さてさて、先週の「私が今年考えたいテーマ」の続き。なんか長くなりそうな気がするので、後編を二つに分けて後編1と後編2にしようと思います。最初は、私がずっと長いこと興味がある都市化。去年も「GDP世界一の都市・東京」という記事を書いたりしていたが、将来は世界の人口のほとんどが都市に住むようになることを考えると、効率化した、ちゃんとした都市を作っていかないと大変なことになるだろうな・・・という直感があって、都市というものに非常に興味があるのだ。
1. 都市化する世界
水、食料、エネルギーに並んで、世界的に注目されている分野として「都市化」がある。今後数十年の間に、世界の人口がどんどん都市に流入して行き、世界の多くの人が都市で生活するようになるという現象だ。特に、アジアの新興国を中心に人口密度の高い都市が増えていくため、環境問題とか、水やエネルギーが不足する問題が起こりやすくなるだろう。だからそれを防止する策を講じなければ、ということで国連や各国政府が「スマートシティ」などのプロジェクトに積極的に取り組んでいる。
こういう予想に基づいて、国連ではWorld Urbanization Prospectsという報告書を二年に一度出している。
このページから、各国の都市部と田舎(農村部など)に住んでいる人口を出して遊べるようになっている。
この予測に基づくと、2050年までに、世界人口の7割が都市に住むようになる。
(注:国連データでは人口50万人以上の都市圏を都市と定義している)
2. 何故「都市化」するのか-中国、インド、アフリカにも「サラリーマン(注)」比率が増加するから(笑)。ちゃんと書くなら第二次、第三次産業にシフトすると人口集積が必要になるから
何故、今後人口が都市に集中するのか?それは今後は新興国を中心に経済成長し、それらの国で重要な産業が第二次、第三次産業へとシフトしていくからだ。工業などの第二次産業や、サービス業などの第三次産業は、資本や労働力が集積することで価値が生まれるため、人口が集積する場所-都市で発達するようになる。今までは農業などの第一次産業が中心で、人々が農村や漁村に住んで経済活動をしていた新興国において、工業やサービス業が経済の主体となることで、人々が都市に流入するようになるのである。これが世界で都市化が進む理由である。
いまいち感覚がわからない人は、日本の歴史を紐解いてみると良いかもしれない。
同じページで、項目にUrbanとRuralの二つを選び、地域で日本を選ぶと、日本が経済の発達に伴ってどのように都市化してきたかがよくわかる。
日本で戦後に工業化が大きく進み始め、池田勇人首相などが「国民所得倍増計画」を掲げていた1950年代、1960年代は都市化が最も進んだ頃であるのがわかる。京浜工業地帯(東京、川崎市など)、阪神工業地帯、中京工業地帯(愛知、三重)などといった四大工業地帯や、その他の工業地域といわれる場所に鉄鋼や化学など重化学工業のプラントや機械、電子などの中小企業が集積し始め、農村部から職を求めてたくさんの人口が流入してきた。その後、1970年代にはサービス業の就業比率も徐々に高くなり、いわゆる「サラリーマン」と呼ばれる人たちが増えて、東京や大阪、名古屋といった都市部に人口が流入し続ける。そして2010年には日本の7割の人口が都市部に集積するに至っている。
これと同じようなことが今後は、中国、ベトナムやインドネシアなどの東南アジア、そして東欧、ブラジル、アルゼンチンなどの南米諸国、そしてインドやバングラデッシュ、アフリカ諸国という順で、次々と起こっていくわけである。現在は農村部に多く人が住んでいるような国々でも、工場労働者、そして「サラリーマン」(注:サービス業の就労者をそのように呼ぶのであれば、ということ。別にサービス業で起業してる人も多いかもしれないが)が増え、多くの人が都市部に住むようになる。このようにして2050年には、世界人口90億人のうち7割もの人口が都市に住むようになるわけだ。
2050年にはインドに「サラリーマン」や「OL」が増えたり、アフリカで「工業労働者」がほとんどになって、みんなが都市に住んでる、というのはまだまだ想像できないかもしれない。でも、実際に中国などではそういうことが起こりつつあるわけだ。都市と農村で戸籍を分けている中国は、農村部から「農工」と呼ばれる、都市の戸籍が無い人々が職を求めて、大量に都市に流入している。この人たちは暫くは労働者として生活しているわけだが、何とか子供を教育にありつけさせ、工業労働するよりも高い給与を保証されるサービス業に勤められるように仕立てる。そうして都市で大企業とかに勤めて、サービス業に従事する人口が増加する。こういったことは、徐々にインドやアフリカ諸国でも起こっていくようになるだろうと考えられる。
さらに興味がある人は、Gapminderなどのツールを使って、産業別人口割合と都市化が密接に相関していることを確認してみると良いかも。
3. 新興国各国はどのような都市化をするのだろうか?-国によって異なる都市の発達形態
そんなわけで、これから経済成長をする新興国各国は、次々に都市化が進むようになる。そうすると、ちゃんと都市計画を考えて、都市を作っていく必要があるのだが、各国がどんな形で都市化を進めていくのかっていうのは結構面白いテーマである。
(余談だけど、日本の大学では「都市開発学科」みたいな学科が大人気だった時期があったけど、最近は大手ゼネコン就職不人気で、人気が落ちているということを聞いたことがある。世界全体では、都市開発がどんどん重要になるんだから、日本人の学生もこういう勉強をして、世界に羽ばたいていけばよいのに、と思う。今後は日本で勉強した後、中国やインドのディベロッパーに就職するというのもひとつの手では無いだろうか?)
例えば、日本とアメリカは同じ先進国だけど、まったく都市化の様相が異なる。以前書いた「GDP世界一の都市・東京」から、国別1位の都市のGDP比率を引用してみる。このときは人口ではなく、GDPを議論の対象にしてたので、GDP比較なのだが、東京都市圏(人口3700万人)が国のGDPの3分の1を占める日本に対し、NY都市圏(人口約2100万人)はアメリカのGDPの10%に過ぎない。中国は上述のようにそもそもまだ農村部の人口やGDP比率が高いということもあるが、最も大きな都市である上海が国全体のGDPに占める割合はたったの4%だ。
では、第一位の都市が低い米国では都市化の割合が低いのかというとそうではない。下の図を見ればわかるように、なんと85%以上の人口が人口50万人以上の都市圏に住んでいる。
つまり日本やイギリス、フランスというのは、少ない数の大都市が経済を牽引しているモデルであるのに対して、米国は、都市は多いものの、小都市が国中に分散しているモデルと考えられる。実際どうなっているかというと、
1. 2100万人のニューヨーク経済圏
2. 1700万人ののロサンゼルス経済圏
3. 1000万人のシカゴ経済圏
4-7. 700万人規模のワシントン経済圏、フィラデルフィア経済圏、ボストン経済圏、サンフランシスコ経済圏
8-10. 600万人規模のダラス経済圏、ヒューストン経済圏、マイアミ経済圏
といったように、東京ほどには大きくないが、数百万人の人口を抱える都市圏(または都市的集積地域:Agglomeration)が、国中にばらばらと広がっているのだ。
(参照:http://www.citypopulation.de/world/Agglomerations.html)
更に、ヨーロッパというのは、人口を1000万人を超える都市圏はロンドンとパリ以外に存在しない、というまたまた不思議な都市の発展をしている。例えばドイツ随一の経済都市であるフランクフルトですら都市圏としては200万人程度、ベルリンも400万人程度、と一つ一つがアメリカより更に小さい。こういう小さい都市がたくさんあるのがヨーロッパの多くの国における都市の発達の特徴だろう。
というわけで、先進国をざっと3種類に分けるとこうなる
巨大都市経済圏一極集中型(例:日本、韓国、イギリス) 東京、ソウル、ロンドンなど、人口3000万人とかに達する巨大な都市圏が国内に3-4個、または1個とかしかなく、そこに都市人口のほとんどが集中しているモデル。日本だと東京、大阪、名古屋、福岡の4極。こういうところは、経済の効率性は高い一方、その一極が地震や洪水などの天災に襲われると国全体がかなりのダメージを受ける。
大規模都市経済圏が多数分散型(例:アメリカ) ニューヨーク、ロサンゼルス、シカゴ、ワシントン・・・といった形で人口が500-1000万人規模の都市圏が大量に国中に分散しているモデル。経済効率性は一極集中型よりも劣るが、地域ごとのさまざまな形の経済発展が可能、という意味では理想的。また地震等の天災リスクにも強い。
小規模都市経済圏が多数分散型(例:ドイツ、イタリアなど多くのヨーロッパ諸国):人口500万人を超える都市圏は無し。それより小さい都市圏が国内に大量に分散しているモデル。経済効率性は非常に劣ってしまうが、地域ごとのさまざまな経済発展が可能だし、天災リスクに強い。
4.新興国は今後どんな都市の発達をするかを考えるのは、これらを市場にしたい日本企業にも重要
国土が広い中国が、今後どんな発展をするかだが、なんといっても人口が10億人と多いので、1の日本と2のアメリカを掛け合わせたようなモデルになる可能性が高いだろう。つまり、人口が2000万人を超える東京やNYのような都市圏が、上海、広州、北京以外にもバラバラと十箇所くらい生じたりする、というイメージ。そう考えると、今後中国では、東京のような人口密度の高い都市を、国内で10箇所も運営していかなくてはならないということで結構大変である。ゴミや水、電気の問題など、東京やソウルと同様、常に悩まされることになるだろうし、それが10箇所以上も生じるって言うんだから、大変である。相当計画的に都市を作っていくことが求められるだろう。
同時に、アメリカ同様、都市間の物流とかがすごく大きな量になっていくだろう。アメリカにおいて、さまざまな商品の物流費が占める割合は日本とかに比べると圧倒的に大きいのだが、これはアメリカが上記のような都市の発達をした国土の広い国だからだ。都市間の物流網を効率的につくることが重要になるだろう。米国の轍を踏まないよう、鉄道や道路の発達と、省に分けずに国家で投資するメンテナンス体制が重要になると思う。
インターネットとか携帯電話の通信なども、通信網が張り巡らされた日本の形ではなく、米国と似たハブ&スポーク的な進展になるだろう。そうすると技術的にもそういう通信形態を選ぶことになるよね。
それから、都市間の人間の移動は、新幹線などの高速鉄道より、航空機が主流になっていく可能性は高いんじゃないだろうか。国土が狭いし、たくさんの人口が東京とか限られた都市に集中している日本では高速鉄道が効率的だったが、都市どおしが米国のように離れる可能性が高い中国では、飛行機のほうが早いだろう。中国も沿岸部は日本のように都市が切れない感じになるので、高速鉄道も発達するだろうが、今後内陸部がバラバラと発展し米国のような都市の散らばり方をするなら、内陸部に向かっての交通の中心は航空機になるのではないか、と思う。
もっとも、これは中国が国家的に高速鉄道を産業として発達させたいか、航空機を発達させたいかというのにもよるので、一概には言えないが。
(アフリカのような国は航空機のほうが効率的な都市分散をするので、中国がアフリカを狙うのであれば、航空機を発展させる可能性も高いかもしれない・・・?)
ちなみにインドなどもムンバイ、デリーなどだけでなく、チェンマイとかたくさんの都市部が今後わさわさと出現し、中国と似たような経緯をたどるだろうから、同じような問題に悩まされる可能性はある。
一方で、ホーチミン(サイゴン)とハノイの二極に人口が集中するベトナム、バンコク一極に集中するタイなどは、日本やイギリスと同様、巨大都市経済圏んが少数生じる可能性が高い。こういうところはこういうところで大変だ。国中のほとんどの経済が1つとか、2個の都市に集中してしまうので、地震や洪水のリスクは高い。現に、昨年秋は、バンコクが洪水に襲われて、大変だったばかりだ。
新興国では今後間違えなく都市化が進展する。そのときに、どのように都市が発達していくのかというのを考えることは、その国にどのようなインフラが必要になり、どのような産業を発達させる必要があるか、ということを考えるのに非常に重要になるだろう。これは、新興国を市場として、グローバル化を果たしたい日本企業にとっても重要な思考実験ではないだろうか。