My Life After MIT Sloan

組織と個人のグローバル化から、イノベーション、起業家育成、技術経営まで。

【書評】コマツに学ぶ、経営のグローバル化-坂根正弘「ダントツ経営」

2011-05-03 14:50:56 | 9. 書評

ご無沙汰してます。
4月から始まった仕事、やりがいのある面白い仕事なのですが、結構大変。
一ヶ月経って、漸く忙しさもひと段落ついたので、ブログを再開しようと筆を取りました。

前記事の原発関連の話題も書きたいけど、最初はリハビリもかねて、最近読んだ中から、面白かった本をご紹介。
(ブログは書かなくても、本は読んでるんだよね・・)

日本企業としては、グローバル化に大きく成功しているといえる、コマツ。
その会長の坂根正弘氏の書いた「ダントツ経営」。
もともと、グローバル化に成功している企業の事例を調べるつもりで読み始めたのだけど、
それ以外の部分もかなり面白かった。
というか、大事なことが一行の文章の中に、ちょろっと埋め込まれていて、危うく読み飛ばしそうになる。
付箋を貼って読んでいると、付箋だらけになった。
いわゆる経営者本人が書いた系の本で、ここまで密度の濃いのは珍しい。

これは面白かった、勉強になった、という部分を取り出して、私のコメントを含めて紹介してみる。

ダントツ経営―コマツが目指す「日本国籍グローバル企業」
坂根正弘 著
日本経済新聞出版社 (1,700円)

1. 海外事業の経営の舵取りを現地に任せるための3つの工夫

昨年6月の日経新聞のトップで「コマツの中国16子会社、社長全て中国人に」と報道されたことは記憶に新しい。
経営の現地化、というのは良く言われるけれども、失敗するケースが世の中では非常に多い。
このニュースは経営の世界にいる人たちには、驚きを持って受け入れられたと思う。

コマツでは、かねてより海外事業は現地の人にゆだねるという方針でやっているそうで、
生産拠点を持つ11カ国のうち、中国を含め7カ国で現地人がトップをやっているらしい。
どうやって、それを成功させているのか、が興味津々である。
坂根氏は、成功の鍵をはっきりとは書いていなかったけれど、読み取ると次の3つのように思われる。

1-1) コマツの中で生え抜きの外国人を育て、その人たちに経営を任せる

コマツでも、一時ドイツで、外部から経営者を引き抜いたが、価値観が合わず、定着しなかったという歴史があるらしい。
それで、時間はかかるけれど、各国で一から人材を育てることにしたという。

外部から雇った外国人が、うまく機能しない、というのは良くあることだ。
それは中の人間から見ると、水や空気のように当たり前のことになっている、「企業文化」が染み付いてないから、だと私は思う。
生え抜きである必要はないと思うが、10年程度過ごし、その企業の価値観や動き方が十分身についた人でないと、社員の感じ方や動き方が理解できず、その結果、経営者にとって一番重要な、「人を動かす」ということが出来ない、と思う。

ただ、これって時間かかるのよね。だから早期の進出が大事なわけだが。

1-2) 意思決定のレベルわけをし、重要なものは本社で決める

坂根氏は、「(中国の経営トップは)現場のリーダーに近い感覚のポストも多い」とのことで、そこで判断できない事柄は日本から派遣した執行役員が決裁するという。
更に、大きな事項は東京本社で関与するそうだ。

日本企業がアメリカ進出を積極的に行っていた1990年代頃によく見られた失敗は、
余りにも現地に判断を任せすぎ、現地の子会社が制御できなくなってしまった、というケースだと思う。
意思決定のレベルを分けずに、大も小も全て任せちゃったのがまずかったわけだ。
日々のオペレーショナルな判断を現地に任せるのは、経営の機動力のために重要だけど、全部任せちゃいけない。
どのレベルの決裁からは、必ず本社がかむのか、というのを明確にラインを引き、ちゃんと制御するのが大切だということだ。

1-3) 財務や人事などの機能の現地自立性を高める

坂根氏はちょろっとしか書いてないんだけど、コマツ中国では16の子会社で、人事、財務、経理、法務といった管理業務を統合しているそうだ。
実は、これは非常に重要なことだ。
その結果、例えば余剰資金がある会社から、資金が不足している会社にお金を融通する、などということを、本社の決裁など待たずに現地の判断で実行できる。
あるいは、現地の経済の状況に敏感に、人事の異動を行うことも出来る。

これは非常に大切なことで、日本企業の海外進出において、財務や人事に実質的な権限がないためにうまく行っていないケースというのは結構ある。
特に事業部が強い系の会社だと、海外進出の際に事業部ごとに子会社を作ったり、生産子会社、販売子会社が別々だったりと、とにかく大量の子会社を持つケースが多い。
本社機能が存在する日本本社と異なり、海外ではこれらを束ねる機能がなかったりして、財源や人材が足りなくて商機を逃したりなんてケースは数え切れないほどある。

この問題のひとつの解決方法が、「海外本社を建てる」というやつで、最近流行っているが、
そこまで大げさにやらなくても、コマツの例のように、会社は違っても管理機能を統合する、という仕組みにすれば、解決するわけである。

これは面白い、と思った。

2.いま企業の競争力を奪っているのは無駄な固定費-無駄な事業と業務。

正直、これは多くの企業にとって結構耳が痛い話だと思うんだけど、日本企業のコスト競争力がなくなってきており、その原因は固定費にある、という話だ。
固定費とは、人件費や設備償却費であるが、その比率が同業他社に比較して圧倒的に高いために負けている。
これは、社内に蓄積されている無駄な事業(の持つ設備など)や、無駄な業務(を行う人材費)によって生じているということだ。

コマツでは以前、全世界の工場でコストのベンチマークをやったところ、生産コストで最も効率が良いのは日本だったそうだ。
しかし、日本は本社を抱えていて、固定費が高いために、他国の工場よりも競争力がなく、利益が出ない体制になっているという。
坂根会長は、これを見て固定費の削減に着手。
希望退職や子会社の統廃合などを行ったそうだ。

実は1980年代後半の、失速していたアメリカ企業は、同様の問題を抱えていた。
メインの事業が成熟産業になってきたため、成長のために多角化を開始。
その結果、稼げない不採算事業とそれに伴う設備投資や人材を大量に抱えることになる。
一度はじめたものは、不採算でも、雇用を維持するために、続けざるを得ない。
それを支えているのは、実際にはまだ利益が出ているメインの事業である。
メインの事業が好調なうちは良いが、事業を取り巻く環境が変わって、この事業が儲からなくなってくると、会社全体が崩れてしまう。
以前このブログでも紹介した、RCAやウェスティングハウスなどがその例だし、改革前のGEなども同じ状況だった。

3.大手術は一回限り

そういうわけで、この固定費問題を抱えている企業は、一度はどこかで事業のリストラをやらなくてはならないわけだが、一回でやりきることを坂根氏は提唱している。
小出しのリストラを何度も行うのは、小手術を繰り返して、患者の体力をじわじわ奪うようなものだ、と。

なるほど。
確かに、何度もリストラが出たら、社員は不信感を募らせるし、その会社のためにがんばろうなんて思わなくなる。
アメリカの例ばかりで恐縮だけど、モトローラが失敗していたのはその例なのだろうな。

「痛みを伴う改革」は、どこかでやらなくてはならないけど、一回で終わらせて、禍根を残さない。
これって、企業だけじゃなく、日本という国の改革についても言えるよね?

4.(仕入れ価格などの)変動費は削らずに、下請けや部品メーカーを育てる

坂根氏は、こうやって固定費は削る一方、仕入れ価格など変動費はそこまで大幅に削らないのだという。
これはすごいよね。普通の企業は逆であることが多い。
何故ならリストラなんか誰もしたくないので、固定費は維持し、部品メーカーや下請けを叩いて、変動費を減らす、というほうがやりやすいからだ。

「これまで部品メーカーと互いに知恵を出し合って、品質を高めたり、新しい技術を生み出したり、・・・コストを削減したり指摘巻いた。そうした取り組みで競争力を築き上げてきたのです。自分の都合ばかり押し付ける傲慢な企業に、部品メーカーはついてきてくれるでしょうか。」

いや、全くその通りです、坂根先生。
もちろん、ある程度の競争環境を維持するための値下げ交渉は重要だと思うが、信頼関係を壊してしまう叩きはまずい。
それ以前にやることがあるだろう、ということだ。
それでも、日本企業は「ついてくる」ひとたちが多いから、これまでは成り立っていたんだけどね。
その結果、全体でつぶれてしまっては、元も子もないよね。

以上。
他にもいろいろと参考になる箇所が多かったのだけど、多すぎて全部は書ききれない。
是非、興味がある方は本を買って読んでみてください。

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6 Comments

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納得 (韓国ラーメン)
2011-05-04 01:41:24
「これまで部品メーカーと互いに知恵を出し合って、品質を高めたり、新しい技術を生み出したり、・・・コストを削減したり指摘巻いた。そうした取り組みで競争力を築き上げてきたのです。自分の都合ばかり押し付ける傲慢な企業に、部品メーカーはついてきてくれるでしょうか。」

本当に上記の記述はそう思います。自分がお客の立場だといかにも自分が偉いと勘違いして無理難題をおしつけたり、偉そうな態度で接したりして企業どおしの境界線が引かれていることも日本の競争力を弱めている原因ではないでしょうか?世界でも負けない部品メーカーや素材メーカーはいっぱいあると思います。むしろそういった企業の方が国際競争力があるのではないでしょうか?たしかにメイン企業としてこういった会社の管理は必要ですが、もう企業対企業の時代ではなくSCM対SCMの時代ですから部品メーカー等をパートナーとみなし多くの企業が世界へ出て行ってほしいと思います。グローバルな競争ではいろいろな問題があるでしょうが手を取り合えばそんなに日本の企業も弱くないような気がします。。。日本でちまちまキャバクラやクラブで接待されて喜んでいるのではなくグローバル競争で勝ちぬいた時に互いに喜ぶような企業がたくさんでてくることを願います。
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お久しぶりです (Lilac)
2011-05-05 00:13:57
@韓国ラーメンさん
そうですね。
かつてはコスト競争力で欧米の競合を打ち倒してきた日本の企業が、かつての欧米企業と同じ理由でコスト競争力を失ってきている、というのは衝撃です。
単なる「人切り」や「経費削減」をしろと言ってるのではなく、真面目に事業を見直す必要があるということだと思います。
もっとも既にこういったことを始めている日本企業もコマツ以外にも多いです。HOYAや京セラ、日本電産などはその典型といえるのかもしれません。
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日本一のIT企業 (Vertigo)
2011-05-06 00:54:06
コマツは大手の日本企業の中でもグローバル化に成功させた希有な企業ですね。

私が数年前にコマツを凄いと思ったのはV字回復の手腕はもちろんのこと、日本一のIT企業であると感じたからです。

日本トップのIT企業というと多くの人は楽天やDeNA、グローバルな活躍でいえばウェザーニュースなど挙がるかもしれません。
しかし私が最も凄いと感じたのはコマツのITシステムKOMTRAXでした。

御存知のとおりコマツのKOMTRAXは、GPSで自社の製品が世界で何処でどれだけ稼動しているのか一台一台手に取るように分かります。
現場で最も効率的な作業を割り出すミクロの情報から世界の何処が最も活発かが分かるマクロの情報まで分析できるのです。
その御蔭でリーマンショックも半年くらい前に察知していたそうです。

これを人に置き換えれば個人がいつどこで何をしているのか分かるlifelogのようなデータが手に入るということで、AppleやGoogleがモバイルの普及しはじめた最近になってやっと追いついてきたことです。

この価値に気付いていた日本企業がどれだけあったのでしょうか?

たとえば自動車メーカーなど高くて中途半端な機能の自社仕様のカーナビなどでなく、従来車の概念を破る新しいビジネス展開などもっと考えられたはずです。

悲しいかな携帯ビジネスもi-modeなどいち早くモバイルビジネスで成功させていたのにソーシャルグラフの価値に気付かなかった。
キャリア主導モデルは製品の進化という意味では多様性を制限してしまい、結局スマートフォンのような破壊的イノベーションを許す結果となってしまった。

真の価値を見抜き、従来の固定観念にとらわれず、新しい発想を生み出し続けることがビジネスの成功に結びつくのだと思います
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IT企業という表現は面白いですね (Lilac)
2011-05-06 01:31:46
@Vertigoさん
お久しぶりです。KOMTRAXのこともこの本には書いてあります。建機の稼働率が手に取るように見える化されていることで、中国経済の動きまで全て読めてしまうのは面白いですね。(本によると、事前に察知したのは2004年の中国政府による投資抑制政策による冷え込みで、リーマンショック後は逆に全く冷え込まず、生産を続けたのが良かったとのことでしたが)

IT企業、というのはそういう意味では全くおっしゃるとおりだと思います。
本来ITが目指していたのは、マトリックスのような世界、というか、経営環境の変化とか、サプライチェーンの端から端までの状況とかが見える化されていて、どこで何が起こっているかが、一瞬で把握できる、そんな世界だったはずなわけです。
KOMTRAXは、まさに自社が販売した建機の稼働状況を全て把握することにより、顧客の状況だけでなく、どの地域で何が起こっているかも「見える化」されているわけで、まさにIT企業が目指すべき姿といえますよね。
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コマツ・野路社長との対談記事 (snowbees)
2011-05-06 17:33:59
坂根会長による上記の著書に加えて、
野路社長との対談記事も、コマツ戦略について、詳しい:

http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Interview/20110401/359015/?ST=management
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Unknown (Lilac)
2011-05-08 00:19:46
@Snowbeesさん
ご紹介、ありがとうございます!
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