留学先が米国一辺倒で無くなった結果、米国への留学生が減ったということに過ぎない。一方、経済発展が大きく注目されているアジア各国に留学する学生はうなぎのぼりで増えているのだ。

ちなみに、留学先が米国以外に分散する現象は、ヨーロッパの各国でも起きており、アジアや中南米などの経済発展が注目されているのは、日本においてだけではない。ましてや、世界の経済における米国の地位は年々落ちてきており、米国への留学に興味を持てない人が多くても当然ではないかと思える。

3) 「最近の若者は海外赴任をしたがらない」は、全員ではなく二極化が高まっている可能性

最後に海外赴任に関する意識調査から、最近の若者は海外赴任をしたがらないと言われている点について。データの元は、日本能率協会が毎年4月に行っている新入社員アンケートで海外赴任の希望を聞いているが、以前より海外勤務希望者が10%程度減っているとのこと。

このアンケートのソースが今手元に無いのだが、結果を見ると、「海外勤務をしたくない」と答える人が増えている一方で、「海外勤務を希望する」と回答する人も増えている。これは情報がグローバル化しているため、自分の希望をはっきりと持つようになったということであり、単純に二極化しているに過ぎないのではないか、と思う。

先日、日刊工業新聞で行ったアンケートでは、「若者のほうが年を行っている人より海外赴任を希望している」という調査結果が出ている。

いまどき職場百景 海外で働いてみたいと思いますか?-7割前向き 低い壁(日刊工業新聞(2011/11/01)

記事を読むと、30代以下で海外赴任希望が8割、40代、50代で7割、60代で6割という結果が出ている。記事には回答した理由も掲載されている。30代と若い人たちのほうが、家庭の事情など、自身を日本に縛る理由が少ないということである。そう考えると当然の結果のように思える。

このアンケートは、同じ世代の希望を経年で比較しているわけではないので、正確な世代間比較は難しいが、30代以下で8割が希望しているなら、間違っても「若者は内向き」とはいえないとも思える。

いずれにせよ、海外赴任に関する意識調査は、行う母集団によって、傾向が全く異なっていることが多く、私はひとつのアンケートの結果だけで、若者が内向きか、外向きかを論じるのは難しいと考えている。

 

以上。「最近の若者は内向きだ」と言われているが、非常に違和感を感じていたので、思うところを書いてみた。次の記事でも書こうと思うが、私はむしろ最近の若者のほうが、昔の若者よりもよっぽどグローバルな情報に敏感で、興味も高いのではないかな、と思っている。国が豊かになったので、若干ハングリーさは欠けてきたかもしれないし、二極化も進んでいるだろう。しかし、外向きの人は以前よりずっと外向きになっているし、多少内向きな人でも、昔の世代に比べたら、ずっとグローバル化に対する感度は高く、いざとなったら受容する準備もずっと整っていると感じている。


大人になっても夢を持ってよいということ

2011-11-13 17:58:13 | 8. 文化論&心理学

みなさま、ご無沙汰しております。
今年5月に最後のエントリをを書いて以来、半年間ずっと書いていなかったブログを久しぶりに再開することにしました。久しぶりに開いたら、いつのまにかFacebookやはてなブックマークとも連携できるようになって便利になっていて、ちょっと浦島な気分。

何故ずっと書いていなかったのか、と言われると、単に創作活動をする精神的余裕が無かったのだろうと思う。仕事も忙しかった。でも、今年1月のエントリ「私が人生の進路変更をした理由」で書いたとおり、「書く」という時間は、私にとって最も大切な時間で、精神的にも一番落ち着く時だ。特にブログは、書くことですぐに人とつながれるのが楽しく、やはり自分のホームベースだと感じている。だから少しでも書く方がよいとわかっていたが、ずっと書いてないと、「あ~すごく面白いことを書かなきゃ~」というプレッシャーがあってなかなか書けなかったりする。正直言うと。

でもそうすると、悪循環にはまって本当に書けなくなる。だから今日は、TPPがどうとか、異論反論が出るようなことは書かず、とりあえずさらっとした話題を書いてリハビリしてみようと思う。

さて。

多くの人は、小さいころ「将来はプロ野球選手になる」とか「歌手になる」とか「世界一周旅行をする」など、いろいろな夢を持っていたと思う。でも、大人になってから「私は絶対にXXになる」「XXをする」という夢や希望を常に持って生きている人って、果たしてどのくらいいるのだろうか。

大学生で就職活動をするころから現実的になり、または挫折を経験して、夢は持たなくなってくる。そして社会人になると、仕事や家庭、あるいは恋愛、単純に日常生活で忙しくなって、夢など持つ余裕が無くなってくる。そして、その日常生活を維持しつづけるために、お金を稼ぐために仕事をし、そのための生活をし、老後のためにに貯蓄する。その中では、おいしいものたべたい、とか、楽しいことしたい、といった小さな目標はかなうかもしれないが、本当に自分が人生の中でやりたいことって、後回しになってないだろうか。そのせいで、自分の中に小さな空虚感がないだろうか。

人生は一度しか生きられない。
自分が小さなころから本当にやりたかったことや夢を叶えないで生きるのは余りにもったいない気がする。

一度、自分が本当にやりたいことを一度思い描いてみたらどうだろうか。バカみたいと思うかもしれないけれど、子供のころの大それた夢をもう一度持って、それを目標として明確にし、それを達成するためにやるべきことを少しずつやってみてはどうだろうか。そうすると、毎日の生活が輝いてくるし、目標に向かって歩んでいると思うことで自分の人生が満たされてくる。

例えば「歌手になる」という夢を持っていた人は、その夢を思い出のタンスにしまって老後に取り出すのではもったいない。今から目指すなら、いつまでにどのような歌手になるのか、というのを、具体的に思い描いてみればよいと思う。そしてそれを達成するために、仕事や家庭の合間の時間を少しずつ、本当に歌手になるために使い、積極的に行動してみたらどうだろうか。

週に一度でもスタジオに通ってボイストレーニングをし、毎日少しずつでも発声練習をする。オーディションの情報を探し、一緒にバンドを組んでくれる人を探す。スタジオの先生や周囲の親しい友人には、自分の夢を話す。夢は目標として達成できるものだという思いを共有できる同士を見つける。自分の夢を周囲に言い続けるのは大切で、そうすると人の縁もあって不思議にチャンスが回ってくることがあるのだ。もちろん、誰もが2009年にイギリスの歌番組で突如大成功したイギリスの48歳のSusan Boyleのようにはなれないし、ならなくてよいのだが、自分として現実感のある夢を達成することは出来るのではないか。

あるいは「スペインに移住する」というのが夢であれば、スペイン語を勉強するのはもちろんのこと、スペインのどこに住むのか、どのような仕事が可能そうか、その仕事をやるために必要なスキルはどういうものか、を具体的に考えて、明確な目標を立てる。あるいは今の仕事から、スペインに近づく仕事に就くためにはどうするべきかを考える。そして情報収集や、語学やスキルを得るために日々の時間を使っていけばよいと思う。

夢をかなえるのは、仕事を引退した老後とか、子供が大きくなってから、と後回しにしている人が多いのではないか。もちろん、仕事や家庭で過ごす時間は楽しいし、小さな幸せもある。また、仕事も子供も責任を伴うものだから、自分の夢などは後回しにして、と責任感ある大人なら誰もが思うだろう。

もし、それで今の自分の生活が満たされているなら、無理に夢を持てとは私は思わない。もし、それだけで満たされていないのだとしたら、たった今から、夢を目標に変えて、自分の時間を少しでも使い始めることをはじめても良いのではないか、と私は思っている。

夢なんて、もう無いよ・・、と言う人へ。そんな人は、今の自分がやりたいことをどうでも良いことでもよいから書き出してみたらよいと思う。書いているうちに、少しずつ、自分の夢というのは固まってくるようになる。人間、大きな挫折を経験したり、大切な人をなくすなどの大事件があったりすると、自分の夢や希望なんて無くなってしまうものだ。でもそういうときこそ、逆に自分の小さなころからの夢に近づくチャンスかもしれない。

私が大学一年のときの同級生に、39歳で大学に再入学された方がいた。彼は昔から医者になりたいと言う気持ちはあったが、別の職業を結局選んだという。ところが30代後半になって大きな病気をされて長期入院し、会社を辞めた。そのときに、一度自分の人生は止まってしまったのだから、ここで医者になるという夢を叶えてみようかと思ったのだそうだ。今はもう医者としてのキャリアを歩み始めて、7,8年はたつのではないだろうか。

思い起こせば私もそうだった。
小さいころから「科学者になって、世の中の人々の考え方や生活が変わるような大きなインパクトのある研究をする」という大それた夢を持っていたけれど、夢破れて、かつその夢よりやりたいことを見つけてしまったため、今は別の分野で仕事をしている。でも、小さいころから一貫して思っているのは、私は人々に勇気を与えて、奮い立たせ、人を動かして、世の中に良いインパクトを与えることがしたいということだった。途中で、結婚して子供を産んでという人生を歩む選択肢もあるかもしれない、と考えてみたり、まあ色々と迷いはあった(でも結局やめた)自分の中で色々なやりたいことの優先順位をつけてみると、日本企業のグローバル化をどんどん成し遂げるとか、物書きとしてたくさんの人の心を動かす、という方が自分の小さいころからの夢に近いということに気がついた。だからそれを目標とし、次は35歳までに何を達成しようかと、具体的な目標を設定することにした。こうすることで、どんなに忙しさに忙殺されていても、自分の芯を失わず、わくわくしながら日々をすごすことが出来る。

こうして、小さいころの心のタンスにずっとしまわれていた、「夢」と言う名の洋服に、現在の自分らしいアレンジを入れて「目標」として仕立て直すと、もう一度着始めることが出来る。そうすることで、小さいころからの自分の人生が、一貫したメロディとして突如、流れ出すようになるのだ。

また、描く夢のいくつかは今の自分の仕事や家庭に結び付けて考えても良い。私の場合、日本企業の組織のグローバル化を何件も成し遂げる、という夢は現在の私の仕事の中で達成できることだ。こういう目標があると、仕事そのものに張り合いが出て、とても楽しくなる。

こういうのを一度書き出してみると、結構楽しくなって、いくらでも出てくる。しかしそこで満足してはダメで、XX歳までに達成する、という目標を立てたら、次にその目標を達成するためにすべきことを明確化する。これが日々の目標になり、あとは大きな夢を達成するために、自分の毎日の時間を使っていく。

大人になって、現実を知るにつれ、「夢」など無くなっていくことが多いだろう。そっと心のタンスにしまって、もう着なくなってしまっている人が殆どじゃないだろうか。ステキな服だから、本当は着たいのに、そんな若いときの服、恥ずかしくて着れないと思っているかもしれない。それで老後にそっと取り出して、目立たないように着てみようとか思ってはいないだろうか。タンスにしまってある若いころの「夢」も、現実感を与えて仕立て直すことで、今でも十分に着られるものがたくさんある。恥ずかしがらずに取り出して、現実的に仕立て直してみたら、日々の生活が「ただ生活するだけ」のものではなくなり、張りのある日々をすごせるのではないかと思う。

私は「どんな夢も、今から目指すには遅くない」なんて非現実的なことは言わない。フィールズ賞を取るとか、世界的なサッカー選手になるとか、ファッションモデルになるとか、歳をとってからでは無理な夢もあるだろう。だけど、それらの「夢」も素材はそのままに、仕立て直すことで、今からでも追い求められるものは結構あるのではないだろうか。大人になって「夢を持つ」なんてバカバカしい、なんて思わずに、一度考えてみたらどうだろう。

参考:
人生には「選択と集中」が大事な瞬間がある -My Life After MIT Sloan (2011/03/08)
私が人生の進路変更をした本当の理由-My Life After MIT Sloan (2011/01/08)


「グローバル化」は今、質的に大きく変容している

2011-05-20 23:37:51 | 1. グローバル化論

最近の私は、ずっと日本企業の「グローバル化」にこだわっている。
仕事の合間を縫って、企業組織のグローバル化に関して長編の文章を書いているし、
本業でも、企業を組織的にグローバル化する手助けになるものを主軸に仕事をしている。

どうも私は日本という国が好きで、自分がグローバルな経験をさせていただいても、この国を何とか再生したいと思っているらしい。
そして、その際、長期スパンで日本の経済を立ち上げる方法は、二つしかない、と考えているのだ。

ひとつは、今までに何度も書いてきた。
ベンチャーが立ち上がりやすく、成功しやすい世の中にすることで、次世代の経済成長の柱になる新しい産業を産み、育てていくこと。
(参照:日本にシリコンバレーが必要な理由

もうひとつは、既存の産業において、既存企業をグローバルに拡大し、日本以外の市場、特に新興国をメインに収益を上げられるような組織に変えていくことだ。
(突っ込まれる前に書いておくと、既存企業×新規産業は組織的事由で困難であり、ベンチャー×既存産業は余り成長の糧にはならない。)

MITに留学して、前者の必要性に確信を持ったけど、まだ力不足なので、評論家的なことしかできないな、と思っている。
一方、後者は私がコンサルティングという仕事を通じて出来ることなので、こだわってるというわけ。
(また、こうすることで、グローバル化の理想論と、現実の厳しさの違いが良くわかってくる)

1. グローバル化の質的な変化①-対象地域の変化

さて、読者の皆様には「いまさらグローバル化?」と思う方がいるかもしれない。
「グローバル化」という言葉が良く使われるようになったのは、1990年代の後半。
それ以来、企業はグローバル化を掲げて変化しようとしているからだ。
しかし、今後企業に必要になる「グローバル化」は、かつてより使われてきた「グローバル化」とは、質的に大きく変わってきていると私は思う。

一つ目は対象地域の広がりの変化だ。
「グローバル化」という言葉が流行り始めた1990年代後半は、どの先進国の企業にとっても、
まだ米国やヨーロッパ、日本などの先進国だけが市場として捉えられており、
先進国へ拡大することが「グローバル化」と呼ばれていた。
当時のデータや資料を読むと、ROW(Rest of the World)という言葉が良く出てくる。
市場は、米国、ヨーロッパ、日本、ROW(その他)というくくりでしか見られていなかったのだ。
したがって、それこそ2006年頃まで、家電や自動車などの製造業でも、流通でも、金融でも、
「米国やヨーロッパでのシェアを増やさなければ」という意識で、経営課題が設定されることが多かった。

当時は、中国は「世界の工場」と呼ばれ、安価な労働力を活用した生産拠点としか捉えられておらず、まだ市場として大きな存在感は持っていなかった。
中国以外の新興国はほとんど注目されておらず、BRICという言葉すら存在していなかった。

ところが今後必要になる「グローバル化」は、もはや先進国への進出の拡大ではない。
先進国市場とは質的に異なる未知の市場である、新興国への拡大である。
新興国の経済規模は大きく増加し、安価な労働力の供給源としてだけでなく、市場としての魅力も高まってきている。
2025年には新興国のトップ7カ国のGDPはG7、つまり先進国トップ7カ国のGDPを上回る。
経済規模の伸びに比例して市場は拡大する。
企業は新興国に進出して事業を構築するだけではなく、先進国とは質的に異なるこれらの地域のニーズを取り入れた製品やサービスの開発、設計をする必要が出てきている。

2.グローバル化の質的な変化②-組織のグローバル化

もうひとつの変化は、この地域の広がりの変化に伴って必要になる、組織そのもののグローバル化である。
新興国の存在感が高まるにつれ、日本市場しか知らない日本人、または先進国の人間だけで企業活動を行うことが困難になっている。
研究開発や経営も含む全ての機能で、グローバルな人材を活用する必要が出てきているのだ。
これは、新興国の優秀な人材をどんどん採用して、活用できる組織にすることと、グローバルな視座を持った日本人を育てて、地域的に展開していくことの両方である。

かつての「グローバル化」は、海外の販売拠点を強化してシェアを上げるとか、
生産拠点を海外に移し、現地の労働者に日本的な生産の真髄を教え込むなど、
一部の企業活動のみをグローバル化することを指していた。
ところが今や、販売や生産だけではなく、更に上流の活動である、製品やサービスの設計、研究開発、さらには経営における戦略の策定や組織の設計といった企業活動でも、グローバルな視野を持った人材を自国・他国問わずに活用する必要が出てきているのだ。

これには複数の理由がある。
世界的にニーズの変化が急速になっているため、各国の市場を良く知っており、すばやい意思決定が出来ることが企業にとってより重要になってきていること。
特に新興国という先進国とは質的に異なる市場が拡大し、製品・サービスの開発、設計から販売方法に至るまで異なるものが要求されていること。
新興国が豊かになるにつれ、安く優秀な人材が輩出されるようになり、彼らを活用しないとコスト的に勝てなくなってきていること。
こういった人材を活用し、コスト競争力のある新興国の新興企業が、徐々に製品やサービスの品質を上げ、
新興国市場において大きく先進国企業のシェアを奪い始めていること。
これらの動きを受けて世界の多国籍企業が企業活動や組織のグローバル化しており、この動きを更に加速させていること。
このような理由で、もう日本人だけで日本企業をやっていく、というのが不可能になってきている、ということである。

製造業や流通など、国境なく世界市場を相手にしなくてはならない一部の産業で、
グローバル採用とか、英語社内公用語化が行われるようになったのはこういう背景だ。
しかし、単純に優秀な外国人を採用したり、社内で英語をしゃべったりするだけでは不十分なのは明らかだ。
グローバルな視座を持ち、世界で活躍できる日本人の経営人材を育てる仕組み、
「グローバル採用」した日本人以外の社員が、壁を感じずに活躍し、経営幹部として育っていく仕組み、そういったものをつくっていく必要がある。

じゃあそれをどうやってつくるのか、
長期的には出来そうだが、すぐにでも組織をグローバル化させないと競合に負ける、どうすればよいか、
既存の日本的な組織と両立するにはどうすればよいのか、などの疑問が出るだろう。
それに答えるために、色々書いてます。(どこかで外に出そうと思うのでお待ちください。)

このブログ内の参考記事:
日本でも転職を前提とした就職が当たり前となる時代 (2011/01/29)
日本企業は社内公用語を英語にしないともう世界では生き残れない (2011/06/19)
日本にシリコンバレーが必要な理由 (2010/06/03)
飢えを忘れた日本企業 (2009/04/21)

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補足:「正しい日経新聞の読み方」

2011-05-18 11:09:52 | 7. その他ビジネス・社会

前回の記事「正しい日経新聞の読み方(主に新社会人向け)」に補足。
コメント欄やTwitter、はてななどでいただいたコメントを拝見していて、前の記事だけでは不親切だったな、と思ったので。

1.まずは新聞記事の中で「空」「雨」「傘」を峻別するように読む

ビジネスの経験が長い人ならともかく、今まで「空→雨→傘」的な考え方をしたことが無い人が、いきなり新聞でそれをやるのは難しいのかもしれない、と思った。

まずは新聞記事の中で、一文一文読んで「これは空(事実、ファクト)だ」とか、「この部分は記者による雨(解釈・解説)だな」とか、峻別するようにすること。そうすると、だんだんと記者の解釈に惑わされずに、「空(事実、ファクト)」の部分だけを取り出して読む、ということが出来るようになる。

日経新聞の良いのは、記者が少なくともちゃんと訓練されているので、(インタビューや解説記事を除く)ほとんどの文章の最初の数文は必ず「空」が書かれていることだ。だから峻別が簡単である。もちろん第一文目から「雨(解釈)」が紛れ込んでいることもあり、デスクのチェックが甘いのかな?と感じることもあるが。ただ、これが他紙だと、第一文目から空・雨交じりの文章を提示されるので、どれが「空(ファクト)」なのかを見切るのが結構難しい。日経新聞を薦めるのはそういう理由もある。

また、ここは異論反論が出るかもしれないが、「空」「雨」を峻別することで、記者の人がどのようにして「雨(解釈)」を導き出すのか、がわかるようになる。新社会人の方などは、「空(事実)」を見てどのように「雨(解釈)」を導き出せばよいかわからない、という方も多いだろう。「空」「雨・傘」の峻別が出来れば、解釈を導き出すパターンを理解する出来るようになる。もちろん、「日経ダメ」と批判する人の多くは、この企業行動に関する解釈が間違ってるとか浅い、というところに帰着するだろうから、そこで満足してはいけないのだけど、少なくとも「解釈をする」ということは出来るようになるだろう。

コメントには、私が新聞を読むスピードが速いことに驚かれている方が多かったが、ひとつには私が記事を読んで一瞬で「空」と「雨・傘」の部分を分けて、多くの記事では「空」しか読んでいないからだと思う。ただし、これはそれなりに知っている業界や事象じゃないと難しい。全く知らない事象や業界についての記事を読むときは、私も図表の細かいところまで読むので時間がかかる。

2.新聞は毎日読んで、自分の中に「空」「雨」「傘」のデータベースを作っていく

もうひとつ、私が新聞を読むのが何故速いのかという理由を考えると、毎日「空」を読んで、「傘」と「雨」を考えるということをやっているので、自分の中にある程度のデータベースがあるからだと思う。そうすると、まず新聞の見出しを見ただけで「ああ、あの話ね」とわかり、自分にとって新しい「空(ファクト)」だけを探すために記事を読む。特に新しい情報が無ければ、それ以上は読まないで飛ばす。

このデータベースが出来てくるまでは、新聞を読むのは時間がかかるのは当然だと思う。
私も社会人になって、日経新聞をまともに購読始めたが、最初は通勤時間まるまる1時間を使って新聞を読んでいたと思う。それほど混まない電車だったのが幸いしたと思うが。それが、社会人1年が過ぎる頃には、だんだん様々な記事の背景を理解できるようになって、読む時間が短くなった。、2年目に入る頃から、日経産業新聞も購読するようになって、通勤の電車の中だけで2誌読めるようになってきた。

新しい「空(ファクト)」が出てきた場合は、自分が今まで出していた「雨(解釈)」がどのように変わるかを考えることになる。

3.新聞は複数ソース読む

複数ソース読むと、同じ「空(事実)」に対して、記者によって異なる「雨(解釈)」を提示していることがわかるようになる。異なる解釈を比較すれば、人間おのずと新聞による解釈の深さや広がりの違いがわかるようになるというものだ。

新聞記者は、自分が担当している部分の中でも、得意分野、不得意分野はあるし、それでも満遍なくカバーしなくてはならない。当然ながら得意分野のほうが、鋭い「雨(解釈)」を提示し、現実的で意味のある「傘(実行すべき行動指針)」を示すことが出来るだろう。エレクトロニクス系に詳しい記者が異動してくれば、その記者がより詳しい「空(事実)」と正しい「雨(解釈)」を提示できるので、その新聞はエレクトロニクス系に強い、ということになるだろう。また、新聞社によっては、自動車だけ独立のセクションがあって、記者がたくさん育っているので自動車業界に強いとか、そういうこともある。

このように新聞によって、事実の集め方や、その解釈の仕方に色があるため、複数読んで比較する方が、より正確な「空(事実)」と「雨(解釈)」を得ることができるようになる。

4.とにかく毎日読むこと

大切なことは、とにかく、毎日読み続けることじゃないかと思う。どんなに時間が無いときでも、見出しだけでも必ず目を通す。見出しだけでも自分のなかのデータベースに加えていくことは大切だ。データベースがある人なら、見出しだけでも世の中で何が起こっているかわかるだろう。

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正しい日経新聞の読み方。(特に新社会人へ)

2011-05-15 21:57:47 | 7. その他ビジネス・社会

1. ビジネスマンが日経を毎日読むのは、ピアニストが毎日音階練習をするのと同じ

私は、Twitterなどでたまに日経新聞などのメディアを批判することがある。最近、それが私をFollowしている私より若い人に悪影響を与えているんじゃないかという気がしたので、この記事を書くことにした。というのは、私が日経新聞の記事に関してTwitterで批判を書いたりすると、「だから日経は駄目だ」「日経を読むのは時間の無駄だ」という大量のRetweetが送られてくるのである。

いや、そんなことはないです。ビジネスの世界に身を置くつもりなら、日経やそれに類するものはちゃんと読まなきゃ駄目ですよ。別に私は日経の回し者じゃないので、WSJでもFTでも日刊工業新聞でも良いけれど。

ビジネス界にいる人が新聞を毎日読むのは、言ってみれば、スポーツ選手が筋トレを毎日したり、ピアニストが音階練習を毎日したり、料理人が桂剥きを毎朝したりするのと同じだと思っている。何故なら、ビジネスや経営をやってる人は、世の中で何が起こっているか、最新情報を捉え、それがどのように自分たちのビジネスに影響するか、どうすべきかを毎日考えなくてはならないから。そういう意味で、新聞を読むのは最も手っ取り早く、基礎的な力がつく方法だと思う。

2.意味合いを考えて読む

ただし、ただ記事を読み飛ばすだけではこの力はつかない。
書いてある記事の「意味合い」を常に考えながら読む必要がある。

「意味合いを考えろ」ってどういうことですか?と問われる。よくコンサルティング出身の人が書いてる本に、空→雨→傘 を考えろ、というようなことが書いてあるとおもう。
空雨傘とは、
1) 空を見たら日が翳って雲が出てきている。(空: 事実、誰が見ても明らかなこと)
→ 2) 雨が降るだろうと解釈する (雨: 事実に対する解釈)
→ 3) 傘を持って家を出るという判断をする (傘: 解釈に対して引き起こされる行動)
ということ。
「意味合いを考えろ」とは、1)の空を見たときに、2)の雨や3)の傘を考えろ、ということだ。

新聞に書いてある記事は、記者の見解が混じっていることは良くあるが、この解釈は必ずしも正しいとは限らない。「雨」はともかく「傘」の部分は完全に間違っていることもある。だから、記事をそのまま鵜呑みにしてはならない。しかし、ちゃんとした記事であれば「空」、つまり事実が何かは書かれている。これを元に意味合いを考えるようにする。

まず、自分のいる会社や業界を主語として、この記事に書いてある「空」は、会社や業界にどのような影響を与えるのだろうか、と考える。または、何故この記事に書いてあるようなことが起こるのか、を考える。つまり、「こういう空模様なのはどうしてだろう、雨が降るからだろうか」などと考えるのと同じだ。ただし、その記事の内容だけから、影響を考えるのは難しい場合がある。今まで自分が読んできた記事の蓄積から始めて、影響を推測できる場合が多いだろう。

次に、その事実の影響や背景、理由を考えると、自分の会社や事業は何をすべきなのかを考える。つまり、雨が降ると判断したら、傘を持って家を出るのか、濡れて帰るつもりかを判断するということだ。 

3. 意味合いを考える練習

抽象的に空雨傘と言っていてもわかりにくいと思うので例を挙げて説明しようと思う。

今日の日経朝刊の1面記事は「手元資金が過去最高」という、上場企業が手元資金(現金や有価証券など流動性の高い資金のこと)を増やしている内容の記事が載っていた。

上場企業の手元資金、過去最高 震災で安全志向に
3月末52兆円、売り上げ減などに備え
-日本経済新聞(5月15日朝刊)

上場企業の手元資金が一段と膨らんでいる。2011年3月期末の手元資金はこれまでの発表分で約52兆円と1年前より4%増え、過去最高の水準となった。東日本大震災の発生を受け、企業は投資を抑える一方、売り上げ減や金融市場の混乱に備え、手元資金の積み増しに動いたためだ。震災を契機に安全志向を強めた企業は多い。豊富な資金力で戦略投資に踏み切れるかどうかが今後の競争力を左右する。

「空」といえるのは、「2011年3月期末の手元資金がはこれまでの発表分で約52兆円と1年前より4%増え、過去最高の水準となった」という部分だ。このほかに、記事の中では、具体的に手元資金の積み増しをしている企業の例として、複数の製造業を挙げている。社債やコマーシャルペーパーを発行してまで、手元資金を積み増しているようだ。この辺が「空」である。

ここまでで、何故企業は手元資金を増やしているのだろうか?と考えるところが「雨」である。
一般的に企業は、部品や素材を仕入れてその代金を払い、製造した製品を販売して、代金を回収する。この代金回収が間に合わないと、資金不足に陥り、大企業といえども借り入れなどしなければ倒産してしまう。手元資金を増やしているのは、この代金回収が間に合わないかもしれないから、多めに手元に現金を持っておこう、ということである。

では何故、日本企業は代金回収が間に合わないかもしれない、と見ているのか。理由は二つありそうだ。
ひとつは、日本の製造業の企業は、取引先の企業、特に銀行の信用力が低い中小企業がつぶれてしまうなどで、代金回収が出来ないところが多いかも、と見ているのだろう。
もうひとつは、自社の製品の生産が予定通り行かず、資金が予定通り入ってこないことを懸念しているのだろう。記事には、ホンダや三菱自動車が手元資金積み増し企業例として載っている。別の日の記事を思い出すと、自動車企業は、一部の部品の調達が間に合わず、生産が遅れているという話があった。ということは、ほとんどの部品については調達を継続してるから資金は出て行くのに、ある一部の部品が間に合わずに製品は出荷できず、お金が入ってこない、となることを想定しているのではないか。

ということは、自社にはどういう影響が及ぶだろうか、というところまで考えるのが「雨」である。例えば、自社が今のところ上流からの影響は少ない鉄鋼メーカーだったとする。自動車業界がこんな状況だと、今は出荷は順調だけど、そのうち多くの部分で需要が止まるかもしれない、と「雨」のストーリーを作っていくわけである。

記事の最後の「豊富な資金力で戦略投資に踏み切れるかどうか」という文章は、記者が書いた「傘」にあたる部分だが、これは正直疑問符である。この記者は「手元資金=成長の原資」という方程式が頭にこびりついてるのかもしれないが、企業が手元資金を増やすのは、必ずしも成長を見越してではない。むしろ一般的には、市況変化が大きな業界で、資金回収が不安定になる可能性が高い企業が、キャッシュがショートしないように手元資金を多く持つ傾向が高い。例えばGoogleがそうだし、米国のバイオベンチャーもその傾向が強い。手元資金を成長につなげろ、といいたい気持ちは非常にわかるが、ちょっと飛びすぎ感がある。

むしろ「傘」を考えるなら、これだけの企業が中小の企業が飛んだり、製品の出荷が遅れると考えてるとすると、自社にどういう影響が及び、自分たちはどうすべきかを考えるべきだ。例えばこの記事を読んで、自社の出荷がそのうち止まると予想されるなら、そのためにどのような手を打つべきかを考えるわけだ。

このように、新聞記事に書かれている記者の解釈にとらわれずに、
「空」=「事実」は何かを見極め、
「雨」=そこから得られる自分の業界への影響を考え、
「傘」=何をすべきか、どう手を打つべきか、
ということを一つ一つの記事について考え、ストーリーを作る、という練習をすると良い。慣れると、ひとつの記事を読みながら、このようなことを瞬間的に考えられるようになるだろう。そうすると、たった10分で日経新聞を読み終えても、得られるものは非常に多くなる。

4.売り買いのポジションを取る読み方

簡単に「意味合い」を考える訓練として使える方法があるので、一応紹介しておく。
ただし、事業のマネージャーや経営コンサルタントなど、経営などに深くかかわっている人には、意味合いが薄くなってしまうから、余りお勧めはしない。

それは、記事を読んで、自分がある会社の株を持っていると仮定して、「Buy(買う)」か「Sell(売る)」か「Stay(そのまま維持)」かを考えるというものだ。

「Buy」は、その会社の企業価値を成長させる方向に向かう場合で、株を買った方が将来値上がりして得をするという場合。
「Sell」は、その会社の企業価値が毀損する方向で、株を早めに売ったほうが良い場合。
「Stay」は、企業価値には影響しないか、既に皆が知っている情報で、株価に織り込まれていると考えるかどちらか、というもの。

ひとつの新聞記事を読んで、自分が株を持っている会社にどういう影響を与えるか、自分はそれを持って、会社の株を売るか、買うかという判断をするわけだ。こういう練習をし始めると、ただ無為に新聞記事を読んでいるよりも、ずっと新聞の内容が頭に入ってくるようになる。

5. 紙の新聞のお勧め

最後に、新聞を紙で読むか、電子版で読むかという話があるが、個人的にはWall Street Journalみたいなユーザビリティの高い電子新聞でない限り、エコではないが、紙で読むのをお勧めしたい。

私は、日経は10分から15分で全て読みきってしまうが、電子版は反応が遅いし、一覧性がなさすぎて、この速度で読むことは絶対に出来ない。それから、仕事が忙しくて新聞を溜めてしまうひとは、余程の意志の強さがないと、溜まった電子版の記事を読むことは恐らく無いだろう。でも紙の新聞なら、物理的に部屋の片隅に溜まっていくので、読まざるを得なくなる。

日経新聞は、確かに読んでいて「何言ってるの?」と思うことは多々あるのだが、読む側にリテラシー、つまりちゃんと「空」が何かを読み取る能力があれば、全く問題がない。それどころか、企業の戦略的な意味合いを考えるための道具として活用することが出来る。だから、馬鹿にしないでちゃんと読んでください。

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英語をモノにしたい人のためのお勧めYoutube動画。

2011-05-07 23:36:38 | 6. 英語論・英語学習

私は今でも、英語はまずは最低限の単語力を身につけること、
それから英語を読んで、書くことが最も効率がいいと思っている。
(特にある程度の英語力が身につくまでは必須。
 参考記事:英文を読むのが苦手な人はまずは単語力を身につけよう (2010/01/15))

しかし、留学したいとか、仕事で使うとか、余程の動機がなければ、なかなか続かない。
でも、人間楽しいことなら続けられる。
そして、やっぱり生の英語を聞くのは楽しい。

というわけで、Youtubeの英語コンテンツで、英語の勉強に役に立ちそうなものとか、
単に面白いから、英語やりたいなと思いそうなものとかを紹介しておく。
長かったゴールデンウィークもあと一日で終わり、最後にこれらでも見て楽しんでください、という意味もこめて。

1.ABC News または好きなニュースコンテンツ@Youtube

英語を勉強するにあたって、英語系のニュースを聞くってのは鉄板でしょう。
ニュースで英語を勉強する場合、テレビを視聴するより、Youtubeを使うほうが圧倒的に適している。
まず、テレビと違って(録画しなくても)聞き取れなかった部分は何度も繰り返し視聴できる。
気に入ったニュースは「お気に入り」などに入れておけば何度も見られる。
しかもCNNやBBCなどの番組と違い、タダ。

ここでは、Youtubeでチャンネルを持ってるメディアの中でも、ABC Newsを紹介しておく。
米国以外の多くの国で全コンテンツが視聴可能であり(CNNなどと違い視聴制限を設けてない)、
真面目な国際・経済系だけでない、社会・生活系のニュースも充実してて、
英語としても聞きやすいものが多いからだ。

興味があれば、ABC NewsのチャンネルをSubscribe(購読)するのをお勧め。
(ABC Newsの iPadのアプリも秀逸。持ってる人は試してみてください)

こちらのニュースは、明日の母の日を迎えるにあたっての心温まるストーリー。
(5/8追記:
さきほど突然ABC NewsのEmbed機能が廃止されて、見られなくなりました。
ので、こちらで直接ご覧ください→ http://youtu.be/KUmaxlgGqf8 
この記事が原因なのかはちょっとわからないですが、既に2万件近いアクセスがあるので、アクセスが集中したかもしれません。
ABCNewsとしてはあくまでYoutube上のチャンネルとして見て欲しいという方針なのかも)

 

要約すると、
お母さんの価値っていくら?と街頭で男の子に聞くと、5ドルって言われてしまう(かわいい)。
一方、Insure.comの試算では、育児や料理、車の送り迎えなどお母さんの1年間の仕事の価値は、貨幣にして$61,436(日本円で約490万円)とのこと。
そして何より77%のお母さんは、外で仕事も持っており、これはカウントされていない。
でもインタビューでは多くの人たちは「お母さんの価値なんて、お金じゃ測れない」と答える。
そう、お母さんの愛情は、Pricelessだよね、というベタだが心温まる内容。

他に、ちょっと高度だが、中東状況を正確に知りたい、という人にはAlJazeera(アルジャジーラ)英語版のチャンネルが絶対にお勧め。
そのうち書きたいと思ってるけど、先日の中東の革命も今回のビン・ラディン殺害にせよ、
日本じゃ十分に情報が入らないし、英語系チャンネルは内容が偏ってる中、
このAlJazeeraが一番真実に近い情報を流してくれてると思う。

2. Obama大統領のスピーチ

もうひとつ、英語学習で使える私のお勧めは、Obama大統領のスピーチだ。
ニュース以外では、ほかのどんな人のスピーチよりも絶対にお勧め。

その理由は三つ。
まず、2008年の大統領選の頃から言われていたように、ObamaのSpeechは、英語として文法や用法が正しく、かつ非常に内容が優れているものが多い
教材として、これほど優れたものはないということだ。

二つ目は、Obama氏自身の英語の発音が非常にわかりやすいことだ
彼自身、両親がネイティブではなく、マイノリティであることもあり、誰もが聞きやすい英語を話す。

三つ目は、Obamaのスピーチは全て、世の中にScriptが出回っていること
もし、動画だけで聞き取れなかったら、こういったScriptを参照して聞けばよい。
ホワイトハウスのページに必ずScriptがあるし、または単純にGoogleで、Obama, speech script, "該当演説名" で検索すればよい。

こちらは、5月1日のBin Ladin殺害時の大統領声明。
個人的に面白いかというと微妙だが、一応時事ものなので載せてみる。

そしてこの記事も、Whitehouseのブログに原稿全文が掲載されている
(そしてYoutubeへもリンクされてるので、最初からこちらを見ればよい、という話もあるが)

個人的にお勧めなのは、大統領就任時の演説や、先日のエジプト革命終了時のもの。
Whitehouseのブログを見るか、YoutubeでObama, speechで検索のこと。
またはYoutubeでWhitehouseをSubscribeする。

中にはこういう政治系には拒否反応示す人もいるかもしれない。
まあ洗脳されない程度に、あくまで英語の勉強道具として使ってください。

3.Steve Jobsのスピーチ関連

テクノロジー系コンテンツの中でも、Steve Jobsは特にスピーチが上手で、面白く、わかりやすいのでお勧め。
(個人的にBill Gatesは好きだが、彼の英語ははっきり言ってわかりにくい)
特にTech系が好きな人は、単語も内容もわかるので、英語がそこまで得意じゃなくても楽しめる。
特にチャンネルとかはない。YoutubeでSteve Jobsで検索すればたくさん出てくる。

こちらは、iPadが初めて紹介されたときの、Youtubeの使い方を解説しているもの。
私も以前の記事で、iPadというネーミングセンスは酷い、と書いたけど、
同じように思っていた人はたくさんおり、米国ではさんざん非難されていたころのこと。
要するにPadって、英語では女性用の衛生用品(生X用品)のことです。
(参照記事: iPad - 英語のネーミングで気をつけること (2010/01/30) )

だから、かなり自虐的で、爆笑モノである。

テクノロジー系では、こちらもお勧め。
ビル・ゲイツとスティーブ・バルマーの爆笑ビデオ集 (2010/05/05)
私ったら毎年ゴールデンウィークになると、Youtube動画の紹介やってるのね・・・

もういっちょ、テクノロジー系でお勧め。
Michael Jacksonの”Beat it"のパクリで"Tweet it"というもの。
iPhoneユーザとiPadユーザの仁義なき戦い。
とはいえMichael役が「一部にFlashサポートしてないデバイスもあるのを覚えとけ」なんて、両方を落とす突っ込みも。
オリジナルのPV(こちら)が良く再現されてるし、テッキーなネタの歌詞も面白い。

ところでこの曲、サビで Tweet it, Tweet it, Justin Bieber gets defeated って言ってるんだけど、
もうJustin Bieber叩きって既にネタの領域に入ってるのね・・・
(参照記事:Justin Bieberは何故米国匿名掲示板で叩かれるのか (2011/05/04))

4. Ellen DeGeneres Show

英語力がついてくると、それ以上の意思疎通には文化の理解ってものが大事になる。
日本語もそうだけれど、その言葉をしゃべる人たちが、どういうものの考え方をし、どういう価値観を持つのかがわからないと、理解できないことは多い。
「通じる英語」が出来るようになった人が、その上のステップを目指して意思疎通するうえで、文化や価値観を共有するというのは非常に大事だと思う。

そういう意味で、現在その国で何が流行ってるかわかる上、人々のものの考え方が如実に現れてくるインタビュー番組、というのは非常にお勧め。

まあ歴史的にはTonight Showとか、有名なインタビュー番組は色々あるんだけど、
個人的には、こちらのEllen DeGeneres Showをお勧めしておく。
Ellenはピンのコメディアン&司会者で、まあとにかく面白いし、質問が常に本質を突いている。
Ellen DeGeneres Showもチャンネルを持ってるので、気に入ったらSubscribeすると便利。

こちらは先週行われた、Lady Gagaへのインタビュー。
「有名になるっていうのと、成功するって言うのは必ずしも同義じゃない。特に若いときは葛藤があり、常にInsecurity(不安)を抱えていることが多いんじゃないか」とか
「こんなに成功しているのに、あなたは自分はLoserと思っているというけど、どうして?」
などアーティストに切り込んでいる。

ちなみにEllenは、自身が同性愛者であることをOpenにしてることもあり、
それがネタになるインタビューでは冗談交じりの激しい討論が行われることもあり、面白い。
自身がマイノリティであることの苦労が、様々なIntervieweeに対する思いやりにつながっているのかな、という気がする。

5.英語版アニメ

日本のアニメは世界中に輸出されており、米国など英語圏で放映されているものも多い。
アニメの英語は、基本子供向けなので英語が聞きやすいし、そのアニメが好きならなおさら。
出来ればEnglish subtitle(英語字幕)ではなく、English Dubbed(英語吹き替え)のものを探して視聴するのが良い。
ただ、著作権違法コンテンツが多いのも確かなので、そこのところはちゃんと個人の判断に基づいて視聴してください。

昔、漫画「のだめカンタービレ」の主人公ののだめが、
全て台詞を暗記しているアニメ「プリごろ太」のフランス語版を見て、フランス語を習得した、というストーリーがあったけど、それに近いかも。
私も学生の頃、全ての台詞を暗記するほど好きだったBack to the Futureの英語版を見て、英語表現を習得した想い出があります。

6.Niga Higa

紙面が尽きてきたので、ハワイ出身の日系人Ryan Higa君がやってるコメディを紹介して終わりにしておく。
ハワイ島のヒロ出身の日系人高校生、Ryan HigaとSean Fujiyoshiの二人がやってたコメディなのだが、2009年位には全米で話題で、「みんな見てる」みたいな感じになっていた。
アメリカの個人がやってるチャンネルでは一番有名なんじゃないかと思う。

内容としては、大人が見て面白い、というよりは、若者向け。
ただ、そのくだらなさのなかに、アメリカのコメディの典型パターンがいくつも見られるので、
たぶんこれを見慣れると、アメリカのコメディを見ても面白いと思うようになるんじゃないかと。

これはたぶん一番話題になったんじゃないかと思う、How to be Ninja

最近は、Ryan君がラスベガスの映画の学校に進学したとかで、
昔ながらのSean君との絡みが余り見えないのは残念な一方、動画作成スキルは上がっている。
NigaHigaのチャンネルはこちら

それぞれ、私の個人の趣味で偏ってるものが多かったかもしれないけど、自分の好みに合いそうなのを使って役立ててください。

英語動画コンテンツについてまとめてる方もいらっしゃるようなので、こちらもご紹介。
英語動画で無料リスニング学習

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【書評】コマツに学ぶ、経営のグローバル化-坂根正弘「ダントツ経営」

2011-05-03 14:50:56 | 9. 書評

ご無沙汰してます。
4月から始まった仕事、やりがいのある面白い仕事なのですが、結構大変。
一ヶ月経って、漸く忙しさもひと段落ついたので、ブログを再開しようと筆を取りました。

前記事の原発関連の話題も書きたいけど、最初はリハビリもかねて、最近読んだ中から、面白かった本をご紹介。
(ブログは書かなくても、本は読んでるんだよね・・)

日本企業としては、グローバル化に大きく成功しているといえる、コマツ。
その会長の坂根正弘氏の書いた「ダントツ経営」。
もともと、グローバル化に成功している企業の事例を調べるつもりで読み始めたのだけど、
それ以外の部分もかなり面白かった。
というか、大事なことが一行の文章の中に、ちょろっと埋め込まれていて、危うく読み飛ばしそうになる。
付箋を貼って読んでいると、付箋だらけになった。
いわゆる経営者本人が書いた系の本で、ここまで密度の濃いのは珍しい。

これは面白かった、勉強になった、という部分を取り出して、私のコメントを含めて紹介してみる。

ダントツ経営―コマツが目指す「日本国籍グローバル企業」
坂根正弘 著
日本経済新聞出版社 (1,700円)

1. 海外事業の経営の舵取りを現地に任せるための3つの工夫

昨年6月の日経新聞のトップで「コマツの中国16子会社、社長全て中国人に」と報道されたことは記憶に新しい。
経営の現地化、というのは良く言われるけれども、失敗するケースが世の中では非常に多い。
このニュースは経営の世界にいる人たちには、驚きを持って受け入れられたと思う。

コマツでは、かねてより海外事業は現地の人にゆだねるという方針でやっているそうで、
生産拠点を持つ11カ国のうち、中国を含め7カ国で現地人がトップをやっているらしい。
どうやって、それを成功させているのか、が興味津々である。
坂根氏は、成功の鍵をはっきりとは書いていなかったけれど、読み取ると次の3つのように思われる。

1-1) コマツの中で生え抜きの外国人を育て、その人たちに経営を任せる

コマツでも、一時ドイツで、外部から経営者を引き抜いたが、価値観が合わず、定着しなかったという歴史があるらしい。
それで、時間はかかるけれど、各国で一から人材を育てることにしたという。

外部から雇った外国人が、うまく機能しない、というのは良くあることだ。
それは中の人間から見ると、水や空気のように当たり前のことになっている、「企業文化」が染み付いてないから、だと私は思う。
生え抜きである必要はないと思うが、10年程度過ごし、その企業の価値観や動き方が十分身についた人でないと、社員の感じ方や動き方が理解できず、その結果、経営者にとって一番重要な、「人を動かす」ということが出来ない、と思う。

ただ、これって時間かかるのよね。だから早期の進出が大事なわけだが。

1-2) 意思決定のレベルわけをし、重要なものは本社で決める

坂根氏は、「(中国の経営トップは)現場のリーダーに近い感覚のポストも多い」とのことで、そこで判断できない事柄は日本から派遣した執行役員が決裁するという。
更に、大きな事項は東京本社で関与するそうだ。

日本企業がアメリカ進出を積極的に行っていた1990年代頃によく見られた失敗は、
余りにも現地に判断を任せすぎ、現地の子会社が制御できなくなってしまった、というケースだと思う。
意思決定のレベルを分けずに、大も小も全て任せちゃったのがまずかったわけだ。
日々のオペレーショナルな判断を現地に任せるのは、経営の機動力のために重要だけど、全部任せちゃいけない。
どのレベルの決裁からは、必ず本社がかむのか、というのを明確にラインを引き、ちゃんと制御するのが大切だということだ。

1-3) 財務や人事などの機能の現地自立性を高める

坂根氏はちょろっとしか書いてないんだけど、コマツ中国では16の子会社で、人事、財務、経理、法務といった管理業務を統合しているそうだ。
実は、これは非常に重要なことだ。
その結果、例えば余剰資金がある会社から、資金が不足している会社にお金を融通する、などということを、本社の決裁など待たずに現地の判断で実行できる。
あるいは、現地の経済の状況に敏感に、人事の異動を行うことも出来る。

これは非常に大切なことで、日本企業の海外進出において、財務や人事に実質的な権限がないためにうまく行っていないケースというのは結構ある。
特に事業部が強い系の会社だと、海外進出の際に事業部ごとに子会社を作ったり、生産子会社、販売子会社が別々だったりと、とにかく大量の子会社を持つケースが多い。
本社機能が存在する日本本社と異なり、海外ではこれらを束ねる機能がなかったりして、財源や人材が足りなくて商機を逃したりなんてケースは数え切れないほどある。

この問題のひとつの解決方法が、「海外本社を建てる」というやつで、最近流行っているが、
そこまで大げさにやらなくても、コマツの例のように、会社は違っても管理機能を統合する、という仕組みにすれば、解決するわけである。

これは面白い、と思った。

2.いま企業の競争力を奪っているのは無駄な固定費-無駄な事業と業務。

正直、これは多くの企業にとって結構耳が痛い話だと思うんだけど、日本企業のコスト競争力がなくなってきており、その原因は固定費にある、という話だ。
固定費とは、人件費や設備償却費であるが、その比率が同業他社に比較して圧倒的に高いために負けている。
これは、社内に蓄積されている無駄な事業(の持つ設備など)や、無駄な業務(を行う人材費)によって生じているということだ。

コマツでは以前、全世界の工場でコストのベンチマークをやったところ、生産コストで最も効率が良いのは日本だったそうだ。
しかし、日本は本社を抱えていて、固定費が高いために、他国の工場よりも競争力がなく、利益が出ない体制になっているという。
坂根会長は、これを見て固定費の削減に着手。
希望退職や子会社の統廃合などを行ったそうだ。

実は1980年代後半の、失速していたアメリカ企業は、同様の問題を抱えていた。
メインの事業が成熟産業になってきたため、成長のために多角化を開始。
その結果、稼げない不採算事業とそれに伴う設備投資や人材を大量に抱えることになる。
一度はじめたものは、不採算でも、雇用を維持するために、続けざるを得ない。
それを支えているのは、実際にはまだ利益が出ているメインの事業である。
メインの事業が好調なうちは良いが、事業を取り巻く環境が変わって、この事業が儲からなくなってくると、会社全体が崩れてしまう。
以前このブログでも紹介した、RCAやウェスティングハウスなどがその例だし、改革前のGEなども同じ状況だった。

3.大手術は一回限り

そういうわけで、この固定費問題を抱えている企業は、一度はどこかで事業のリストラをやらなくてはならないわけだが、一回でやりきることを坂根氏は提唱している。
小出しのリストラを何度も行うのは、小手術を繰り返して、患者の体力をじわじわ奪うようなものだ、と。

なるほど。
確かに、何度もリストラが出たら、社員は不信感を募らせるし、その会社のためにがんばろうなんて思わなくなる。
アメリカの例ばかりで恐縮だけど、モトローラが失敗していたのはその例なのだろうな。

「痛みを伴う改革」は、どこかでやらなくてはならないけど、一回で終わらせて、禍根を残さない。
これって、企業だけじゃなく、日本という国の改革についても言えるよね?

4.(仕入れ価格などの)変動費は削らずに、下請けや部品メーカーを育てる

坂根氏は、こうやって固定費は削る一方、仕入れ価格など変動費はそこまで大幅に削らないのだという。
これはすごいよね。普通の企業は逆であることが多い。
何故ならリストラなんか誰もしたくないので、固定費は維持し、部品メーカーや下請けを叩いて、変動費を減らす、というほうがやりやすいからだ。

「これまで部品メーカーと互いに知恵を出し合って、品質を高めたり、新しい技術を生み出したり、・・・コストを削減したり指摘巻いた。そうした取り組みで競争力を築き上げてきたのです。自分の都合ばかり押し付ける傲慢な企業に、部品メーカーはついてきてくれるでしょうか。」

いや、全くその通りです、坂根先生。
もちろん、ある程度の競争環境を維持するための値下げ交渉は重要だと思うが、信頼関係を壊してしまう叩きはまずい。
それ以前にやることがあるだろう、ということだ。
それでも、日本企業は「ついてくる」ひとたちが多いから、これまでは成り立っていたんだけどね。
その結果、全体でつぶれてしまっては、元も子もないよね。

以上。
他にもいろいろと参考になる箇所が多かったのだけど、多すぎて全部は書ききれない。
是非、興味がある方は本を買って読んでみてください。

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明治時代からグローバルなニーズを捉えて成功した日本の工業生産

2011-03-10 14:35:00 | 2. イノベーション・技術経営

今週は私は休暇で、論文のようなものを家に缶詰になって執筆している。
その過程で面白い話を見つけたのでご紹介。

日本ブランドの工業生産の輸出は、戦後のイトヘン・カネヘンとか、ソニーのトランジスタラジオやトヨタの車などで始まったイメージの人も多いかもしれないが、実は戦前からかなり盛んに日本ブランドの構築と輸出が行われていた。
その一つが、生糸(絹糸になる前段階の糸。これを撚ることで絹糸が出来る)の輸出である。

明治政府の「殖産興業」の政策の一つは、「貿易による外貨獲得」であった。
1868年(安政5年)に開国した日本が当時輸出できるものといえば、農産品の生糸と緑茶くらいだった。
が、緑茶の方は当時のグローバル市場ではインドの紅茶に徐々に敗退しつつあった(参考)。
生糸は、次第に農業器具の改善が進んで手工業化が進んでいた農村で農婦が繭から糸車などを使って生産するものだ。(日本史でやったでしょ?)
当時、世界の生糸のシェアの大半を持っていたのは、中国(清国)製の安い生糸だった。
糸車を使って手工業で生産していた日本製の生糸は、量も少なく、品質も安定しない。
中国製も糸車で生産されたものだが、莫大な量が出ていたわけである。

そこで明治政府は、この生糸の生産を国を上げて工業化することにした。
これが1872年(明治5年)の富岡製糸所の創設である。
その後も民間の投資により次々と機械式の生糸生産のための工場が設立されている。

当時、生糸の最大の消費国はアメリカだ。
輸入した生糸を撚って絹糸を作り、それを加工して絹織物を作る工業が東海岸を中心に大きく発展していた。
このころ、アメリカではイギリスより遅れて産業革命が起こっていた。
それまで水車などを使って作られていた絹糸や絹織物が、蒸気機関などで機械化されつつあった。
そうすると、今までと異なり、良質でかつ均質な生糸が必要となる。
そんなアメリカで一番人気があったのは、ほぼ100%機械式で生産されるイタリアの生糸だった。
この市場に、国を挙げて機械生産をはじめた日本の生糸が徐々に食い込み始めたのだ。

この日本産の機械式生糸のブランド構築とマーケティングを行ったのが、富岡製糸所の所長を長く務めた速水堅曹、そして民間の製糸所を設立した実業家、星野長太郎である。
アメリカで行われた万国博覧会で、日本の最高級の絹糸を出品し、日本品の名声を高めた。
また、米国の絹織物生産者に直接アプローチして、日本品の宣伝をし、営業を行い、販路を構築した。
これらの設立者や工場の所長自身が、彼らの不満やニーズを聞き、それを日本の製糸所での生産にフィードバックし、改良していった。
少しでも日本製の品質が落ちた、といううわさを聞けば、その話を聞きにいき、改善に努めたのである。
当時は、米国での絹糸の機械生産だって、完全に安定したものではなかった。
だから、単なる品質向上ではなく、その状況に対応した品質の向上が不可欠だったわけだ。
経営・マーケティング用語で一時期流行になった「カスタマーバック」を、彼らは普通にやっていたことになる。

また、当時は日本は生糸など競争の激しい商品しか持っておらず、顧客を持つ外国商人に大きくリベートを取られ、買い叩かれていた。
これを防ぐため、ただ輸出するだけでなく、需要家に食い込んで直接売っていく「直輸出」が国家的にも至上命題だった。
それを受けて、これらの人々が、現地の仲買人や絹織物生産者と直接取引を行う商社の設立を提唱し、実際に設立を行った。
この商社を活用して、直接営業に行き、販路を拡大するだけでなく、顧客のニーズを知り、自社のブランドを高めるということがより容易に出来るようになってきた。
日本産の品質は、当時高品質の製品を輸出していたフランスやイタリアに勝るという名声が徐々にいきわたり始めた。

その結果、1906-10年には米国市場で、日本製シェアが5割を超えるほどになった。
一方、需要家の変化を察知せずに、いつまでも手動での生糸生産を行っていた中国は敗退していった。
(参考:生糸輸出と日本の経済発展(山澤逸平 一橋大学研究年報、経済学研究1975年)

世界一高品質であるという日本ブランドも、単なる品質の向上ではなく、需要家の声を聞いて、そのニーズに対応する形で品質を上げたことで成立したのだ。
また、現地で直接海外の需要家にアプローチできる商社などの機能を構築したのも、非常に大きな役割を持つ。

このように、グローバルな(といっても当時はアメリカ市場がメインだったが)ニーズを拾うことにより、「高品質ブランド」を築くやり方は、今になって始まったわけじゃない。
最近、家電や半導体などの分野で韓国や台湾製などの躍進が目覚しく、日本の十八番だった「高品質ブランド」が奪われつつある。
しかし、日本は明治時代の頃からこういうことをやって、成功していたわけであり、こういうところにヒントがあるのではないか、と思うのだ。

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人生には「選択と集中」が大事な瞬間がある

2011-03-08 19:51:03 | 8. 文化論&心理学

色んなことに手を出して、自分の可能性を広げるのが大切な時期もある。
でもずっとそればかりでは、人生で何も成し遂げられなくなる、とよく思う。
特に大人になり、仕事の責任も重くなり、更に家庭も出来たりすると、「自分の時間」がどんどん無くなる。
限られた時間とエネルギーの中で取捨選択をしなければ、何も成し遂げられずに終わるだろう。
その中で何かを達成するためには、別の何かを犠牲にする必要がある。

昔、親日家のシラク元仏大統領の、テレビのインタビューを見て衝撃を受けた。
「日本、特に相撲が本当に大好きなので、日本語を勉強したいと思っているのですが、
政界に入ってからはやるべきこと、やりたいことが多く、日本語の勉強に時間をかけることが出来ません。
自分がもっと時間を取れる人間だったら、もっと日本語の勉強をしたいですが。」

当時中学生で、人生の時間が有限だということに気がついていなかった私は、この言葉を素直に受け取って、大きな衝撃を受けた。
自分がそんなにも好きで、やりたいことを、時間が無いから出来ないなんてことがあるんだ・・・。

シラク元大統領ほど多忙ではないが、大人になって徐々に仕事の責任が重くなるにつれ、この感覚が良く分かるようになった。
そして時間だけでなく、自分のエネルギーも有限だ。
何に、自分の時間とエネルギーをかけるべきかをよく考える。
そしてそれを実行する(これが結構大変)

特に、「大事な瞬間」というのがある。
その期間は集中して、本当に意識して自分の時間とエネルギーを使わなければ、チャンスを失ってしまう、そういう瞬間。

企業経営を見ていると、この「大事な瞬間」がよくある。
世の中で何かがブームになったり、産業の構造変化が起きたりする瞬間は「商機」である。
この千載一遇のチャンスを逃したら、大きな利益を逸する、どころか損失を出したりする。
だから会社の全てのリソースをつぎ込んででも、売り攻勢をかける必要がある。
ところが、いろんな事業に手を出し過ぎたため、この「瞬間」を見極められず、人材や資金などのリソースを融通してその事業に集中する、ということが出来ない企業は負けてしまう。
だから「選択と集中」が大切だといわれるのだ。

これは一人の人生でも同じで、自分にチャンスがめぐってくる瞬間というのがある。
仕事でも、就活でも、留学や勉強でも、恋愛とかでも同じ。
ここで任された仕事でちゃんと成果を挙げれば社内で大きく認められる、とか。
世の中がこの流れになってるときに起業すればうまく行くとか。
あるいは運命の人に出会ったとか。
このチャンスをちゃんと感じ取って、全身全霊をそそぐ。
そのためには、他の欲しいもの、やりたいものを犠牲にするかもしれない。

例えば、私は今年こそワインエキスパートの資格を取るために勉強したい、と思っていた。
が、どうしても今年やりたい他のことを優先させるため、悩んだ挙句延期することにした。
私だって2,3年のうちに色々あるだろうし、いつになったらその資格をとるため、自分のリソースを集中できるかわからない。
けれど、今年しかないだろうその「瞬間」のために、ワインは犠牲にすることにした。
最悪、引退したら出来るでしょう。
本当にシラク元大統領の「日本語」みたいだな、と思う。

ほかの事を捨てて、一つのことに集中した結果得られるものは実は非常に大きい。
後から見ると「捨てた」と思ったものよりもずっと大きい果実を得られ、「捨てた」以上に人生の可能性が広がることがある。
他の方も書いていたが、私にとってMBAへの留学はまさにそれだった。

もう一つ大切なのが、集中しようと決めたことに全身全霊を注ぎながらも、アンテナは常に張っておくこと。
これがリスクヘッジになる。ただし、アンテナは張るだけで、自分の力と時間は余りつぎ込まない。

というわけでとりとめも無いですが、今日は、そんなことを思いました。

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携帯電話キャリアの収益性を改善するスマートフォン

2011-03-07 21:27:53 | 2. イノベーション・技術経営

この10年間、どの国でも携帯電話キャリアにとって、ARPU(一人当たり平均収入)の低下とデータ通信量の増大が悩みの種だった。これに加えてスマートフォン流行に従って、データ通信の量が爆発的に増えるのは、更なる苦悩だろうと私は最近まで思っていた。
ところが、どうやらそれをうまく回避するモデルに変わってきてるらしい。

そもそも携帯電話キャリアの収入源は、データサービスの無い10年前は音声通話だけだった。
その後日本のi-modeなどを皮切りに、世界的にデータ通信サービスが一般的になり、収入源が音声とデータの二つに増えた。ところが、音声収入がデータ収入に食われるようになり、ARPUが大きく低下。データ通信は通常どの国でも「定額」であり、それなのにデータ通信量は増える。つまり収入はどんどん減っているのに、コストだけはどんどんかかるという状況に陥っていた。日本に限らず、米国や欧州など各国のキャリアがほぼ同じ状況に苦しんでいた。

例えばNTTドコモの資料なんかを見ると、2006年からの5年間で、ARPUが月7000円から月5000円までに低下しているが、主に音声収入が激減したことによる。

これは、人々の携帯の使い方が音声からデータにシフトしたというより、携帯電話の保有者数が飽和に達し、競争環境が厳しくなり、全体として価格低下が起こったのが主な原因だろう。(実際上記のNTTドコモのページを見ると、MOU(通話時間)は減ってないのに音声収入が減っていることからも明らかだ)

前置きが長くなったが、このように一人当たりの収入は減ってるにもかかわらず、データをはじめとして一人当たり通信量、つまりコストは増えているというのが各国の携帯キャリアの悩みだったわけだ。スマートフォンはそれを加速する動きだと思っていた。ところがそうは問屋がおろさない、携帯電話キャリアの試みが色々見られる。シリコンバレーの人気ブロガー @michikaifuさんに下の記事を教えてもらったのでご紹介を兼ねて。

スマートフォン時代の通信量増と新旧サービスの併存にネットワークはどう立ち向かうか-WirelessWire News

まず、スマートフォンによって通信量が圧倒的に増えるのは確かだが、これをWi-Fiにオフロードする動きを加速させている。例えばキャリア自身が、Wi-Fiを活用した音声通話アプリなどの普及を図ったり、データ通信の増強を特にしないことで、自然とユーザがWi-Fi利用に行くように仕向けたりしている。

@michikaifu さんも指摘していたが、音声通話も定額制としているキャリアにとっては、契約者が自社のネットワークを使わずにWi-Fiを使ってSkypeをやるのは、むしろ歓迎すべき状況なのだ。出来れば自社のネットワークは使わず、WiFiに落ちていってもらえるとありがたい、これがキャリアの本音である。

これに加えて、特にトラフィックの多いヘビーユーザを、よりデータ通信コストの安いLTEなど次世代規格に流していくのが今後の戦略だろう。実際、米国携帯最大手のVerizonは2010年12月にLTEの展開を開始、Android携帯ユーザから徐々に流し始めている。通信料の増大につれて徐々にLTEを活用するようにうまく需要供給をマネージするのが、今後のコスト削減の鍵になるだろう。

一方収入の方だが、キャリアはスマートフォンの人気の高さを利用した実質値上げに踏み切っている。例えば米国のAT&TはiPhoneではデータ通信の定額50ドルだけでなく、音声の定額最低額が30ドルとなっており、その両方で毎月約80ドルの出費がマストになる。米国での平均ARPUは現在約50ドルであるが、スマートフォンに移行することでARPUを徐々に上げていくことが可能だろう。

実際、AT&Tをはじめとし、スマートフォンを推進する通信キャリアはARPUが徐々に回復している。2010年中は「AT&TのARPUが3.9%回復」なんて記事が毎四半期ごとに飛び交っていた。米国では今年2月から競合の最大手VerizonからもiPhoneが発売され、また競争環境が厳しくなるとは思うが、スマートフォンでARPUが増えるという状況は変わらないだろう。

というわけで、「Appleに美味しいところは全て吸収されてしまうのか」と思ったスマートフォンであるが、Androidでモトローラ、サムソンなど主要ハンドセットメーカーも参入し、競争が程よく激化したおかげもあり、キャリアにとっては収益性改善に使える道具となっていたわけでした。

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日本の大学教育から起業家やグローバル人材を育てる4つの提案

2011-03-05 18:17:58 | 3. 起業家社会論

前回の記事-日本の大学入試制度は本当に間違っているのか-から結局5日経ってしまった。
待っていてくださった方は有難うございます。

今日は、前回の記事を受けて、現行の日本の大学入試制度を活用して、起業家とかグローバルな人材とかを輩出することは出来るんじゃないかということを書きます。

前回の記事は、日本の現行の大学入試は変なのか、それでは大学で企業家とかグローバルとかの人材を出せないのか、というのが論点だった。結局別に日本の入試制度が世界的に変なわけではない、それに変えるのはコストと手間がかかる、本当にやって意味があるのか、というところだった。

・小論文や面接による大学入試が行われるのは、米国の一部のトップスクールであり、
世界の大部分では、(記述式・選択式問わず)筆記試験一発で大学への合否が決まっている。一方で、起業家やグローバルな人材を生んでるのは、米国のトップスクールだけだろうか?そうではない。

・仮に米国のトップスクール式の入試を行うなら、入学審査官の組織を作るなど手間とコストが非常にかかる。一方米国トップスクール(大部分が私立)は、起業した大金持ちとか、レガシーとか、政治的に活躍して予算を引っ張れる卒業生がその大部分の寄付をまかなっている。だから、大学がコストと時間をかけて、将来起業したり、国際的に活躍する人材を論文や面接で選抜する意味が十分にあるのだ。日本の大学はそれを目指すべきだろうか。

・一方で日本の大学は、独立行政法人化後、組織改正などが実質的に困難になっており、実際に変えようとすると非常に時間がかかる。制度を変えるより、運用を変えるほうが現実的である。

これらを総合的に考えると、別に大学入試制度を変えずに、大学に入ってからの教育を変えることで起業家とか、グローバル人材とか、今の日本に必要な人材を育てていけばいいんじゃないかと私は思っている。要は、仮に百歩譲って今の大学入試が「試験しか出来ない人材しか取れない」制度であったとしても、そういう人の一部を4年間のうちに起業家とかグローバルに活躍できるような人材に育てていけばいいのだ。

じゃあどうやってそんなの育てるのか、を一言で書くのは難しいが、私がポイントだと思っているのは以下の4点だ。

1) もっと外国人や外部の(リスクとってる)人材をファカルティ(教授陣)に入れる。でなければ、起業家やグローバル人材のような「異質な」優秀な人は育たない。

日本の大学の先生って、すごく「均質」だ。殆どの人がアカデミアにずっといて外部に出たことが無い人ばかりで、そして皆が日本語(のみ)を話す(外国人教授も)。

起業家とかグローバルな人材とかを育てるというのは、基本的には「異質な人」を育てるということだ。大企業に勤めて安定志向が普通の中で、あえてリスクをとって起業しようと考えたり、日本文化の中で育ちながら、他国から来た色んな人をリードできる人とは「異質な人」だ。そういう人を、筆記試験を通るために勉強をしてきた「優秀な」学生から育てようとするのだ。「優秀な」学生ほど、教授陣が均質な環境では異質を目指そうとはしないだろう。

私がMITにいて思ったのは、教授陣にもリスクとって頑張ってる異質な人が多いということだった。起業したがうまく行かずアカデミアに戻った教授が、また新しい研究成果をネタに起業しようとしている。南米やアフリカに生まれ、英語が完全に話せない教授が沢山いる。話すとき、難しい英語の単語が出てこなくて、ネイティブの学生に聞いたりする。でもコンテンツがあって面白いからみんな話を聞く。南米の国から亡命してきた先生なんてのもいる。企業に勤めていたが30代後半にアカデミアに戻って博士号をとり、教授になった人もいる。こういうリスクをとってる多様な人材がファカルティにいるから、それまで試験ばかりで頑張ってきた学生は目が開かれて、初めてリスクをとって頑張るということを知るんじゃないか。

アイビーリーグやMIT、スタンフォードに行く学生も、多くが良いとこのお坊ちゃまやお嬢さんであり、留学生や移民が日本よりずっと多いことを除けば、試験勉強ばかりしてきた日本の学生と視野の狭さでは変わらないだろう。若い学生の視野を、大学に入ってからグーンと広げるのは、ファカルティの多様性だと思う。

2) 加えて、もっと色んな外部の人が大学内に入ってくるようにする。カオスな場が「有機的な」連携の場になるから

MITではそれ以上に、外部の人が大学内に沢山いた。例えば私はMITのビジネスコンテストの委員をやっていたが、コンテストには、昔MITを卒業した発明家とか、近所の起業家とか、よく分からない人が沢山入ってくる。長いこと周辺に住んでるので、そのあたりの起業家とか法律家を良く知ってるし、先生とも旧知だから、色々な情報を教えてくれて、学生にも役に立つ。学生はそういう人とチームを組んで、色々やることで学ばせてもらえたりする。

企業の人もしょっちゅう大学に来る。学業優先のため面接をオンキャンパス(キャンパス内)でやることが多いからリクルーターが出入りしている。また産学連携なんかも日本の大学より多く、普通に企業の研究者が出入りし、スポンサーがやってくる。ビジネスコンテストでも、いいアイディアを持った優秀な学生を採用したい企業でいっぱいで、積極的に学生に声をかける。

大学が、本当に多様な人々が集まって、何かを生み出す場になっているのだ。それぞれはMITを活用してうまいことやろう、という人々なのだが、余りにも沢山の人がいるので、こちらも学生の役に立ってもらうことが出来る。まさに「多様な人材が有機的に連携」する場になっているのだ。(ただし、変なことは起こらないように、大学の警備は徹底している)

3) 全ての学生を起業家とかグローバルに育てる必要は特に無いので、本当に伸びる学生を伸ばせる仕組みにする

例えば大学の授業を全て英語でやる、外部の人材が教壇に立つ、とかはどの大学でも試みてることだと思う。難しくなるのは、全ての学生にその機会を提供しようというところではないか。

私は、規模の大きな大学であれば4年間、ずっと英語だけで授業を受けられる環境が必要だと思うけれど、全ての授業を英語にする必要は全く無いと思う。ビジネスコンテストや起業家を育てる授業などもそうで、全員が出る必要など全く無いのだ。でもやる以上は、かなり負担も大きく、やる気のある人だけがついてこれるようにすればよい。

やる気があり、ちゃんと沢山の課題をこなす、「コミットメント」をしている学生には、先生も「コミットメント」をする必要がある。要はちゃんと時間を使い、指導する。起業したいとか、海外に出たいという学生には、そういう機会を与えれば良いと思う

4) 先生や学生が草の根でやっている新しい教育の仕組みを、足を引っ張らず支え、連携させる仕組み

昔から、日本の教育制度を変えるのは大変であり、民間や草の根の力がそれをサポートしてきた。大学でも同様で、教育システムを変えるのは大変だから、教授や学生が草の根的に色んな教育活動をしている。例えば起業家を育てるためのビジネスコンテストは各校学生が主催でやっている。グローバルなリーダーを育てる草の根活動で、私が注目しているのは、MITの学生と東大、東工大の学生が中心になって始まったSTELAという活動だ。学生だけでなく、協力を惜しまない大学の教授の力を得て、だんだん大きな活動になってきた。

変えていかなくてはならないのは具体的に二つ。

・こういう草の根活動に対し、大学が可能なサポートしたり、企業や卒業生など他の協力を得やすい仕組みにする。例えば、MITのビジネスコンテストは、出場することで単位が取れるし、企業のスポンサー探しも大学の卒業生室が全面的にサポートする。金は出せないが、時間や人脈で協力はする、というスタンスだ。日本だと、大学という公的な存在が、一部の草の根活動に加担するリスクをとるのを嫌がって何もしないケースが多すぎるんじゃないか。

・これらの草の根活動を連携させる。これは草の根でやってる側の努力だが、必ずどの大学にも、どの学部にも似たようなことを考えている人はいるので、仲良くやること。そのうねりは必ず世論を変えて、大学の制度改革につながるだろう

「制度が変わらないから、変わらない」ではいつまでも変わらないので、別に「試験のために勉強してきた」優秀な学生を、次はリスクをとったり多様な人材になれるようにサポートしていくのが、大学のあるべき姿だと思う

Special Thanks to STELA, @shige_sci, @ttakimoto for your ideas

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日本の大学入試制度は本当に間違っているのか

2011-02-27 18:38:23 | 3. 起業家社会論

今日で国立大2次試験の前期が終了。まだ後期試験が残っている人も、センターから試験続きだったのがひと段落、というところではないだろうか。
受験生と関係者の皆様はお疲れ様でした。

頑張ってる受験生をさしおいて、大学入試の時期になると「日本の大学入試制度はおかしい」という議論が毎年噴出する。
こんなカンニング事件が発生したりすると、それを燃料に議論は燃える。
京大入試問題、試験中に質問サイトへ投稿、受験生か-日経新聞

そもそも日本の大学入試というのは本当に「おかしい」のだろうか。何が論点なのかをちょっと考えてみたい。

日本の大学入試は間違っているのか

「日本の大学入試が間違っている」という論の多くは、次の3点に尽きると思われる。

1) 今日本が必要としてるのは、グローバルなリーダーとか起業家とかである。一回限りの筆記のみの学力試験でそういうポテンシャルを持った学生を採用できるわけがなく、試験が出来る学生しか取れるのみで意味がない

2) 小学校から高校までの教育がこの一回限りの学力試験で成功することを目的に設計されており、子供の多様な可能性を伸ばす教育が出来ないという悪影響を与えている

3) このような筆記のみの学力試験で入試選抜をしている国は世界でもまれ。「世界でも非常識」である

そしてこれらを解決する方法として、小論文と面接など基調とし、個人の能力を丁寧に判定する試験に変えることを提案する意見が多い。これは本当だろうか。

大学の選抜方法が筆記で一発の国は日本だけではない

まず答えやすい3)から行くと、良いかどうかはともかくとして、日本と同様の試験一発の大学入試制度を採用している国はたくさんある。いわゆる「小論文や面接」を基調としてるのは、米国の私立トップスクールとその制度をならった一部国だけだということは頭にとめておきたい。

フランスではバカロレア(Baccalaureat)、ドイツもアビトゥーア(Abitur)という共通の高校卒業試験があり、これで行ける大学が決まる。専門によって受ける試験の種類が違い、一部に口頭試問を含むが基本は筆記である。(仏グランセコールは別で、別途試験がある。)これらは、日本の大学受験のように「滑り止め」はなく、たった一回の試験で進学できる大学が決まる、という意味で日本の入試以上に厳しいと言える。

中国は科挙の国であり、かつては筆記試験だけで人生全てが決まる国だった。その凄まじさと悲哀は浅田次郎の小説「蒼穹の昴」に詳しいから一読すると面白いかも。現在でも「全国高等院校招生統一考試(「高考」)」というセンター試験一発で、行ける大学が決まり、それで将来の就職先も決まるという意味で日本より厳しい。

以上、日本以上に筆記一発で大学入学が決まる国はたくさんあるというお話でした。

米国トップスクール型の大学入試をうまくやるには仕組みと手間とコストが必要

各国がこういう入試制度を活用するには理由がある。
ヨーロッパでは、教養のある人間が大学まで終わらせるのは当然だから、わざわざ面接などにコストをかける必要がないという思想が根底にある。その代わり大学院では小論文や面接などで人物を重視するコストをかけた入試が行われる。入試のコストと、そこからのリターンを考えろ、ということなのだ。

一方日本は長いこと、国力を上げるために大企業組織で機能する人材を育てるのが大学の目的だった。だから、出来るだけコストをかけずに筆記が出来る人材をとる今までの入試制度は正しかった。それがいま、組織を出て起業したり、グローバルに活躍する人材が求められており、現行の入試制度だと、そういう人材を落としてしまうのでは、というところが問題になっている。

仮に大学が「将来成功する起業家になる人」を選びたいなら、たとえば英Virginグループの総帥、リチャード・ブランソンは難読症で、おそらく東大や京大のような「読ませる」入試には通らないだろう。学校の成績が総じて悪かったAppleのSteve Jobsも同様かもしれない。

大学として「起業家を育てたい」という明確なミッションを実現するなら、「小論文と面接」で入試を行い、そういう学生を多めに採用する、というのは正しい戦略かもしれない。
しかしこれをうまく運用するにはそれなりの仕組みが必要だ。

米国トップスクールでは、まずエッセイと高校時代の成績(GPA)と課外活動の記録、SATの点数による書類選考が行われる。エッセイは自己アピールで、日本企業のエントリーシートを2-3ぺじの長文にした感じだ。書類選考で通ると、面接に呼ばれる。企業の採用と同様、これを実際に行うのはかなりの手間と、人を見極めるスキルがいる。ただでさえ忙しい大学の先生が研究と教育の片手間で出来ることではない。

したがって、米国のトップスクールでは採用する方もかなりの体制を敷いている。
「Admission」という組織があり、300人くらいの学生を2000人くらいの候補者から選抜するために5-6人の専門のチームを組んでいる。この人たちは、かつて一般企業で採用担当だったとか、人事コンサルにいたとか、ほかの大学のAdmissionにいたとかで、人物を見る目がそれなりに備わっているとされている人たちだ。彼らが、全世界から送られてきたエッセイを全て読んで、喧々諤々議論して決め、次は全国津々浦々を訪ねて候補者への面接を行う。

それだけではなく、Admissionは、ビジネスコンテストの優勝者とか数学オリンピック受賞者などに積極的にアプローチして、リクルートをする。また、優秀な人物を輩出する高校には定期的に訪問し、めぼしい学生を採用に来る。

かけたコストが将来的に償還されるトップスクールだけで小論文+面接は行われる

実は米国でも、私立の有名トップスクールでは上記のようにコストをかけた小論文や面接での入試を行っているが、州立大学ではSAT(米国版センター試験)と州共通の筆記試験だけで選抜しているところも少なくない。SATを何度か受けるチャンスがある、という再チャレンジを認めるところが米国らしいが、それ以外は基本筆記で決まるのだ。

プラグマティックな米国では、将来的に経済や政治でトップを担う可能性の高い学生が輩出されるトップスクールでは、コストをかけてしっかりと人物を選定する。一方でそこまでいかない人たちは、コストをかけない共通筆記入試で十分じゃないか、という考えられている。なぜなら将来的に経済や政治でトップを担う人は、卒業生として影響力を持つし、大金持ちになって学校に償還してくれる人が多いからだ。MITが「起業家になりたいし、なれる能力のある人」をコストをかけて選抜するのは、起業家になれば金持ちになって、大学に寄付という形で帰してくれるからだ。だからコストをかけてでも、選抜する価値がある。中堅の州立大学だと、そういう可能性も薄いから、そこまではやらない。

米国では教育はビジネスである。
投資してリターンがあるところに、投資をする、そういう考え方だ。

同様に、日本の大学でも入試制度を全て変えて、AO入試的なものに変えるなんて論は、
コストメリットを考えても間違っているし、有効な方法ではない。

そもそも入試制度は、いろいろあって日本ではもっとも変えにくいものの一つだ。現状の入試制度を活用しながらも、如何に日本の大学で起業家とかグローバル人材なども含む多様な人材を輩出するか、という方向で考えなくてはならない。

以上、
・米国型の入試が世界で一般的なわけじゃないこと
・いずれにせよ米国型の入試はちゃんとやるとコストが非常にかかること
・したがって将来グローバルに活躍するとか、起業して金持ちになるとかコストをかけるメリットがある人たちだけを対象に行うべきだということ
・日本の入試制度を抜本的に変えるのは難しいこと

これを考えると、日本の大学の入試や教育の制度はどうあるべきか、という話を明日書きます。

追記)さっきTwitterで下の内容を書いたら、たくさんRTされたのでここにも一応ポスト。

Lilaclog 12:58pm via HootSuite
東大や京大の入試は全体の半分が解ければ受かる、という難易度になってることによって、結果として一芸人材と満遍なく何でもできる人材の両方が取れているのは面白いと思う。日本で入試制度を変えるのは至難の業なので、現行の制度を活用しながら如何に、柔軟で面白い人材を採って育てるかが鍵

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